カップルイベントから、なんやかんやあった。
カービィとメタナイト卿の決闘、クラッコが村を襲ったり。
ゴルフクラブ場が欲しくて陛下がウィスピーウッズの森に手を出したり、テレビが配られたりした。
ダイナブレイドが自分の卵を探して村に降りてきたり、キュリオさんが発見した古代文明で一悶着あったり。
ロロロとラララの秘密を知り、カービィに電子ペットが贈られて。
カインがフームに告白したり、メーム様の結婚記念日をお祝いした。
カービィが寝てしまいフームやブンが数日帰って来なかった時は、リーノと一緒に心配した。
そしてナックルジョー。メタナイト卿は少年が帰った後に、リーノと何か話したようだ。私は見守る事しかできない。こちらからつつく事はせず、我慢した。
村に雪が初めて降って、王女様がやって来た。
綺麗な方だと思う。しかし、やたらと陛下がこちらを気にしていたのは何だったのだろう。
フームたちが今度は海に行ったっきり数日間も帰って来なくなったり、ダイナベイビーを魔獣にしようとしていたのを止めたり。
それからヤミカゲだ。私はたまたま村にいて会わなかったが、リーノが遭遇したらしい。大事はなかったが、心臓に悪いな……。
エスカルゴン殿の母上が来て、私は優秀な戦士だと紹介された。照れる。
この頃から、アーニャとランタンがメイドとして城で働く事になった。もっとブレイドナイト、ソードナイトとの時間をつくりたいからだそうだ。
いつでも親友たちと会えるようになって、リーノは毎日嬉しそうだ。
そしてチリドック。
私はメイド三人を玉座の間に逃すのに必死で、メタナイト卿の助けに行けなかった。
だが、大丈夫だった。チリドックはブレイドナイトとソードナイト、そしてカービィによって倒されたのだ。
今回、陛下とエスカルゴン殿はリーノを縛っていない。玉座の間に、三人を留めたのは私だからだ。だから、二人へのお咎めはナシだった。
私は、リーノたちを守ってくれたからと、三戦士からお礼を言われた。
ウィスピーウッズの恋を見届けたり、村に産業革命が起きて自然がなくなりかけたり。
激辛ブームが来て、カービィが卵を育てて、城に遊園地ができたかと思えばマイクカービィによって崩壊したり。
ブンの虫歯治療のついでに私も治療してもらった。あの魔獣っていい奴だったのでは……?
宇宙船から捨てられたゴミ問題を解決し、プププグランプリというレースではカービィが宇宙船の操作を覚えた。
陛下がカービィの評判を落としたが、それは無駄に終わった。フームが仲間を集めて作った新聞の方を、村人たちが信じてくれたからだ。
魔法使いが主役の本がミリオンセラーとなり、その作者がププビレッジにやって来た。私とリーノのやり取りを見て「メイドと騎士の恋……!」とか何とか閃いていたな。どうなる事やら。
そして、事件は起きる。
エスカルゴン殿の忘却事件だ。
精神攻撃に耐性がある為か、私はエスカルゴン殿の事を覚えていた。しかし、他の皆は忘れていて。
――リーノも忘れているはずだった。
エスカルゴン殿に会って、リーノが倒れた。
その時、思い出したのだ。
今この時だった。
リーノの魂と前世の魂の重なりが、ズレてしまったのは。
これが原因で、今後リーノは度々不調になる。
メタナイト卿、エスカルゴン殿、フームたちが地下へ降りる背中を見送り、私は大臣一家の部屋に残った。
メーム様と私とパーム様で、リーノの面倒をみる為だ。
「リーノ……」
「大丈夫かしら」
メーム様と二人で、少し苦しそうなリーノの横顔を見つめる。
そこにパーム様の明るい声が、かけられた。
「大丈夫さ。リーノは風邪をひいても、次の日には元気いっぱいだったじゃないか」
「そうだけど……」
「今は、リーノの回復を信じて待とう。なあ、カノープス」
「そうですね」
問題は、これからだ。
ナックルジョーがまた来た後、リーノに手紙が来るはず。
私はじっとリーノを見た。
――怖い。けれど、リーノを失うよりは怖くない。
だから、私が――。
リーノの手をとり、優しく握った。
はやく、目を開けてほしかった。
リーノは夕方に起きた。
その頃には魔獣は倒されており、リーノは元気を取り戻し、皆を含めて記憶を取り戻していた。
――――――
それからナックルジョーだ。
あのさ……魔獣を連れてくるのやめてくれないか?
私はブチ切れている頭でそう考えた。
魔獣だらけになった城内で、リーノとアーニャとランタンを抱えて走る。この時ばかりは、彼女たちと同性で良かったと思うのだ。
そして最強魔獣マッシャー。
カービィたちとの戦闘が始まる。
私は、リーノたちと共に後方で、戦闘が終わるのを待つつもりだった。
リーノは苦しそうだった。
メタナイト卿を助けたい。けれど自分じゃ助けに行けない。カノープスなら行けるの?だけど、カノープスが怪我をしたら?
きっと、そんな風に考えているのだろうと、彼女の横顔を見て思った。
気にしなくていいのに。
でも、そうやって考えてくれるから、彼女を大切にしたいんだ。
「リーノ、私行ってくるよ」
「ダメよ」
「これでも強いんだ。本当さ。メタナイト卿のお墨付きだ」
「ダメ」
「すぐ戻るから」
「――ダメだったら!」
叫ぶように、泣いている。私は彼女を抱きしめた。
「君を泣かせる悪い奴は、私がやっつけてあげる」
それが君への恩返しになるなら、立ち向かうよ。
私はリーノをアーニャたちに任せて、マッシャーの前に立つ。
風が、私の背中を押してくれる。
怖さはない。
ただ、殴られたり踏まれたりしたら痛そうだと、思った。
遠くでフームたちが「逃げろ!」と叫んでいる。
私はまっすぐマッシャーを見た。
睨み合いが続いた。
愛用する鉄パイプを、魔法で何重にも包み込む。
――びゅう!
強い風が吹く。私はマッシャーに向かって走った。
構えたマッシャーと、正面からぶつかる。
――重い。すごく重い。だけど。
「想像以上じゃ、ない!」
マッシャーの拳を弾いた。
巨大な魔獣がひっくり返る。
私は大きくジャンプして、マッシャーの上へ飛ぶ。
空中で、周囲に光弾を発生させた。
いくつもの、たくさんの、私の拳ほどある光の弾。
鉄パイプを振り下ろす。
「プチ、メテオ!」
光弾が煌めいて、マッシャーに襲いかかった。
着弾すると花火のような爆音がして、マッシャーの表面をでこぼこにした。
私は風圧でメタナイト卿たちがいる側に飛ばされた。
そこにはカービィとナックルジョーもいた。
ジタバタと苦しそうにもがくマッシャーに、満足する。
「――あとは任せた」
「お、おう」
「ぽよ」
最後まで横取りしなくていいだろう。
今回の事で、かなり目立ってしまった気がする。けれど、それもいいだろう。
マッシャーは無事に倒された。
隠れていたリーノたちが出てきて、思い思いに飛びつく。
「カノープス!」
「え、私?」
「そうよ!心配したんですからね!」
ぐしゃぐしゃに泣いている。私は鉄パイプを腰にさして、屈んだ。
持っていたハンカチで、リーノの濡れた頬を拭いてあげる。
「いくら、あなたが強くても、飛び出していいわけありませんわ!」
「すまない」
「もうしないで!」
「約束はできない」
「もう!」
「だが、約束は一つ守ったぞ?」
「え?」
私は空に向かってピンッと人差し指を向ける。
「アイスブロック以外の魔法も見せるって、約束さ」
「もっと平和な方法で見せてください!」
怒られてしまった。
私は正座をして、しばしリーノの言葉に耳を傾けた。
――――――
それから一週間ほどは、リーノの傍で仕事をした。
もうすぐだろう。リーノがヤミカゲに襲われるのは。
うーん。腹に決めた事をするだけだが、どうにもハラハラドキドキソワソワする。
全てがうまくいけばいいが。
そして、リーノはモサじいさんから手紙を受け取った。
その日が来たぞ。
「カノ、ちょっと旅行に行ってきますね」
「村の最寄りの駅に乗るまで送る」
「いいの?結構歩くわ」
「いいんだ。私がやりたいんだ」
そうして数日後、メタナイト卿やフームに見送られて、私たちは森の先にある駅に向かった。
鼓動が耳の横で鳴っている。
森の中。辺りをキョロキョロと見回していたら、リーノに怪しまれた。
「どうしたんですか?今日は何だか変です」
「そうか?動物に襲われたりしないか、心配で」
「まだ朝だから、平気でしょう。――カノ」
ピタリとリーノが止まる。
リーノの視線の先に、ヤミカゲがいた。
私はリーノの荷物を、そっと地面に置く。
「リーノ、いつでも逃げる準備をしろ」
「カノ……」
「心配いらないさ。私は強いから」
「ああ、そうだ。だから、オレが来た」
ヤミカゲが、会話に割って入る。
どうやら、前にマッシャーと戦ったところはナイトメアに知られているらしい。
私は鉄パイプを抜いた。
ヤミカゲと対峙する。
この時、ここでだ。
――リーノと一緒に逃げれば良かったのに。
過信していたんだ。一人でも戦えると。
「いくぞ」
風が鳴いた。
なんとか見えたクナイを叩き落とす。
ヤミカゲは?
「ここだ」
リーノの後ろにいた。
ヤミカゲはリーノに向かって注射器を――。
トス。
刺した。
「――あ」
私は一歩踏み出し飛んで、ヤミカゲに鉄パイプを振り下ろす。――相手の事なんて、何も考えていない一撃だった。
バキリと嫌な音がして、ヤミカゲが吹っ飛んだ。彼はドン!と大木に当たり動かなくなった。
そんなものよりも、リーノだ。
私は注射器を引っこ抜いて、傷口を抑えた。
リーノは力が抜けていて、私に抱きしめられる。
「リーノ?リーノ?」
「カノ……わたくし……」
「喋るな……きっと、何か方法が……」
「そんな、もの、ないぜ」
息も絶え絶えに、ヤミカゲが自慢気語る。
「そいつは、新開発した、魔獣薬だ……急げよ……あと、数分…………」
何を急ぐんだろう。
体が、思考が遠のいていくようだった。
「カノ……」
リーノの言葉だけが近い。
「わたくしが魔獣になったら……倒してね」
「いやだ」
「ふふ……今度は、逆になっちゃったね……」
彼女の息が荒くなる。
そして、リーノの頭部から獣の耳が生えてきた。犬のようなとんがった耳だ。
コールドック。
その名前を思い出す。
耳が生え、爪が鋭くなり、尻尾が生えてくる。
――私にできる事。
ふと、思い出した。
とある物語の話。願いの対価に髪の毛を差し出す話。
私はリーノをそっと地面におろし、兜を荒々しく脱いで投げた。
そして鉄パイプを握り、魔法で包む。先端がナイフのように鋭くなった。
この世界に来てから、なぜか伸ばし続けていた髪の毛に手を伸ばす。
「――リーノを助けてくれ」
ザンッと、髪をうなじ辺りから切った。
髪は、地面に落ちなかった。
緑の髪は発光すると、空へ消えていく。
そして、淡い緑の光がリーノを包み込んだ。
リーノは目を閉じている。生えた耳と尻尾、爪はそのままだ。
「……リーノ?」
すうすうと、寝息が聞こえてきて、私は脱力した。
とにかく、ここを離れなければならないだろう。そう考えてリーノを抱え、荷物を持って、城の方向へ歩き出す。寝ているリーノを起こさない為だ。
――今回ばかりは、異質だ。
私は、何なのだろう?
答えは出ない。