ある日の昼下がり。快晴。
陛下と中庭を散歩中していた。
中庭の花壇は、ほとんどがワドルディたちの管理下にある。
けれど一つだけ、私とリーノが管理している花壇があった。その花壇の花が見頃になったので、陛下を誘ったのだ。
そしてこうして、中庭を散歩している。
陛下の機嫌は良いし、私の気分も上がっていた。
あの歌が聞こえるまでは……。
「きほんはまる〜」
カービィの絵描き歌だ。
思わず、歌が聞こえた方向を見る。
――ブン、ハニー、イロー、ホッヘ……子供たちが城の壁に落書きをしているじゃないか!
報告しないわけにもいかず、私は陛下を呼んだ。
陛下はニコニコとしていた笑みを、一変させた。恐ろしく怒っている。
猛ダッシュで子供たちの方へ行く。
それに気づいた子供たちは、逃げ出して。
陛下は追いかけるが、突如その姿が見えなくなる。
まるで消えるように。
「陛下!?」
慌てて陛下が消えた場所に駆け寄る。
そこには落とし穴があった。陛下は落ちてしまったのだ。
私は穴の中へ降り、陛下を抱っこした。そして穴から脱出する。
一連の流れを見ていた子供たちが騒ぎ出した。
「やーい、やーい」
「デデデ大王、子供みたい」
「抱っこされてやがんの!」
私は頭が痛くなった。
「足を挫いていたら大変だから、抱っこして穴から出たんだよ」
そう説明するけれど、子供たちは止まらない。
「カノープスは大王が好き!」
「デデデもカノープスが好き!」
「ソウシソウアイだ!」
「お似合いだぜ、お二人さん!付き合っちゃえば?」
「んな!?」
「――いい加減にしなさい」
この気持ちを揶揄われた気がして、嫌な気持ちになった。
思わず低い声を出してしまい、子供たちがビビってしまう。
私は我にかえり、咳払いを一つする。
「すまない。だが、人の気持ちをいじるのは良くないことだ。やめてくれ」
「ご、ごめん」
「はい……」
「わかってくれればいいんだ。さあ、陛下。ヤブイ先生のところへ行きましょう」
「う、うむ」
陛下を抱えたまま、村の医院に向かう。
なるべく早足で足を動かした。
全治二日らしい。
大したケガではなくてよかった。
行きも帰りも陛下を抱っこしていたので、かなり目立ってしまった。
レン村長やボルンさんに笑われたので、陛下は恥ずかしそうにしていたが、我慢してくださった。
城に到着したら、すぐに降ろせ、と言われる覚悟をしていた。けれど、何も言われない。
なので私は陛下に聞いた。
「どこへ、お連れすれば良いですか?」
「……玉座の間まで」
「かしこまりました」
部屋に到着するまで誰ともすれ違わなかったのは、陛下にとって良いことだったと思う。
玉座に陛下を恭しく下ろし、私はリーノを探しに部屋を出た。
大きなケガではないけれど、情報は共有しておくべきだと思ったのだ。
リーノは厨房にいた。
そろそろおやつの時間だから、ちょうど作っている最中だった。
アーニャとランタンいない。おそらく別の仕事を任されているんだろう。
「リーノ」
「カノ、ちょうど良かった。メレンゲクッキーを作ったんです。味見してもらえませんか?」
「それもいいが……陛下がケガを負った」
「はい?」
「全治二日だ。擦り傷と捻挫。大きなケガじゃないが、動き回るのも良くはない」
「一体どうして……何があったんですか?」
子供たちのいたずらによって負ったケガだと、説明した。
「話したらわかってくれたから、あまり怒らないでやってくれ」
「それはわかりました。ケガはヤブイ先生に見てもらったんですよね?」
「ああ。だから、大丈夫だ」
「それは良かったです」
リーノは安心できたようだ。表情に笑みが戻る。
「今日の夕食は、陛下の好物をご用意しましょう。何がいいと思いますか?」
「お菓子を持っていったとき、直接聞いてみたらいいんじゃないかな?」
「そうしましょうか」
カートに飲み物とメレンゲクッキーを乗せて、私たちは玉座の間へ向かう。
玉座の間に近づくと、何だか慌ただしい音が聞こえてきた。どうやら、たくさんの兵士たちが部屋を出入りしているみたいだ。
ホーリーナイトメア社のマークが入った箱を、えっさほいさと運んでいる。
……数が多いな。
私とリーノは少々緊張感を持って歩を進める。
兵士たちが少なくなったタイミングで、私たちは玉座の間に入った。
広い部屋の中には、あちこちに物が散乱している。
「これは一体……」
「わからん。陛下に直接聞こう」
物に当たってしまわないように、気をつけてカートを押した。
カタログを見つめていた陛下は私たちに気づいて、可愛らしく微笑まれた。
「おお!よく来た!今日はなんゾイ?」
「メレンゲクッキーですわ。陛下」
「うまそうだゾイ!ぐふふ」
陛下がカートに駆け寄り、フードカバーをとった。
そしてメレンゲクッキーを頬張る。
その間にリーノがカフェオレを用意し、陛下に渡した。
ずず……と、音が鳴る。
「うむ。うまい」
「良かったですわ。それで陛下……この大量のダンボールは一体なんでしょうか?」
「よくぞ聞いたゾイ。これらはすべて学校の教材ゾイ!」
「学校ですって!?」
「おお」
とうとう学校回がきたのか。
……校舎だけ残せないかな?そうしたら、子供たちが青空学校をしなくて済むんだが。
リーノが興奮した様子で言った。
「素晴らしいです!とうとうププビレッジにも学校ができるですね!より良い学校になるよう、わたくしもお手伝いさせてくださいませ」
「よいゾイ!デハハハハハ!カノープス、お前は秘書にする。ワシに従うゾイ」
「承知しました。今日からできる限りお側につきます」
「うむ!今は校舎を造っとる最中ゾイ。用があれば呼ぶゆえ、今は下がっとれい」
「かしこまりました」
「失礼いたします。陛下」
私たちは玉座の間から出た。
そのまましばらく歩いて、周りに誰もいないことを確認した。そっと話し合う。
「では、わたくしはメタナイト卿に報せに行きます」
「わかった。私はフームたちの方に行くよ」
「よろしくお願いします」
私たちは二手に分かれた。
大臣家を訪ねると、ちょうどフームがいてくれた。彼女がおやつを食べ終わるのを待ってから、話を始める。
ダイニングテーブルの席につき、紅茶をもらった。フルーティな香りがいいな。
「陛下が学校を建てる」
「まあ!学校を!?」
「先ほど、陛下から直接聞いてきた。……学校はホーリーナイトメア社から仕入れている。どこで魔獣が出てくるかもわからない。用心してくれ」
「簡単だわ!学校に行かなければいいのよ」
「それはできないだろう」
「どうして?」
「君は大臣の娘だ。陛下の学校に行かないというのはまずいだろ」
「うう……」
「それに、学校に行ってくれた方が潜入ができる。君は生徒として、リーノはおそらく給食を担当し、私は陛下の秘書として学校を探ればいい」
もう一口飲む。本当に、メーム様が淹れる紅茶はおいしいな。
フームは手に顎を乗せて言った。
「あなた、また秘書という名のお茶汲みをやらされるのね」
「陛下のお側につけるなら、何でもいいよ」
本心だった。好きな人のためにお茶を淹れたいのは、私だけじゃないだろう?
フームはふう、と息を吐く。
「相思相愛、ね」
「そうかな?」
「間違いないわ」
私は微笑んだ。
そうだといいな。
――――――
学校が始まった。
陛下も閣下も、校長であり教頭でありながら生徒として、学校に通っている。
私は教室の外から、授業風景を眺めた。
先生をする人が帽子を被る度に、態度が、表情が一変した。
みんな激しく、荒々しい。
そして何より、陛下を敬うよう強要している。
これでは洗脳だった。
私は、リーノが悲しむ姿が想像できた。
罠であると知っていても、妹は村のためにより良い教育を求めて、学校を受け入れた。
――校舎だけでも残そうかと考えていたが、リーノを悲しませるものはいらない。
さっさと壊すか。
給食の時間。
フームを教室の外に呼び出して、こっそりと話した。
「帽子が怪しい」
「え?」
「考えてみろ。帽子を被るまではみんな普通だっただろう?そして帽子をとった後も元通りだった。おかしくなったのは被っている最中だ」
「確かに!その通りだわ!」
「タイミングはフームに任せる。魔獣をやっつけてくれ」
「いいの?デデデが造った学校を壊しても」
「学校はまた造ればいいさ」
フームは少し考えた後「それもそうね!」と強く頷いた。
午後の授業。
キュリオ氏が歴史の授業をするため、帽子を被った。
穏やかで知性あふれる普段の彼とは違い、邪悪に顔を歪ませた別人が、そこにはいた。
フームはすぐに席から立ち、指差した。
「あの帽子のせいだわ!」
キュリオ氏から帽子をとったものの、その帽子がフームの頭にのってしまった。
フームは豹変してカービィを襲う!カービィは教室内を逃げ回った。
そこにブンが、飛び蹴りで帽子を弾く。フームは正気に戻った。
床に落ちた帽子はみるみるうちに姿を変えた!
魔獣キョウシーである。
キョウシーは技を放った。向かってきた、そのエネルギー弾をカービィが吸い込み、ファイターをコピーする。
教室の壁を大きく壊し、外で戦う魔獣とファイターカービィ。
キョウシーの技を見極め、ファイターカービィは懐に潜り込み、ライジングブレイクを放った。
大きく真上に飛ぶ魔獣を見て、私は言った。
「みんな!外に逃げろ!魔獣が降ってくるぞ!陛下、急いで!」
みんなが慌てて、教室に開いた大きな風穴から脱出する。
そして魔獣が学校に降ってきて、学校ごと爆発した。
――――――
やっぱり、学校がなくなってしまったので、村の子供たちは青空学校をすることになった。
村の人たちが交代で教師をする姿は和やかで、のびのびとしている。
リーノを悲しませ、怒らせた陛下。
二人は絶賛ケンカ中だ。
毎日、毎食。質素な食事を出された陛下はとうとう切れた。
「お前がそうなら、ワシにも考えがある!」
私とリーノは、プンスコと怒る陛下の前でアイコンタクトをとった。
学校の次の回って、何だったけ?