そこは、高位次元霊的視座の最奥である
星の煌めきがある無限の宇宙に囲まれたその場所には、一人の男が立っていた。
「僕の正義は、ようやく君の正義に勝つことが出来たんだね……グレン」
元・帝国宮廷魔導士団特務分室所属、執行官No.11《正義》のジャティス=ロウファンである。
そんな彼は、先程まで戦っていた宿敵であるグレン=レーダスがいた場所を見つめていた。
……神殺しの権能を持つジャティスの《
そして、光の粒子となって消えて逝ったのだ。
他の三人娘……ルミア=ティンジェル、システィーナ=フィーベル、リィエル=レイフォードも、ジャティスはその手によって殺害した。
「さて……この世界を
今、冒涜の地ミラーノで、人類軍と《信仰兵器》の"主根"と、それに連なる大量の"根毛"が戦っている。
アルザーノ帝国軍総司令官イヴ=イグナイトは凄腕だが、それでも勝利することは不可能だろう。
「"読んでいるよ"……イヴ。確かに、君はあの時から凄まじい成長をした。だけどね……それでも、僕の方が"上"なんだよ……」
もうすぐ、ジャティスの手によってこの世界は終わる。
だが、その犠牲によって絶対悪たる《無垢なる闇》を討つ為の
こつ、こつ、こつ。
足音を立てて、魔王の魔法陣の中心へと向かう。
「見ててくれ、グレン……君が認めてくれた"
そう呟くと同時に、完全に人類軍が"喰い尽くした"ことをジャティスは感じ取った。
もう、あとは捧げるだけ。
ジャティスは不敵な笑みを浮かべ、
「《闇よりも深き淵に在る者よ・我が呼び声を聴け》」
「《魔力の渦巻くこの地に・雷帝の怒りと氷狼の吠え声・炎帝の烈火を集結せん》」
「《禁断の知識・滅びの呪文・世界より全てを秘めし教典へと放たれん》」
「《天地よりも広大な
「《我が神秘を宇宙を揺るがす究極の力とせよ》」
「《禁忌の儀式・始める我は神を斬獲せんと望む者なり》」
「禁忌【
それは、世界を捧げる儀式だ。
それは、宇宙を変える儀式だ。
そして。
そして──
そして────
──ジャティス=ロウファンの前に、『原初の一』。
第零特異点たる、《原初の魂》が現れた。
「………………は、はは…………」
思わず、笑みが溢れた。
以前、《
だが、今は違う。違うのだ。
ジャティスが理解できる形に……一冊と本という形に成った
「……ははは…………」
それを、ジャティスは自らの手で握っていた。
「あはははははは…………はははははははは…………っ」
ジャティスは、今の自分が弾けそうなほどに幸福を感じていた。
幸せで。幸せで。幸せで。
「あはっ、あっはははははははははははははははははははははははははははははは──ッ! あーっはははははははははははははははは! ははははははははははははははははは──ッ! はははははははははははは──」
ジャティスは、全知全能と呼べる存在となった。
今の彼は、あらゆる事が為せる。
帝国を揺るがし、世界を震撼させ、魔王をも出し抜き、人類史上、ありとあらゆる魔術師が至れなかった高みに到達した、希代の魔術師。
狂える正義、ジャティス=ロウファンは、ここで間違いなく"神"となったのだ。
……
「はは、はははは……は……………ふぅー」
興奮を落ち着かせたジャティスは深呼吸をして、目の前にある大樹を見上げる。
そこには、ジャティスが囚えていたマリア=ルーテルが埋め込まれていた。
「《無垢なる闇の巫女》……か」
それは、ジャティスが信仰兵器をこの世界に召喚するための触媒にした存在。
「……ここで、すべてを終わらせよう」
そう呟いて、ジャティスが幹に触れた時。
──ドクン!
ジャティスは触れた手に、負の不快感を感じた。
その正体は、混沌。
「ああ……"読んでいた"さ。"読んでいた"とも……」
──其れは、墜ちてきた。
マリアに集束していく邪悪な神気。
大樹がマリアに吸収され、冒涜的な気配が溢れ出る。
闇が深まる。
そして──マリア
いとも、大いなる──
いとも、邪悪なる──
いとも、威力ある──
げに──悍ましき。
「やぁ、初めまして……いや、久しぶりと言ったほうがいいのかな?」
そして
『やってくれましたね……ジャティス=ロウファン』
その正体は……ジャティスが追い求めてきた、《無垢なる闇》の"本体"であった。
『よくも……私の愛しい愛しいグレンを……私達の運命を……!』
「……は? 運命だと? グレンを自分の自己満足に巻き込んでおいてよくそんな言葉が言えるな、クズが。殺すよ? 殺すけどさ」
《無垢なる闇》の怒りに恐れるどころか、ジャティスは殺意を高める。
『……へーえ? もしかして、私に勝てるとか思っちゃってるんですか? うぷぷぅー、勘違いも甚だしいですぅ。
「そっちこそ、僕の正義に断罪される覚悟はできたのかい? ああ、やっぱり答えなくてもいいよ。できてなくても、殺すのは変わらないしね」
『ほほーう。貴方がどれだけ面白い人でも、私に勝てると思うなんて身の程知らずですよー?
《無垢なる闇》は両手を大きく広げ、自身の無限の触手を伸ばしていく。
それは、"無限の混沌"とも言うべき代物を纏っていた。
それに対し、ジャティスは右腕の《
「《我は己が正義に依りて運命を超える者・あらゆる理を・あらゆる力を・我が揺るぎなき不退転の意思と決意を以て・ねじ伏せる者》」
『《我は己が混沌に依りて・世界の枠を超え・あらゆる次元を揺るがす者・絶え間なき混沌の潮流を以て・此処で宇宙の限界を超越せん》』
二人はそれぞれ、己の神秘を顕現させる。
「正義【
『混沌【
ここで、この世界で最後の戦いが始まった。
■□■
《無垢なる闇》の切り札であり、原作では使用されなかった"天"……混沌【
あらゆる物を"腐蝕"させる【
だが、目の前に居るのはジャティス=ロウファン。全てを自分の思い通りに改変できる化け物だ。
そして、二つの"天"がぶつかりあった結果は"相殺"……
確かに、グレン=レーダスと戦っていたときのジャティスならば《無垢なる闇》の"天"は通用しただろう。
だが、違うのだ。今のジャティスには、
《無垢なる闇》は強いが、それでも今はジャティス=ロウファンが"上"だった。
『ぁあああああああああああああああああ──ッ!』
自分の"天"が敗北したという事実にブチギレている《無垢なる闇》は、ジャティスに向けて触手を操る。
何万……いや、何億もの触手が一斉に空間の亀裂から近未来、近過去、平行世界の全てから、因果律さえも超えた四次元的全方位から襲いかかってくるそれを。
「
その一言で、全てを消し去る。
『ふッ、ふざけるなぁッ!?』
「やれやれ……さっきまでの余裕な態度は一体、何処に行ったんだい?」
マリア=ルーテルの姿をした《無垢なる闇》は、本気で焦っていた。
グレンが殺され、ループが覆された怒りによって衝動的にジャティスの元へやってきたが……
正直に言おう。《無垢なる闇》は、ジャティス=ロウファンをナメていた。
(ここままだと、私は負ける……! けど、今この場でその現実を覆す……? 無理だっ! なら──)
《無垢なる闇》はジャティスに出し抜かれてしまっていたが、頭が悪いというわけではない。
むしろ、知能は人類の平均よりも確実に上だろう。
そして、そんな彼女にプライドというものは全くもって存在しない。
いや、一応あるにはあるのだが……それも、命が関わるならば別だ。
つまり、そんな彼女はここで何をするのか。
(──今は、ここから逃げるッ!)
一度逃げて、それからジャティスを殺すための方法を考えよう。
そう結論付けて、マリアの身体から抜け出し逃げようとしたその時。
「《冥夜の黒雲よ・混沌を纏いし邪神を・我が呼び声を以て・ここに封じよ》」
ジャティスの詠唱が木霊した。
『がッ……な、何がッ!?』
「──逃がすとでも、思っているのかい?」
その声は、とても冷たかった。
ジャティスの魔術によって拘束され、マトモに動かなくなってしまった《無垢なる闇》の身体が、産まれて初めて恐怖という感情で震える。
「お前のような邪悪を、この僕が逃すわけがないだろうが。僕はグレンに誓ったんだ。お前を必ずや殺してみせると。だから……その誓いを果たすために、僕の正義の礎になれ。《無垢なる闇》」
『……あ、あぁ……あぁぁあ……』
怖い。
『ああっ……ァッ……ァ……!』
怖い。怖い。怖い。
『あぁあ……ぅあぅあ……あぁあぁああ……ッ!』
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
『はあぁあうぅぁッ! やあっ、あぁうっ! うぅうんなぁッ!』
《無垢なる闇》は喚き散らし、動かない身体から触手を無理矢理伸ばしてジャティスに襲わせる。
「
──パァンッ!
《無垢なる闇》の触手が、水風船のように弾け飛ぶ。
『だぁぁあぁッ! あぅぁうぁッ!』
もはやマトモな言葉すら喋ることができないほどに精神的に追い詰められた《無垢なる闇》は、ひたすら醜く藻掻く。
「……無様だね。けど、これで終わりだ」
それに対し冷淡な態度で言葉を返したジャティスの隣には、
『ぁ……な……何を……する気だ……?』
焦りを含む《無垢なる闇》の声に、余裕は一切無かった。
「…………」
それを前に、静かにジャティスは目を閉じる。
今まで、ジャティスはずっと歩み続けた。
そう、自分が憧れたあの"正義の魔法使い"である彼のように。
そして、その終着点の詠唱を唱える。
「《我は神を斬獲せんと望む者・──》」
緩やかに。
「《我は始原の祖と終を知ろうとする者・──》」
穏やかに。
『あ、ぁぁ……』
「《其は摂理の円環へと帰還させよ・五素より成りし物は五素に向かい・象と理を紡ぐ縁を探求せん・いざ森羅の万象に須く此処で挑戦す・──」
『…………僕が、私が、俺が、我が、こんな……………はは……いや、知ってたよ…………だって、我が主様は…………』
「《──我が正義の果てに》」
ジャティスは5億年で練り上げてきた大呪文を完成させる。
本来、ジャティスは《無垢なる闇》の本質を
しかし、
だってそれには、全ての事が記されているのだから。
つまり、ジャティスは《無垢なる闇》を
だから……死ね、《無垢なる闇》。
「君は死刑だ、僕の正義に罰せられろ。錬金改【イクスティンクション・ジャティス】」
多重の魔法陣がジャティスの《
そして、ジャティスは白く輝く剣を振り──
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぁ」
そして、全てが"無"になった。
■□■
こつ、こつ、こつ。
その男は、とある結界に隠されていた館を歩いていた。
そして一つの部屋に入り、壁際の本棚の奥にある隠し扉を迷いなく開けた。
扉の先に続いている階段を、ゆっくりと下りていく。
階段を下りきった正面に部屋の扉があった。
男はその扉にかかっていた魔術錠を簡単に
部屋に入ると、そこは魔術実験用施設だった。
そんな部屋の中心にある拘束台に、一人の少年が囚われていた。
「やぁ、大丈夫かい?」
「……そこに、いるの?」
少年は男を見つけると、掠れた声を出した。
「助けて、お兄ちゃん、僕を助けて……ッ!」
「ああ、もちろんだとも。僕は、"正義の魔法使い"だからね」
男は拘束を解くと、少年は男に抱きついた。
「ありが……とう……お兄ちゃん……本当に……すごく……苦しかった……」
「そうか……助けられて良かったよ。それで、君の名前は何て言うんだい?」
「え……? それは……あ、あれ? お、思い出せない……僕は一体、誰なんだろう……?」
「……それは気の毒だね」
男は少年に同情するような顔を見せる。
「……どうかな? もしよかったら、僕と一緒に来ないかい?」
「……え? お兄ちゃんと?」
「ああ。どうする?」
男の問いかけに、少年は静かに頷いた。
「分かった。……"読んでいた"けどね。それなら、僕から君に名前を贈ろう。名前が無ければ不便だしね。なら…………"グレン=レーダス"、なんてどうだい?」
「グレン……?」
「そうさ。僕がこの世界で、一番尊敬していた人の名前だよ」
誇らしそうに、けれど何処か寂しそうに男は笑っていた。
「グレン=レーダス……ありがとう、お兄ちゃん。それで、お兄ちゃんの名前は?」
「ん? ああ、そういえば、まだ名乗ってなかったね」
男は右手を胸に当て、笑った。
「僕はジャティス。ジャティス=ロウファンさ」
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