午前中の会議は、食堂にて行われた。
部屋の中には、陛下、エスカルゴン殿、ワドルドゥ隊長、リーノ、私。それだけだ。こっそり話すように、みんなが陛下の周りに集まっている。
リーノが用意した紅茶を楽しみつつ、エスカルゴン殿から各自に書類が手渡される。
書類の一枚目には、こう書かれていた。
――ププビレッジを観光地にしよう!
……あー、この回か。
リーノは反対するが、ツアー客が来ることはもう決定事項なので変更できないやつだ。
話は私の予想通りに進み、リーノが私に助けを求めて視線を送る。陛下も睨むようにこちらを見た。
「お前はどう思っているゾイ」
「反対です。ですが……すでに決定しているならば、従います」
「うむ」
陛下は一変して満足そうに頷かれた。
リーノもその通りだと言うように、渋々頷いていた。
ツアーの日程について言い渡されただけの会議だった。
「あとはお前たちの方で調整しておくゾイ」
「もう、人任せゲスな……」
「うるさいゾイ!カノープス、ついてくるゾイ」
私は迷った。
何かしら、私にできる仕事があるだろう。そのためにも、ここに残った方が良いと思ったのだ。
「しかし……」
「カノ、いってきて」
「いいのか?リーノ」
「うん、陛下のご命令の方が優先だから。あなたナシで勝手に決めちゃうけれど、許してね」
「それは構わない。みんなを信じているから。……それでは、お先に失礼します」
部屋に残る組がそれぞれ返事をしてくれる。
私は陛下に従い、食堂から出ていった。
どこかご機嫌な陛下は、鼻歌を歌う。
「カノープス、ワシを楽しい所へ案内せよ」
そう言われても。
急には良い案が思い浮かばなかったので、いつもの楽しみを提案してみた。
「本屋に行って、新しい本でも購入しますか?」
「……村に行くなら車がいるゾイ」
エスカルゴン殿を呼ばないといけない、そう思っていらっしゃるようだ。
私は手を差し出した。
「二人で行きましょう。……行きは手を繋いで、帰りは抱えてあげます。どうしますか?」
陛下はちらちらと私の手を見て、それから握った。
了承と受け取った私は「では、水筒とかサイフとか、用意しましょう」と、言った。
その日の夜。
私に告げられたツアー時の仕事は、普段と変わらない。リーノが作る料理の味見をして、完成させる手伝いをするのだ。
「当日、何が起こるかわかりませんから、カノープスには自由に行動してもらおうと思いましたの。その方が融通が利きますから」
「わかったよ。リーノ」
当日はリーノの傍にいようかな。夜は確か三戦士たちが、メイド三人を守ってくれたはず。
ならば、夜は陛下たちといよう。ツアー客の子供たちに陛下たちの部屋を取られるから、一緒にテントで寝るか。
ちょっと楽しみ。
ツアー客が来る。その日は朝から大忙しだった。
掃除と洗濯を並行しつつ行い、昼から夕食の仕込む。
万全の状態でお客さんたちを城に迎え入れた。
――私はカメラに囲まれた。
ツアー客が私と一緒に写真を撮ろうとするので、すぐに大ジャンプをして、天井に張り付く。そのまま天井をつたって逃げた。
遠慮なく触られそうだった。それはやめてほしい。
夜は陛下たちとキャンプの予定が潰れてしまったなあ。
ツアー客が嫌で、城の地下に逃げ込んだ。
三日ほどでツアー客も帰るかな?と、思っていた。
翌日にはリーノが迎えに来てくれた。
「もうツアー客の方々は帰られましたから、わたくしたちも地上に帰りましょう」
「わかった。ごめん。急に逃げて」
「いいの。……カノはここぞというとき、立ち向かってくれるでしょ?だから、今回ぐらいは逃げていいの」
「――ありがとう。リーノ」
リーノが優しく微笑む。私も、緩く微笑んだ。
――――――
星のデデデ……伝説のアニメ回が始まった。
村人たちをアニメーターとして起用し、フームが現場を動かしていく。
確か、彼女がアニメのストーリーを考えてくれたはずだ。それをエスカルゴン殿が変えたんだよね……。
フームが考えたストーリーはどんなものだったんだろう?
城の外、近くの草原に造られた建物。そこでアニメは着実にでき上がる。
私は基本、陛下の身の回りにいるよう命令された。秘書……と言われたが、それらしいことは一切させてもらえていない。お飾りだ。
なので朝昼晩はリーノについていき、調理を手伝った。私がいれたお茶は、結構好評だ。
アニメ作りが忙しくなると、私は陛下のお茶くみではなく、休みなく仕事を頑張る村人たちのためにお茶をいれた。
みんな、トイレも行く暇もなさそうだ。
徹夜で作品を描いて、ようやく完成する。
そして、アニメ放送と同時に声もいれるようだ。
私たちはマイクの前に並んだ。
――なぜ私も呼ばれたんだ?
ヒソヒソと隣にいるリーノに話しかける。
「なあ、リーノ。なぜ私はここにいるんだ?」
「あら、知らなかったの?あなたもアニメに出るのよ」
なん……だと……!?
渡された台本に目を通す暇もなく、アニメのオープニングが始まる。
陛下、いつの間に歌を収録したの?
じゃなくて、何も!聞いていないんだが!
途端に緊張してきた。手汗がじっとりと滲む気がする。
覚悟は決まらず、アニメは始まった。
台本をめくる。とにかく自分が声を吹き込むシーンに集中しよう。
陛下もエスカルゴン殿も、大臣一家だってなめらかに声を出す。
私といえば、体はガチガチで声が出そうにない。
――なのに、私の番がやってきた。
アニメをうつす巨大なスクリーンには、陛下と鎧を着ていない私の姿が映し出される。
なぜ鎧を着ていない普段着の私なんだ?
「――お前は美しいゾイ」
「へ、陛下もうつくしいです!」
声が裏返った!やってしまった!そう思ったが、隣でリーノが「上手ですわ」と小声で伝えてくれる。
ええい、ままよ!
私はとにかく、セリフを言った。演技なんか二の次だ。
戦闘中の会話は長尺で、出番がそこしかないのに、私は大変疲れてしまった。
他のみんなはまだ出番があるので、私は後ろに下がって見守る。
やっぱり最後は、カービィの絵で終わった。
もうめちゃくちゃだった。アニメのフィルムも最後は焼き切れてしまったし。
失敗で終わったはずなのに、陛下はどこか機嫌が良い。
その日の夜。
自室にて、改めて台本を読んだ。
私と陛下のシーンだ。
そこには、お互いを褒め合う言葉が並んでいる。
まるで愛する人を称えるような……そんな文章だ。
「これは……エスカルゴン殿と言い合うには、難しいな」
私がいない世界では、ここの部分は陛下とエスカルゴン殿がお互いを褒め合うシーンだ。
何がどうして、こんな変更になったのかはわからないが、ちょうど良い相手が私しかいなかったのだろう。
陛下がご機嫌たったのは、私がうまく声を吹き込めたから……だったりして。
まさかね。
さあ、もう寝よう。
台本は本棚へ、いつでも見える高さの段に、そっとしまった。