カノープスの終生   作:紅絹の木

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羊、カントリークラブ再び、そして肝試し(前半)

 

 

 

 リーノの力の制御訓練が始まった。

 メタナイト卿と私が交互に見守る。

 操作に問題はないので、あとは出力を制御できるようになるだけ。

 それすらも、時間の問題だろう。

 

 

 

 

 ある日。快晴な日の朝。

 ワドルドゥ隊長に呼ばれて、城の地下にある巨大な庭園へと向かった。

 庭園の中にある噴水広場で、ワドルドゥ隊長と合流する。話を聞くと、どうやら地下に兵士たち専用のプール施設を、造りたいらしい。

 

「そのプールは、わたくしたちも利用してよいのでしょうか?」

「うむむ……。プール造りを手伝ってくれたリーノとカノープスならば、利用してもよいだろう。しかし、他の者は遠慮してほしい」

「――陛下と閣下の耳に入らないようにする為……ですね」

「その通りだ」

 

 陛下とエスカルゴン殿の耳に入れば、この楽園は取り上げられるだろう。

 そうなれば、ワドルディたちの反乱が起こるな……。

 

「無用な争いを起こさないためにも、地下のプールについては誰にも言わない」

「感謝する。カノープス」

「わたくしも、誰にも言いませんわ」

「ありがとう。リーノ」

 

 私たちは、さっそく作業にとりかかった。

 流れるプールと、波打つプールはワドルディたちが造る。最後の氷山のプールは私たちが担当した。

 

 

 

 

 装飾にもこだわったプールは、夕方に完成した。

 遠くでワドルディたちが楽しそうに、泳いでいる。

 

「無事に、今日中に完成したな」

「そうですわね。あんなに楽しそうに遊んでもらえて、わたくしも嬉しいです」

「では、そろそろ帰るか……ところでワドルドゥ隊長はどこだ?」

「そういえば、姿が見えませんね」

 

 ワドルドゥ隊長に呼ばれて来た。だから一声かけて帰ろうと思ったのだが……いない。

 

「きっと陛下に呼ばれたのでしょう。身支度を整えて、わたくしたちも上の階へ上がりましょう」

「そうするか」

 

 

 

 ワドルドゥ隊長を探して、地下を出た。中庭へ行く。

 すると、どうしたことか。

 中庭は魔獣が暴れた後のように、あちこち壁が崩れている。

 

「魔獣か?」

「陛下、閣下!」

「待て、リーノ」

「ですが!」

「誰かがこちらにやって来るぞ」

 

 指をさして、その曲がり角を注意深くじっと見る。

 曲がり角から姿を現したのは、アーニャとランタンだ。

 リーノは、ヨレヨレな二人の元へ駆けつけた。

 

「二人とも、大丈夫ですか?一体どうしたの?」

「リーノ、無事だったのね。私たちは大丈夫。さっきまで、羊が暴れて大変だったのよ」

 

 ランタンの言葉に、私は反応する。

 

「羊か……」

 

 確か従順な羊が暴れる回があったな。それが今日だったのか。

 アーニャが私の方を見て言った。

 

「カノープスも無事だったんですね。良かったです」

「ああ。リーノと一緒にいた」

「どちらにいたんですか?」

「地下だ。ワドルドゥ隊長に雑用を頼まれていたんだ」

 

 さらに質問をされる前に、リーノが親友たちに質問をした。

 

「二人は陛下たちの傍にいたんですよね?陛下と閣下はご無事ですか?」

「無事よ。羊に追いかけ回されていたけれどね」

「でしたら、汗をかいていますよね。お風呂の用意をしなくちゃ……カノ、手伝ってください。二人は休んでくださいね」

「わかった」

「そうさせてもらいます」

「あとを頼むわ……」

 

 

 

 ふらりふらりと、おそらく一階の厨房へ向かう二人を見送る。

 そして私は陛下とエスカルゴン殿を探しに回り、リーノは陛下の部屋へ向かった。

 

 

 

 へとへとになりながらも、廊下を歩く二人を見つける。私は「リーノがお風呂を用意している」と伝えた。

 陛下は喜んで、足取り軽く自室へと向かう。

 エスカルゴン殿が言う。

 

「カノープス、私は自分の部屋でひとっ風呂浴びて来るでゲスよ」

「わかりました」

「そんじゃ」

 

 閣下はふらりと重たい足取りで、廊下の奥へと消えていく。

 さてと、私は陛下の方へ行こうか。

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 数日後。カントリークラブ再び。

 諦めない根性は美徳だと思うけれど、場所が悪い。

 

「なぜ、手を出すべきではないウィスピーウッズの森に造りたがるのか……」

「なぜなのでしょうね……」

 

 リーノと二人、頭を抱える。私たちは、私の自室に集まっていた。

 夜の外は嵐だ。こんな日は、誰かと一緒にいた方がいい。

 

「朝になったら、嵐はおさまっているだろう。陛下とエスカルゴン殿を探しに行ってくる」

「いつも、ありがとう。カノ……」

「いいんだ。私も心配だからな」

 

 

 

 朝には、すっかり晴れていた。

 私は早朝に、陛下たちが出かけたらしい東の森へ向かう。

 川は濁流となり危なかったので、できるだけ離れて歩いた。

 

 東の森の方角へどんどん進むと、運良く陛下たちと合流できた。

 二人ともびしょ濡れで、疲れていた。服の裾はどろんこだ。

 だから私は言ったんだ。

 

「運びましょうか?」

「頼むゾイ」

「陛下、プライドがないんでゲスか……?」

「それだけお疲れなのでしょう。それで、エスカルゴン殿はどうされますか?」

「お願いするでゲス」

「かしこまりました」

 

 陛下を右側に、エスカルゴン殿を左側に抱える。

 そしてエッサホイサと、軽快に走った。

 もちろん。乗り心地優先だ。

 

 

 

 道中、村人たちに会った。

 東の森の様子を見に行くそうだ。「気をつけて」と声をかける。彼らからは「そちらも気をつけて。陛下、エスカルゴン殿、ごきげんよう」と言った。

 

 笑みを浮かべていた。多分、私が二人を抱えている様が面白かったのだろう。

 陛下がプンスカと怒り、エスカルゴンが恥ずかしそうにしていた。

 

 

 

 城に到着すれば、リーノが一目散に走って来た。

 どうやら城壁で待っていてくれたようだ。

 

 私は、抱えていた陛下とエスカルゴン殿を下ろした。

 体を見れば、陛下たちを抱えた箇所が、泥で少し汚れている。

 こりゃ洗濯行きだな。

 

「陛下、閣下、よくぞご無事で……。大浴場をすぐに使えるようにしております。お着替えもそちらに、ございます」

「うむ。風呂の後は飯にするゾイ」

「かしこまりました。簡単なものをご用意します。その後はゆっくりとお昼寝できるよう、お部屋を整えておきますね」

「リーノ、私の部屋もお願いするでゲス」

「かしこまりました。カノは……とりあえず着替えてね。それから上の厨房に来てちょうだい」

 

 上の厨房とは、陛下と閣下が使われる食堂がある階に設置されている厨房の事だ。

 私は頷いた。

 

「わかった」

 

 おそらく食事を運ぶのを手伝ってほしいのだろう。

 着替えをさっさと済ませるべく、早足で自室に向かった。

 何はともあれ、陛下たちを無事に見つけられてよかった。おそらく、今回もフームたちが対処してくれたハズだから、後で話を聞きに行こう。

 

 お詫びのお菓子でも、持っていこうかな。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 カントリークラブの騒ぎがおさまった頃。

 城の食料品を買い出しに、私とリーノ、アーニャにランタンは早朝から村へおりた。

 

 私とリーノは、買い出しに慣れている。けれど、アーニャとランタンは、まだ慣れていなかった。

 なので、今日は二人の買い出しの練習を兼ねて、四人でやって来たのだ。

 

 注文は昼前に終わる。

 あとは自由行動だ。四人で回るか、各々自由に回るか。さてどうしようと悩んでいたら、ボルンさんとレン村長が話しかけてきた。

 

「何か?」

「いいから、いいから」

「こちらへ来なさい」

 

 まるで、イタズラする前の子供のように、くすくすと笑っている。

 私たちは誘われるまま、警察署の中へ入った。

 

 警察署の中央で、輪になる。みんなは立っているが、私はしゃがんだ。この方が顔が見えるのだ。

 

「それで、話とは何なのでしょうか?」

 

 アーニャの言葉に、レン村長は言った。

 

「君ら四人に、あるイベントへ参加してほしいんじゃ」

「あるイベント、ですか?」

「きもだめし、じゃよ」

 

 ボルンさんがポケットからチラシを取り出す。リーノが受け取り、丁寧に開いた。

 中には“きもだめしに挑戦してみないか?”など、つらつらと挑発的な言葉が書かれていた。

 デフォルメされた、怖いお化けの絵も一緒だ。

 

「最後までたどり着いた子には、賞品を用意しているんだが……」

「他にも何かほしくてな……協力してもらえんかの?」

 

 その言葉を聞いて、私は疑問を口にする。

 

「お化け役を募集しているわけではないのだな」

「そうじゃ」

「リーノたちに期待しておるのは!参加賞となる物だの。できれば、お菓子がいいな」

 

 ランタンがちょっと呆れた声を出した。

 

「つまり、リーノが作るお菓子が食べたいのね」

「そうとも言う」

「ふふ。そう仰っていただけて、嬉しいですわ。……きもだめしの開催予定日を考えると、今日から参加賞について考えなくてはいけませんね」

「どうする?」

「わたくしはやりたいです。せっかく頼られたんですもの。ですが一人では難しいので、三人にも手伝ってもらいたいのですが……」

 

 リーノは、私たちの様子を窺った。

 

「私はやるわ!楽しそうだし」

「私もお手伝いします。久しぶりのイベント、楽しみです」

「私もやるよ。できることがあれば手伝う。……陛下のお許しがあればだけど」

「――陛下、許してくださるかしら」

「自分も参加しそうよね」

「それはそれでいいんじゃないか?」

「そうなればきっと、お化け役で参加すると思います。本気で脅かしては、参加する子供たちが最後まで歩けないかと」

 

 アーニャの言う通りだな。

 せっかく最後まで歩いた証を用意しているのに、それを手に入れられなかったら、つまらない。

 ふむ……。

 

「陛下には内緒にしておくか……」

「そうですね……」

「だが、全てを隠すことは難しい。――お菓子の試作をしていると言っておこう。嘘ではないし、完成品を届ければ陛下のご機嫌もいいハズだ」

 

 その言葉に、全員が賛同してくれた。

 きもだめしには、参加で決定だ。レン村長とボルンさんは、機嫌良く「ありがとう」とお礼を言っていた。

 

 私たちは、再び村を回る。

 雑貨屋でラッピング商品を、コンビニでお菓子の材料を買い込んだ。

 これで試作できるだろう。

 

 そういえばきもだめし回で、陛下たちはお化け屋敷に閉じ込められるハズだ。

 お化け屋敷は火事を起こす。陛下たちが危険だ。

 

「壊してもいいかな……」

「何か言った?カノープス」

「いや、何でもないよ。ランタン」

 

 どうするかは、もう少し考えよう。

 

 

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