とある日。
朝食時、陛下を模した大きな人形が配られた。
リーノたちの種族から見れば、身長の半分もあるサイズだ。コロコロして可愛らしいとはいえ、十分大きいだろう。
人間である私から見れば、ちょうど良い抱き心地だろうな。
アーニャとランタンには渡されて、リーノと私にはないようだ。
ううん。欲しかった。
「その人形を夜枕元に置くと、良いことが起きるゾイ!必ず置くように!」
「はあ……」
「かしこまりました」
「うむ。カノープス、今から村に行って人形を配る。ついてくるゾイ」
「わかりました。ついていきます」
……人形が一つでも余ったら、リーノ用にいただこう。あの子も欲しがっていたし。
そうお願いしてみよう、と考えた。
村の大きな木がある広場に到着する。
陛下とエスカルゴン殿が乗った高級車。その後ろにはワドルドゥ隊長が率いる兵士たちが、大量の人形を積んだ大きな荷台を引っ張っている。
普段と違う様子に、村人たちが集まってきた。村長がみんなを代表して、陛下に質問される。
「陛下、これは一体何の騒ぎですかな?」
「聞いて喜べ!これからありがた〜いワシの人形を配るゾイ!」
「一人につき一つ、配っていくでゲス!さあ、順番に並ぶでゲスよ」
「それ、どんな風にありがたいんだよ」
村に遊びにきていたブンが説明を求めた。
村人たちは……それに私も、陛下の言葉に耳を傾ける。
陛下は腕を組んで自慢した。
「お金が貯まるゾイ」
「それはどのくらい?」
「毎日少しずつ、この人形いっぱいゾイ!枕元に置いておかないと意味がないから、寝る時は必ず側に置くゾイ!」
「さあ、タダでやるから持っていくでゲスよ!」
村人たちは「お金が貯まるなら」といった様子で、デデデ人形を受け取っていく。
私も人形を配ろうと思ったが、陛下に止められた。なので護衛に集中する。
人形は余らなかった。
残念だな。一つくれたっていいと思うんだが……。そんな気持ちをのせた視線を、陛下に送る。
あ、気づいた。
「な、なんゾイ」
「陛下……人形が欲しいです」
「ダメだゾイ。我慢せい」
「……はい」
代わりに陛下を抱きしめておくか。
城に戻って二人きりになったら、こっそり聞いてみよう。
人形全てを配り終えたので、兵士たちを連れて帰城する。
私は到着してすぐに、陛下にお願いした。
「陛下。この後お部屋に伺ってもよろしいですか?」
「……なんでゾイ?」
「二人きりになりたいからです」
陛下は顔中が真っ赤になり黙った。くるりと背を向けられる。
「ついてくるゾイ」
「はい」
ゆっくり歩かれる歩幅に合わせて、私もゆるりと歩く。陛下のお部屋に到着するまで、私たちは何も話さなかった。それは心地よい静かな時間だった。
陛下のお部屋に到着する。
私は扉を閉めてから、陛下に向き直る。
陛下も私の方を向いていた。やっぱりお顔が熱い。私は陛下に近づき、頬とおでこに手を当てる。
「失礼……陛下、熱でもありますか?」
「な、ないゾイ!それよりも!」
「はい?」
「ふ、二人きりになりたいと言ったのは、カノープスだゾイ」
「そうでした。あの……陛下、これから言うことに少しでも不快だったら、教えて欲しいのですが」
「まどろっこしい!なんゾイ!」
「陛下を後ろから抱っこさせてください」
陛下は一瞬ほど固まり、それから顔がさらに真っ赤になった。
怒ったかな?やっぱりやめておいた方が良かったかも。
取り消そうと口を開いて、閉じた。
陛下が私から一歩離れて、背を向けられたから。
「陛下」
「さっさとするゾイ」
「――失礼します」
私が立ったままでは、陛下を抱きしめることはできない。だから膝をつく。
後ろから寄り添うように抱きしめた。私の手は陛下の脇腹を通り、そして胸とお腹の間におさまった。
「五分ほど、このままでもいいですか?」
「急ぎの用事はないゾイ」
「ありがとうございます」
陛下のちょっと早い鼓動が聞こえてくる。
本当は調子が悪いのかもしれない。あとで、休んでもらうか。
リーノが「昼食ができた」と呼びに来る、ほんの僅かな時間が穏やかに過ぎる。
――――――
それから数日後。
おかしなことが村でおきた。
あちらこちらから「陛下はすごい」「陛下はえらい」と村人たちが、陛下を褒め称えている。
こう言っては何だが……異常事態だ。
その現場を聞いていた私とリーノは、用事を済ませてすぐに帰城する。
「みんな、どうしたのかしら?陛下を褒めるなんて今までなかったわ」
「とにかく陛下の身が心配だ。……人形が安全な物なのか、検証する必要もある。リーノ、アーニャかランタンのところに行って人形を借りてきてくれ」
「わかりました。あなたはどうするの?」
「陛下と会う。先に行ってるよ」
二手に分かれる。
城内の廊下を早足で歩く。
結局こうなったか。
今回はリーノと私が異常に気づいて、陛下に会いに行く。そして人形が安全なのか検証するのだ。
人形の危険性について話す役目は、今、陛下のお部屋に向かっている私がする。
陛下のお部屋に到着した。扉は開いていた。中を窺う。部屋の奥、窓際で花に水をやっていた。
「陛下」
「カノープスか。何の用ゾイ」
陛下はこちらを見て、それから顔を赤くした。
後ろから抱っこした日から、いつもこうだ。特に熱があるわけではないようなので、気にせず話を進める。
「人形について、確かめに来ました」
「はあ?」
私は話す。人形を村人たちに渡してから、おかしなことがおきた、と。そこまでは陛下も余裕そうに聞いていらっしゃった。
だが、人形の安全性に問題はないか。その話になると顔を強張らせた。
「何が言いたいゾイ!」
「おそらく、あの人形は危険です」
「それを、証明いたしますわ」
ちょうどリーノとランタンがやって来た。ランタンの腕の中に、あの陛下の人形がある。
陛下は疑問を口にする。
「どうやって調べるゾイ?」
「……まずは簡単な方法で調べましょう」
リーノはランタンから人形を受け取り、それを天井へ放り投げた。
――陛下も人形と同じように浮いて、床に落ちてくる。
リーノが人形をキャッチし、私は落ちてきた陛下をキャッチした。そっと床に下ろす。
「な……何が起きたゾイ!?」
「陛下と人形の間には、切っても切れない繋がりがあるようですね」
「くうう……!かくなる上は!文句を言ってやるゾイ!」
「その前に人形を回収するべきかと」
「わかっとる!」
陛下はランタンの人形を取って、そのままエスカルゴン殿を探しに行った。
リーノがランタンに謝罪する。
「気に入っていたらごめんなさい。あの人形、回収されちゃいました……」
「別にいいわよ、メイド長。お金だって入ってなかったし、愛着なんてないもの」
「そうですか?それならいいんですけど……」
「持って行ってくれて助かるぐらいよ」
私はやはり、と言った。
「あの人形、あまり人気じゃないんだな」
「可愛いと思うんですけどね」
「私もそう思う」
「……二人だけよ、そう思っているの」
ランタンはやれやれと、首を振ってみせた。
――――――
とある快晴の昼間。
お城の厨房にて、三人のメイドたちがせっせっと何か作っている。
私は何か手伝えないかと、厨房の中に入った。
「こんにちは。みんな」
「きゃっ!……びっくりした。カノープスだったのね」
「おや?入ってはいけなかったか?」
「そんなことないわ。でも、これは陛下たちには秘密だから……」
「すぐに扉を閉めるよ」
扉をしっかりと閉める。これでいいだろう。
私は手伝いを申し出ると、三人は快諾してくれた。
三人がデコったアイシングクッキーを、袋詰めする作業に没頭する。
「大量に作ったな。まるで村人たち全員に配るみたいだ」
「パーティ参加者に配りますので、概ね合っていますわ」
「パーティ?何かの記念日か」
「カービィが村に来てから一年たったんですよ」
私は伏せていた顔を上げた。
「もう、一年になるのか?早いな……あの子には世話になっている。盛大にお祝いしないとな」
三人は同意した。
夕方。その日の袋詰めが終わった頃。
私は袋詰めした大量のお菓子を持って、廊下を歩いていた。
厨房にクッキーを置いたままにしていたら、誰かが食べてしまう。だからクッキーを逃すのだ。
部屋が広く、厨房から近い私の部屋が選ばれた。
これは重要任務だ。
どんなに小腹が空いていても、このおいしいクッキーを食べてはいけないのだから。
意思を強く持たなきゃ!
頑張ろうと思っていた矢先、陛下と偶然ばったり会う。
「カノープス、こんな時間に何をしておるゾイ?」
いつもなら夕飯の手伝いをしている時間だった。
私は持っていたカゴを見せる。中にはたくさんのクッキーの袋があった。
「リーノたちにおつかいを頼まれていまして。陛下は?」
「食堂に向かう途中だゾイ。それにしても、うまそうだゾイ!一つ……」
「あげれません」
「なんでゾイ!」
「これは陛下用のクッキーではないので……」
私は考えた。陛下の分がない伝えるよりも、別にあると言ったほうがいいと思ったのだ。
リーノたち、仕事を勝手に増やしてごめん。どうか、許して。
「陛下のは、別に準備しておりますので」
「……たくさん?」
「もちろん。こちらよりも多いです」
「…………お前の手作りかゾイ?」
私はキョトンとした。
「私で良ければ、作らせていただきますが……」
「では作るゾイ。……こ、心を込めて」
「かしこまりました。感謝を込めて作ります」
陛下は「うむ」と一つ頷き、食堂へ向かわれた。
ふむ。陛下の分は私が作る、と。
アイシングは苦手だから、チョコチップクッキーにしようと考えた。
すぐに自室にクッキーをカゴごと置いて、しっかりとカギをかけてから、厨房に戻る。
リーノたちにことの経緯を話すと、仕方ないと夕食を作りつつ、クッキー作りを手伝ってくれた。
夕食後。陛下にはチョコチップクッキーとアイシングクッキーを、エスカルゴン殿にはアイシングクッキーのみを渡す。
「なあんで、陛下だけ種類が多いでゲスか」
「陛下が私の手作りクッキーを望まれたので」
「あ、ならいいでゲス」
何がいいのだろうか?
私の小さな疑問は、陛下とエスカルゴン殿の笑顔に飲み込まれた。
数日後、私たちは無事にカービィと、パーティ参加者の分のアイシングクッキーを作り終えた。
業務を終えてからの参加になるため、遅くなってしまう。会場ではすでに花火の音が聞こえていた。
私たち四人は急いで駆けつける。
――花火として打ち上がっていたのは、陛下とエスカルゴン殿だった。
「陛下、閣下!」
「待ってろ」
落ちてくる瞬間を狙い、私は走ってジャンプした。
無事、陛下とエスカルゴン殿を捕まえる。あとは落ちるときに合わせて、下に魔法を噴射。ゆっくりと降下する。
安全に地面に到着すると、陛下たちはバタンと倒れた。
「つ、疲れたゾイ」
「あ〜怖かったな、オイ」
どうやら空高く舞い上がったことで、腰が抜けてしまったらしい。
これでは、パーティが楽しめないと判断した私は、二人を抱えた。
「ちょ、何するでゲスか!?」
「お部屋まで運ぼうかと」
「今日は別にいいでゲス!せっかくのパーティが!ねえ、陛下」
「ワ、ワシは別に」
「あ〜!もう!とにかく、私のことは放っておいてくれでゲス」
「わかりました」
とりあえず、エスカルゴン殿は降ろす。
私は陛下がしっかり捕まっている様子から、お部屋に運んだ方がいいと判断した。
「リーノ、アーニャにランタン。私は陛下を送ってくる。多分戻らない」
「わかりました。気をつけてね。おやすみなさい。カノープス」
「ああ。おやすみ」
かなり視線を集めているが、それらは無視して城へと帰る。
最近、陛下を抱えることに慣れてしまったな。