それは晴れた日の朝のニュース番組を見ていたときだった。
メーベルの占いコーナーをしていた。
テレビ画面に表示された、六枚のカードの中から一枚選ぶのだ。
私は何も選ばずに、じっと続きを待った。
やがて、雲のカードを選んだ人は頭上に注意、と占い結果が出た。
「あー……占い回か」
じゃあ特別やばいことは起きないな。私はのんびりと朝の支度を済ませる。
城の洗濯場でリーノ、アーニャ、ランタンに合流する。洗濯したシーツやら衣類を、干していった。
向こうの方ではワドルディたちも、洗濯物を干している。朝の爽やかな風が心地良かった。
「今日は晴れたし、風も吹いている。よく乾くぞ」
「そうね。風が気持ちいいわ」
「おーい!リーノ、カノープス、アーニャ、ランタン!」
「ブン様。おはようございます」
ブンだ。聞けば村に行く途中だと言う。少年はぐるりと私たちを見ると、両手を頭の後ろで組んだ。
「なあみんなは、チャンネルDDDで始まった朝の占いコーナー、もう見た?」
「わたくしはまだですわ」
同じく陛下たちの朝食を作っていただろうアーニャとランタンも首を振る。
私は洗濯物を干しつつ、言った。
「見たぞ。六枚のカードから一枚を選ぶ占いだろ?当たりでもしたのか?」
「うん。パパがね。だから明日も見るんだって言ってた」
やれやれ、といった感じだ。
リーノたちは占いと聞いて、懐かしんだ。
「そういえば、わたくしたちが子供のころにも占いが流行りましたよね」
「懐かしいわね」
「へえ、どんなの?」
「女の子向けの雑誌に掲載されていた星座占いです。毎月順位が発表されて、コメントも少し書かれていました」
「懐かしいわ……あの雑誌まだあるのかしら」
「あるぞ」
私がそういうと、みんながこちらを向く。
「確か、占いコーナーもまだあったはずだ。詳しく聞くならハニーだな」
「そうですね。気になるから、聞いてみようかしら」
「じゃあ村、行こうぜ!みんな行くのか?」
アーニャとランタンは頭を振った。
「まだ仕事があるので、誰かは残らないといけません」
「リーノ、いえ、メイド長。お願いしてもいいかしら」
リーノがニコリと笑う。
「かまいません。無くなりかけていた調味料と、お茶菓子でも買ってきますね。カノも来てくれますか?」
「私は……」
行く、と答えようとして、頭上から声がかけられる。
「カノープス!カノープスはどこゾイ!」
私は城を見上げた。
姿は見えないが、陛下に呼ばれている。
「すまない。陛下のところに行ってくるよ。洗濯物、後を頼む」
「カノープスも大変だよなあ」
ため息と共にかけられた言葉に、苦笑する。
「そうでもないぞ?」
好きな人と一緒にいられるし、悪いことばかりではない。
――――――
メーベルの占いコーナができてから、しばらくたった。
まずはパーム大臣が当たり、レン村長さん、キュリオさん、ボルン所長、カワサキさんと、連日誰かが占いの結果通りに当たっている。
そしてとうとう、エスカルゴン殿が当たった。
メーベルはお城に強制的に連れて来られて、今、お城の中でも豪華な部屋に閉じ込められている。
その部屋の外で、陛下は仰られた。
「よいか、リーノ、カノープス。メーベル様をお世話するゾイ。ワドルディたちは、この部屋を見張れい!」
「かしこまりました」
「かしこまりました」
陛下が立ち去ったのを見送ってから、私とリーノは部屋の中に入った。
メーベルは部屋をきょろりと物珍しそうに見回している。こちらに気づいて、片手を挙げた。
「はあい、お二人さん」
「こんにちは、メーベル。ケガとか、されていませんか?」
「大丈夫よ。それより、ねえ私を逃がしてくれない?私は村の占い師の方がいいのよ」
「逃がしてもいいが、また連れ戻されるだけだぞ?」
「うーん……」
「占いにのめり込み過ぎたみんなの目を覚さないと、メーベルは前のようにのんびり占いができないと思う」
「確かに、その通りだわ。ちょっと考える」
リーノはぽん、と両手を合わせた。
「お茶菓子をお持ちしますね。何がいいですか?」
「じゃあ、リーノが作ったお菓子を!一度でいいからお腹いっぱい、あなたの手作りお菓子を食べたかったのよね」
「ふふ、かしこまりました。色々作って持ってきますわ。カノ、手伝ってくださいね」
「わかった。それじゃ、メーベル。のんびりくつろいでいってくれ」
「ありがとう。そうさせてもらうわ」
私たちは部屋を出る。
そして厨房に入り、リーノにそっと話した。
「リーノ」
「どうしたの?声をひそめたりして」
「ワドルディたちの分も作っておこう」
「あら、どうして?」
「明日、メーベルが抜け出したいと願ったとき、必要だろ?」
「ワドルディたちに渡す、ワイロを作るんですね。わかりました。ついでに作っちゃいましょうか」
「ああ。やろう」
その日の夜。
メーベルはいいことを思いついたようだった。
彼女は翌日の早朝に抜け出したい、と言った。
なのでまだ誰も起きていない時間帯に、私がメーベルを抱えて城から抜け出した。リーノは留守番だ。
途中であったワドルディたち、そしてワドルドゥ隊長にはお菓子を渡しておく。
「陛下に聞かれるまで、どうか、メーベルが城を抜け出していたことは内緒でお願いします」
「うむむ……早く帰ってくるのだぞ」
「もちろんです」
交渉成立だ。さすがリーノのお菓子。絶大な人気だな。
メーベルをカービィのところへ送り届ける。メーベルは何やら、カービィにお願いをしていた。
こしょこしょと内緒の話を聞かないように、私は背を向ける。
「カノープス、終わったわよ」
「わかった。帰ろう」
またメーベルを抱え直す。
メーベルがクスリと笑った。
「あなた、本当に力持ちね」
「ああ。鍛えている」
「ふふ。お姫様になった気分だわ。柄じゃないけどね」
本当に楽しそうに笑うので、私も楽しくなった。
「丁重に運ぶのと、ちょっとスリルが味わえる方、どちらがいい?」
「両方で!」
「ふは!わかった」
私は光の道を作り出し、その上を走った。まるで天の川を走るように。
高度がぐんぐん上がっていく。メーベルは下を見ないように、そして私の首に腕を回した。
怖いかな?そう思っていたが、彼女は笑みを浮かべて「いい眺めだわ」と、感動していた。
私はサプライズが成功した気分になった。
――――――
陛下たちが気づく前に帰って来られた。私はメーベルを部屋に送り届けて、そのまま仕事に戻る。
変化が起きたのは、昼ごろだった。
メイドたち三人と廊下を掃除中に、陛下とエスカルゴン殿が荷物を抱えて、大慌てでやってきた。
「もうすぐ世界は終わる!とにかくお前たちも来るゾイ!」
陛下は私の手を取ると、引っ張り出す。私ははぐれないようにと、リーノと手を繋いだ。
メーベルの後ろを追う。お城の橋に出たところで、リーノがお城の方角を見上げた。
視線を追うと、その先にはメタナイト卿たちがいた。
私は手を離さなかった。
「リーノ。今はとにかく陛下に従おう」
「ええ……」
陛下は不安なのだろう。絶対に私の手を離してくれそうにない。
私もまた、この状況でリーノの手を離す気はなかった。
海岸が近づくにつれて、村人たちも集まってきた。
その数は膨れ上がり、村中の人々が来ているようだった。
そして、海岸にたどり着く。
そこでメーベルは竜巻を起こし、海を割ってみせた。
みんながメーベルを崇める。
そこで彼女は言った。
「みんな本当にバカね〜」
いつもの彼女の声だった。
メーベルはネタバラシをする。竜巻の正体はトルネードカービィだったのだ。
「占いは当たらなくて結構。悩みや心配事を聞いて、相談者の心を軽くすることが、私の仕事なのよ。サモが言ってたわ。私はカウンセラーだって」
村人たちは動揺しながらも、メーベルの言葉を聞き入れた。
しかし、陛下とエスカルゴン殿はやはりというか、怒った。
「それじゃ、ロイヤルカントリークラブは!?」
「やめておいた方がいいわね」
「ぐぬぬ!ワシをコケにしよって!」
陛下はハンマーを振り上げます。
私は振り上げられたハンマーの、陛下が握っている部分に手を添えた。
「陛下。みんな無事ですし、いいじゃないですか」
「うるさい!お前も騙されたのだぞ!もっと怒らんか!」
「陛下が、リーノも……みんな無事ですので、怒る理由がないですね」
「ぐむう」
陛下は少し考えられたあと、ゆっくりとハンマーを降ろした。
そしてメーベルに背を向ける。
遠ざかっていく背に、メーベルは声をかけた。
「陛下!今度、お詫びに恋占いしてあげるわ」
「う、うるさいゾイ!」
「恋占い……」
え?陛下って好きな人いるの??――誰だよ!!!!
ライバル心を燃やしていると、陛下から声がかかる。私はグッと前を向いた。
「(とにかく、今、陛下のお側にいるのは自分だ!)」