カノープスの終生   作:紅絹の木

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五年

 

 親友二人は、昼の十二時にやってきた。

 ドアベルが鳴らされ、リーノが返事をする。

 

「はい。どなた?」

「私よ。ランタンと……」

「アーニャです」

「今開けるね!」

 

 玄関の扉を開ければ、リーノと同じくらいの背丈のキャピイ族が、二人立っていた。

 その子達が、家の中へ入ってくる。

 一人は品良くアクセサリーを身につけていて、大人びた子供。

 もう一人はメガネをつけて、カーディガンを羽織った子供だ。

 

 二人は、私を見た瞬間に目を大きく開いた。きっと驚いたのだろう。

 私は無害をアピールしたくて、笑顔を作った。

 

「はじめまして。こんにちは」

「こ、こんにちは」

「こんにちは……」

「大丈夫よ、二人とも!カノープスは悪い人じゃないわ」

「カノープス?」

「それが、旅人さんの名前ですか?」

 

 私はこくりと頷いた。

 メガネをかけた子供が、ニコニコと笑顔になった。

 

「カノープスって星の名前ですよね。星の言葉は“優しさと強い感受性”で、幸運と長寿の星だとか……」

「さすが!アーニャは何でも知っているわね」

「すごいです!アーニャ」

「いえ、たまたま覚えていただけですよ。その、合っていましたか?」

 

 どうやらメガネの子供は、アーニャらしい。

 私はまた頷く。

 

「正解だよ。私は幸運を祈って、この名前を選んだの」

「……選んだ?」

「そうだよ」

 

 子供達は顔を見合せた。

 アクセサリーをつけた子供、ランタンが首を傾げる。

 

「変ね。その言い方だと、まるで自分で名前をつけたみたいだわ」

「……カノープスは自分でつけた名前だよ」

「え?それじゃ本名は?」

「わからない」

 

 微妙な空気が漂う。

 

 

 

 

 気を取り直して。

 四人で昼食を食べる。

 

 サンドイッチとスープは私とリーノが作り、おかずをアーニャとランタンが持ち寄ってくれた。

 どれもおいしい。私は頬をゆるゆるに緩ませて、かじりつく。

 

 子供達は、これからの予定を相談し合っていた。

 

「アーニャ、ランタン。あのね、手伝って欲しい事があるの」

「なあに?」

「仕事探しの参考にする為に、カノープスは何ができるのか、色々テストしたいの」

「それおもしろそう!」

「未知ですね。わくわくします!」

「一緒にやってくれる?」

「喜んで!」

「楽しみです」

 

 リーノは胸をなでおろした。

 私も、拒否されなかった事に、ほっと息をつく。

 

 

 

 

 結論から言うね。

 私の身体能力は、飛躍的に向上していた。どのくらいかというと、アスリート選手やパルクールの選手並みに体を動かすことができる。

 

 体力なんてバケモノじみていて、村の外周を走っても息切れ一つしない。以前の私なら、考えられなかった事だ。

 

 腕力とか、握力も強くなっているみたい。大きな丸太を、三本同時に抱えても重くなかった。それから素手で丸太を割り、斧をふって薪を量産する。

 

 村の木こりさんに止められて、薪の量産は終わった。

 その木こりさんに声をかけられる。

 

「仕事が決まらないなら、ウチにおいで!木を運んでくれると助かるよ」

「!はい、ありがとうございます!」

「おじさん、ありがとうございます!良かったね、カノープス」

「うん!うん!」

 

 様々なテストを終えた帰り道。

 リーノにランタン、アーニャが前を歩き、私は三人の後ろを歩いた。

 私以上に、三人の子供達がはしゃいでいる。

 

「カノープスったらすごいわ!村一番の力持ちね」

「それなら仕事は、力仕事がいいと思います。誰もやりたがらない事を、仕事にするのです」

「それがいいと思うわ!家事手伝いもできるみたいだけど、もしも他所様の服を破ったら一大事だからね」

「うん。しばらくは、力仕事を主にやった方がいいと思う」

 

 リーノがこちらを振り向いた。

 

「カノープスもそれでいい?」

「うん。物を壊したらいけないからね。私も、三人の意見に賛成です」

「了解よ。じゃあ、明日は村にどんな力仕事があるのか、探しに行きましょう!」

 

 えいえいおー!

 三人と、遅れて私の拳が天をつく。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 それから五年がたった。

 木こりの手伝い。炭や薪売り。引越し業者の真似事。コンビニの品出し。

 自分の力と身長を活かして、仕事を見つけては頑張った。

 

 おかげで、村人たちとも打ち解けることができた。

 皆から親しみを込めて「カノ」と呼ばれている。

 

 今もリーノの家に居候……じゃなくて、同居させて貰っている。

 お給金はすべてリーノに渡して、生活の足しにしてもらっているけれど。私たちの生活は、けっして裕福ではなかった。

 

 夜。自宅のリビングでココアを二人で飲んでいる時だった。

 リーノがぽつりと呟く。

 

「私も働こうかな」

「……そんなに、家計がヤバいの?」

「すぐにどうこうなる訳じゃないけど、貯金はなるべく増やしたいからさ」

「そうだね……でも、リーノは勉強も好きでしょ?ハンドメイドのスキルだって磨きたいでしょ?働いたら、その時間が少なくなっちゃうよ」

「うん。それでも、カノの為にも一家の主として、何かしたいの」

「リーノ……」

 

 私は俯いた。

 大人である自分が、子供であるリーノの負担になっている。

 不甲斐ない。申し訳ない。

 

「リーノ、あのね」

「うん?」

「もっと頑張る。絶対、楽させてあげるからね」

 

 リーノはぽかんと目を丸くして、それから温かく笑った。

 

「ありがとう。カノ」

 

 

 

 

 その日から、数日たったある日。

 デデデ大王たちが村に来た。

 

 数万のワドルディを引き連れて、ワドルドゥ隊長もいて。エスカルゴンがすでに閣下で、デデデはまだ国を持っていなかった。――大王とは名乗っているけれど。

 

 デデデとエスカルゴンとワドルドゥ隊長と、数人のワドルディ達だけが、村の広場にて村長さんやらボルンさんたちと話している。

 

 

 

 女性たちは、ワドルディ数万人分の食事を作るべく、みんな駆り出されていた。

 もちろん私もリーノもだ。

 

 ハナさんとサトさんが指揮をとり、その下で主婦の皆さんが動き、さらに料理に慣れていない女の子供達が協力する。

 男の子は遊び出すので、ここにいない。というか皆、陛下たちを見に行ってしまっている。

 

 リーノはすでに家事ができるので、女の子達のリーダー役を任せられた。

 私はその補佐だ。なんで、主婦のチームに混じらないのかって?そこまで料理の腕が上手じゃないし、体が大きくて邪魔なので追い出されました。

 

 女の子たちと一緒に、とにかくおにぎりを握る。

 おにぎりは大きな平皿にたくさん乗せて、一番力がある私が大皿を運んだ。

 

 広場にはすでに食事が運ばれているので、大量のおにぎりは広場にいないワドルディ達の所へ運ぶ。

 彼らは広場の少し先――五分で到着する――草原にいた。

 

 ――普段は辺り一面緑色なのに、今日はワドルディ色におおわれている。

 

「壮観だなあ……あの!」

 

 ザッ!と、ワドルディが一斉にこちらを向いた。

 怯まず、話しかける。大声で、全員に届くように。

 

「おにぎりを持ってきました!一人二個です!食べ終わったお皿は、返却してください!また持ってきます!どうぞ!」

 

 手前にいるワドルディ達に大皿を渡す。

 ワドルディ達は飛び跳ねて「わにゃわにゃ」と言った。

 ひえ、可愛い……。

 

 思わずにやけてしまう。

 また持ってきたい!そう思ったので、急いでリーノたちの所に戻る。

 

 

 

 何十も往復していると、デデデたちの目に止まったのか、視線を感じるようになった。

 わざと気づかないフリをして、料理を運び続ける。遠くで「エイリアン」だの「巨人」だの好き勝手に言われた。

 別に背は……高いけど、デデデと比べるとそんなに変わらないじゃん。多分。

 

 とにかく。

 村中のお米をかき集めて、炊いて、おにぎりにした。

 昼から始めた作業は夕方となり、へろへろになった女の子たちは解放される。

 合わせて、男の子たちも帰宅するようだ。

 ちなみに主婦チームはまだおかず作りの仕事があるので、私も継続してお仕事をこなす。今度はパンをワドルディ達に運んだ。

 

 リーノを一人にはできないので、どうしたものかと悩んでいたら。リーノはアーニャと共に、ランタンの家に泊まるそうだ。

 ランタンの家はここから近いし、ランタンのおばあさんが面倒を見てくれるらしいから、安心だ。

 

 パンを運ぶ作業は深夜までおよぶ。

 日付が変わる前になんとか終わって、主婦チームもへろへろになりながら、家に帰った。

 

 残っているのは、夜通しお喋りしている男性チームである。それも、疲れて眠っている人達がチラホラいた。

 

 私はサトさんに引っ張られ、家に泊めてもらった。

 毛布をたくさん借りて、床に寝させてもらう。

 

 ――明日からしばらく、お米とパンは見たくないや……。

 そう思って眠りについた。

 

 

 

 

 翌日。

 ほとんどの村人たちを集めて、デデデは宣言した。

 ここに城をつくる……と。デデデ大帝国をつくる、と。

 

 陛下と話した男性陣は嬉しそうにし、陛下と話す機会がなかった女性陣は戸惑った。

 子供達の反応はそれぞれ違った。

 

 それを離れた場所から見ていた私とリーノ、アーニャにランタンは戸惑っている。

 私は膝を折ってリーノに耳打ちした。

 

「リーノ」

「ん?なあに、カノ」

「城に勤めよう」

「どうして?」

 

 私はちらりとデデデを見た。

 

「デデデは……重税を課してくる、と思う。そうなったら、私たちのお金は無くなる。この村から出ていく事になると思うの。そうならない為にも、大王様の側に仕えておくのはどうかな?宮仕えって、お給金良さそうだし」

 

 たしか、メイドになったリーノの生活レベルは良かったハズだ。お金に困っている描写は、なかったと思う。

 二人とも生きていく為に、リーノも私も城に勤めるべきだ。

 

「……」

 

 リーノはしばし目を伏せて、考えた。

 そして、ゆっくりと目を開ける。

 

「わかった。お願いしてみよう」

「!うん」

「カノ、リーノ?」

「どこに行くのよ」

 

 リーノはアーニャとランタンの手を繋いだ。

 

「私ね、お城で働けるようにデデデ大王にお願いしてくる」

「え!?どうして……」

「ずっと、この村にいたいからだよ。だから、行ってきます」

 

 親友二人と繋いだ手を離して、今度は私と手を繋いだ。

 

「行こう、カノ」

「うん」

 

 失敗はできない。

 だからって暗い顔でいては、上手くいかないだろう。

 キュッと口角を上げて、背筋をピンと伸ばし歩く。

 

 

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