雷陽と黒龍   作:久遠 れもん

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オーバーロード

 

 試合開始直前──────

 

 試合は稲森たちチーム白側からのボールで始まる。

 

 最前列で初めにボールと触れるツートップは、奇しくも朱い髪と空色の瞳が特徴的な永世学園主将・基山タツヤと、銀髪パーマと頬の青いペイントが特徴的なザ・不良といった立ち姿の吉良ヒロト

 永世学園が誇る圧倒的攻撃力を担う2人のエースストライカーの並びだ。

 

「さぁて、この“ゴッドストライカー”吉良ヒロト様が、格の違いってモンを見せてやるとするか……」

 

「ほどほどにしておけよ。俺の入る隙がなくなる」

 

「ンなことは、お前一番心配いらねぇだろ?」

 

「さあ? とにかく、全力を尽くしてやるだけだ。そうだろヒロト」

 

 吉良は答えない。代わりに、ハッ、と不遜に笑う。

 

 

 ピ──────ッッ

 

 試合開始のホイッスルが鳴り響く。

 

「行くぞタツヤ──ッ!!」

 

 基山タツヤから吉良へ、キックオフと同時に選考試合が始まった。

 

「ああ!!」

 

 猛り立つ吉良は加速と共に、相手の敵陣へと切り込んでいく。

 基山は並ぶように相手選手間を掻き分けるかのように鋭く、疾いステップで吉良のパスラインを作り続けながら並び駆ける。

 

 

「──マークを離すな! 速攻が来るぞ!!」

 

 すかさず鬼道有人の指揮によって、チーム紅の守備陣形が固まり始める。

 

「怖がらずに当たってけ!!」

 

 すぐに続いて円堂守が気勢を高め、チームが吉良と基山の2人を止めにかかる。

 

 吉良ヒロトのサッカーは、相手の見せた隙に入り込み、こじ開ける全国屈指の究極の個人技。

 先日のフットボールフロンティアでもたった1人で猛者たちの壁を粉砕してきた最強のワンマンプレイの存在は、この選考試合において敵味方問わず無視して通れるものではない。

 

 灰崎が吉良の猛攻を阻んだ。

 

「その程度のオフェンス、ぬりぃンだよ!」

「だったら止めて見やがれ!」

 

 吉良が灰崎と衝突する。

 

「──ッッ!!」

「逃がさねぇよッッ!!」

 

 衝突の直後、稲森は瞬時の判断と共に、サイドラインから加速する。

 

 灰崎は“フィールドの悪魔”の異名の通り。荒々しく、相手選手とぶつかりながら攻め込むようなプレイを得意とする。

 一方、吉良のドリブルは圧倒的な技能(テク)によって実現されるスピードと加速が持ち味だ。

 この瞬間、灰崎の方に利は向いてると判断した。

 

 基山は小僧丸と吹雪アツヤにマークをつけられていた。

 

 自分が動くしかない。

 稲森は吉良を呼ぶ。

 

「こっちだ吉ら────」

 

 吉良が一瞬、稲森を見た。

 

 

 

 

 

 

 だが、吉良はくるりとボールを軸に回転し灰崎を背に抑え、軽く跳んだ。

 

「────え」

 

「ハッ──オレたちを、ってなァ!!」

 

「────ッ!?」

 

 吉良はボールを持ち上げると、灰崎を腕で押さえながら跳躍。

 ワンバウンドで、稲森とは逆の深い位置にパスを送り込んだ。

 

「よく見てた。ナイスパス、ヒロト」

 

 マークを外し、小僧丸の裏へ抜けた基山がボールを受けると共に、プレスをかける吹雪アツヤを右足を外向きに弾き、ワンタッチで躱し去る。

 

 考えてみずとも、直感的に当然だと理解する。

 

 稲森は吉良ヒロトのことをデータとして、対戦相手として知っている。

 だが、吉良の方が稲森明日人という一選手を知っているとは限らない。

 

 その上、吉良ヒロトはプライドが高く、自らのプレイに絶対的な自信を持っていたためある試合までは一度も“パス”という基本行為自体をしてこなかったという経歴がある。

 

 未だ“永世学園”のチームメイト以外にパスを通したことがないのだとしたら、信頼関係の築けていない瞬間的チャンスを作る稲森と、実力をよく知っているがマークを抱えた危険なポジションにいる基山の二択で、基山を信頼するのは当然だと言えるのかもしれない。

 彼らほどの実力者であれば、尚更。

 

 稲森はグッと感情を堪えて、次の場面に備えてサイドラインからさらに一段内へと走り込んでいく。

 

 だが、

 

「こっちだ!」

 

「アフロディさん──!」

 

 基山の後方からパスを要求した亜風炉照美が一手速い。

 

「行け吹雪君!」

 

 

「──オーロラドリブル!!」

 

 アフロディからのループパスに応じた吹雪士郎が範囲制圧的に広がったオーロラを放つ大胆なドリブルでオフェンスに貢献する。

 

 まるで入る隙がない。

 早々にして稲森は思わされた。

 

 そして──、

 

 

 …

 

 

 ──稲森の予感は当たる。

 

 

 思えば、稲森には売りにできる技術がない。

 いや、長所自体はある。得意とし、自信を持つ分野もある。

 

 スピード、瞬発力、跳躍力、キック力……といったところか。

 

 だが、この代表選考の場には、いずれの項目も“上”がいた。

 

 

 

「行かせない……!」

 

「へぇ、行くよ……!」

 

 万作と吹雪士郎がスピード勝負に入る。

 

 吹雪は、自分より速度が劣りながらも万作に粘り強く追われながら周囲の状況を見渡した。

 

 稲森はあの2人のように、常時高速で走ってフェイントや加速を挟むことはできない。追って2人から逆サイドのラインを上がって行く。

 

「こっちです吹雪さん!」

「基山くん──ッ!」

 

「読めてンだよ……!!」

 

 吹雪のボールを貰いに左サイドを上がった基山へのパスを、万作の右足が割り込んで止めた。

 

 

分身ディフェンス──!!」

 

 

「何だ──!?」

 

 直後、万作を襲撃したのは、3人の風丸一郎太。

 分身。それは“帝国学園”や“戦国伊賀島”の一部選手が扱う技術。

 風丸は、自分の力不足を克服するべくこの技を習得していた。

 

 一瞬にして間合いに入られた万作の足元から風丸がボールを蹴り弾き、連鎖的なパス回しによって財前から離れた風丸がボールを受け止めた。

 

 分身はボールをトラップした風丸に収束して、攻守が転ずる。

 

「……流石だな、風丸。まさか新必殺技を決めてくるとは」

 

「まあな。これも“帝国”で過ごした日々のおかげだ──!」

 

 風丸の揺さぶりによるフェイントに、鬼道は掛からずに行手を塞ぐ。

 

「代表を目指す者同士だ。易々と場を譲るつもりはないぞ?」

 

「だろうな……。──疾風ダッシュ!!」

 

「……ッ!?」

 

 繰り返し短距離での瞬間加速によって風丸が鬼道を完全に抜き去った。

 

「以前より速い……なるほど、随分と厄介になったじゃないか」

 

「まだまだ発展途上だぜ……!」

 

「フッ、末恐ろしいな──!」

 

 そう言う鬼道の口角は上がっていた。

 

「……さあ岩戸、掛かったぞ!!」

 

「何──ッ!?」

 

 風丸はようやく気づく。

 

 鬼道が自身のポジショニングで『疾風ダッシュ』の行手を制限して用意した万が一の保険の存在──

 

 

「──ザ・ウォール!!」

 

 

「うわぁあああッッ!!」

 

 逃げ場もなく、傾いた岩壁に風丸は押しつぶされる。

 

「やったでゴス……!」

 

「岩戸! ナイスディフェンス!」

 

「円堂さん……! 感激でゴス……」

 

 岩戸は感涙を流しながら、次の一手に向けた周囲に視線を移す。

 

 

「こっちです岩戸さん!」

 

 

 稲森の背後を走るサイドバックの坂野上が手を挙げた。

 岩戸からのループパスが蹴り放たれる

 

「……!? 行かせるかぁ……!!」

 

 稲森は咄嗟に身体を転換させて坂野上の前方を防ぎに走る。

 チーム紅側のピッチにまで攻め上がっていたセンターバックの吹雪が自陣へと駆け戻っている。

 

 ここで坂野上の速攻に移られてしまえば、ディフェンスに掛かる負担が大きい。

 通すわけにはいかなかった。

 

「速いですね……!」

 

「…………ッ」

 

 坂野上は稲森の裏を突いたと思っていたのだろう。追いついてきた稲森に苦しげに笑っていた。

 彼の背後にそびえ立つ守護神の笑顔がよぎる笑みは、稲森が警戒を強める理由として十分だ。──と。

 

「……!?」

 

 ボール本体へ目もむけず、左足を軽く持ち上げた坂野上がパスを受け止めた。

 坂野上はトラップと同時に前傾姿勢に切り替わる。

 

「よし──」

 

 次の瞬間には、坂野上の姿は稲森の前にない。

 

「行きますよ──!!」

 

 稲森は背後で次の展開を予感させる声が上がるのを聞いた。

 

「くそッ……!」

 

「鬼道さん……ッ!」

 

「良いぞ坂野上!」

 

 坂野上からのパスを受け取った鬼道はピッチ中央から攻め上がる。

 だが、それを易々と許す者たちではない。

 

「行かせない!!」

「ぉおお……ッッ!!」

 

 鬼道の行く手を阻みにかかるアフロディに続いて、稲森は自らのミスを取り返すべく鬼道の左手側へ行く進路を防ぐように追いついた。

 稲森とアフロディに挟まれてなお、鬼道は足を止めていない。

 

「──イリュージョンボール改!!」

 

 突如、鬼道の足元にあったはずのボールが残像を伴って増殖しながら、それぞれ周囲をぐるぐると弧状に動き回る。

 鬼道の得意とするドリブル必殺技『イリュージョンボール』は、元のそれより格段に精度が上がっていた。

 意識していたとしても、惑わされることは避けられない。

 

「く……ッ、しまった……!?」

 

 アフロディが鬼道の幻惑に掛かる。

 稲森はアフロディと共に、先への道を鬼道に明け渡してしまった。

 

「行けるな、氷浦?」

 

「ハイ!」

 

 サイドを並走していた氷浦に確認を取ると、鬼道はすぐに氷浦へ向けたパスを蹴った。

 

「上がれ! デカいの送るぞ!」

 

 氷浦が叫んだ瞬間、チ―ム白の守備陣には緊張が走った。

 

 この場面で発動しうる氷浦の必殺技は2つ、“氷の矢”と“氷の槍”に絞られる。

 二択から絞ることができないことこそが問題だった。

 

 この場面で発動しうる氷浦の必殺技は2つ、“氷の矢”と“氷の槍”に絞られる。

 

 二択から絞ることができないことこそが問題だ。

 

 氷の矢は、瞬間凍結したボールを一瞬にして前線へ送り飛ばすロングパスの必殺技。

 氷の槍は、瞬間凍結したボールに一瞬にして3度の衝撃を加えることで内側に蓄積したエネルギーを大槍かのごとく放出するロングシュートの必殺技。

 この2つの必殺技は限りなくフォームが酷似した氷浦のオリジナル必殺技であり、シンプルなフォームから放たれるが故に、いかに応用が利くかどうかは彼の現時点の技術力と発想力に依存する。

 

 ただ、稲森は知っていた。

 

 キックによる推進力と瞬間凍結が発生しない限りは、どちらの必殺技も発動することはない。

 つまり、ボールが氷浦のものと確定するまでは、氷浦のキックが機能することは絶対にない。

 

 既にボールは氷浦の足元へ到達しかけている。

 氷浦もあんな宣言をした以上、どちらの必殺技であっても直接で放つに違いない。

 

 稲森は直感でそれを理解する。

 

(走れ────)

 

 この状況において自分にのみ一択となる答えを迷わず選んだ稲森は、右足を押し上げると空を駆け抜ける稲妻の如く加速した。

 

 

イナビカリ・ダッシュ────ッッ!!

 

氷の矢──ッッ!!

 

 

 2つの必殺技はほぼ同じタイミングに一点の球体を巡った速度勝負に入る。

 

「く──ッ!」

 

 ボール奪取のために跳躍した稲森は、着地の衝撃をサイドライン際で耐える。

 

 ……ピッチの上空に弧状を描いた氷の弾道が飛んでいた。

 

「っし……」

 

 氷浦の放った精度の高いパスは、抜け出した小僧丸サスケの足元に収まった。

 

 瞬間。

 

「──グッドスメル……!」

 

 立ち込める桃色の煙に包まれ、小僧丸の瞼はすぐに開く力を維持できなくなった。

 その場に倒れこむ小僧丸の足元からボールが消える。

 

 ボールを拾い上げた真都路珠香は、自らの必殺技によって展開された煙を押しのけながら小僧丸のもとから離れていった。

 

 チーム白の選手たちは即座にカウンターに切り替え、走り出した。

 真都路からアフロディへ、アフロディから基山へとパスが連続して繋がっていく。

 

 

 

「行かな……ッ、いと……」

 

 稲森明日人は、立ち上がる足に乗る重量にガクンと身体の安定を崩しながらも、すぐに追いかけ、並び走る。

 

 

 ──諦めに近いところで走っていた。

 

 

 諦めた方が良いとわかってしまっていた。

 

 吹雪や万作のようなスピードはない。

 風丸や坂野上のような瞬発力はない。

 氷浦のようなキック精度はない。

 

 メンタルだけが先へ行こうとしている自分では、世界に行くための資格があると思えない。

 

 それでも────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ザ・エクスプロージョンッッ!!」

 

 

 頭上遥か高くから轟いた爆発音に、稲森はハッと顔を上げた。

 必殺技を撃ち落としたのは、吉良ヒロトの右足だった。

 

「マジン・ザ・ハンド改!!」

 

 魔神。円堂守の不屈の魂の現し身──近い未来には化身とも呼ばれる高濃度の気の魔人が、剛腕をもって吉良の爆撃を受け止める。

 

「チッ──」

 

「反撃だ! 行けアツヤ──ッ!」

 

 

 ──これほどに凄まじい試合の中にいて、何もせず諦めるなんてできなかった。

 

 

「稲森が来ているぞ! 吹雪ッ!」

 

 鬼道の呼びかけの直後、サイドへ寄ったアツヤはボールを足で受け止める。

 稲森はその瞬間を狙った。

 

「はぁああっ!」

 

「──舐めんな!!」

 

 アツヤはボールを浮かせ上げるようなトラップをしながら、スライディングを躱す。そして、2度目のトラップでボールをものにした。

 

「……行くぜッ!」

 

 アツヤの行く先には、真都路が立っている。

 

「吹雪! こっちだ!」

 

 灰崎がパスを要求し、駆け出した。

 

 アツヤは悩むこともなく足を地面に踏み込んだ。

 

 雪の大地・北海道の強豪“白恋中”。ウィンタースポーツや安定しない自然環境で培われた風をも抜き去るかのようなスピードは、吹雪兄弟が無意識に身につけた他を圧倒する技能の一つと言える。

 吹雪士郎と同じく、走り出したなら止められる選手は限られる。

 

 少なくとも真都路では当てはまらない、というのが、彼自身と周囲の共通認識だろう。

 

「────」

 

 何者かの息遣いが変わる音がした。

 

 

 

「…………!?」

 

 アツヤの眼前に立つ真都路は動かない。

 何かに、驚いたように固まっている。

 

 チャンスと見たアツヤは地面を蹴り出した。

 

「必殺──」

 

「ォオオオオ──ッッ!!」

 

 吹雪アツヤの眼前に、稲光が落ちる。

 

「──はっ?」

 

 アツヤの驚愕は、眼前の“彼”──稲森には届かない。

 

 目的はただ一つ。そう言わんばかりに稲森は右足を伸ばした。

 アツヤが反射的にボールを引く。

 

「……! クソッ!! ──なら、こうだッ!!」

 

「──ッッ!!」

 

 稲森はアツヤのフェイントに追い縋る。

 

 鬱陶しく思うアツヤは感情を隠すことなく、更に手を変えてボールを扱っていく。

 

「──邪魔だぁッッ!」

 

「ぐぁああっっ!?」

 

 またしても、稲森は抜き去られた。

 アツヤが隙を見たとばかりに駆け出していく。

 

 稲森も負けじと追い────、

 

「──ンがッ!?」

 

 ──転んだ。

 重心が前のめりになっていることは身体で理解できていたが、方向転換の拍子に頭から地面に飛び込んだ。

 

 もう追えない。

 

 稲森がそう覚悟した瞬間、極めて異質な呼吸音が聞こえた。

 

 

「────」

 

 

 聞いたことはない。だが、稲森にとって、とても聞き心地の良い不思議な息遣い。

 

 

 ──失敗では、終わらない。

 

 

 そう、予感させてくれる力強い呼吸だ。

 

 

「たあッ!!」

「何ッ!?」

 

「…………い、一星……っ!!」

 

 

 一星充が、アツヤの隙を突いた。

 

「ナイスプレス! 明日人くん!」

 

 一星は倒れる稲森をフォローして親指をクッと上げた。

 そして、その場を離れ進軍する。

 

(──凄い……。なんだ今の……)

 

 感心して笑みをこぼしながら、稲森は立ち上がって走り出す。

 

 ──我武者羅。

 

 今の稲森明日人にまともな策などない。

 諦めないために走っているだけだった。

 

 

 

 一星の技術は凄まじいものだった。

 繊細なボールタッチと大胆なフェイントで、チーム紅の中盤守備を抜き去っていく。

 ドリブルだけしかしていないが、“世界”という二文字の意味の一端を見せつけられているような感覚すらあった。

 

「ひとりワンツー……!!」

 

 一星が鬼道を抜いた。

 

「アフロディさん!」

 

「ああ……! 行けッ稲森君!」

 

 アフロディに渡ったボールはすぐにサイドを上がっていた稲森へと放たれる。

 宙へと放られたボールは稲森の遥か頭上を飛んでいた。

 

「そういうことですよね……」

 

 稲森は身体を縮めると、盛大に反発力と共に跳びあがった。

 

 太陽を背に、空高く跳んだ稲森の周囲に広がるのは故郷の島で見た景色。

 陽光がボールにエネルギーを蓄積され、稲森は上下の逆転した身体で右足を振りかぶる。

 

 放つのは、稲森明日人の得意とする必殺シュートだ。

 

 

「──シャイニングバード……ッッ!!」

 

 

 円堂が守るゴールへと向かい、輝く鳥たちが翼を広げ空を走る。

 軌道上には光が残像のように筋になって、光の弾丸は多くの翼を受け、さらに加速しひとつの大翼となった。

 

 今の稲森にできる全力だ。

 これが届かなければ本当に策がない。

 

 だが、

 

「シュートブロック入ります!!」

 

 “ミラクルリベロ”坂野上昇が、稲森のシュートを迎え撃つべく割り込んだ。

 見様見真似。坂野上はついさっき目撃した必殺技の再現に挑む。

 

「ゴス……ッ!?」

 

 岩戸が動揺するのも無理はない。

 坂野上は、岩戸ほどのものでないとはいえ──

 

ザ・ウォール!!

 

 ──壁になっていた。

 

「……うわぁあああっっ!!」

 

 坂野上の岩壁は、稲森の大翼に打ち砕かれる。

 それでも、坂野上の狙いは達成されていた。

 

 円堂は壁を突き破ったシュートの軌道へ飛びついて、それを難なくキャッチして見せた。

 

「ナイスだ坂野上!!」

 

「ありがとうございます円堂さん!!」

 

 そんな声かけをし合いながら更に攻守を切り替える試合に、遅れているのは稲森だけだった。

 

 

「ハァ……ッ、はァ……ッ、………………マジかぁ……!」

 

 

 そんな独り言を漏らしながら、稲森は笑った。

 

 絶望も一周来るとこうなってしまうのだろうか。

 それとも、まだまだ果ての見えないこの状況に高ぶっているのだろうか。

 

 ──わからず、走ることにする。

 

 

 

「…………バカが」

 

 近くで吉良が漏らした言葉は、稲森の耳に届かない。

 

 

 …

 

 

「氷の矢……!!」

「く……ッ!?」

 

 再び氷の弾丸が宙に弧を描いて飛ぶ。

 稲森は追いついたものの、先ほどの瞬間加速もない以上、阻むこともできなかった。

 

 今度は小僧丸がオフサイドラインも超えた。

 DF陣も反応が追いついていない。

 

 火の粉が火炎となって大気を舞う。

 小僧丸は静止していたボールを天へと放った。

 

 そしてそのボールを追うように、盛大に跳躍する。

 

 更に全身を急速回転させることで火炎を巻き取り、烈火の両脚からボールに全体重と遠心力のすべてを叩きつける。

 

 

「火だるま──バクネツ弾……ッ!!」

 

 

 大気を燃やし重く大きくなり続ける炎弾は、落下に比例して速度が増していく。

 小僧丸サスケの最終奥義。稲森たちのサッカーを取り戻す戦いを最前線で導いた彼のたどり着いた唯一のオリジナル単独技。

 

 だが、チーム紅に守護神として君臨する西蔭政也は、一度小僧丸のこの必殺技を止めている。

 だが、チーム紅に守護神として君臨する西蔭政也は、この必殺技に一度敗北を喫している。

 

 

 ──抜かりはない。

 

 

 目を見開いて弾道を確かに認識した西蔭は、右こぶしに気を集中させながら全身の重心を落とした。

 

「王家の盾──!!」

 

 真正面から、以前敗れた必殺技で打ち止める。

 

「ぐ────」

 

 爆炎に匹敵しかねない威力に西蔭の盾は押し込まれ始める。

 西蔭は、それに伴い更に出力を上げた。

 

「ォオオオオオ──ッッ!!」

 

 

 もう2度と、王の城は破らせない。

 

 

 凄まじい気迫と共に。

 西蔭政也の片手には、完全に運動を止めたボールが握られていた。

 

 

 

 

 

「上がれ────ッッ!!」

 

 西蔭の強肩が中盤まで一気にボールを飛ばした。

 

 

 

「──行くよ、ヒロト君!」

 

 空中戦を得意とするアフロディの跳躍と高精度なパスによって、チームAの速攻は格段に早まって成立する。

 

 落ちるボールは吉良の走るさらに先へ。

 

 未だ自陣の稲森には到底追いつけない。

 吉良の出番だと誰もが理解した。

 

 

 ──独壇場。

 

 

 吉良ヒロトは、落下地点へ走り出す。

 

 走る足の回転は、急速にギアを上げていった。

 

 

「来るぞえんど────」

 

 

 天才のゲームメイクすら及ばない。

 

 ピッチは、光速すら突破する神の領域へ突入する。

 

 

「ジグザグストライク────ッッ!!」

 

 万作奥野岩戸──一瞬の光速ドリブルによって、吉良ヒロトの形をした光体がチームBのDF陣をごぼう抜きした──。

 

「オラァアア──ッッ!!」

 

 そして光の筋は、加速をそのまま利用したシュートを撃ち放つ。

 

 

「──はぁああッッ!!」

 

 とっさに拳を突き出し、シュートコースへ飛び込む円堂。

 

 ──届かない。

 

 吉良の第二の切り札は、円堂守の反応速度すら上回り、チームBのゴールネットに深く突き刺さった。

 

 

 

「やったなヒロト!」

 

「見たか! これがオレ様、“ゴッドストライカー”吉良ヒロトだ!! ハハハハハハッッ!!」

 

 吉良のカバー位置に入っていた基山は、スタジアム中に名乗りを上げた吉良と盛大なハイタッチをした。

 

 吉良の懐剣とも呼べる第二のシュート“ジグザグストライク”。これ自体は、稲森にもFF本線で吉良の属する永世学園との一戦にて覚えがある。

 ただ、記憶にあるものよりずっと速度・威力が桁違いだった。

 

 時間の経過とともにテンションが高まる試合に合わせて、吉良の身体がノってきた。

 

 それだけでないことは稲森でなくともわかる。

 

 吉良ヒロトは、あれから明確に進化をしている。

 

 彼だけではない。稲森を含めた全員が、過去の記録よりも上の実力を見せていることは明らかだ。

 

 

「すげぇ……! けど、次は止める……!」

 

 円堂が吉良のシュートに感嘆を口にする。

 

 

 そして、ここから試合は更に激しさを増す予感を見せる──。

 

 

 

 

「「「……!」」」

 

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 

 吉良のゴールから1分が経とうという頃、フィールド上の時間はようやく動き出そうとしていた。

 

 

「選手交代と……」

 

「ポジションの大幅変更……ね」

 

 一星がフィールド外に立つ二人の選手を見て言うと、吹雪が細くを加えるように続く。

 

 

 両チーム、2人の監督により似た指示が下っていた。

 

 

 お互いのベンチスタートの選手計4名の本格参戦&ポジションを配置図ごと変化させる。

 それによって、コートは大きく変容していた。

 

 

【交代選手・チーム白】

 岩垣 → 佐久間 

 日和 → 倉掛 

 

【チーム白・現フォーメーション】

『F-スリートップ』

[FW]佐久間 吉良 亜風炉 

[MF]風丸 稲森 基山

[DF]倉掛 吹雪士 真都路 一星

[GK]西蔭

 

 

「まったく、ゲーム外での変化も繰り返されたら着いていくのにかなり苦労するっていうのに」

 

 アフロディがフッと息を吐き、まだ余裕とばかりに高慢に笑みを浮かべた。

 偶然近くにいた鬼道はそんな態度に補足を掛けるように、改めて自らの意見を口にする。

 

「それだけしてくれた方が、俺達の適正は見えやすい。選考というより、実験だな……」

 

 すると鬼道は考察を止め、フッと笑みを浮かべた。

 

「……ようやくお出ましか。豪炎寺」

 

 そして、彼の男の名を呼んだ。

 

 

「吹雪、良い攻めだった」

「──チッ」

 

 

 豪炎寺修也は吹雪アツヤからの粗暴なハイタッチを受けとるや否や、軽く息を吐くとともにコートへ踏み入った。

 

 

【交代選手・チーム紅】

 吹雪ア → 豪炎寺

 服部 → 塔子

 

【チーム紅・現フォーメーション】

『F-フェニックス』

[FW]豪炎寺 灰崎 小僧丸

[MF]坂野上 氷浦 塔子

        鬼道

[DF]奥野 岩戸 万作

[GK]円堂

 

 

「随分と遅かったじゃないか」

 

「意地が悪いんじゃないか鬼道? 今度に関しては俺も待ったさ」

 

豪炎寺は鬼道の冗談めいた言葉に笑みをこぼしながら応じると、自分のポジションからコートを見渡した。

 

「…………」

 

 豪炎寺は改めて小さく息をつく。

 

 それを隣で見ていた灰崎は、何時にも数段増して覇気のこもった豪炎寺修也に呆れ半分といった態度で、自分のポジションに着くべく歩き出す。

 

 

 ◇

 

 

「……ここからが本番、ってか?」

 

 本格的に無制限交代が始まり、独り灰崎は呟いた。

 

 そして、戦友兼好敵手である彼へと目を向ける。

 

 

 

 

「はぁ……っ、うァ……ぁ、はぁ……っ!」

 

 未だ試合開始約15分にも満たない。

 稲森明日人は、もうそうしなくても良いだろうというくらいに濡れ切ったユニフォームで上半身を仰ぎながら、汗粒を手の甲で拭い払っていた。

 

 灰崎はあくまで自分のプレイに集中すべく、敢えて視線を逸らした。

 

 

 日本代表選考試合:残り27分

 

 

(まだ13分しか経ってねぇか……)

 

 

 過負荷の紅白戦は、さらに深く選手を巻き込んでいく。

 

 





 次回『鉛空』
 予定投稿日・明後日→午後を寝て過ごしたのでもう一日遅れます!申し訳ありません!

 次回分書き終えた気で先書いてましたまだでした。スミマセン

・岩人→風FW。カッチョイイ面と熱い前文の後に続く後文。隠れ甘党なんですって彼…!?ウチの屋城さんまだ豆振れてないからサルガッソーの表示が出るとウォーボーグ切らざるを得ないのが良くないよ
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