先日、村にできた学校が吹き飛んだ。
魔獣を倒せたから良かったんだけど、学校の件でリーノと陛下がケンカしている。
毎食、質素なご飯を出されたため、陛下が怒ったのだ。
陛下はリーノの料理を食べず、代わりに私に毎食作るように命令した。
好きな人のためだから、毎食頑張って作る。
それはいい。問題は、リーノと陛下の接触が減ってしまったことだ。
「これじゃ、仲直りできないな」
「はい……」
厨房。おやつ時にリーノと共にお茶を飲む。
二人のケンカが始まってから、数日たっている。頭が冷えたリーノは、陛下と仲直りしたいと考えるようになっていた。
陛下の方は意地を張って、リーノと顔を合わせないくらいだ。
早く仲直りしてほしい。どちらも大切だから、そう願う。
それに……。
「そろそろ私のレパートリーがなくなりそうだから、ループする前に元通りに戻ってほしい」
「あら、そうなのですか?料理本、貸しますよ?」
「それは助かるけれど、少しでもリーノの味に似ていたら、陛下怒りそうだからな……今は遠慮しておくよ」
「陛下ったら……頑固ですわ」
うーん、と頭をひねる。
こうして悩むぐらいなら図書館で料理本を借りてきた方がいいかな?
リーノが明るい調子で言う。
「そうだ!陛下に直接聞くのはいかがですか?お互いに食べたいものを決めるなんて、とってもふ……」
「ふ?」
「ふ、二人だからこそできることですわ!」
拳を握って語るリーノの言う通りだ。
私は頷いた。
「今晩の天体観測のときにでも、聞いてみるよ」
「今日もするのですね。暖かくしてくださいね」
「ああ。気をつける」
その日は、陛下にシチューを出した。
具材をゴロゴロと入れた料理は、何度もおかわりされた。
今日も完食してくださって嬉しい限りだ。
食後。片付けを済ませてから、私は玉座の間の前のベランダに向かう。
すでに陛下が望遠鏡をセットしており、飲み物とお菓子を乗せたカートもあった。
いたせりつくせり、とはこのことかな?
星空を眺めつつ、ちらちらと陛下を見る。
……よく陛下と目が合う気がする。
目が合うたびに、私は陛下の瞳をじっと覗き込んでしまう。
陛下はというと、ささっと顔ごと背けてしまうのだ。
残念。もっと見ていたいのに。
そういうわけで、望遠鏡を使う時間よりも陛下を見つめている時間の方が長かった。
陛下の方は普段通りだったと思う。
いや、私が陛下を見過ぎて変に思われてしまったかもしれない。
空気を変えたくて、私は質問した。
「陛下、明日以降のメニューなのですが……一緒に考えてもらえませんか?」
「万事、カノープスに任せるゾイ」
「それは……ありがたいのですが……」
「歯切れが悪い。なんゾイ」
「食事のメニューがループしそうなんです。レパートリーが少なくて申し訳ありませんが……」
私は星空を見上げて、ため息をつく。
「他所のお宅は、どうやってその日のメニューを決めているんですかね?夫婦で?それとも、一人でしょうか」
「……疲れたか?」
「正直に言えば、少しだけ。陛下の健康面と好みを考えながら作るのは、難しいです」
「――ひらめいた!」
「陛下?」
「カノープス。明日は作らんで良い。良い考えがあるからな!その代わり、夕食時の時間はワシと共におるゾイ」
「か、かしこまりました。空けておきます」
「うむ!デハハハハハ!」
私、何か余計なことを言ってしまったかもしれない。
――――――
翌日。
身支度をすませたあと、テレビを付けた。
ちょうどニュース番組、DDDチャンネルが始まる。
そして画面の中の陛下は言った。
『直撃!晩ご飯をするゾイ!』
「ごふっ」
飲んでいたカフェオレを吹き出してしまった。咳き込みながら、それでも画面の中の陛下の話を聞く。
ランダムで晩ご飯のときに訪問すること。料理を食べさせること。料理の出来栄えによって賞金が出ること。
……これ、原作にもあった晩ご飯回だな。
陛下の言っていた“ひらめき”とは、もしかしてこのことか……?
「どうしよう……まずはリーノに相談しに行くか」
画面の中の陛下が『初回はパーム大臣の家だゾイ!』と笑顔で言った。
フームの方がいいかな。
朝食を片付けて、部屋を出る。
リーノの部屋に急ぐと、そこにはメタナイト卿の姿もあった。甘い朝だったろうに、慌ただしく訪問してしまって申し訳ない。
挨拶を交わしていると、程なくしてフームも駆け寄ってきた。
彼女は眉を下げて、質問する。
「リーノ、カノープス!朝のニュースを見た?何か知らない?」
「わたくしは何も聞かされておりません。……カノ?どうしたの」
「多分、私のせいだと思う」
顔を伏せてそう呟いた。
リーノとフームは、何事かと互いの顔を見合わせた。
メタナイト卿は用事があるため、先に帰宅された。
部屋の中に招かれ、私とフームはイスに座る。リーノも座ったところで、昨日の陛下との会話を話した。
フームは頭を抱え、言った。
「きっとそれだわ〜!」
「陛下は、カノのことを思って、今回の番組を企画されたのね」
フームとは対照的に、リーノは恋バナを聞いた乙女のように頬を染めた。なんで?
「そうなのかな?」
「そうですよ!」
「ただ、他所の家の晩ご飯が食べたいだけじゃなくて?」
「……それがないとは、言いませんが」
染まった頬が元の色を取り戻す。
フームは、かばっと頭を上げた。
「ねえ、カノープスならデデデを止められるんじゃないの?!」
「無理だろう。十年以上、側にいたからこそわかる。こう言うときの陛下は、痛い目を見ないと止まらないぞ」
「んもー!」
フームは飛び出して行った。
おそらく、大臣夫婦に買い出しでも頼まれているのだろう。
「行ってしまったな」
「フーム様もお忙しいですから……ところで、カノはわたくしに何か用が?」
「ああ。今回の暴走、陛下と君の仲直りに使えないかと思ってな」
番組が始まった。
陛下と閣下、そしてテレビクルーと私は、大臣家の部屋に突撃する。そこで陛下はステーキを味わう。
私も勧められたが、断った。どうにも申し訳なくて食べる気が起きない。
代わりに、その日のメニューを決めるコツを教えてもらう。
「食べたいものを食べているわ。あとはそうね、面倒だったら外食にするわね」
「なるほど。ありがとうございます。参考にします」
外食か……たまにはいいかもしれないな。
陛下は食事を終え、晩ご飯に点数つける。星五つで五百万デデンだ。
大臣夫婦は大層喜んだ。きっと、今頃村人たちもやる気に満ちているだろう。
「次は……」
「陛下」
「なんゾイ?カノープス」
「次はリーノのところに行きましょう」
「は?何で……」
「明日のご飯はグラタンにするそうです」
陛下と閣下がこちらをバッと振り向いた。
「何!グラタン!」
「リーノのグラタンが食べられるでゲスか!私も食べたいでゲスよ!陛下あ!」
「しかし……ぐむむ……」
私はそっと陛下の耳元に口を寄せる。
陛下は真っ赤になった。
「リーノが仲直りしたいそうです」
「!い、行ってやらんこともないゾイ。リーノ!聞こえとるな!明日はお前の部屋ゾイ!」
陛下はカメラを指差す。
うん、計画通りだ。あとはリーノが上手くやるだろう。
翌日の晩ご飯の時間に、陛下とエスカルゴン殿、そしてテレビクルーのワドルディたちに私がリーノの部屋に突撃した。
室内は模様替えをした後で、大人っぽい落ち着いた雰囲気の部屋になっている。こっちも素敵だな。
陛下は室内に入ると、リーノをビシッと指差す。
「リーノ!来てやったゾイ!グラタンを食わせい!」
「かしこまりました。すぐにお持ちします」
優雅な礼を見せて、妹はダイニングテーブルに私たちを案内した。
陛下とエスカルゴン殿が席につく。私はリーノの後を追ってキッチンに入った。
「手伝う」
「ありがとう。カノ」
できたての熱いグラタンを木製プレートに乗せて、陛下とエスカルゴン殿にそれぞれ運ぶ。
スープとサラダ、パンも一緒に。
陛下たちは目をキラキラとさせた。
「いただきま〜す!もぐもぐもぐ……」
「いただくでゲス!んぐんぐ……ああ、この味!最高でゲス!まろやかで濃厚な味の深さがたまらんでゲスよ〜」
陛下たちのご機嫌は最高だ。
謝るなら今だろう。私はそっと、リーノの背中を押す。
「あの、陛下?」
「なんゾイ」
「意地を張ってすみませんでした。わたくし、陛下と仲直りしたいですわ」
陛下はツンとそっぽを向く。
「フン!お前は意地を張ると長いゾイ」
「はい。返す言葉もございません」
「しかし、ワシは寛大であるが故に、許してやるゾイ」
「!ありがとうございます。陛下」
「よかったな、リーノ」
「カノのおかげよ、本当にありがとう」
「いやあ、私は特別なことは何もしていないさ」
「カノープス!リーノ!おかわり!」
「はい。ただいま」
やっと、大切な人たちが仲直りできた。
今はそれで、満足だ。
――――――
さて、陛下の「直撃!晩ご飯!」は続いた。
イロー宅では中華のフルコースを食べ、次のハニー宅では缶詰一個だった。タゴさんのところではコンビニ飯のスパゲティを食べ、村長さん宅で出された羊肉に辛口評価を出す。
そしてボルンさん宅では、和風の懐石料理を食べる。どれもこれも美味しそうだ。
私はいつものように、料理を作った人に質問した。
「いつも、晩ご飯はどのように決めていますか?」
サトさんはマイクを向けられても、落ち着きを崩さない。
にこやかに答えてくれる。
「レパートリーの中から選んでいるわ。一週間の献立が被らないようにあらかじめ決めているの」
「なるほど」
「お城は違うのかしら」
「ほとんど同じです。でも、陛下が違う料理をご所望されたときは、献立を変更しますね」
「わがまま言われたら、はっきり断るのよ?言いたいことを言い合えることが、長続きの秘訣だから」
「わかりました。リーノに伝えます」
「あなたもよ、カノープス。ほんと、娘二人が普通じゃない人を選ぶと、親心としては心配よ?」
「?」
「ふふ。今は、わからなくてもいいわ」
サトさんはすごく優しそうに笑っていた。
懐石料理も大詰め、カニの甲羅焼きを食す瞬間だった。
カニ味噌を、陛下がパクリと一口食べる。
――火を吹いた。
「か、辛いゾイ!!」
「陛下!誰か、水!」
ワドルディ消防隊が出動し、陛下は鎮火された。
「げほげほ!なんで味噌がこんなに辛いゾイ?!」
ボルンさんとサトさんは慌てふためく。
「わ、私は何も知りません!」
「何かの間違いです!記録した映像を確認してちょうだい!」
みんなでカメラのメモリーを確認する。
そこには、エスカルゴン殿がカニ味噌にタバスコを何十回も振りかけている様子が映っていた。
そういえばお城のお金がなくなりかけて、エスカルゴン殿は賞金を渡したくないからって細工したんだっけな。
陛下は大層怒られた。
そして「カニカニ、カニゾイ!」と連呼して城に戻る。
もちろん、原因であるエスカルゴン殿も一緒だ。
私とテレビクルーは置いて行かれてしまった。私はボルンさんとサトさんに向き直る。
「ごめんなさい。今日のところは帰ります」
「いいんだ。陛下が急なのは、いつものコトだしな」
「早く行きなさい。あれは何か起こるわ。止められるのは、あなたとリーノとカービィだけなんだから」
私は強く同意した。
走って城に戻る。
すぐにカニを食べたいなら、デリバリーシステムを利用するはずだと思った。だから玉座の間に入った。
そこにはカニを吸い込もうとするカービィがいて、フームとブンもいた。
私は一っ飛びして、カービィを上から抑える。吸い込みが止んだ。
「カノープス!」
「カービィ、やめておけ。お腹を壊すぞ」
「ぽよ?」
戦闘のあとを見る限り、どうやらカニの魔獣とコックカービィが戦ったみたいだ。
辺りを探すが、陛下とエスカルゴン殿の姿がない。
私は子供たちの方を振り返る。
「陛下たちを知らないか?」
フームは途端に機嫌が悪くなった。
「知らないわ、あんなヤツ」
「カノープスが来る前に逃げたぜ」
「そうか。ありがとう」
無事ならいい。
私はやっと一息つく思いだった。
ついでにカービィを撫でておく。
幼子は気持ちよさそうに目を細めた。