カービィの家を造るらしい。
フームやブン、村の子供たちだけでツリーハウスを建てようとするとは、すごい事だ。
天気は晴れ。おやつ時前。
大臣家の部屋の中で、メーム様とリーノ、そして私でお喋りをする。
今日はフルプレートではなく、軽装だ。
頭を覆うフルフェイスの頭部、胸当て、籠手と脛当てだけが鎧部分である。
あとは長袖のシャツに、長いパンツと動きやすい服装だ。
ツリーハウスの件は、メーム様が教えてくれた。
子供たちの事は信じているが、作業には危険が付きものだ。リーノが、おやつを持って様子を見に行くと申し出た。
そこに私も手を挙げる。
「なら、私も行こう。ジュースを持つのは、任せてくれ」
「いいの?重いわよ」
「私は力持ちだからな。問題ない」
「さすが、カノープスね。いいお姉ちゃんだわ」
「ありがとうございます。メーム様」
三人でさっそくお菓子作りにとりかかる。
作ったのはパウンドケーキだ。これならば、お腹が膨らむだろう。
できあがったら、必要な物を揃えてリュックに詰めた。
おやつや、紙コップ、紙皿など軽い物はリーノが持つ。私は缶ジュースをできるだけ背負う。メーム様に見送られて、部屋を出た。
城の秘密のエレベーターに乗って降り、城を出て下り、草原を歩く。
カービィの家の予定地か見えてきた。
工事は順調そうだ。もう家の半分ができている。
「あれ?リーノにカノープスじゃん!どうしたの?」
「ブン様、皆様に差し入れを持ってきました」
私たちはリュックを下ろして、ブンに中を見せた。
「すげえ!ケーキにジュースだ!ありがとう!おーい、姉ちゃーん!」
少し離れた所で作業の指示を出しているフームに、声をかけた。
その声を聞いてフームが来て、興味がひかれたハニー、イロー、ホッヘが集まる。
「こんにちは。リーノにカノープス。なあに、ブン」
「見てくれよ」
「あら……まあ!差し入れを持って来てくれたの?ありがとう!」
「フーム様。もしよろしければ、休憩にいたしませんか?どうやら皆様、汗をずいぶんとかかれているようですし……」
「そうね。そうするわ。皆、手伝って!」
フームの号令で、私とリーノ、ブンたちが動く。
他の子供たちにケーキとジュースを配るのだ。
ケーキはリーノを筆頭に、女の子たちが均等に切って、配る。
男の子たちはジュースを配った。
そして私は……。
「ケーキと缶ジュースを貰った子から、こちらにおいで。氷をあげよう」
「えー!氷?」
「?でも、カノープス何も持ってないよ?」
「ふふ。種も仕掛けもございません……ってね」
まずは缶ジュースを開けてもらう。そして、缶ジュースに手をかざして、唱えた。
「アイスブロック」
缶ジュースの中に小さめの氷がいくつか浮かぶ。
「すごい!氷が出てきた!しかも冷たい!」
「私のにも、やってやって!」
「順番に並んだ子から、やっていくよ」
そういうと、子供たちは一列に並んだ。
素直だなと、私は微笑んだ。
子供たちが一服する頃。
私の隣でジュースを飲むリーノが、声をかけてきた。
「知らなかったわ。氷の魔法も使えるなんて」
拗ねた様子の声だ。
どうしたものかと、考える。
「訓練しているからな……。色々できるようになってきたよ」
「例えば?」
「いつか見せるよ」
「まあ……約束よ。わたくし、待ってますからね」
「約束する。必ず見せるよ」
最後にリーノと目を合わせれば、彼女は満足気に笑っていた。一応は納得してくれたみたいだ。
この先も魔獣は出る。戦うチャンスはあるだろうし、それをリーノに見せる日もあるだろう。
のんびりしていると、村の方から奥様方がやってきた。子供たちに、飲み物を持って来てくれたらしい。
子供たちはそれを追加で飲んでから、作業に戻る。
ハニーの母親が代表して言う。
「リーノ、カノープス。差し入れをありがとう。メーム様にも、よろしく伝えてちょうだい」
「かしこまりました。伝えておきます」
「ああ。わかった」
奥様方は、空になった容器を持って帰った。
去っていく時、数人はこちらをチラチラと窺うので、軽く手を振っておく。
きゃあきゃあ、と黄色い声が飛んだ。
私って、まだまだ村人たちから人気あるよね。
魔獣が出る為、カービィのお家完成パーティには、参加しなかった。リーノも、アーニャもランタンも参加していない。
代わりに、後日できた新しい家を訪ねる。
私、リーノ、アーニャ、ランタンの四人で訪ねると、カービィの家から小鳥のトッコリが出てきた。
カービィと家を交換したらしい。やっぱり。
トッコリが、家の隣の木の上で寝ているカービィを起こした。
何はともあれ、お祝いパーティの始まりである。
まずは大きなレジャーシートを広げて、カービィを含めた四人を座らせる。トッコリはカービィの隣でちょこんと座っている。
「あら、これじゃカノが座れないわ」
「問題ない」
もう一枚持ってきた小さいレジャーシートを広げ、そこに座る。
「用意がいいですね」
「備えあれば憂いなし、ね!」
アーニャとランタンが感心する。
私はニヤリと、口の端を上げた。
「ふふ、そうだろう?さあ、お菓子をだそう。カービィ、今日はあなたの為に準備してきたんだ。たくさん食べてくれ」
「ぽよ!あ〜……」
「ただし!吸い込みは禁止だぞ」
そう注意すると、カービィは頭をかいた。
私たちは、その姿を見て微笑ましく思い、笑い声をこぼす。
のんびりと過ごした。
トッコリが爆弾を落とすまでは。
「そういや、リーノたちは何で嫁に行かないんだ?やっぱり、メタナイト卿たちと付き合っているからか?」
私は、内心ドキリとした。
それはリーノたちも同じだったようで、アーニャが言う。
「あら、トッコリ。私たち、別にブレイドナイトさんたちとは、付き合っていませんわ」
「そうなのか?村の奴らから、一緒にメシを食べているって聞いたぞ」
「それだけです。ね、ランタン。リーノ」
「そうよ」
「……」
「?どうかしたのか?リーノ」
私が声をかけると、リーノは緊張した様子だ。
両手をキツく握りしめて、おそるおそる話を始めた。
「あの、ですね。今まで黙っていたのですが、わたくしとメタナイト卿は付き合っています」
「……え?」
「なんですって!?」
「まあ!」
「マジかよ!」
「……ぽよ?」
まったく気づかなかった。
夜に城で二人を見かける時はあったが、あれはデートだったんだな。
「報告が遅れてごめんなさい。落ち着いてから話した方がいいと思ったの」
「それは構わないが……いいのか?噂はすぐに広まるぞ?」
「そうねえ。トッコリはおしゃべりだもの」
「その通り!オイラの前で喋ったって事は、村の奴らに言ってもいいんだろ?」
リーノは力強く頷いた。
「ええ。メタナイト卿も、そろそろ話すべきだと仰っていましたから」
「そいじゃ、ひとっ走りしてきますかね!じゃあな!ごちそうさん!」
小さな黄色の小鳥は、瞬く間に村の方へ飛んでいった。
私たちは、その行動力に苦笑した。
「あきれた」
「トッコリらしいですよ」
「そうね。……はあ、肩の荷が降りたわ。家族や、親友二人にまで内緒にするなんて、ドキドキしちゃった」
リーノの言葉を聞いて、くすくすと笑いがもれる。
はたと、ランタンが言う。
「でも、村の若い子たちは混乱するでしょうね。だって、リーノはカノープスと付き合っていると勘違いしているもの」
「――そうなの?」
「そうですよ」
アーニャが肯定する。
リーノだけが慌てて私を見た。
私は首を振る。なんだその噂、知らんぞ。
親友二人は前からその噂を知っていたらしく、落ち着いている。
私は立ち上がった。
「リーノ、すぐに城に戻ってメタナイト卿を探そう。訳を話して、一緒に村へ行くぞ」
「村人たちの誤解を解くのね」
「そうだ。カービィ、すまない。そういう訳だから、今日は帰るよ」
私はカービィに向かって手を差し出した。
「ぽよ?」
「これは握手だ。よろしく、という意味がある。仲良くなりたい相手とするんだ」
「ぽよ!あくしゅ!」
カービィの手は大変柔らかく、温かかった。
――――――
すぐさま帰城し、メタナイト卿の部屋を訪ねる。
三戦士が揃っていたので、簡潔に事情を話した。
「村人たちの噂は一気に広まる。誤解を招く前に、一緒に来てくれ」
「構わない。ソード、ブレイド。少し出かける」
「はっ」
「いってらっしゃいませ」
「メタナイト卿、ありがとうございます」
「……そなたが困っているのだ。できる限りはする」
良い雰囲気の中、ぶった斬って私は言った。
「行くぞ」
メタナイト卿の部屋でアーニャたちと別れ、急ぎ村へ向かう。
城の門……橋に差し掛かったところで、リーノが疲れている事に気づく。
「リーノ。疲れているようだな。抱えようか?」
「もう、カノープスったら!大丈夫よ。……でも、村についたら、カワサキさんの店に寄りたいわ」
「いいんじゃないか。どうかな、メタナイト卿」
「うむ。行こう」
そんな話をしていると、村の方角から誰かがやって来た。
――フームとブンとカービィだ。
何やら慌ただしいな。とんでもないスピードで、こちらに向かい走っている。
「いた!リーノ!カノープス!」
「見つけた!」
「ぽよぽよ」
「ごきげんよう。フーム様、ブン様」
「カービィはさっきぶりだな」
穏やかに挨拶を交わす。
フームはそんな場合ではないと、言うようにズイッと前に出た。
「リーノは、カノープスと付き合っているんじゃなかったの!?」
「誤解です。フーム様、わたくしたちは恋人なのではなく、姉妹なのです」
「姉妹……?」
「それを言うなら兄妹だろ」
「姉妹で合っているぞ?」
私がリーノの言葉を肯定すると、辺りが静まり返る。
フームとブンの口がぱかりと開いた。
そして絶叫。
「ええ〜!?」
「カノープスって女だったのか……」
「それも知られていなかったのか……誤解は根深そうだな。リーノ」
「そうですわね……。とにかく村に行きましょう。あら?フーム様?」
顔を向けると、フームが空を仰いで固まっていた。
情報が処理しきれず、頭がパンクしているように見える。ぼそぼそと「女性だったなんて……」と口にしている。
「――私は女に見えないのか?」
「うん」
ブンは間髪を入れずに頷いた。
「ふむ。やはり異種族の性別を見分けるのは、難しいか……」
「いや。異種族どうのこうのよりも、カノープスは口調とか見た目が女性らしくないっていうか……」
「……ああ。そうだな」
ブンの言う通りだ。
城の戦士になるにあたり、形から入ろうと思い、口調は女性的なものから変えた。声も低くしてある。見た目は鎧のせいでわかりにくいだろう。
「なにより、リーノへの態度だよ。あんなん、誰もが勘違いするだろ」
「そうか?家族への愛情表現は、当たり前だと思うが」
「ですねえ」
リーノと私は、互いに頷いた。
私は彼女と出会った時の事を、思い出した。
私は、家族と会えなくなっている。だからこそ、家族や大切な人には会えるうちに、言葉で気持ちを伝える事は必要だと思うのだ。
再起動したフームが叫んだ。
「それにしたって、限度があるわ!村中あなたたちと、メタナイト卿の事で持ちきりよ。どうするの?」
「今から村に行って、みなさんとお話してきます」
「誤解はとくに限る。本当の事を知ってもらった方がいい」
「本当の事?」
「リーノはメタナイト卿と付き合っている」
「ええ!?」
「それは本当なのかよ!」
フームが目を丸くし、今度はブンが空を仰いだ。
そろそろ村に行かないと、陛下の夕飯に間に合わなくなるので、急ぐ。
「では、私たちはそろそろ行くぞ」
「フーム様、ブン様、カービィ。失礼しますね」
「ではな」
私たちは再び村へ向かった。
――――――
村に到着する。
村人たちの視線が痛いな。とりあえずリーノが相当疲れているみたいだし、カワサキの店に直行した。
レストランはいつも通りガラガラだ。
好きな席を陣取り、カワサキに注文する。腹は空いていないので、飲み物だけ。……申し訳ないが、リーノのおいしい料理を食べていると、マズい料理は食べられなくなるのだ。
リーノはアイスティーを一口飲んだ。
「……生き返りますわ」
「ああ。アイスコーヒーもうまいよ」
そう話していると、傍にいたカワサキが微笑んだ。
「そりゃ良かったよ。ねえ、ところで聞きたいんだけど……トッコリが話していた事って本当?」
「わたくしと、メタナイト卿が付き合っている事でしょうか?」
「うん、そう」
「事実ですわ」
「そっか!おめでとう!」
「ありがとうございます。カワサキさん」
カワサキとは、リーノが子供時代から付き合いがある。
私とリーノに料理を教えてくれた人だ。つまり、私たちの料理の師匠というわけだ。
カワサキはさらに言う。
「ところで、リーノはカノープスとも付き合っているって噂があるんだけど、違うよね?」
「もちろん。私とリーノは家族で姉妹だ」
カワサキはそれを聞いて安心したようだ。
「よかった〜。俺の知っている事とずいぶん違うから、焦っちゃってさあ……。村の若い子たちは、リーノとカノープスの事を知らないんだね」
「わざわざ言う事でもありませんからね……」
「そうだね。大人連中にとっては、二人の事は当たり前だからなあ」
「では、私とリーノが親しくしているハナさんやサトさんたち以外の大人たちも、正しく知っている人はいるんだな」
「うん。いるよ」
「そうか……。村人たち全員の誤解をといてまわる気だったが、必要ないかな」
そこにメタナイト卿が待ったをかける。
「いや、知り合いだけではなく、村中に知らせておいた方が混乱は少なく済むはずだ」
確かにと、頷く。
「噂が悪い方向にいかないよう、今のうちに訂正しておくべきだな」
「大変ですけれど、飲み終わったらいきましょう」
「俺の方でも、事実を広めておくよ」
「ありがとう。頼むよ」
「お安いご用だよ〜」
飲み物を飲み終えたら、カワサキの店を出る。
村の広場に行けば、ほとんどの村人たちは集まっていた。
そこですぐに、私たちはハナさんとサトさんに囲まれる。
訳を話せば、二人は納得してくれた。
周りで話を聞いていた村人たちも、驚いたり、ショックを受けたり、お祝いしてくれたりと様々だが、受け入れてくれた。
ハナさんとサトさんが、リーノに笑顔を向ける。
「おめでとう、リーノ!そのうち馴れ初めを聞かせてちょうだいね!」
「おめでとう。自分の娘が、恋人を連れて来たように嬉しいわ!ふふ、カノープスは妹離れの時が来たわね」
「それについては、メーム様と相談します」
メーム様とは、お互いに“リーノの姉”と言う事で、話がついている。
後で、リーノとメタナイト卿が付き合っていると報告に行かないとな。
「あら、妹離れはまだ先かしら」
「かもしれません」
「もう!カノープスったら……」
そのやりとりをみて、村人たちが笑い出した。
これで、騒ぎはおさまっただろう。
そろそろ夕飯の時間だ。
城に帰って、陛下たちとご飯を食べよう。