カービィが村に来てから一年がたち、そのお祝いをした。
一周年パーティがあった日から一週間後、村でチョコカプセルが流行する。
昼間。乾いた洗濯物を取り込む私たちに、ブンが嬉しそうに話してくれた。
「今は銀河戦士団のシリーズが発売されているんだ!こんなの!」
ブンは、一般兵士と思わしき人物のフィギュアを見せてくれた。フィギュアは二個あり、それぞれリーノと私に手渡してくれる。
ふむ。よくできているな。
リーノがフィギュアをじっくり見つめる。
「素晴らしい出来ですね。かっこいいです」
「そうだろ?もし集めるならさ、ダブったら俺と一番に交換してくれよ」
「ふふ。いいですよ」
「あんがと!リーノ!カノープスはどうだ?」
私は正直な感想を言った。
「私もかっこいいと思うよ。前向きに購入を考えたいな……」
「にひひ!俺たちの仲間入り、待ってるぜ!」
俺たちというのは仲の良い子供たちであるイロー、ハニー、ホッヘのことだろう。
私はふふ、と微笑む。
「それも楽しそうだ」
「もちろん!スッゲー楽しいよ。じゃあ、それはやるよ」
「よいのですか?」
「うん。おれ、五十個近く持ってるし。二つくらいなら、いいよ」
「そうですか?では、ありがたく頂戴します。ありがとうございます。ブン様」
「ありがとう、ブン。大切にするよ」
「へへ、おう!それ、コンビニに売ってるからな!じゃなー」
そうしてブンは、来た道を走っていった。
ブンの後ろ姿が完全に見えなくなったところで、私は言った。
「本当によく出来ている」
「あら。じゃあ今からでも買いに行きますか?」
「いや、明日にしよう。明日は郵便局による予定だから、ちょうど村に行く。用事を済ませたら、コンビニに寄ろう」
「わかりました。そうしましょうか」
とうとうチョコカプセル回が来た。確かリーノが好きだった回だ。
私は、銀河戦師団をかっこいいと思っているので、できれば集めたいな。金銭的に厳しいのでコンプリートをする気はない。ゆるく楽しませてもらおう。
次の日。
郵便局に寄り手紙を受け取ったあと、村のコンビニに寄った。
朝一のためか、私たち以外の人がいない。
店に入るとコンビニの店主、タゴさんが奥から出てきた。
「お!リーノにカノープス!二人もチョコカプセルを買いに来てくれたの?」
「そうです。村で人気のお菓子が気になりまして」
「店で一番目立つ場所に陳列してあるんだな」
店に入ってすぐの場所、チョコカプセルはピラミッド状に置かれている。
私の目線の高さほどあるから、かなりの量のお菓子が置かれていた。
タゴさんはシメシメ、といった風に笑う。
「くふふ……リーノたちも買ってくれたら、女性の購入客も増えるぞ!もしかしたら、カップルで買ってくれるかも!」
「そう上手くいくものなのか?」
「案外、誰が買っているのか、誰が持っているのかが重要だったりするのさ!それでいくつ買うの?」
「そうだな。とりあえず五つ買うよ」
「わたくしも、五つください」
「そんだけでいいのかい?」
「最初だからな。全部被ったら、また来るとしよう」
ピラミッドの上から順番に、計十個のお菓子を購入する。
帰城して、待ちきれなかったのですぐに一階にある厨房で、チョコカプセルを開けた。
結果。リーノはレアが二種類(オーサー卿とナックルジョーの父親)と兵士三個。私はレアが二個(ナックルジョーの父親が被る)と兵士三個だった。
あまり好みではないチョコを食べつつ、被ってしまったレア物を指でつつく。
「当たったのは嬉しいが、被ったのは残念だ」
「珍しいですよね。レア物が被るなんて」
「だと思うよ」
そこで、厨房の扉が開いた。
振り返ると、エスカルゴン殿がいた。
「リーノにカノープス。そこで何をやっているでゲスか?」
「チョコカプセルを開封していました。今、村の男性たちの間で人気なんですよ」
「チョコカプセル?……ほほーう、これが?中々かっこいいでゲスな」
「あげませんわ」
「リーノのケチ!育てた恩を忘れたでゲスか!?」
「ここでそのカードを切らないでくださいまし……。村のコンビニでたくさん購入できますよ?」
「行くの面倒くせー……カノープスは、私にくれるでゲスね?」
キラキラとした眼差しで見てくるが、冷静に断った。
「陛下に差し上げるので、エスカルゴン殿には渡せません」
「こんの陛下大好き人間!」
「ありがとうございます」
罵倒するような声の調子で言われたが、内容が合っていないな……。
エスカルゴン殿は「仕方がないから、村のコンビニに行ってくるでゲス」と言い、厨房から出て行かれた。
「……エスカルゴン殿はなんの用でここにいらしたんだ?」
「わかりません……チョコの香りに誘われたのかしら」
私たちは首を傾げつつ、チョコカプセルを頬張った。
本格的に昼食の準備を始める前に、私は陛下に会いに行った。
陛下は中庭でゴルフをされていた。
陛下が構えて、優しく振り、ゴルフボールにそっと当たる。
ゴルフボールはスーっと人工芝生の上を滑り、穴に落ちた。
私は手を叩く。
「お見事です。陛下」
「別に、このぐらい何ともないゾイ」
顔を赤くしてそっぽを向く陛下を可愛らしいと思う。
陛下は次のゴルフボールを一人のワドルディから受け取りつつ、私に話しかける。
「それで、何の用ゾイ?ワシに会いに来たかゾイ?」
「はい」
陛下は目を大きく開いて、私を二度見した。
そんなに驚くことかなあ?
「プレゼントを、持って参りました」
「ぷれぜんと……」
陛下の左手に、ナックルジョーの父親のフィギュアを一つ手渡す。
陛下は手の中のフィギュアをまじまじと見つめた。
「今、村で流行りのチョコカプセルから出るフィギュアです。二個出たので、一つは陛下に」
「ふん!ダブったからか!」
ちょっと怒りが込められていたので、私は慌てて「違います」と言った。
「お揃いですよ」
「!!……いや、しかし他の者も同じフィギュアを持っていたら、ワシらだけのお揃いとは言わんゾイ。みんなお揃いだゾイ」
「…………私があげるのは、陛下にだけです。例え他の人と被っても、思い出は被りません。同じというだけです」
他の人がどうこうではない。
私から陛下に贈る、その思い出が大事なのだ。
ふと疑問に思う。
……私は何にムキになっているのだろう。
手を口元に当てる。少し考えていると、陛下は「うむむ」と唸った。
「それでも、やっぱり……」
「陛下?」
「こうなれば、買い占めだゾイ!」
陛下はゴルフをほっぽり出して、あっという間にどこかへ走って行かれた。
私も、側に仕えていたワドルディたちも薄く口を開けたまま、その姿を見送った。
「一体、どうしたのだろう?」
「?」
ワドルディにもわからないなら、私にもわからないや。
先ほどまでの疑問は、新しい疑問に塗りつぶされてしまった。
――――――
それから数日後。
陛下は銀河戦士団のシリーズを、本当に買い占めてしまった。
子供たちも、チョコカプセルにハマった大人たちも、陛下の行動には迷惑したそうだ。
喧嘩が起こる前に、新しいブームがやってくる。
今度はファイターシリーズ。長く楽しんでもらうためか、一人につき一日十個までの上限付きだ。
夕食時。
すっかりチョコカプセルにハマってしまった陛下は、私の様子を窺うように聞いてきた。
「カノープスは、どのファイターが好きかゾイ?」
「特別好きなファイターはいませんね……それに、ハマってもいませんし」
「何!?」
「だって、リーノもアーニャもランタンも買わないんですもの。私だけが買っても、楽しめなくて」
「そ、そうかゾイ……」
「ですが、フィギュアを見ることは好きなので、レア物が当たったら自慢して欲しいです」
「それなら!ワシはもう全種類集めておる!好きなだけ見るゾイ!」
陛下はウキウキな調子で笑った。
私は首を振る。
「今日はメイドたちと女子会をするので、明日以降にお願いします」
「女子会?」
「女性だけが集まって楽しむことを、そう呼ぶのです」
エスカルゴン殿は言った。
「女子って年齢じゃないでゲショウに……」
それを聞いたリーノがにっこりと笑った。
「閣下、明日のデザートとおやつは抜きですわ」
「あー!今のナシ!悪かったでゲス!お前たちは今でも可愛い女の子でゲスよう!」
「ちゃんと謝ってくださったら、お出しします」
「ごめんなさーい!」
「はい。いいですよ」
エスカルゴン殿は、急いで手を擦り合わせて頭を下げる。リーノは、私とアーニャとランタンと共に苦笑していた。
陛下は何度も「明日以降……」と楽しげに呟く。
結論から言わせてもらうと、陛下が楽しみにされていた日は来なかった。
その日の夜。
ファイターのフィギュアが暴れ出したのだ。
フィギュアはリーノのお腹ぐらいまで背が大きくなって、城中でも溢れるぐらいあちこちでピョンピョン暴れている。
女子会をしておいて良かった。おかげで三人を守れる。
私の自室の扉が、ガタガタと音を立て続けている。リーノは攻撃手段があるためか、まだ余裕そうだ。
しかし、アーニャとランタンが不安そうに扉を見つめていた。
私は言った。
「怖いか?」
リーノは二人を振り返る。そして顔色を見て、二人の前に出た。
「リーノ」
私よりも前に出てくれるな、そう意味を込めて声をかける。
リーノは頷いた。これ以上は出る気はないらしい。
「もしもカノープスがやられたら、全方位を氷漬けにするわ」
「それはいい考えだ」
「カノープス、リーノ……」
「私たち……」
申し訳なさが滲む声が聞こえた。
私は明るい調子で言った。
「私がケガをしたら、手当を頼む」
「――わかったわ」
「せめて、そのぐらいは任せてください」
この世界でも、リーノが主催した「ヤブイ先生の勉強会」は、あった。
リーノたちは、それに私もだが……簡単な治療の心得がある。本当に初級だが。
「二人とも、お願いしますね」
何を考えているのか、リーノも戦えるとはいえ、私と共に前へ出る気でいるらしい。
「リーノも、そっち側だぞ?」
「そうですよ。接近戦はできないのですから……」
「私たちと一緒にいるの」
「はい……」
ちょっと不満気だな。あとでメタナイト卿に報せておこう。彼ならば、うまいこと説得してくれるはずだ。
二十分か、三十分か……。長い時間、私たちは部屋に閉じこもっていた。
やがて扉の揺れはおさまり、フィギュアたちのジャンプする音も聞こえなくなる。
おさまったか?
私が扉に近づいた瞬間。
ドンドンドン!
「きゃあ!」
いきなりドアが大きな音を立てた。三人が悲鳴をあげる。
私はドアを睨みつけた。
「誰だ」
「俺だ!ソードナイトだ!みんないるか?」
間違いなくソードナイトの声だ。ランタンがいち早く復活して、急いで部屋の扉を開けた。
「ソード!」
「ランタン!」
恋人たちが抱きしめ合う。すぐに離れ、互いの無事を確認した。
ソードナイトの後ろにはブレイドナイトもいたので、私がアーニャを呼んだ。
アーニャも嬉しそうにブレイドナイトに駆け降り、安心しきった顔を見せる。
青い戦士がいない。
「メタナイト卿は?」
「卿は、カービィのところへ向かった」
「陛下とエスカルゴン殿も、そちらに向かったらしい」
「そうか」
振り返ると、リーノが窓の外を見ていた。とても心配そうに。
私は、リーノの側に寄って声をかける。
「メタナイト卿なら大丈夫だ。きっと」
「ええ、もちろんです。ただ、ちょっとだけお顔が見たくて……」
「明日にでも、会いに行こう」
「――はい」
やっと、リーノに笑顔が戻る。
――――――
さて、明朝から陛下に呼び出しをくらった私とリーノ。
機嫌がいいはずもなく。
陛下直々のご命令である“コロシアム建設の手伝い”を断った。
断る代わりとして、リーノは夕食にスペシャルな和食を用意することになった。
私は……。
場所は陛下の自室に移る。
私は中に入り、しっかりと扉を閉めた。ついでにカギもかけておく。
中には陛下がすでにいて、少々緊張しておられた。
「それで、私は何をすれば良いので?」
「…………ら」
「はい?」
「膝枕、ゾイ」
「ああ、いいですよ」
「やっぱりダメ……何!?いいのかゾイ!」
「ええ。リーノにもしてあげてますので、別にいいですよ」
「それは同性だからいいのでは……?ワシはリーノと同列?高いのか……低くはないゾイ」
急に声のトーンを落としてぶつぶつ言い出した。
私はさっさと陛下用の大きなベッドに向かう。
真ん中に座り、ベッドをぽんぽんと叩いた。
「陛下」
今日は、ちょうど膝枕ができるライトアーマーを着用している。
いいタイミングにお願いしてもらえたな、と思った。
陛下は覚悟を決めたようにベッドに上がり、私の太ももを枕にした。
目は固く閉じられている。
私はリラックスしてもらおう、と声をかけた。
「陛下、お腹あたりをぽんぽんしてもいいですか」
「別に、いいゾイ」
「ありがとうございます」
陛下のお腹、中心よりも胸に近い辺りを、優しくゆっくりぽんぽんした。
五分もたてば、穏やかな寝息が聞こえ始めた。
私はこうして昔、リーノを寝かせた日のことを思い出していた。
それは今日みたいに、とっても穏やかな日だった。
――――――
さて、コロシアム建設の理由であった“カービィとファイターシリーズの戦い”についてだが……。
カービィが圧勝した。
カービィが最後のファイターを倒した後。
村人たちが、一斉にザコ魔獣を倒し始めた。
まるでお祭りのようだった。
おかげで、魔獣たちをすべて倒すことができた。
村に再び平和が訪れたのだ。