回転寿司の件で、村中に謝罪しにまわった。
ブチ抜いてしまった村の壁を修復して、お詫びの品としてリーノたちが作ったたくさんのお菓子を、村人たちに渡した。
非常に大変な一日だった。
その疲れもとれていない日に、事件は起きた。
村で花粉症が流行ったのだ。
フームが言うには、今年は異常に多くの花粉が飛んでいるらしい。
私とリーノと、加えてカービィは平気だが……アーニャとランタンが大変そうだ。
早く花粉の季節でなくなればいいのだが。
――――――
数日後の夜中。
城で警報が鳴った。
滅多に鳴らない警報の理由は、巨大なイモムシだ。
それは城に向かってきて、城壁に張り付き、糸を吐いてサナギになった。
戦闘にならないことはわかっていたが、いざイモムシを見ると、ちょっと怖い。
今日は妹たちと一緒に寝ることとする。
そして朝になった。
巨大なサナギが城に張り付いていること以外は、気持ちの良い朝だった。
太陽は眩しく快晴で、風が爽やかで……そんな城の廊下を、私と三人のメイドたちは歩いていた。
陛下のお部屋に行くためだ。夜中に現れたイモムシについても、何か知れたら嬉しい。
部屋の両扉をノックして、お返事を聞いてから、中に入る。
「リーノとカノープスのみ、入るがよいゾイ」
私たちは廊下で顔を見合わせた。どうしたのだろうか?とにかく、返事をする。
「かしこまりました」
私とリーノのみ、部屋に入った。
すでに起きて、支度を済まされていた陛下は、今日も肌艶が良くお元気そうだ。
……部屋に見慣れない鳥カゴがある。
中には、花のように小さな双子と思わしき、リーノたちのような種族の見た目の人が入っていた。
「陛下、ご機嫌麗しゅう」
リーノの声で気づく。挨拶がまだだった。
私は頭を下げた。
「おはようございます。陛下」
「うむ。おはよう。そちらに、ザ・ツインナッツという双子の妖精がおる。それらの世話と、見張りをせい」
「承知しました。陛下」
「かしこまりました。一生懸命、お世話させていただきます」
そうか。あの子たちがザ・ツインナッツなのか。
深く頭を下げる私たちに満足された陛下は、ゆっくりと頷かれる。
「うむ。では、ワシはもう行くゾイ。あとは万事任せる」
陛下はそう仰って、部屋から出て行かれた。
廊下でアーニャとランタンと合流し、そして朝食を食べに行くのだった。
さて……。
「まずは挨拶を」
「そうですわね」
部屋に残った私たちは改めて、双子の妖精に向き直る。
しかし、双子の妖精は怯えていた。それもそうか。確かナイトメア社によって、無理やりここへ連れてこられたハズだ。
私たちは相手を怖がらせない位置で止まる。
まずリーノが話しかけた。
「はじめまして。おはようございます。わたくしはリーノ。陛下からあなた方のお世話を任されたメイドですわ。そして、こちらが……」
一歩前に出て、片膝をつく。そして頭を軽く下げて、敵意がないことを示した。
誰かが「ほう」と息を吐く。
「戦士のカノープスです。あなた方をお守りします」
私は、低音のかっこいい声で自己紹介する。
「カノープスだ。どうぞ、よろしく」
そこで顔をあげる。顔が隠れる兜越しでは、表情はわからないだろう。それでも、にっこりと兜の中で笑った。
ザ・ツインナッツは、私たちに敵意がないことに気づいたのか、互いに顔を見合わせると、両手を組んでお願いする。
「お願いです!」
「私たちをここから出して!」
今度は私たちが顔を見合わせる番だった。
その様子に、双子の妖精は肩を落とす。
「やはり……」
「無理ですか?」
私は咄嗟に「違う」と言った。
「あなた方を助けることに関しては、賛成だ。ただ、今ではない」
「そうですわね。城は、ただいま警戒態勢です。そんな中であなた方を無事に逃がすことは、難しいかと」
「だから、タイミングをみて逃す。それまでは、どうか、辛抱してほしい」
私たちは、深く頭を下げてお願いした。
ザ・ツインナッツは、私たちが敵ではないことを知って笑顔を見せてくれた。
「わかりました。逃げるタイミングは……」
「お二人にお任せします」
私たち四人は互いに信じ合い、力強く頷いた。
それからリーノは部屋の中に留まり、双子の妖精の世話をした。
食事を用意し、鳥カゴの中にクッションを敷いていた。落ち着いた彼女たちは眠った。
余程、昨夜は緊張していたのだろう。互いに身を寄せ合って寝ている。
私とリーノは小声で話した。
「お疲れなのですね。しばらくは落ち着けると良いのですが」
「そうだな。静かにしておこう」
「本でも読んで待ちます。この部屋にある物で、オススメはありますか?」
「すべて冒険ものだ。それでも良いなら、下段から数えて二段目に置いてあるシリーズがオススメだよ」
「どんな風に面白いの?」
「ハチャメチャな展開が魅力的だ。これ以上は内緒だな」
「そう……少し読んでみるわね」
リーノはずいぶん読み込まれた本を一冊、手に取る。
私は廊下の方へ向かった。
「私は扉の外で、警備にあたるよ」
「何か、飲み物でも」
「リーノはここで休むといい。必要なら、お願いするよ」
「わかったわ。その時は言ってね」
私はイスを一脚持って、部屋の外に出る。そして扉を閉めて、その扉の前にイスを置いた。そして座る。
その時がくるまで、じっと待っていた。
「カノープス!そこを通して!」
「……陛下から見張りをするよう命令されている」
切羽詰まった様子のフームとブンが、現れた。
おそらくカービィとモスカバーが戦っているのだろう。
モスカバーを止めるには、双子の妖精の歌がいる。
私の言葉を聞いて、フームは一歩前に出た。
「どうしたら、中に入れるの?」
「フーム、私は見張りをしているだけだ。だから……」
「!ブン、行くわよ!」
「へ?でも……」
「カノープスは見張りだけを命令されただけ!誰も入れるな、とは言われていない!」
「そっか!なんだ、言ってくれればいいのに!」
「宮仕は難しいんだ」
私は立ち上がり、イスを持って横に退いた。
フームとブンは「ありがと!」と言って、中に突入する。
そして部屋でリーノと何か話した後、双子の妖精を手の平に乗せて、どこかへと走っていった。
やがて聞こえくるザ・ツインナッツの声は、優しく城中に響いたのだ。