雷陽と黒龍   作:久遠 れもん

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 アンケ回答&感想下さってありがとうございます。
 虚空に向かって投げてないとわかると相当モチベになるので非常に助かります。

 変に次回内容が書き上がってるせいで時間掛けてしまったこともあり罪悪感が募りすぎたので今後先を書いていないときは素直に未定とします。
 振り回す形になってしまい申し訳ございませんでした。




鉛空

 

 吉良の1点。伴って交代選手とフィールド内の役シャッフル。

 チーム白の優勢で試合は再開することになる。

 

 灰崎はフィールドの最奥、チーム白のゴール前でリスタートを待つ西蔭政也を見つめていた。

 そして、フィールドに入った財前と豪炎寺を一瞥する。

 

 財前は隣り合う氷浦や円堂とコミュニケーションを取っている。

 豪炎寺も、鬼道と軽く会話をしている。

 

「…………」

 

 イナズマジャパンは世界に挑むためのチームだ。

 故に数多くいる国内の選手たち内で、絞られた自分たちが此処にいる。

 

 ──ここにきて、妙に不平等だと感じた。

 

 どちらかといえば、個人技で暴れる側である灰崎が思うほどだ。

 同じ考えの者も多いだろう。

 

 灰崎は汗だくのまま息を吐く稲森へ視線を向ける。

 

(いや、疲労でそれどころじゃないのか……)

 

 究極の個人技が暴れている。

 元の所属校内での連携と対策ばかりが試合展開を変えている。

 

 灰崎たちを蝕む異常な疲労は、恐らく其処が原因だ。

 

 個人技と内輪のリズムに着いていくために、要らない体力を敵味方問わず消費し続けている。

 世界を舞台に戦おうというのだから、こんなことでマイナスに寄っては始まらないとはわかっている気だ。

 

 個人技を見る。

 趙金雲はそんなことを説明した。

 説明した……ハズだった。

 

「……そういうことか?」

 

「どうした灰崎」

 

「豪炎寺……! …………あぁ、俺は気づいたぜ。この試合の意味……!」

 

 灰崎は得意げに笑う。

 豪炎寺が小さく微笑んだ。

 

「聞かせてもらえるか」

 

「良いぜ。聞かせてやるよ」

 

 段々と、灰崎の下に選手たちが集まっていた。

 灰崎は鬼道とボールを抱えて来た円堂が近くにいることだけを確認すると口を開く。

 

「この試合、どうにかしてキーパーの不意を突くしか点を取る術がねえ。だが、普通にそれぞれサッカーをしているうえで、円堂にも西蔭にも不意なんか突きようがねえ」

 

 近くで聞いている小僧丸はどうにも納得しがたいようで、唇を閉ざしながらも灰崎の言い分を待つ。

 

 一方で、鬼道は顎に手を当てながら、静かに頷いた。

 

「……同感だ。そこからはどうだ。何か策があるんだろう?」

 

「よくわかってンじゃねえか」

 

 灰崎は誇張するように両腕を広げた。

 

「……大体おかしいんだよ。26人、同じチームの奴ばかりってわけでもねえのに、このチーム分け! 個人見るなら同校くらい離せってンだ」

 

「まあ、確かに……?」

「そう断言するのもって感じはするが」

 

 氷浦と万作が口々に言う。

 

 灰崎は頷きもせず、一瞥するや否や鬼道に向き直った。

 ただ、チームの面々にはそれが灰崎の同意であると理解できた。

 

 そして、灰崎は自身の結論を述べる。

 

 

「──必殺タクティクスだ」

 

 

「なに?」

 

 鬼道は考えもしなかった、とばかりの表情で反射的に聞き返す。

 

「別に禁止はされてねえ。それに完全に出来上がったモンを出せるとは俺だって思ってねえよ」

 

「……あくまで相手の意表を突くためのモノ、というわけだな」

 

 鬼道のまとめを、灰崎は頷くことで肯定した。

 

 

 数秒の間があった。

 

 

 そして鬼道は、応えるように頷いた。

 

「お前がそこまで言ったんだ。試してみよう。……円堂、負担を掛けることになるかもしれないが……頼めるか?」

 

「ああ! せっかくいろんなチームから集まってるんだ。全員で色んなサッカーを試してみようぜ」

 

「よし、……他に異論がある者は?」

 

 小僧丸が一歩前に出て手を挙げた。

 

「……肝心のタクティクス自体はどうするんですか。〈マリオネットアタック〉も〈クライシスゾーン〉も、再現するには両チーム共データ不足だ。まさか新しく考え出すなんてことはないでしょうし……」

 

「悪いが、俺も小僧丸と同じ意見だ。そう簡単に手を出せるモノじゃあないぞ」

 

 小僧丸に灰崎と鬼道の理論に上がっていない点が指摘されると、意外にも豪炎寺が続いた。

 

 鬼道が2人に答える。

 

「灰崎も言った通り、完璧を求める必要はない。相手の不意を突く、そのためのものだ。……だから、俺たちの個人技を掛け合わせてでもギリギリ再現──とまでいかずとも形は組み上げられるであろう“あのタクティクス”で行く」

 

「──なぜか、ご都合よく例外になってくれてるしなァ?」

 

 灰崎は、自らの視線をその答えとなる選手がいた方向へ目を向けた。

 

 きょとんとした円堂が自分に指を差す。

 灰崎は気まずそうに首を振りながら、横にずれるよう手振りをした。

 

 円堂が横にずれ、後方を振り返った。

 

「奥野!」

 

 円堂の声で、離れた位置で耳だけ向けていた、藍色のポニーテールを白いゴムでとめた少年・奥野細道の双眸が、灰崎たちへと向いた。

 

 

 ◇

 

 

「何か、仕掛けてきそうだね」

 

 稲森の近くでボールが中央へ戻るのを待っていた吹雪が真剣な表情で言った。

 未だ呼吸を整え切れていない稲森だったが、吹雪の言葉で相対するチームへと目をやった。

 

 灰崎が、鬼道だけでなくチーム紅に語り掛けていた。

 

「…………」

 

 何か、引っかかる感覚。

 

 それに気づかないまま、試合は再開する。

 

 

 

 ピ────ッッ!!

 

 試合再開の笛。

 豪炎寺から灰崎へとボールが受け渡されて、稲森たちは動きだす

 

 ──が、

 一方で相手は、灰崎だけがセンターラインを出た。

 

「「「……!?」」」

「なんだ……!?」

 

「奪っちまえば関係ねえよ……!!」

 

 チーム白の面々および稲森たちの動揺を他所に、吉良が灰崎へプレスを掛けに走り出した。

 

 この瞬間、奇しくも吉良の一手は灰崎の動き出しのリズムと嚙み合いを起こした。

 吉良のプレスによって、ほんのわずかながら焦りが生まれた灰崎は足を押し出されるようにバックパスを放つ。

 

「豪炎寺ィ!」

 

 そして、それは開始した。

 

 バックパスを蹴り出したその足で、灰崎は更に地面を蹴り出し加速する。

 

「──、はッッ!!」

 

 豪炎寺は鋭いパスを受け流すようにトラップしその足でそのまま隣を走る小僧丸へボールを送る。

 小僧丸は同じようにパスを受け流し、後方へボールを送る。

 

 2人とも、灰崎と同じで止まらない。

 それどころかダイレクトパスの連続は激しさを増しながら後方へ後方へと受け渡されていく。

 

「──!?」

 

 気づくと稲森はパスワークの隊列に抜き去られていた。

 

 灰崎の後方に続くのは、豪炎寺や小僧丸だけではない。

 短く等間隔で、ゴールキーパーを除く10人が2列で直線状に並んでいる。

 

 稲森は、この感覚に激しい既視を感じながら大きなひとつの槍のように中央突破を仕掛ける灰崎たちを追っていく。

 吉良も、アフロディも、同じようにいつの間にか進軍を許してしまっている。

 

「これは、まさか……!」

 

 ──必殺タクティクス。

 

 そして、この既視感の正体を掴みかけた瞬間──

 

 

「──しま……ッッ!!?」

 

 

 万作がパスを溢した。

 これが稲森の直感通りならば、仕方がないことだった。

 

 “皇帝”は不在。

 タクティクスの構造を知る者は一人で、ウォームアップ時点で成功を狙っていた気配はまるでなかった。

 おそらくアドリブだ。稲森にも見てわかる。

 

 追いながら陣形の観察をしていた一星が飛んでいくボールを掬いに駆けだした。

 

 だが、坂野上が咄嗟に隊列を外れ出た。

 坂野上は一星に奪われるよりも先に、飛び出す寸前のボールを振り抜く足で遥か前方へと蹴り返す。

 

 カーブ軌道の回転が掛かったボールの飛ぶ先に向かい追うのは、灰崎だ。

 

「クッソ……!!」 

 

 灰崎は走り込みながら、苦し気に声を漏らす。

 

「稲森……!」

 

 風丸の呼び声を聞くと同時に、意図を理解して落下地点へと走る。

 ボールは次第に力をなくし、灰崎の駆ける地点へ、つまり此方にとっても向かう地点へと落ちていく。

 

 稲森明日人の走りよりも、流石に灰崎の方が速い。

 

 つまり、求められているのは『イナビカリ・ダッシュ』のような加速技術。

 稲森はひたすらに脚の回転を速めながら、灰崎を追う。

 風丸の言葉も無茶ではない。稲森自身、行ける、と思って走り出している。ただ、全力疾走の必殺技(最高速)には到達しない。

 

 取って速攻切り返す。

 

 そう方針を変えて、1vs1に備えることにする。

 風を避けて、下を向いていた顔を上げ視野を広く取りながら駆ける。

 相手のタクティクスは瓦解した。立て直すのは難しい。

 

「取る────」

 

 

 ──灰崎はボールをスルーした。

 

 

「…………ッッ!?」

 

 一瞬、状況に理解が及ばなかった。

 

 灰崎が抜きん出て外へ出ている。

 隊列は更に浅いところで崩れている。

 

 ならば何を、と稲森の視線がボールを追った。

 そしてすぐに理解が及ぶ。

 

 豪炎寺修也が跳躍した。

 ──と、同時に急速に回転を高めていく。

 

「マジかよ────」

 

 遥か空へ伸びていく爆炎の旋風を見上げたもう1人のチーム紅FWが、口から信じ難い、とばかりの言葉を溢す。

 彼は尊敬と共に、1人の選手としての悔しさを立ち姿からにじませていた。

 

 ──本年度フットボールフロンティア決勝戦、豪炎寺修也に“先”を見せた必殺技がある。

 

 それは使い手のオリジナルだ。

 体格、技術の方面が違う豪炎寺には決して再現出来ないし、元よりそんなことをするタイプではない。

 

 だが、その技を見た豪炎寺は、ひとつ自分を昇華させるために必要なピースを抜き出した。

 

 ──回転

 

 スペインの強豪『バルセロナ・オーブ』に大敗を喫した昨年から、“個”としては停滞を余儀なくされていた豪炎寺を、世界への門に立たせるための新必殺シュート。

 生み出すための特訓を豪炎寺が怠った日はない。

 

 

爆熱────スクリューッッ!!

 

 

 業火の台風が、炎のストライカーの豪脚から解き放たれる。

 落ちてくる弾道は回転力をまるで落とすことなく、重力と共に重さと鋭さを増していた。

 

 西蔭は現状の自身で正面から受け止めるべきでないと理解し、右腕を唸るように太く鋭くゴールの全域へとリーチを拡大させる。

 

「キャスティングアーム……!!」

 

 ボールを右腕が握り締める──。

 

 ──爆炎の一球は、尚回転を落とさない。

 

「何────ッ、がァアアアッッ!?」

 

 西蔭を盛大に突破した豪炎寺の必殺技が、ゴールネットに突き刺さった。

 

 

 

【紅白戦・得点状況】

 

『チーム白』VS『チーム紅』

   1      1

 

 

 

「大丈夫か西蔭!」

 

 稲森が駆け寄るころには、西蔭は立ち上がっていた。近くには同じように駆け寄った吹雪と風丸がいる。

 

「ああ、平気だ……。……悪いな、反応が追い付かなかった」

 

「それは違う。俺たちが警戒と守備を怠ったんだ」

 

 申し訳なさそうに焦げの残るグローブを見る西蔭の言葉を、風丸はすかさず修正した。

 

 実際は、キーパーも、それ以外の稲森たちも、互いにチーム紅の動きに対応できていなかったというのが正解だ。

 粗い型でありながら大枠の成立している必殺タクティクスを選択肢から抜いていたし、交代してすぐだった豪炎寺の新必殺技で完全に死角を突かれた。

 

 そのうえ、失敗であろうタクティクスを、チーム紅は万作の反応によってチャンスに変えたのだ。

 

「万作くんのアレは、おそらく偶然ですよね」

 

 近くに来ていた一星が言った。

 稲森は頷いて肯定する。勘ではあるが、おそらくそうだ。

 

 試合前の様子、試合中の動向、そして──

 

「──相手チームの変化……」

 

 一星が、稲森が無意識に思い返していた場面と答えを先回りしたかのように口にした。

 吹雪と西蔭もほとんど同じようで同じタイミングで首を縦に振る。

 

 稲森は数十秒前の状況を考え直す。

 

「……タクティクスをミスしたとき、確かに陣形が崩れてはいたんだよな……」

 

「うん、まだ分析はいるだろうけど、まずはアレを連発されることを阻止しないとだね」

 

 稲森に続く形で総括した吹雪は、チームの選手たちに仮決定の方針を伝えた。

 基山と吉良、風丸と佐久間といった具合に、近い選手たちがそれぞれ相手のボールを止める算段を付けている。

 

 まもなく、ボールが中央に戻った。

 

 

 

 

 

 

【交代選手・チーム白】

 真都路 → 日和 

 一星 → 岩垣 

 

【チーム白・現フォーメーション】

『F-フェニックス』

[FW]佐久間 亜風炉 吉良

[MF] 基山 吹雪士 風丸

        稲森

[DF] 倉掛 日和 岩垣

[GK]    西蔭

 

 

【交代選手・チーム紅】

 岩戸  → 吹雪ア

 小僧丸 → 服部

 

【チーム紅・現フォーメーション】

『F-デスゾーン』

[FW]  豪炎寺 吹雪ア

[MF]    灰崎

     万作  鬼道

[DF] 奥野 坂野上 氷浦

     服部  塔子

[GK]    円堂

 

 

 

 ◇

 

 

 

 試合再開早々、またしても陣形を組んで攻め上がろうとしたチーム紅だったが、またしても途中でボールが陣形の外──チーム紅側のコートへ転がった。

 

「ク……ッ、よし──!」

 

 陣形の外に回っていた服部がボールを拾う。

 だが、すぐに氷が一面に広がり吹雪士郎がアイススケートの要領で跳び上がる。

 

「アイスグランド──」

「な……っ」

 

 吹雪の着地と同時に、地面を踏みつけたそばから氷が服部を逃げる間も与えぬまま全身を包み固めた。

 吹雪はボールを奪った勢いのまま氷面を滑走、氷がなくなるや否やボールを蹴り放つ。

 

「アフロディくん……!!」

 

 センターフォワードとなったアフロディがボールを追って駆け上がる。

 ディフェンスは間に合っておらず、自ずとアフロディと円堂の1vs1となった。

 

「生まれ変わった僕の力を見せてあげるよ──」

 

「来い、アフロディ……!」

 

 自らのサッカーと信念を穢し、外界から批判され続けた。

 そんな過去のアフロディではなく、今、“見習いのかみさま”亜風炉照美として。

 

 再び神へ超える魔神へ挑戦する。

 

 次の瞬間、亜風炉照美が大きく広げた白い翼と共に天高く跳び上がった。

 足元から放られたボールが白く迸る電光を放ちながら人の規模を超えて拡張していく。

 

 亜風炉はボールに引き寄せられるかのように舞いながら、盛大に右足を振りかぶる。

「──ゴッドノウズ・インパクト……!!」

 

 静寂すら感じるほどに自然な足の振りによって放たれた巨大な球体は、円堂の守るゴールへと地面をえぐりながら轟音と共に突き進む。

 

「はぁーーーーーーッ!」

 

 円堂はすでに気の集中を始めていた。

 放たれるのは、亜風炉の持つ最大威力の必殺技だ。

 出し惜しみはできなかった。

 

 そして、心臓に集中させた気を放出。

 旋風と轟雷が形を成すべくうねり出す。

 

 

風神……雷神……ッッ!!

 

 

 現れた巨大な2体の魔神は、それぞれの片腕を円堂の両腕の動きと共に突き出した。

 魔人たちの雄たけびかのような衝撃が、双神の剛腕と亜風炉のシュートとの激突によって大気を揺らしながら砂埃を巻き上げ選手たちの視界を塞ぐ。

 

 やがて砂埃はやむと、

 

 

「………………、一筋縄じゃあ行かないよね」

 

 

 亜風炉と向き合う円堂の両手の中には、エネルギーを完全に消失させたボールが収められていた。

 

「よし……! みんな! もう一回だ!!」

 

 円堂の掛け声とともにボールが再び陣形に向けて投げ飛ばされる。

 トラップをしたのは、吹雪アツヤ。

 

 アツヤは即座に身体の向きを切り替え、兄にも匹敵する走りで駆け上がる。

 

「ォオオオッッ!!」

 

 それに、灰崎が追い付いた。

 

「──勝つぞ吹雪!!」

「……! 良いぜノった!」

 

 アツヤはすぐさま灰崎にボールを預け、陣形に着く。

 

 後方の鬼道がさらに軸となって全体の指針を改めた。

 

「成功するまで何度でも繰り返して見せる……。行くぞ──!」

 

 再びチーム紅のパスワークが始動する。

 

「来る……!」

 

「奥野……やはりあのタクティクスを……」

 

 稲森の既視感を、西蔭が補強する。

 だが、考えている時間は今回にはないようだった。

 

 10人の選手たちが1つの大槍のようにフィールド中央へと攻撃ラインを集中させることで、相手のディフェンスの質を無視してこじ開ける──FF決勝戦にて、“戦術の皇帝”の異名を持つ“王帝月ノ宮”キャプテン・野坂悠馬が指揮し、チームの守備の要である奥野細道が最後一手を担った必殺タクティクス。

 完成に要求されるのは、高精度なパスと、等間隔かつ等スピードに敵陣を突き進む意思統一、そして他でもない“戦術の皇帝”による指揮。

 

 それを、選手たちのボールコントロール能力だけで再現する。

 

 粗雑であり、本来のそれとははるかに程遠い、必殺タクティクスと呼ぶのも適切ではないほどの即興だ。

 

「それでも……!」

 

 

 ──不意打ちの奇策くらいにはなる。

 

 

「必殺タクティクス──」

 

 

 

 ──〈ローグプレス〉

 

 

 

 最後に鬼道のパスが最奥を走る10人目であった氷浦へ向けられ、氷浦はボールを盛大に最前列の灰崎へ蹴り放った。

 本家の〈ローグプレス〉でその役をした奥野ではなく、氷浦に変わった理由は対灰崎のパスをこなしてきた数の差。

 

 灰崎にとって氷浦のパスの描いた軌道は他校の選手と比べて質が良い。

 つまり、灰崎は絶好のチャンスを得た。

 

「ォオオオオオ────ッッ!!」

 

 空中でボールを迎える直前で、“フィールドの悪魔”が吼える。

 

 他を圧倒する気迫は、使役するペンギンたちをボールの元へ収束させた。

 ボールが黄金に輝き、蓄積されたエネルギーが迸る。

 

 悪魔は悠然と、それでいながら極限の力をもって右脚を振り放った。

 

 

────パーフェクトペンギンッッ!!

 

 

 ──正に完全なる一撃。

 

 灰崎凌兵という“悪魔”の歩んだ経験の結晶は、大きな光輪となって解き放たれると、原点(ペンギン)の形を成してフィールドを別つ光の一閃となる。

 

 西蔭政也は真正面から受け止めるべく、守護者としての盾を再び夜空に掲げた。

 

「王家の盾……!!」

 

 ボールへ打ちつけるかのように、全身で力強く構えられた月模様の盾は──、

 

「ぐ……っ! ──うぉおおおおッッ!!」

 

 灰崎のシュートは、押し抗う西蔭を確実にゴールラインへとねじ込んでいく。

 過去、灰崎は“王帝月ノ宮”の実力を見誤った。

 故に研鑽を重ねた。

 

 ──最早、灰崎が“射程内”に入れただけに留まらない。

 

退()け────」

 

「ぉおおおおオオオ────がぁああッッ!!」

 

 『パーフェクトペンギン』は、西蔭を全身ごとボールと共にゴールネットに叩きつけた。

 

「──其処は悪魔(おれ)が通る」

 

 偶然目に留まった星章学園席の“クールな熱血キャプテン”に向けて突き上げた拳が、チームBの追加点をスタジアム中に知らしめた。

 

 

 

『チーム白』VS『チーム紅』

   1      2

 

 

 

 ◇

 

 

 

「西蔭さん……!」

「悪い一星……」

「当然です。ほら、稲森くん……! せーの……っ」

 

 西蔭のことを一星とともに引き上げる。

 稲森はどこか上の空になりながらも、一星の言葉に合わせて力を込めた。

 

 

 ──『お前には負けない……!!』

 

 

 灰崎は、試合に勝とうとしているのだ。

 発言した通り、何よりもこの試合に勝利を求めている。

 

 吉良ヒロトは、個人技と連携を使い分けながら点の獲得を目指していた。

 吹雪アツヤは、代表に選ばれようと自分だけでの突破に挑んでいた。

 

 みんな、ひとつ試合の中で求めてるものがある。

 

 みんなと世界に行く、とか。

 この試合の経験を、とか。

 相手に先を行かれないように、とか。

 

 ……この試合に勝つ、とか。

 

(ぐちゃぐちゃじゃん……。俺……)

 

 稲森は無意識に拳を握る。

 

 情けなかった。

 乱雑な我欲の中にいながら、思考を放棄した。

 

「大丈夫か、稲森」

 

 西蔭が悔いる稲森を見下ろしている。

 その表情が、稲森を心配しているものであるとわかる。

 

 西蔭に言われたことがあまりに意外で、稲森は少し呆気にとられていた。

 

「だいじょ……──いや……、ダメかも。このままじゃ」

 

 汗だくの顔が力を込めて笑う。

 

「なんだ?」

 

 稲森の顔を見た西蔭はなぜか安心した様子でほほ笑んだ。

 その顔は、擦り傷と砂埃ですっかり汚れている。

 

 見覚えなんてあるはずがなかったが、誰かを思い出した。

 

「イナズマジャパン……」

 

 日本代表の座と勝利に向かって走ることを天秤に掛ける。

 答えがすぐ決まったことに、自分のことながら稲森は呆れて笑ってしまった。

 

 

「俺、この試合に勝ちたいんだ……。灰崎に……、どんどん1つになってくあの“チーム”に、俺たちで打ち勝ちたい……!」

 

 

 本心だった。

 わがままなのかもしれない。場違いなのかもしれない。

 正解はわからない。

 いや、不正解に決まっていると思っていた。

 国の代表が決まろうというたった一度の選考試合で、自分を売り出すでも良いプレイをしようとするでもなく、“チーム”で“勝利”することを望んでいる。

 

 皆少なからずそうだが、稲森は特段その面が強いらしい。

 

 勝利のために、自分が走ればいいのならいつまでも我武者羅に走れてしまう気すらした。

 

「そうか……」

 

 西蔭は静かにうなずいた。

 

「みんな、集まってくれ。後ろから見ていて気が付いたことがある」

 

 そう言って、チーム全員に集合をかけた。

 

 

 

 

 

【交代選手・チーム白】

 倉掛 → 一星

 

【チーム白・現フォーメーション】

『F-ベーシック』

[FW]   佐久間 吉良

[MF]風丸 亜風炉 基山 稲森

[DF]日和 吹雪士 岩垣 一星

[GK]    西蔭

 

 

【交代選手・チーム紅】

 服部  → 小僧丸

 奥野  → 岩戸

 

【チーム紅・現フォーメーション】

『F-スリートップ』

[FW]豪炎寺 小僧丸 灰崎

[MF]吹雪ア 鬼道 塔子

[DF]氷浦 岩戸 坂野上 万作

[GK]    円堂

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……稲森明日人、変えさせないんですか? 親分、雷門はそこそこ気に入ってると思ってたんですケド」

 

 ソファタイプの席に座りながら試合を見下ろす趙金雲に、随分と他人事な口調で若い少年の声が尋ねた。

 趙金雲と同じようにチャイナ服を着ている彼が動くと、近くに置いていた大頭面のような被り物がわずかにずれた。

 

 李子文。

 趙金雲の1番の弟子であり、友を自認する子文は、窓ガラスに付けていた手を離すと、小走りで趙金雲の座席へと戻る。

 

「明らかに動きが鈍くなったし、視野も狭まってないです?」

 

「んー、ワタシとしてはまだまだ見所があると思いますよ。ほら、走れてますし♪」

 

「そりゃあ試合に出てたら意地でもそうするものでは……」

 

「本当にそうでしょうか……。いえ、言われてみれば子文クンの言う通りかもしれませんねぇ♪」

 

「……?」

 

 子文は首を傾げながら、自分の話を理解しているはずの友の顔を覗き込む。 

 

「……日本が世界に挑むにはまだ早い。昨年の“雷門”対“バルセロナ・オーブ”の親善試合を根拠に、よく世間の意見として取り上げられる話ですが、ぶっちゃけワタクシもそう思います」

 

 趙金雲は、試合から目を離すことなく言った。

 

「世界最後方のチームを仲間たちの最後方から押し上げる人材。円堂クンや鬼道クンでは成立しない役割を果たす存在を見つけ出す。この試合にはそんな意味もあるのですよ」

 

「なるほど…………。なるほど?」

 

 ……それなら、稲森明日人は円堂のように最前で引っ張るタイプでは……?

 

 思ったものの口にはしなかった。

 今は、試合の行方に目をやる方が良いと考えたからだ。

 

「時間的にそのうち最後でしょうかねぇ……」

 

 趙金雲がつぶやくと、試合が始まるのか、各チームがポジションへと着いていく。

 

 

 





 彼に対する突然の呼称変更はそのうち戻ります。
 前の方見ていただいたら一発でやりたいことわかるので、もやってる方はそっち見て納得してあげてください。
 逆に期待してくれてるって方がもしいらっしゃいましたらネタバレなので気を付けてあげてください。
 一応作った筋道をまるで守らず思いつきで文書いてたこともあり半分黒歴史と化してるので私は見に行きません。2章とか、感想頂けるようになってきてたのに本題どっか行ったせいで決着つけられなくなりましたからね。


 次回『風雲』
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