カノープスの終生   作:紅絹の木

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トッコリ卿

 

 

 陛下とエスカルゴン殿のせいで、森が一部焼けてしまった。

 なので、お二人は植林することになった。

 何日も何日もフームの指導の下、お二人はせっせと若木を植えていく。

 

 それが昨日、終わったらしい。

 できれば昨日のうちにお祝いをしたかったのだが、陛下もエスカルゴン殿もお疲れだったため、中止になった。

 なので数日後、余裕をもって準備にとりかかる。

 

 

 

 

 その日は、リーノと二人で村に買い出しをしていた。

 その途中で、スコップやシャベルを抱えた村人たちの一団を見かける。

 みんな、何かに夢中でこちらには気づかないようだ。そのまま走り去っていった。

 

「祭りか?」

「それにしては、我先にと前を走っていたわ……あんまり楽しそうに見えないけど」

「いや、そうでもないよ」

「キュリオさん」

 

 考古学者のキュリオさんだ。彼は分厚い本を片手に持っていた。

 挨拶を交わし、キュリオさんは今村で起きていることを話してくれた。

 

「なんと、トッコリの先祖が隠した財宝が、このププビレッジにあるかもしれないんだ!」

「それは凄いです!みなさん、財宝を見つけるためにスコップやらシャベルを持っていたのですね」

「そういうことだ。どうかな?二人も来るかね」

 

 リーノは首を横に振った。

 

「残念ですが、今日は都合が悪いのでやめておきます」

「私も、外せない用事がある」

 

 あの財宝よりも、陛下の笑顔が見たい。

 私たちはキュリオさんと別れて、再び村へ歩き出した。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 目的の最高級のお肉を手に入れた私たちは、真っ直ぐ城に帰ってきた。

 肉は冷蔵庫に入れておき、帰城した報告をするべく、陛下がいるだろう玉座の間に向かう。

 玉座の間では、トッコリが玉座に座り、陛下とエスカルゴン殿からもてなしを受けていた。

 なんだ、この光景は?

 

「おう!リーノ、カノープス。茶!」

「いらっしゃい、トッコリ。わたくしたちはお茶ではありませんよ」

「いいから!お茶を大至急持ってくるゾイ!」

「?かしこまりました」

「カノープスはお菓子な!」

 

 しょうがない。そう思って返事をしようとしたら、鬼の形相となった陛下が目に入った。

 トッコリには見えていない後ろで、陛下はエスカルゴン殿に止められていた。

 

「カノープスに命令できるのはワシだけゾイ……!」

「陛下、お宝のため、お宝のためでゲスよ……!」

「ぐぬぬ……!」

 

 そのようなことを、ボソボソと話しているのが聞こえた。

 私は嬉しくて気分が高揚した。だけど、機嫌が良いことを悟られるのは恥ずかしかったので、声の調子が普段と変わらないように抑える。

 

「では、とりあえずお菓子とお茶を用意してきます。行こう、リーノ」

「ええ。失礼いたします。陛下、閣下」

「おーう!早めに頼むじぇ」

「ぐぬぬ……!」

「陛下、抑えて!抑えて……!」

 

 軽く頭を下げて、私たちは再び玉座の間から出ていった。

 何とも慌ただしい。

 しばし廊下を歩いたところで、リーノにこそっと話す。

 

「お菓子や飲み物は、三人分用意しようか」

「そうね。三人分お出ししましょう」

 

 その方が喧嘩がなくて良い……ということになった。

 

 

 

 厨房に到着する。

 そこにはすでに、アーニャとランタンがいた。

 どうやら、三時のおやつの用意をしてくれていたようだ。事情を説明して、二人が用意していたオヤツを使わせてもらうことにした。

 準備している間に、今もてなしを受けているトッコリが話題に上がった。

 

「それで、陛下たちがトッコリをもてなしている理由って……」

「お察しの通りです。おそらく……」

「財宝が見つかったら、トッコリから財宝を奪う気でしょうね」

「ああ、陛下ったら」

 

 リーノがひどく落ち込むので、私は言った。

 

「その時は止めよう。誰も、トッコリの財宝を勝手になんて使えないのだから」

「そうですわね……もしもの時はしっかり怒りましょう」

 

 決意した瞳は力強く輝く。

 

 

 

 さて、四人集まれば準備なんてあっという間に終わる。

 お菓子と飲み物を乗せたカートをガラガラと押して、玉座の間へ向かった。

 しかし、その途中で三人に出会う。陛下と、陛下に握られたトッコリと、エスカルゴン殿である。

 

 急用ができたようで、しばらく出るとのことだ。

 それだけを言ってしまうと、陛下たちは走って行ってしまわれた。

 

 残された私たちはポカンと口を開ける。

 そして互いに顔を見合わせた。

 

「――財宝が見つかったのでしょうか?」

「かもしれないわね。どうするの?追いかけるの?」

 

 アーニャとランタンの言葉に、私は首を横に振った。

 

「財宝が本当にあったのなら、この城まで運ぶだろう。その時に止めても遅くないはずだ。それでどうする……?用意したお菓子は、四人で食べてしまうか?」

「おかわりを考えて、実際は三人分の倍を用意したから、四人で食べたとしても、ちょっと多いわ」

「――じゃあ、メタナイト卿たちを呼ぼう。どうかな?」

 

 賛成四名、反対なし。

 私たちは順番に、彼らがいそうな場所を探してまわった。

 

 

 

 

 戦士たちは玉座の間にて、何やら調べていた。

 どうやら魔獣がダウンロードされていないか、履歴を確認していたらしい。

 

 玉座の間の向かい側、ベランダにてレジャーシートを敷いて、私たちは座った。

 さすがに七人は座れなかったので、私は自身のマントを畳んでクッションにし、そこに座った。

 

 はじめは和やかにお菓子を食べていたが、魔獣がダウンロードされる可能性があると聞いて、メイドたちと私はひどく緊張する。

 その緊張を理解してか、メタナイト卿はカップを置いて言った。

 

「食べ終わったら、隠れてほしい。カノープス、みなを頼むぞ」

「ああ、任せてくれ。誰もケガさせないよ」

 

 そう言って、愛用の鉄パイプを撫でた。

 

 

 

 三戦士と別れた後、私の自室に妹たちを招いた。

 私の部屋が一番広いからな、快適に過ごしてもらえるだろう。

 彼女たちはそわそわと、落ち着かない様子だった。

 だが、一際大きな獣の声が聞こえてきて。彼女たちは一斉に、私の元に集まる。

 震える背に手を添えて、魔獣が去るのを待った。

 

 遠くで聞こえていた魔獣の足音が、まったく聞こえなくなる。

 代わりに聞き慣れた金属同士が当たる音が近づいてきて、ドアがノックされた。

 体を飛び上がらせる妹たちに「大丈夫」と声をかける。

 

「ブレイドナイトだ。魔獣は城から出て行った。もう出て来ても大丈夫だ」

 

 その言葉に、私たちは胸を撫で下ろしたのだ。

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 また魔獣が城に帰ってくるかもしれないから、念の為四人で行動した。

 始めこそ、妹たちはびくびくと辺りを窺いつつ、手を動かしていた。けれど、魔獣は帰って来ない。

 帰って来たら、その時は逃げる……そう決めて彼女たちはキビキビといつものように働きだした。

 

 表情こそ、まだ強張っているけれど、日常が戻ってきたようだった。

 

 

 

 夕方になると、陛下とエスカルゴン殿が帰ってきた。

 海に落ちたらしく、二人とも海水でベトベトだ。

 リーノはすぐに指示を出した。

 

「すぐに浴槽の準備を!浴槽の準備が整い次第、アーニャとランタンは、夕食の準備を始めてください。カノは、陛下と閣下にスムージーを作ってあげて。小腹が空いているでしょうから、夕食前に飲んでいただきます」

「了解。メイド長」

「かしこまりました」

「かしこまりました」

「よろしくお願いします。陛下、閣下、ゆっくりでいいので浴室の方まで歩いていただけますか?直ちに準備をしてきますので」

 

 陛下とエスカルゴン殿は、緩慢とした動きで頷く。

 

「なんでも、いいゾイ……」

「好きにしてくれでゲス……」

「承知いたしました。……夕食は軽めになさいますか?」

「ガッツリ食べたいゾイ」

「では、そうですね……すき焼きは、いかがでしょうか?」

「それでいいゾイ」

「かしこまりました。カノ、わたくしたちを運んでください」

「わかった。特急便だ。捕まっていてくれ」

 

 背中にリーノ、左にランタン、右にアーニャを抱えて走り出す。

 

 宝は手に入らなかったみたいだ。

 それでいい、と思った。

 

 

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