ある日の午後、快晴。
太陽は天高くキラキラと私たちを照らしている。
今日はビックニュースがあった。
海と川の間、それらと繋がっている大きな湖のような場所で、クジラが泳いでいる。
迷いクジラだ。聞いた話によると、子クジラを探しているらしい。つまり目の前にいるのは親クジラなのか。
……それにしては小さい気がするが。
親クジラの周りに張り付く黒色に光る船には、様々な人たちを乗せていた。
所有者の陛下、エスカルゴン殿、ワドルドゥ隊長とワドルディたち。護衛である私と、世話役のリーノ。
フーム、ブン、カービィ、ハニー、イロー、ホッヘといういつものメンバーに加えて、レン村長といった選ばれた村人たち。
結構な大所帯だ。
「たまには、ゆっくり海を眺めてホエールウォッチングするのもいいな」
私がそう言うと、隣にいたリーノがはしゃいだ様子で同意した。
「そうですわね!クジラを生で見ることができるなんて、興奮してしまいますわ」
目をキラキラさせて、両手を胸の前で組み、じっとクジラの方を見ていた。
見回せば、子供たちも村人たちもクジラに夢中だ。みんな、物珍しそうにクジラを見つめている。
そんな中で、陛下とエスカルゴン殿がコソコソと話し合っている。
怪しいな……。
リーノを誘い、共に陛下とエスカルゴン殿の元に向かう。そして後ろから声をかけた。
「陛下、エスカルゴン殿。何をしていらっしゃるのですか?」
二人は一瞬硬直した後、ゆっくり私たちの方を振り向いた。
顔は緊張されているのか、表情がかたい。
「な、何でもないゾイ!」
「そうそう!お前たちはゆっくりクジラを見るでゲス」
慌てているようだ。やはり怪しい。
何かを企んでいるのは間違いない。どうにかして、その企みをやめさせたいが……。
コンコン。
腰辺りの鎧部分を突かれた。
振り向けば、リーノが私を見ている。
膝を曲げて、顔を近づけた。
「どうした?」
「あのね……」
こそこそと耳打ちされる。
陛下たちにはわからないよう、両手を添えて。
「陛下に、可愛く“一緒にホエールウォッチングしましょう”って誘ってみて……とっても可愛くよ」
ええ……。
耳から離れていった妹をじっと見つめる。
リーノは、問題ないと言わんばかりに、拳を握る。
「ファイト!」
「……わかった」
私は片膝をついて、背を伸ばした。
自然と、陛下を見上げる高さになった。
両手を組み、そして……。
「ダメでゲスよ!」
エスカルゴン殿が立ちはだかる。
リーノは困ったように言った。
「閣下……」
「カノープス!陛下に何かお願いしちゃダメでゲス!リーノの入れ知恵でゲスね!やめるでゲスよう!」
「閣下、これは陛下とカノの問題です。陛下、カノの話を聞いていただけませんか?」
「き、聞けんゾイ!」
「一分もかかりませんわ。さあ、カノ」
「あ、ああ……」
そしてコソッと言われる。
「いつものではなくて、大胆に可愛くしてみて」
お姉ちゃんには難しいよ……。
とにかくやってみよう。リーノが言うなら、効果があるだろうし。
私は片膝をついたまま、陛下に近づく。
陛下のつけている香水が私の鼻をくすぐった。男性らしい、スモーキーな香りだ。
そうして陛下の左手を取り、胸の前まで持ってくる。両手で包み、視線はまっすぐ陛下の方を見た。
ただ誘うだけなのに、デートの誘いかのように、大変緊張する。
声も意識して、女性らしい高めの声が出るように気をつけた。
「へ、陛下と一緒に、ホエールウォッチングがしたいです……お願い」
掠れそうな弱々しいお願いになってしまった。
恥ずかしいな!
パッと陛下の手を離し、両手で顔を隠す。
まあ、兜で顔が隠れているのだから、誰にも見られていないが。それでも恥ずかしいから、顔を隠した。
「――カノープスのそんな声、初めて聞いたかも」
「あなた、本当はすごく女性らしいのね」
「ぽよ!」
ブンとフームとカービィが、いつの間にか側に来ていた。彼らはマジマジと私を珍しそうに見ている。
「み、見ないでくれ……」
「あ、もう低い声に戻ってるや」
「ねえ、カノープス。普段から、さっきの女性らしい声で話したら?そうしたら、あなたを男性だと間違う人はいなくなるわ」
「ぽよい!」
「な、ならんゾイ!」
「デデデ!?」
「陛下……」
陛下を見上げると、お顔が真っ赤だった。
怒っているような、慌てているような表情だったので、私は先ほどの“お願い”が意味なかったのかな?怒らせてしまったかな?と、考えた。
謝罪しようとしたが、それよりも前に陛下の手が伸びた。私の右腕を掴み、引っ張る。
私は引っ張られて、立ち上がった。目線の高さが戻る。
「カノープスはこのままで良い!――兵士!ホエールウォッチングの準備をせい!」
どうやら、私のお願いは聞き届けられたらしい。
陛下の命令を聞きつけて、兵士はパパッと場を整えた。
ビーチパラソルに、ちょっと低めの丸テーブル。ビーチパラソルの左右には、ビーチチェアが一つずつ置かれた。
陛下は、私の右腕を掴んだまま、そこへ歩いていく。私も連れられていくままに、足を運んだ。
片方のチェアに陛下は座る。そして、反対側のチェアを指さして言った。
「あっちに座るが良いゾイ」
「ありがとうございます。陛下」
お言葉に甘えて、ビーチチェアに座る。
次はリーノが呼ばれた。
「リーノ!甘くて冷たいサイダーを持ってくるゾイ!」
「かしこまりました。陛下とカノの分ですね?すぐにお持ちします」
リーノは陛下に一礼すると、私たちの後ろを通った。
通り過ぎる際、彼女は私に向かって「素敵だったわ」と褒めてくれた。
そうか、よくできたのか。よかった。
喜びがじわじわと体の中に広がっていく。チラリと陛下を見ると、陛下はまだお顔が赤かった。
私と、同じ気持ちであれば良いな……と、そう思うのだ。
それからは何事もなく、クジラを観察できた。
クジラは船を避けて、海の方へ出た。
そこで、さらに大きな……島のような大きさのクジラに出会う。
フームが言った。
「私たちが親クジラだと思っていたのは、実は子クジラだったんだわ!本当の親クジラは、あのとてつもない大きなクジラの方よ!」
二匹のクジラは、仲睦まじく水平線の先へ泳いでいった。