カノープスの終生   作:紅絹の木

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(番外編)バレンタイン

 

 

 とある日の夜。

 デデデ大王は、ホーリーナイトメア社のカタログを見ながら、カスタマーサービスと話していた。

 

『そういえば、陛下はバレンタインというものをご存知ですか?』

「なんゾイそれは?」

『女性から意中の男性へ、または男性から意中の女性へとチョコを贈るイベントのことでございます』

「チョコがもらえるのか!それはいい日だゾイ!」

『陛下ほどの人でしたら、たくさん貰えそうで羨ましいですな。そこで、ご相談なのですが……』

「ふん!どうせ商品を売りつけたいのであろう?」

『さすがは陛下!何もかもお見通しで』

「世辞はいい。何を売る気だゾイ」

『バレンタインといえば、チョコ!たくさん、ご用意させていただきます』

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 翌朝。

 今日は休みだったので、リーノたちとは違う時間に起きる。

 とは言っても、普段の習慣で朝早くに起きてしまうのだが。

 

 テレビをつけて、朝のニュースを聞きつつ身支度を整える。

 めちゃくちゃなお天気予報の後に、ピンポンとテレビが鳴った。

 どうやら重大ニュースのようだ。私は画面の前に移動した。

 服はちゃんと着込んでいる。

 エスカルゴン殿が映った。

 

『えー、臨時ニュースでゲス。一週間後の二月十四日に、プププランド初めてのバレンタインを行うでゲス!』

 

 おお。恋人たちの祭典をやるのか。

 エスカルゴン殿は手元の紙を読み上げる。

 

『バレンタインとは、主に恋人たちのイベントで、好きな相手にチョコを渡す日だとか。』

 

 そうですね。

 

『それだけじゃなく、感謝している相手にお菓子をあげる日のようでゲスな。今日、今から!村の広場で、陛下が大量の特別なチョコを販売してくれているでゲス!感謝して購入するでゲスよ』

 

 ほう、チョコが購入できるのか。

 食べたいし、作りたいし、贈りたいから買うか……。

 

『それじゃ、私たちも向かうでゲスかね。リーノたちメイドも連れていくから、会いたい村人共は広場に来るでゲスよ。以上!』

 

 そこで、ニュースはいつだって流れているコマーシャルに変わる。

 私はテレビを切った。朝ごはんの食パンに、がぶりと噛み付く。

 今日は休みだが、リーノたちに会いに行こう。

 

 

 

 歯を磨いて、鎧を装着していたら時間がそこそこたっていた。

 早足で城を出て、村の広場に向かう。

 

 すでに多くの人が買った後なのか。ワドルディたちの後ろにある台車の中の板チョコや、ハートの形を模したチョコは数少ない。

 さすが陛下、商売上手だ。

 

 てっきり、チョコを売り捌いているのだと思ったけれど、メイドたちはチラシを村人たちに配っていた。

 私はリーノたちに近づく。

 リーノが顔を上げて、私に気づいた。

 

「あら、カノ。おはよう」

「おはよう。精が出るな。そのチラシは……?」

「これはチョコを使ったレシピよ。ほら、バレンタインが近いから」

「なるほどな」

 

 一枚もらってレシピを見てみる。

 湯煎したチョコを型に流し込んで、飾ってできあがり。簡単なイラストと共に紹介されていた。

 

「チョコケーキとかじゃないんだな」

「誰でもできる……が、売り文句ですから。それは初心者向けですわね」

「そうか。なら、中級者や上級者は村の本屋に向かうな」

 

 そこでアーニャとランタンがやって来た。

 

「そのことをおじいちゃんに伝えたら、急いで開店しに帰りました。繁盛しそうで嬉しいです」

「ねえ、仕事が終わったら、私たちもバレンタインの作戦会議をしましょ」

「賛成です。……カノも来てくれる?」

 

 私はその話に飛びついた。

 

「ぜひ、参加させてくれ」

 

 陛下への気持ちを自覚した今、こういうイベントは重要なのだ。

 別に気持ちを伝える気なんてないけれど、私のプレゼントであの人に喜んでもらいたかった。

 

 リーノたちと別れて、私はチョコを販売している……実際はワドルディとエスカルゴン殿がチョコを売っていた……陛下に会いに行った。

 

「陛下。今よろしいですか」

 

 陛下はゆったりとした動作で、にこやかに対応してくれた。

 

「うむ。なんゾイ」

「私もチョコが欲しいのですが、おすすめはありますか?」

「誰に贈る?」

「陛下と、リーノと……お世話になっている方々に」

 

 その中に本命を忍ばせて贈るのだ。

 しかし、陛下はその返答では納得できなかったらしく、頬を可愛らしく膨らませた。

 

「――ワシのは特別にするゾイ!」

「喜んで」

 

 私は本心から言った。

 陛下は意外だったのか、ちょっと驚かれてから嬉しそうに、はにかんだ笑顔を見せてくれた。

 

「メイドたちの分と、カノープスの分は城に避けて置いてある。好きなものを選ぶが良いゾイ」

「いいのですか?」

「構わん。そちたちは特別待遇だゾイ」

「その代わり、美味しいの食べさせてくれでゲス!」

 

 横からひょっこり現れたエスカルゴン殿が言った。

 私は力強く頷いた。

 

「必ずや、ご期待に添えてみせます」

 

 リーノたちが撤収するタイミングに合わせて、一緒に城に戻った。

 

 

 

 そして、まずメタナイト卿の部屋へと、お邪魔した。

 

 チョコは好きか、どんなトッピングにして欲しいか。

 つまりリクエストを聞きに来たのだ。

 部屋の中に招き入れてもらい、七人が集う。

 メタナイト卿の返答は……。

 

「チョコでは、陛下に踊らされることと同じになってしまう」

「では、別の方法でならば、感謝を伝えてもいいですか?」

「というと?」

「そうですわね……普段の食事会をちょっと豪華にするとか、いかがですか?英気を養うんです。常夏の地域とはいえ、二月は風邪が流行りますから」

 

 それはいい考えだと、女性陣は賛同する。

 ソードナイトとブレイドナイトが、主人を窺う。

 メタナイト卿は、ふっと息を吐いた。

 

「それはいい考えだな」

 

 リーノがにっこりと笑った。

 従者二人と、親友二人も、互いに顔を見つめ合って、喜ぶ。

 私は手を挙げた。

 

「それだと、陛下の夕食は作れないな。私で良ければ、作っておくよ」

 

 豪華な食事は無理だがな……。と付け加えておく。

 リーノがこちらを振り向く。

 

「いいのですか?任せても?」

「ああ。私がそうしたいんだ」

 

 特別な日に、特別な人と共に食事をする。

 私も、そうしたいだけだ。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 バレンタイン当日。

 私、リーノ、アーニャ、ランタンは、手作りのブラウニーをお世話になった人々に配り歩いた。

 もちろん。本命には別に用意してある。

 

 夕食は作らないので、朝と昼を豪華にすることで陛下とエスカルゴン殿には納得してもらった。

 昼食時、エスカルゴン殿が食堂でぼやいた。

 

「夕食はどうしたもんでゲスかね……カワサキの店には行きたくないし……」

「私が作りますよ?」

「は!?」

「え!?」

 

 陛下とエスカルゴン殿は大層驚かれた。私をじっと凝視している。

 私はというと、リーノとアイコンタクトをとった。

 

 言ってなかったか?

 まだでしたわね。

 

 私は二人に謝る。

 

「すみません。連絡が遅れました」

「それはいいでゲスが……陛下?」

 

 陛下は伏せた目をあげて、エスカルゴン殿をじっと見た。

 なんか、力が入っていて怖いぞ?

 

「――エスカルゴン」

「な、なんでゲスか?」

「夜は用事があるな?」

「へ?いや、特には……」

「ある!あるったらあるゾイ!カノープス!」

「はっ」

「今晩はワシと二人きりだゾイ!いいな!二人分……おかわりするから多めに用意せい!」

「かしこまりました」

「そ、そんな……カノープスの料理も案外美味しいのに……トホホ」

 

 こしょこしょと、私はメイドたちと話す。

 

「エスカルゴン殿に、お弁当を作れないかな?」

「豪華なものは作れませんが、それでも良いならできますね」

「こんな日に、夕食がカップ麺なんて……」

「用意してあげましょ」

 

 リーノたちも忙しい日だけど、四人で作ればあっという間だ。

 お弁当を渡す役は、私になった。

 バレンタインのお菓子と共に、夕食前に渡す。

 エスカルゴン殿は泣いて喜んでくれた。

 

 

 

 

 さて、本番である。

 ププビレッジの名物、羊肉を使う。

 凝ったものは作れないので、ジンギスカン丼にサラダとお味噌汁を添えて、食堂に運んだ。

 

 陛下はすでに待っていた。

 食堂の明かりは、たくさんのロウソクで照らされている。

 たいへんロマンチックである。

 ……この中でジンギスカン丼を食べるの?マジで?

 

 私は、陛下の前に料理を置いていく。

 そっと、お顔を窺った。

 ――なんとも言えない顔をしている!

 

「陛下、すみません。もう少し、この場に相応しい料理を作れたら良かったんですけれど……」

「ゆ、許すゾイ。問題は味だゾイ」

 

 私も、陛下の隣の席に座る。先に兜をとって、テーブルに置いた。

 声と手を揃えて「いただきます」と言った。

 陛下は丼の蓋を開けて、まずは一口。

 ふ、と口の端が緩んだ。

 

「うまい」

「よかった」

 

 強張っていた体から、緊張が抜けていく。

 それから、陛下は味わうようにゆっくりと箸を進めた。

 その光景をしっかり記憶するように、私もまたゆっくりと箸を進めるのだ。

 

「ところで、ワシへのチョコはどうした?」

「チョコでは、他の方と同じになってしまうので、ジャムタルトをご用意いたしました」

「そうか」

「……一応。チョコもございます。こちらは他の方にも配ったブラウニーです」

「寄越すゾイ」

 

 料理を乗せてきたカートの下側に、お菓子はある。

 ブラウニーの包みと、ジャムタルトの包みを机の上に出した。

 どちらも、陛下のものだと分かるよう、ハートのシールを飾ってある。

 

 そのシールに気づいて、陛下はニヤリと笑った。

 かっこいいな……ではなくて。私の気持ち、バレていませんように。

 

「ハートのシールゾイ」

「はい。可愛いので」

「あっそ」

 

 がくり、と頭を傾けられた。

 私は内心ほっとしている。どうやらバレずに済みそうだ。

 

「そういえば、もう一つプレゼントがあるんですよ」

「まだあるのか?」

「ジャムタルトに使ったジャムです。明日の朝から使えるように準備しておりますので、どうぞ」

「うむ。ぐふふ、エスカルゴンにはやらんゾイ」

「エスカルゴン殿には、リーノが作ったジャムを用意しましたので、大丈夫ですよ」

「なら、取られる心配はないな」

 

 私が用意した緑茶を、グッとあおる。

 

「これもうまいゾイ」

「ありがとうございます」

「……カノープス」

「はい。陛下」

「ワシは、億のチョコよりも、お前がくれる一つのチョコの方がずっと価値があるゾイ」

 

 心臓が跳ねた。

 胸から飛び出していないか心配で、胸元を撫でた。

 

「?どうしたゾイ」

「いえ……感激のあまり声が出ませんでした」

「そーかそーか!デハハハハハ!」

 

 陛下が笑い、私も笑った。

 

 私が気持ちを伝えることはない。

 でも、こうしてお側においていただけたこと、特別な日を共に過ごせたこと。

 すべてに感謝して、明日も一緒にいたい。

 

「陛下」

「うん?」

「明日は何をしましょうか」

 

 陛下がキラリと笑っている。

 

 

 

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