「今度、カップルイベントを開催する。リーノとメタナイトは、村でも注目されるカップルゆえ、必ず参加するゾイ」
「当日、風邪をひいたりしないように!でゲス!」
とある日の朝。
朝食後に、話があるからと陛下に言われて、玉座の間に向かった。
玉座の間には、陛下、エスカルゴン殿、リーノとメタナイト卿、加えて私が集合した。
陛下は玉座に座り、その隣にエスカルゴン殿が立つ。
正面、陛下から少し離れてリーノとメタナイト卿が並んで片膝をつく。私は二人の後ろで、同じように片膝をついていた。
カップルイベントか……。
あれって、チリドック回辺りで開催していたような気がする。間違いなく、未来で起きるイベントが早まっているな。
とりあえず、魔獣とリーノの接触は避けたいかな。本音を言わされるリーノは、苦しそうだったし。私に何ができるだろうか。
「イベントでは、様々な屋台を出す。リーノ、お前を料理監修につける。うまい屋台料理で、村人たちからがっぽり稼ぐゾイ」
「かしこまりました」
「そして、カノープス」
「はい。陛下」
「そちは……わしと、屋台を回れ」
護衛か。
私は頭を下げた。
「かしこまりました。当日は、お楽しみいただけるよう、準備をしていきます」
冒険ものの本を一冊、持って行こう。
それを、陛下に読みきかせているうちに、屋台の待ち時間なんてあっという間に過ぎるだろう。
私の言葉に満足されたのか、陛下は頷く。
言葉は続いた。
「それと、他にも宣伝に使えそうなカップルがおれば、イベントに参加させるゾイ」
「……かしこまりました。参加していただけるかわかりませんが、いくつか当たってみます」
リーノは深く頭を下げた。
陛下は玉座に座り直す。
「では、行くゾイ」
「はっ」
「失礼いたします」
リーノとメタナイト卿、私は部屋から退出した。
玉座の間から離れた廊下で、リーノはメタナイト卿に向き直る。
「あの、ごめんなさい。陛下があんな事を仰るなんて、想像もしていませんでした。ご迷惑ですよね……」
「そなたが謝る事ではない」
「ですが……」
「それに陛下の事だ。今回も、何か企んでおられるかもしれん。そなたとカノープスに危害を加えるとは思えんが、共にいれば守れる」
メタナイト卿の言葉に、リーノは笑顔を取り戻す。
「――あなた様がいてくれたら、怖いものなんてありませんわ」
良い雰囲気のところ、すまんな。
「ごめん。私を忘れないでくれ」
「あ!その、忘れていたわけじゃなくて、夢中になっていたというか!……ご、ごめんなさい」
「仲が良くて、私は嬉しいよ。――メタナイト卿、私は陛下を見張っておく」
「頼む」
メタナイト卿と目を合わせて、力強く頷く。
「それじゃ、私は村の本屋に行ってくる。リーノはこれからワドルドゥ隊長、それにワドルディたちと集まって料理を考えるんだろ?」
「ええ。今から考えなければ、間に合わないと思うわ。カノ、もし手が空いたら力を貸してね」
「喜んで。それじゃ、お二人とも。また」
「またね。カノ」
「では、な」
私は、秘密のエレベーターへ向かって歩き出した。
村の本屋に置かれている小説は、ほとんど購入している。新刊があればいいな。
――――――
ワドルディたちを総動員し、イベント会場の作業はサクサクと進む。
新刊を無事に買い終えた私は、約束通りリーノの手伝いをした。
主にリーノが考えた料理を食べて、感想を伝える。
どれもこれもおいしくて、つい食べ過ぎてしまった。イベントが終わったら、ダイエットだな。なんて考える。
そしてイベント当日。
城の中庭に造られたイベント特設会場は、たいへん賑わっていた。
どこもかしこもハートのモチーフだらけだ。恋人たちが楽しんでいるのだから、成功なのだろう。
賑わいを上――城の中、上の階――から眺める。
村人たちが楽しそうだと、私も嬉しかった。
「カノ、そろそろ行きましょう」
「ああ。行こうか」
振り向くと、着飾った妹分たちがいた。みんな綺麗だ。
リーノは上品に、アーニャは可愛らしく、ランタンは色っぽい。私も今日は、装飾が多めなライトアーマーを装備している。
私は素直な気持ちを伝えた。
「皆、綺麗だな」
「ありがとう。カノも素敵よ」
「今日のために考え抜いたんです」
「これで、村中の視線は私たちのものね」
「おや?視線を集めるのはたった一人でいいのではないか?」
数日前に聞いた話では、アーニャはブレイドナイトと、ランタンはソードナイトと付き合っているという。
ランタンは「それもそうね」と、顔を赤くして言った。
「さて、三人の姿も見たし。私は陛下を迎えにいくよ」
「ええ。それじゃ、イベント会場でね」
三人は恋人たちと合流する為、メタナイト卿の部屋に向かった。
私は陛下の部屋に向かう。
陛下の部屋に到着すると、部屋の中からドタバタと話し声が聞こえた。
「あれでもない!これでもない!あー決まらんゾイ!!」
「陛下!早くしないとカノープスが来ちゃうでゲスよ!」
どうやら支度がまだらしい。
支度中に、部屋の中へ入られるのは嫌だろうと思う。だから、部屋の外からノックをした。
「陛下、カノープスです。お迎えに参りました」
答えてくれたのはエスカルゴン殿だった。
「はーい!もうちょっと待つでゲスよ」
「かしこまりました」
「決まらん!決まらんゾーイ!」
「――でしたら、私が選びましょうか?」
困っているようなので、声をかけた。
反応はすぐに返ってきた。
「それはいい案でゲス!ささ、カノープス!中へ入るでゲスよ」
「失礼します」
「どーぞどーぞ!」
エスカルゴン殿に扉を開けてもらい、陛下の部屋へ入った。
普段は綺麗に片付いている部屋も、今日は服で溢れている。足の踏み場はある程度なので、服さえ片付ければまた綺麗な部屋に戻るだろう。
「陛下はどちらに?」
「あのついたての奥でゲス。覗いちゃイヤでゲスよ」
「承知しました」
ついたての近くには、数人のワドルディが待機していた。
おそらく陛下の着替えを手伝っているのだろう。
私はさっそく本題に入った。
「それで、どの服と悩んでいるのですか?」
「……見せてやれゾイ」
ワドルディたちがテキパキと動き、三着のド派手な服が私の前に並んだ。
フラミンゴのような色の赤ピンクのスーツ、金のラメが眩しいスーツ、常夏の国には暑すぎるモフモフのローブ。
どれも豪華だが、品がない。それに合わない。
私ははっきり言った。
「いつもの服がよろしいかと」
「なんだと!?」
「赤ピンクと金のラメのスーツは豪華です。今日のイベントは、村人に合わせてカジュアル寄りなので、合いません。最後のローブは、普段着ている赤のガウンよりも数段豪華だとは思いますが、常夏のプププランドでは合いません」
「ぐぬぬ……」
「そこで普段着にされている服です。今日のイベントにも合うかと。普段との差をつけたいのなら、アクセサリーを身につければ良いでしょうね。ゴテゴテにするのではなく、少しだけ身につけるんです」
「どれが、良いのかゾイ?」
「私はブローチ、指輪、ブレスレットをオススメします。これは単なる私の好みですので、陛下の好きなものを選んでくだされば良いかと……」
「…………ちょっと待て。ワドルディ!」
一人のワドルディが宝石箱を持って、ついたての奥に消えた。
五分後。陛下が出てきた。
いつもの赤いガウンに、アクセサリーを身につけている。胸にはウサギちゃんの白いブローチ、エメラルドの指輪、金のブレスレットだ。
「素敵ですね」
「そちは……」
「はい」
「普段よりは、まあ、良いゾイ」
「ありがとうございます」
「ひひ!素直でないでやんの!」
ゴガン!
陛下のハンマーが振るわれた。エスカルゴン殿は目を回し、頭部を抑える。
「いってえなあ!」
「うるさいゾイ!カノープス、先導せい!」
「かしこまりました。それでは皆様、失礼します」
エスカルゴン殿やワドルディたちに挨拶をして、私と陛下は秘密のエレベーターへと向かう。
イベント会場へ乗り込むと、村中の人たちが遊びに来ていた。
恋人同士と家族層は会場全体にいて、独り身の人たちは屋台を主に楽しんでいるみたい。人がこんなに集まると祭りって感じがして、楽しいなあ。
「どこから行きます?」
「……お前は、どうしたいゾイ」
「私ですか?そうですね……散歩がてら会場をぐるりと見て、それから屋台に行きたいです。陛下はまだ屋台の料理を食べていませんよね?とってもおいしくできたんですよ」
「後でリーノを褒めてやるゾイ」
「リーノも喜ぶでしょう」
陛下の隣を歩く。
はじめは手を繋がないと、お互い迷子になるかなと、思っていた。けれど私たちが通ると村人たちが道を開けてくれるので、移動には困らなかった。
それはそうと、かなり目立っている。
以前から感じていた、女性たちの憧れの眼差しではない。好奇心の眼だ。注目を浴びている。
まあ、先日「自分は女です」とはっきり言ったばかりだし、目立つのも仕方ないのかな。
「カノープス、そろそろ屋台に行くゾイ」
「かしこまりました。あの、良かったら綿菓子を食べに行きませんか?ハートの形で、色が淡いレインボーなんです。可愛いから食べたくて」
「すぐ行くゾイ」
「ありがとうございます」
そうして屋台を巡る。
順番の待ち時間は、買っておいた新刊を読み聞かせる事で、楽しんでもらった。真剣に聞いていただけたので、こちらも嬉しかった。
一時間ほどで、特別イベントの時間がやってきた。
『ぴーんぽーんぱーんぽーん!リーノ、メタナイト、オマケに村人共は特別イベントに招待してやるでゲス!場所は反対側の中庭でゲス。ワドルディたち、村人たちを案内してやるでゲスよ!陛下はすぐ裏まで来てくださいでゲス』
放送が流れ、陛下は焼きそばから顔を上げた。
「もうそんな時間かゾイ?早すぎる。んぐ」
「どうぞ」
「うむ」
陛下の飲み物をお渡しする。
陛下はそれを飲み干し、立ち上がった。
「わしはエスカルゴンの所は行く」
「ゴミは片付けておきます」
「うむ……今日は、楽しかったゾイ」
ぽそりと呟かれた言葉に、私は笑顔になる。
「私も楽しかったです」
陛下は走り去った。
私はゴミを分別した後、特別イベント会場へ向かう。
その道中で、メタナイト卿とリーノに会えた。合流して、一緒に会場に入る。
中央にステージ、周りに観客席が設けられた特別会場。
リーノはエスカルゴンに呼ばれて、どこかへ引っ込んだ。
観客席の最前列には、私とメタナイト卿だけがいた。これから起きる事を、少し話しておいた方がいいかもしれない。そう思って、話を切り出す。
「……メタナイト卿、少し話せるか」
「どうした」
「陛下とエスカルゴン殿は、あなたとリーノの事を認めていると思うか?」
メタナイト卿がこちらを向く。
「どういう事だ?」
「二人はリーノの事を大切に思っている。だから生半可な気持ちで、恋人にはなってほしくないと考えているはずだ。……今日、何か起きると思う」
「私とリーノの仲を試す何かが……か」
「そうだ」
隣の青い戦士は、大きくため息を吐いた。
「言葉だけではなく、行動でリーノへの気持ちは伝えるつもりだ。けれど試されるというのは、気分が良くない」
「すまない」
「そなたが謝る事ではない」
そこでちょうど、アーニャとランタンがブレイドナイトとソードナイトを連れてやって来た。
私たちは快く迎え入れ、一緒に最前列に座る。
特別イベントが始まった。
ステージに、メーベルが持っている物と同じ大きさの透き通った水晶玉が、置かれる。
そして「カップル、夫婦限定の告白大会」を開催すると、エスカルゴン殿が発表した。
レン村長とハナ婦人が、ステージに上がる。
そして始まる、お互いを攻撃する言葉の数々。
フームが飛び出して、水晶を投げた。
水晶はステージに転がらなかった。
それはフワリと飛び上がり、体を不気味なオレンジ色に変化させる。そして恐ろしい両目を開けた。
魔獣オマシーだ。
魔獣はビームを放つ!
村人たちは我先にと逃げ出す。
ステージではカービィと魔獣が戦いだした。カービィの戦いを見届けるべく、メタナイト卿がそちらへ行こうとした時だ。
陛下とエスカルゴン殿が、巨大なハート型の箱を持って現れた。
ニヤリと笑っていた陛下は、私と目が合うと嫌そうな顔をした。
「なんでお前がいるゾイ!」
「リーノの晴れ姿が見たくて来ました」
「そんなものはない!すぐに立ち去れい!」
「お断りします」
「ぐぬぬ……!」
「もういいでゲスよ。陛下、やっちゃいまショ」
「仕方あるまい!いでよ、リーノ!」
「あ、開け〜ゴマ!」
ワドルディたちがハートの箱を左右に引っ張って……割れた。ハートが割れたのだ。
中にはリーノがいた。
虚な目をしたリーノがふらりと立ち上がる。手には、あの水晶玉があった。
「リーノ!」
「さあ、不満をぶちまけるでゲスよ!」
「……わたくし、は」
ヒュッ!と飛び出し、リーノの持っている水晶玉を奪った。そしてリーノから十メートルほど距離をとる。
「……あら、わたくしは」
「リーノ、よかった」
「目が覚めたんだわ」
虚だったリーノが元に戻った。
アーニャとランタンが飛び出し、リーノに駆け寄る。
今度は、陛下が慌てた。
「カノープス!それを早く捨てるゾイ」
「あ」
……本音を言え。
…………不満をぶちまけろ。
「うわあ。本当に声が聞こえてくる」
しかもリピート再生つきだ。うるさかったので、何度かステージ床に打ちつけてやった。
すると、魔獣は情けない鳴き声をあげてヒョロ〜と逃げていく。
それをメタナイト卿がぶった切った。
同時刻。
カービィも魔獣を倒した。
ステージの二箇所で爆発がおきる。
子供たちの歓声が聞こえた。
「カノープス!無事か?」
「はい。なんか、大丈夫でした。それよりもリーノを」
「――わかった」
メタナイト卿はまだ何か言いたげだったけれど、私が本当に無事だと知り、リーノの所へ駆けていく。
私は自分の両手を見下ろした。
魔獣の声を聞いても、操られなかった。
私って精神攻撃に対する耐性を持っているの?
それって結構強いよね?
また少し、自分を誇らしく思えるのだった。