遠い向こうの空には、大きな雲が流れていた。
「積乱雲かな?大きいな」
雲に指を向けると、隣にいたリーノが顔を上げて青空を見上げる。
「――そうね。きっとそうだわ」
快晴、雲は遠く、今日の昼はコックカワサキの店に招待されていた。
陛下に来るよう命令されて、他も誘って良いと許可をいただけたから、私、リーノとアーニャとランタンの四人で村を歩く。
いつものメンバーだ。
そして村はいつもと違った。
コックカワサキの店には長蛇の列ができていたのだ。
お城から歩いて、少々疲れているアーニャとランタンは困ったように言った。
「この列に並ぶのですか……?」
「今すぐは無理だわ。コンビニにでも寄りたいけれど、この調子じゃどこも閉まっているわね」
どういたものかと、四人でレストランを見つめる。
すると、ちょうどレストランの出入り口である引き戸が開いた。
陛下だ。
陛下は、きょろりと辺りを見回して、私たちに気づいた。こちらに歩いてくる。
「こんなところで何をしているゾイ!」
「すみません。早く並びますね」
「並ぶ?何を言うておる。カノープスたちはこっちゾイ」
陛下は私の手首を優しく掴み、こちらだと、引っ張る。
引っ張られるままに足を動かして、妹たちと向かった先は、改装されたレストランの中だった。
カワサキを中心に楕円形に回る、レーン。
まさしく回転寿司だった。
「あの、良いのでしょうか?並んでいる方々をおいて、私たちが入っても」
「ワシが許すゾイ。それに今日はオープン記念日!招待したのはお前たちだけではないのだ。安心して楽しむが良いゾイ」
「それを聞いて安心しました。他に来られる方々は……?」
「大臣一家と村長宅だゾイ」
「左様ですか」
城と村の権力者が来るのか。私ら場違いでは……?
うーん、と悩む。
だが、陛下はそれはそれは上機嫌で。私たちを、店内でもより良い席に案内する。
つまりカワサキの目の前だ。すぐに注文した寿司を受け取れる場所である。
「ほれ、座るゾイ」
「はい」
ご厚意は素直に受け取っておこう。
私、リーノ、アーニャにランタンの順番で座る。席に座ると、陛下の手は離れていった。
そこにちょうど大臣一家とカービィ、村長家がやって来た。彼らは先に店に入っていた私たちにちょっとだけ驚き、納得する。
「やはり、カノープスたちも呼ばれていたか。もう寿司は食べたかい?」
パーム大臣が私の隣に座る。それからメーム様、フーム、ブン、カービィと並んだ。
私は首を横にふる。
「いえ、まだですね」
そこにカワサキの声が入ってきた。
「席が埋まったら、陛下が許可を出すから、それまで出せないんだよね〜」
「そうなのか。わかった」
しばし待っていると、空席に並んでいた村人たちが座った。
全席が埋まったところで、陛下が乾杯の音頭をとられる。
「ワシに感謝して食べるが良いゾイ!デーハハハハハ!乾杯!」
「乾杯。……リーノ、パーム様、メーム様、みんな乾杯」
「お茶なんだが……まあいいか。乾杯」
「乾杯」
「乾杯ですわ」
回り始めた寿司を一皿、いただく。
ふむ、ホタテか。好きなネタだ。
――――――
一人、十枚分の寿司を食べたころ。
リーノたちの手が止まったので、そこで食事を終えることにした。
陛下とエスカルゴン殿、カワサキに挨拶を済ませる。そして会計を済ませようとして……。
「待て。カノープスたちは払わなくても良いゾイ」
「なぜでしょうか?」
「ワシが招待した客に、金を取るなぞけしからんゾイ!どうしても何かしたいと言うならば、この店の宣伝でもしてくるゾイ」
私たちは陛下の言葉に甘えることにした。……甘えてばかりだが、ここで甘えなかったら、陛下は怒りだしそうだった。
店を出て、列に並ぶ村人たちの方へ歩いていく。
そして大きめの声で、回転寿司の感想を言った。
効果はそれなりにあったようで、村のみんなはゴクリと、喉を鳴らして私たちの宣伝を聞いていた。
村を一周してから、私たちは帰城する。
メタナイト卿たち三戦士が迎えてくれた。
「どうだったか?」
メタナイト卿が聞いてきた。リーノも私も、何を聞きたいのかわかっているつもりだ。
「魔獣の気配ならナシだ」
「カワサキさんも、陛下たちも、食事にもおかしな点はありませんでした」
「そうか……ふむ」
「もしかしたら、これから現れるのかもしれない」
私の言葉に、みなに緊張がはしった。
メタナイト卿が言う。
「ならば、明日からは回転寿司には行くな。危険だ」
「わかりました。誘われましたら、断るようにいたします。アーニャとランタンも、いいですか?」
「構わないですよ」
「こっちも、いいわ」
三人が頷くのを見て、私は安心する。
「私たち四人は、いつもみたいに、できるだけ固まって過ごそう。それでいいな?メタナイト卿」
「それで良い。頼むぞ」
「任せてくれ」
――――――
そして次の日の夕方。
カラカラに乾いた洗濯物をとりこんでいるとき、帰城したフームとブンとカービィを見つけた。姉弟は疲れ気味で、カービィは元気だ。
リーノに声をかけて、二人でフームたちの側に駆け寄る。
「フーム様、ブン様、カービィ。こんにちは。ずいぶんお疲れのご様子ですね」
「リーノ、カノープス。聞いてよ……」
「デデデのヤツがさ……」
イカの魔獣がダウンロードされた。カービィおかげで事なきを得たが、なんとも心臓に悪いな。
そして今まで、イカの切り身となり地面に落ちたそれらを、洗ってはカービィにあげたらしい。
「カービィが望んで食べたとはいえ、うっぷ……」
「ありゃ食べ過ぎだよ……今日は晩ご飯、喉を通らないかもなあ」
「本当にすみません」
深く腰を折って謝るリーノ。
それをフームとブンは「悪いのはデデデだから」と、言った。
「あーそれよりさ、リーノにはもっと悪い報があってさ」
「実はね、デデデったらみんなに回転寿司をもっと食べさせようとして、その……」
「村中の家の壁をブチ抜いて、レーンを繋げたんだ。レーンが村一周できるように」
「誠に、申し訳ありませんわ……!」
「明日、村のみんなに謝罪しに行こう。リーノ」
「ええ、行きましょう!お詫びになるのかわかりませんが、お菓子も持って行きましょう!」
リーノの目はギラギラと決意に満ちていた。