リーノの力の制御訓練が始まった。
メタナイト卿と私が交互に見守る。
操作に問題はないので、あとは出力を制御できるようになるだけ。
それすらも、時間の問題だろう。
ある日。快晴な日の朝。
ワドルドゥ隊長に呼ばれて、城の地下にある巨大な庭園へと向かった。
庭園の中にある噴水広場で、ワドルドゥ隊長と合流する。話を聞くと、どうやら地下に兵士たち専用のプール施設を、造りたいらしい。
「そのプールは、わたくしたちも利用してよいのでしょうか?」
「うむむ……。プール造りを手伝ってくれたリーノとカノープスならば、利用してもよいだろう。しかし、他の者は遠慮してほしい」
「――陛下と閣下の耳に入らないようにする為……ですね」
「その通りだ」
陛下とエスカルゴン殿の耳に入れば、この楽園は取り上げられるだろう。
そうなれば、ワドルディたちの反乱が起こるな……。
「無用な争いを起こさないためにも、地下のプールについては誰にも言わない」
「感謝する。カノープス」
「わたくしも、誰にも言いませんわ」
「ありがとう。リーノ」
私たちは、さっそく作業にとりかかった。
流れるプールと、波打つプールはワドルディたちが造る。最後の氷山のプールは私たちが担当した。
装飾にもこだわったプールは、夕方に完成した。
遠くでワドルディたちが楽しそうに、泳いでいる。
「無事に、今日中に完成したな」
「そうですわね。あんなに楽しそうに遊んでもらえて、わたくしも嬉しいです」
「では、そろそろ帰るか……ところでワドルドゥ隊長はどこだ?」
「そういえば、姿が見えませんね」
ワドルドゥ隊長に呼ばれて来た。だから一声かけて帰ろうと思ったのだが……いない。
「きっと陛下に呼ばれたのでしょう。身支度を整えて、わたくしたちも上の階へ上がりましょう」
「そうするか」
ワドルドゥ隊長を探して、地下を出た。中庭へ行く。
すると、どうしたことか。
中庭は魔獣が暴れた後のように、あちこち壁が崩れている。
「魔獣か?」
「陛下、閣下!」
「待て、リーノ」
「ですが!」
「誰かがこちらにやって来るぞ」
指をさして、その曲がり角を注意深くじっと見る。
曲がり角から姿を現したのは、アーニャとランタンだ。
リーノは、ヨレヨレな二人の元へ駆けつけた。
「二人とも、大丈夫ですか?一体どうしたの?」
「リーノ、無事だったのね。私たちは大丈夫。さっきまで、羊が暴れて大変だったのよ」
ランタンの言葉に、私は反応する。
「羊か……」
確か従順な羊が暴れる回があったな。それが今日だったのか。
アーニャが私の方を見て言った。
「カノープスも無事だったんですね。良かったです」
「ああ。リーノと一緒にいた」
「どちらにいたんですか?」
「地下だ。ワドルドゥ隊長に雑用を頼まれていたんだ」
さらに質問をされる前に、リーノが親友たちに質問をした。
「二人は陛下たちの傍にいたんですよね?陛下と閣下はご無事ですか?」
「無事よ。羊に追いかけ回されていたけれどね」
「でしたら、汗をかいていますよね。お風呂の用意をしなくちゃ……カノ、手伝ってください。二人は休んでくださいね」
「わかった」
「そうさせてもらいます」
「あとを頼むわ……」
ふらりふらりと、おそらく一階の厨房へ向かう二人を見送る。
そして私は陛下とエスカルゴン殿を探しに回り、リーノは陛下の部屋へ向かった。
へとへとになりながらも、廊下を歩く二人を見つける。私は「リーノがお風呂を用意している」と伝えた。
陛下は喜んで、足取り軽く自室へと向かう。
エスカルゴン殿が言う。
「カノープス、私は自分の部屋でひとっ風呂浴びて来るでゲスよ」
「わかりました」
「そんじゃ」
閣下はふらりと重たい足取りで、廊下の奥へと消えていく。
さてと、私は陛下の方へ行こうか。
――――――
数日後。カントリークラブ再び。
諦めない根性は美徳だと思うけれど、場所が悪い。
「なぜ、手を出すべきではないウィスピーウッズの森に造りたがるのか……」
「なぜなのでしょうね……」
リーノと二人、頭を抱える。私たちは、私の自室に集まっていた。
夜の外は嵐だ。こんな日は、誰かと一緒にいた方がいい。
「朝になったら、嵐はおさまっているだろう。陛下とエスカルゴン殿を探しに行ってくる」
「いつも、ありがとう。カノ……」
「いいんだ。私も心配だからな」
朝には、すっかり晴れていた。
私は早朝に、陛下たちが出かけたらしい東の森へ向かう。
川は濁流となり危なかったので、できるだけ離れて歩いた。
東の森の方角へどんどん進むと、運良く陛下たちと合流できた。
二人ともびしょ濡れで、疲れていた。服の裾はどろんこだ。
だから私は言ったんだ。
「運びましょうか?」
「頼むゾイ」
「陛下、プライドがないんでゲスか……?」
「それだけお疲れなのでしょう。それで、エスカルゴン殿はどうされますか?」
「お願いするでゲス」
「かしこまりました」
陛下を右側に、エスカルゴン殿を左側に抱える。
そしてエッサホイサと、軽快に走った。
もちろん。乗り心地優先だ。
道中、村人たちに会った。
東の森の様子を見に行くそうだ。「気をつけて」と声をかける。彼らからは「そちらも気をつけて。陛下、エスカルゴン殿、ごきげんよう」と言った。
笑みを浮かべていた。多分、私が二人を抱えている様が面白かったのだろう。
陛下がプンスカと怒り、エスカルゴンが恥ずかしそうにしていた。
城に到着すれば、リーノが一目散に走って来た。
どうやら城壁で待っていてくれたようだ。
私は、抱えていた陛下とエスカルゴン殿を下ろした。
体を見れば、陛下たちを抱えた箇所が、泥で少し汚れている。
こりゃ洗濯行きだな。
「陛下、閣下、よくぞご無事で……。大浴場をすぐに使えるようにしております。お着替えもそちらに、ございます」
「うむ。風呂の後は飯にするゾイ」
「かしこまりました。簡単なものをご用意します。その後はゆっくりとお昼寝できるよう、お部屋を整えておきますね」
「リーノ、私の部屋もお願いするでゲス」
「かしこまりました。カノは……とりあえず着替えてね。それから上の厨房に来てちょうだい」
上の厨房とは、陛下と閣下が使われる食堂がある階に設置されている厨房の事だ。
私は頷いた。
「わかった」
おそらく食事を運ぶのを手伝ってほしいのだろう。
着替えをさっさと済ませるべく、早足で自室に向かった。
何はともあれ、陛下たちを無事に見つけられてよかった。おそらく、今回もフームたちが対処してくれたハズだから、後で話を聞きに行こう。
お詫びのお菓子でも、持っていこうかな。
――――――
カントリークラブの騒ぎがおさまった頃。
城の食料品を買い出しに、私とリーノ、アーニャにランタンは早朝から村へおりた。
私とリーノは、買い出しに慣れている。けれど、アーニャとランタンは、まだ慣れていなかった。
なので、今日は二人の買い出しの練習を兼ねて、四人でやって来たのだ。
注文は昼前に終わる。
あとは自由行動だ。四人で回るか、各々自由に回るか。さてどうしようと悩んでいたら、ボルンさんとレン村長が話しかけてきた。
「何か?」
「いいから、いいから」
「こちらへ来なさい」
まるで、イタズラする前の子供のように、くすくすと笑っている。
私たちは誘われるまま、警察署の中へ入った。
警察署の中央で、輪になる。みんなは立っているが、私はしゃがんだ。この方が顔が見えるのだ。
「それで、話とは何なのでしょうか?」
アーニャの言葉に、レン村長は言った。
「君ら四人に、あるイベントへ参加してほしいんじゃ」
「あるイベント、ですか?」
「きもだめし、じゃよ」
ボルンさんがポケットからチラシを取り出す。リーノが受け取り、丁寧に開いた。
中には“きもだめしに挑戦してみないか?”など、つらつらと挑発的な言葉が書かれていた。
デフォルメされた、怖いお化けの絵も一緒だ。
「最後までたどり着いた子には、賞品を用意しているんだが……」
「他にも何かほしくてな……協力してもらえんかの?」
その言葉を聞いて、私は疑問を口にする。
「お化け役を募集しているわけではないのだな」
「そうじゃ」
「リーノたちに期待しておるのは!参加賞となる物だの。できれば、お菓子がいいな」
ランタンがちょっと呆れた声を出した。
「つまり、リーノが作るお菓子が食べたいのね」
「そうとも言う」
「ふふ。そう仰っていただけて、嬉しいですわ。……きもだめしの開催予定日を考えると、今日から参加賞について考えなくてはいけませんね」
「どうする?」
「わたくしはやりたいです。せっかく頼られたんですもの。ですが一人では難しいので、三人にも手伝ってもらいたいのですが……」
リーノは、私たちの様子を窺った。
「私はやるわ!楽しそうだし」
「私もお手伝いします。久しぶりのイベント、楽しみです」
「私もやるよ。できることがあれば手伝う。……陛下のお許しがあればだけど」
「――陛下、許してくださるかしら」
「自分も参加しそうよね」
「それはそれでいいんじゃないか?」
「そうなればきっと、お化け役で参加すると思います。本気で脅かしては、参加する子供たちが最後まで歩けないかと」
アーニャの言う通りだな。
せっかく最後まで歩いた証を用意しているのに、それを手に入れられなかったら、つまらない。
ふむ……。
「陛下には内緒にしておくか……」
「そうですね……」
「だが、全てを隠すことは難しい。――お菓子の試作をしていると言っておこう。嘘ではないし、完成品を届ければ陛下のご機嫌もいいハズだ」
その言葉に、全員が賛同してくれた。
きもだめしには、参加で決定だ。レン村長とボルンさんは、機嫌良く「ありがとう」とお礼を言っていた。
私たちは、再び村を回る。
雑貨屋でラッピング商品を、コンビニでお菓子の材料を買い込んだ。
これで試作できるだろう。
そういえばきもだめし回で、陛下たちはお化け屋敷に閉じ込められるハズだ。
お化け屋敷は火事を起こす。陛下たちが危険だ。
「壊してもいいかな……」
「何か言った?カノープス」
「いや、何でもないよ。ランタン」
どうするかは、もう少し考えよう。