カノープスの終生   作:紅絹の木

39 / 63
モスカバー

 

 

 

 回転寿司の件で、村中に謝罪しにまわった。

 ブチ抜いてしまった村の壁を修復して、お詫びの品としてリーノたちが作ったたくさんのお菓子を、村人たちに渡した。

 非常に大変な一日だった。

 

 その疲れもとれていない日に、事件は起きた。

 村で花粉症が流行ったのだ。

 フームが言うには、今年は異常に多くの花粉が飛んでいるらしい。

 

 私とリーノと、加えてカービィは平気だが……アーニャとランタンが大変そうだ。

 早く花粉の季節でなくなればいいのだが。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 数日後の夜中。

 城で警報が鳴った。

 滅多に鳴らない警報の理由は、巨大なイモムシだ。

 それは城に向かってきて、城壁に張り付き、糸を吐いてサナギになった。

 戦闘にならないことはわかっていたが、いざイモムシを見ると、ちょっと怖い。

 今日は妹たちと一緒に寝ることとする。

 

 

 

 そして朝になった。

 巨大なサナギが城に張り付いていること以外は、気持ちの良い朝だった。

 太陽は眩しく快晴で、風が爽やかで……そんな城の廊下を、私と三人のメイドたちは歩いていた。

 

 陛下のお部屋に行くためだ。夜中に現れたイモムシについても、何か知れたら嬉しい。

 部屋の両扉をノックして、お返事を聞いてから、中に入る。

 

「リーノとカノープスのみ、入るがよいゾイ」

 

 私たちは廊下で顔を見合わせた。どうしたのだろうか?とにかく、返事をする。

 

「かしこまりました」

 

 私とリーノのみ、部屋に入った。

 すでに起きて、支度を済まされていた陛下は、今日も肌艶が良くお元気そうだ。

 ……部屋に見慣れない鳥カゴがある。

 中には、花のように小さな双子と思わしき、リーノたちのような種族の見た目の人が入っていた。

 

「陛下、ご機嫌麗しゅう」

 

 リーノの声で気づく。挨拶がまだだった。

 私は頭を下げた。

 

「おはようございます。陛下」

「うむ。おはよう。そちらに、ザ・ツインナッツという双子の妖精がおる。それらの世話と、見張りをせい」

「承知しました。陛下」

「かしこまりました。一生懸命、お世話させていただきます」

 

 そうか。あの子たちがザ・ツインナッツなのか。

 深く頭を下げる私たちに満足された陛下は、ゆっくりと頷かれる。

 

「うむ。では、ワシはもう行くゾイ。あとは万事任せる」

 

 陛下はそう仰って、部屋から出て行かれた。

 廊下でアーニャとランタンと合流し、そして朝食を食べに行くのだった。

 さて……。

 

「まずは挨拶を」

「そうですわね」

 

 部屋に残った私たちは改めて、双子の妖精に向き直る。

 しかし、双子の妖精は怯えていた。それもそうか。確かナイトメア社によって、無理やりここへ連れてこられたハズだ。

 私たちは相手を怖がらせない位置で止まる。

 まずリーノが話しかけた。

 

「はじめまして。おはようございます。わたくしはリーノ。陛下からあなた方のお世話を任されたメイドですわ。そして、こちらが……」

 

 一歩前に出て、片膝をつく。そして頭を軽く下げて、敵意がないことを示した。

 誰かが「ほう」と息を吐く。

 

「戦士のカノープスです。あなた方をお守りします」

 

 私は、低音のかっこいい声で自己紹介する。

 

「カノープスだ。どうぞ、よろしく」

 

 そこで顔をあげる。顔が隠れる兜越しでは、表情はわからないだろう。それでも、にっこりと兜の中で笑った。

 ザ・ツインナッツは、私たちに敵意がないことに気づいたのか、互いに顔を見合わせると、両手を組んでお願いする。

 

「お願いです!」

「私たちをここから出して!」

 

 今度は私たちが顔を見合わせる番だった。

 その様子に、双子の妖精は肩を落とす。

 

「やはり……」

「無理ですか?」

 

 私は咄嗟に「違う」と言った。

 

「あなた方を助けることに関しては、賛成だ。ただ、今ではない」

「そうですわね。城は、ただいま警戒態勢です。そんな中であなた方を無事に逃がすことは、難しいかと」

「だから、タイミングをみて逃す。それまでは、どうか、辛抱してほしい」

 

 私たちは、深く頭を下げてお願いした。

 ザ・ツインナッツは、私たちが敵ではないことを知って笑顔を見せてくれた。

 

「わかりました。逃げるタイミングは……」

「お二人にお任せします」

 

 私たち四人は互いに信じ合い、力強く頷いた。

 

 

 

 それからリーノは部屋の中に留まり、双子の妖精の世話をした。

 食事を用意し、鳥カゴの中にクッションを敷いていた。落ち着いた彼女たちは眠った。

 余程、昨夜は緊張していたのだろう。互いに身を寄せ合って寝ている。

 私とリーノは小声で話した。

 

「お疲れなのですね。しばらくは落ち着けると良いのですが」

「そうだな。静かにしておこう」

「本でも読んで待ちます。この部屋にある物で、オススメはありますか?」

「すべて冒険ものだ。それでも良いなら、下段から数えて二段目に置いてあるシリーズがオススメだよ」

「どんな風に面白いの?」

「ハチャメチャな展開が魅力的だ。これ以上は内緒だな」

「そう……少し読んでみるわね」

 

 リーノはずいぶん読み込まれた本を一冊、手に取る。

 私は廊下の方へ向かった。

 

「私は扉の外で、警備にあたるよ」

「何か、飲み物でも」

「リーノはここで休むといい。必要なら、お願いするよ」

「わかったわ。その時は言ってね」

 

 私はイスを一脚持って、部屋の外に出る。そして扉を閉めて、その扉の前にイスを置いた。そして座る。

 その時がくるまで、じっと待っていた。

 

 

 

 

 

「カノープス!そこを通して!」

「……陛下から見張りをするよう命令されている」

 

 切羽詰まった様子のフームとブンが、現れた。

 おそらくカービィとモスカバーが戦っているのだろう。

 モスカバーを止めるには、双子の妖精の歌がいる。

 私の言葉を聞いて、フームは一歩前に出た。

 

「どうしたら、中に入れるの?」

「フーム、私は見張りをしているだけだ。だから……」

「!ブン、行くわよ!」

「へ?でも……」

「カノープスは見張りだけを命令されただけ!誰も入れるな、とは言われていない!」

「そっか!なんだ、言ってくれればいいのに!」

「宮仕は難しいんだ」

 

 私は立ち上がり、イスを持って横に退いた。

 フームとブンは「ありがと!」と言って、中に突入する。

 そして部屋でリーノと何か話した後、双子の妖精を手の平に乗せて、どこかへと走っていった。

 

 

 やがて聞こえくるザ・ツインナッツの声は、優しく城中に響いたのだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。