カノープスの終生   作:紅絹の木

17 / 63
観光、星のデデデ

 

 

 午前中の会議は、食堂にて行われた。

 部屋の中には、陛下、エスカルゴン殿、ワドルドゥ隊長、リーノ、私。それだけだ。こっそり話すように、みんなが陛下の周りに集まっている。

 リーノが用意した紅茶を楽しみつつ、エスカルゴン殿から各自に書類が手渡される。

 書類の一枚目には、こう書かれていた。

 

 ――ププビレッジを観光地にしよう!

 

 ……あー、この回か。

 リーノは反対するが、ツアー客が来ることはもう決定事項なので変更できないやつだ。

 話は私の予想通りに進み、リーノが私に助けを求めて視線を送る。陛下も睨むようにこちらを見た。

 

「お前はどう思っているゾイ」

「反対です。ですが……すでに決定しているならば、従います」

「うむ」

 

 陛下は一変して満足そうに頷かれた。

 リーノもその通りだと言うように、渋々頷いていた。

 

 

 

 ツアーの日程について言い渡されただけの会議だった。

 

「あとはお前たちの方で調整しておくゾイ」

「もう、人任せゲスな……」

「うるさいゾイ!カノープス、ついてくるゾイ」

 

 私は迷った。

 何かしら、私にできる仕事があるだろう。そのためにも、ここに残った方が良いと思ったのだ。

 

「しかし……」

「カノ、いってきて」

「いいのか?リーノ」

「うん、陛下のご命令の方が優先だから。あなたナシで勝手に決めちゃうけれど、許してね」

「それは構わない。みんなを信じているから。……それでは、お先に失礼します」

 

 部屋に残る組がそれぞれ返事をしてくれる。

 私は陛下に従い、食堂から出ていった。

 

 

 

 

 どこかご機嫌な陛下は、鼻歌を歌う。

 

「カノープス、ワシを楽しい所へ案内せよ」

 

 そう言われても。

 急には良い案が思い浮かばなかったので、いつもの楽しみを提案してみた。

 

「本屋に行って、新しい本でも購入しますか?」

「……村に行くなら車がいるゾイ」

 

 エスカルゴン殿を呼ばないといけない、そう思っていらっしゃるようだ。

 私は手を差し出した。

 

「二人で行きましょう。……行きは手を繋いで、帰りは抱えてあげます。どうしますか?」

 

 陛下はちらちらと私の手を見て、それから握った。

 了承と受け取った私は「では、水筒とかサイフとか、用意しましょう」と、言った。

 

 

 

 その日の夜。

 私に告げられたツアー時の仕事は、普段と変わらない。リーノが作る料理の味見をして、完成させる手伝いをするのだ。

 

「当日、何が起こるかわかりませんから、カノープスには自由に行動してもらおうと思いましたの。その方が融通が利きますから」

「わかったよ。リーノ」

 

 当日はリーノの傍にいようかな。夜は確か三戦士たちが、メイド三人を守ってくれたはず。

 ならば、夜は陛下たちといよう。ツアー客の子供たちに陛下たちの部屋を取られるから、一緒にテントで寝るか。

 ちょっと楽しみ。

 

 

 

 ツアー客が来る。その日は朝から大忙しだった。

 掃除と洗濯を並行しつつ行い、昼から夕食の仕込む。

 万全の状態でお客さんたちを城に迎え入れた。

 

 ――私はカメラに囲まれた。

 

 ツアー客が私と一緒に写真を撮ろうとするので、すぐに大ジャンプをして、天井に張り付く。そのまま天井をつたって逃げた。

 遠慮なく触られそうだった。それはやめてほしい。

 夜は陛下たちとキャンプの予定が潰れてしまったなあ。

 

 ツアー客が嫌で、城の地下に逃げ込んだ。

 三日ほどでツアー客も帰るかな?と、思っていた。

 翌日にはリーノが迎えに来てくれた。

 

「もうツアー客の方々は帰られましたから、わたくしたちも地上に帰りましょう」

「わかった。ごめん。急に逃げて」

「いいの。……カノはここぞというとき、立ち向かってくれるでしょ?だから、今回ぐらいは逃げていいの」

「――ありがとう。リーノ」

 

 リーノが優しく微笑む。私も、緩く微笑んだ。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 星のデデデ……伝説のアニメ回が始まった。

 村人たちをアニメーターとして起用し、フームが現場を動かしていく。

 確か、彼女がアニメのストーリーを考えてくれたはずだ。それをエスカルゴン殿が変えたんだよね……。

 フームが考えたストーリーはどんなものだったんだろう?

 

 城の外、近くの草原に造られた建物。そこでアニメは着実にでき上がる。

 私は基本、陛下の身の回りにいるよう命令された。秘書……と言われたが、それらしいことは一切させてもらえていない。お飾りだ。

 

 なので朝昼晩はリーノについていき、調理を手伝った。私がいれたお茶は、結構好評だ。

 

 アニメ作りが忙しくなると、私は陛下のお茶くみではなく、休みなく仕事を頑張る村人たちのためにお茶をいれた。

 

 みんな、トイレも行く暇もなさそうだ。

 徹夜で作品を描いて、ようやく完成する。

 そして、アニメ放送と同時に声もいれるようだ。

 

 

 

 私たちはマイクの前に並んだ。

 ――なぜ私も呼ばれたんだ?

 ヒソヒソと隣にいるリーノに話しかける。

 

「なあ、リーノ。なぜ私はここにいるんだ?」

「あら、知らなかったの?あなたもアニメに出るのよ」

 

 なん……だと……!?

 

 渡された台本に目を通す暇もなく、アニメのオープニングが始まる。

 陛下、いつの間に歌を収録したの?

 じゃなくて、何も!聞いていないんだが!

 途端に緊張してきた。手汗がじっとりと滲む気がする。

 

 覚悟は決まらず、アニメは始まった。

 台本をめくる。とにかく自分が声を吹き込むシーンに集中しよう。

 

 陛下もエスカルゴン殿も、大臣一家だってなめらかに声を出す。

 私といえば、体はガチガチで声が出そうにない。

 ――なのに、私の番がやってきた。

 アニメをうつす巨大なスクリーンには、陛下と鎧を着ていない私の姿が映し出される。

 なぜ鎧を着ていない普段着の私なんだ?

 

「――お前は美しいゾイ」

「へ、陛下もうつくしいです!」

 

 声が裏返った!やってしまった!そう思ったが、隣でリーノが「上手ですわ」と小声で伝えてくれる。

 ええい、ままよ!

 私はとにかく、セリフを言った。演技なんか二の次だ。

 

 戦闘中の会話は長尺で、出番がそこしかないのに、私は大変疲れてしまった。

 他のみんなはまだ出番があるので、私は後ろに下がって見守る。

 

 やっぱり最後は、カービィの絵で終わった。

 もうめちゃくちゃだった。アニメのフィルムも最後は焼き切れてしまったし。

 失敗で終わったはずなのに、陛下はどこか機嫌が良い。

 

 

 

 

 その日の夜。

 自室にて、改めて台本を読んだ。

 私と陛下のシーンだ。

 

 そこには、お互いを褒め合う言葉が並んでいる。

 まるで愛する人を称えるような……そんな文章だ。

 

「これは……エスカルゴン殿と言い合うには、難しいな」

 

 私がいない世界では、ここの部分は陛下とエスカルゴン殿がお互いを褒め合うシーンだ。

 何がどうして、こんな変更になったのかはわからないが、ちょうど良い相手が私しかいなかったのだろう。

 

 陛下がご機嫌たったのは、私がうまく声を吹き込めたから……だったりして。

 まさかね。

 

 さあ、もう寝よう。

 台本は本棚へ、いつでも見える高さの段に、そっとしまった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。