親友二人は、昼の十二時にやってきた。
ドアベルが鳴らされ、リーノが返事をする。
「はい。どなた?」
「私よ。ランタンと……」
「アーニャです」
「今開けるね!」
玄関の扉を開ければ、リーノと同じくらいの背丈のキャピイ族が、二人立っていた。
その子達が、家の中へ入ってくる。
一人は品良くアクセサリーを身につけていて、大人びた子供。
もう一人はメガネをつけて、カーディガンを羽織った子供だ。
二人は、私を見た瞬間に目を大きく開いた。きっと驚いたのだろう。
私は無害をアピールしたくて、笑顔を作った。
「はじめまして。こんにちは」
「こ、こんにちは」
「こんにちは……」
「大丈夫よ、二人とも!カノープスは悪い人じゃないわ」
「カノープス?」
「それが、旅人さんの名前ですか?」
私はこくりと頷いた。
メガネをかけた子供が、ニコニコと笑顔になった。
「カノープスって星の名前ですよね。星の言葉は“優しさと強い感受性”で、幸運と長寿の星だとか……」
「さすが!アーニャは何でも知っているわね」
「すごいです!アーニャ」
「いえ、たまたま覚えていただけですよ。その、合っていましたか?」
どうやらメガネの子供は、アーニャらしい。
私はまた頷く。
「正解だよ。私は幸運を祈って、この名前を選んだの」
「……選んだ?」
「そうだよ」
子供達は顔を見合せた。
アクセサリーをつけた子供、ランタンが首を傾げる。
「変ね。その言い方だと、まるで自分で名前をつけたみたいだわ」
「……カノープスは自分でつけた名前だよ」
「え?それじゃ本名は?」
「わからない」
微妙な空気が漂う。
気を取り直して。
四人で昼食を食べる。
サンドイッチとスープは私とリーノが作り、おかずをアーニャとランタンが持ち寄ってくれた。
どれもおいしい。私は頬をゆるゆるに緩ませて、かじりつく。
子供達は、これからの予定を相談し合っていた。
「アーニャ、ランタン。あのね、手伝って欲しい事があるの」
「なあに?」
「仕事探しの参考にする為に、カノープスは何ができるのか、色々テストしたいの」
「それおもしろそう!」
「未知ですね。わくわくします!」
「一緒にやってくれる?」
「喜んで!」
「楽しみです」
リーノは胸をなでおろした。
私も、拒否されなかった事に、ほっと息をつく。
結論から言うね。
私の身体能力は、飛躍的に向上していた。どのくらいかというと、アスリート選手やパルクールの選手並みに体を動かすことができる。
体力なんてバケモノじみていて、村の外周を走っても息切れ一つしない。以前の私なら、考えられなかった事だ。
腕力とか、握力も強くなっているみたい。大きな丸太を、三本同時に抱えても重くなかった。それから素手で丸太を割り、斧をふって薪を量産する。
村の木こりさんに止められて、薪の量産は終わった。
その木こりさんに声をかけられる。
「仕事が決まらないなら、ウチにおいで!木を運んでくれると助かるよ」
「!はい、ありがとうございます!」
「おじさん、ありがとうございます!良かったね、カノープス」
「うん!うん!」
様々なテストを終えた帰り道。
リーノにランタン、アーニャが前を歩き、私は三人の後ろを歩いた。
私以上に、三人の子供達がはしゃいでいる。
「カノープスったらすごいわ!村一番の力持ちね」
「それなら仕事は、力仕事がいいと思います。誰もやりたがらない事を、仕事にするのです」
「それがいいと思うわ!家事手伝いもできるみたいだけど、もしも他所様の服を破ったら一大事だからね」
「うん。しばらくは、力仕事を主にやった方がいいと思う」
リーノがこちらを振り向いた。
「カノープスもそれでいい?」
「うん。物を壊したらいけないからね。私も、三人の意見に賛成です」
「了解よ。じゃあ、明日は村にどんな力仕事があるのか、探しに行きましょう!」
えいえいおー!
三人と、遅れて私の拳が天をつく。
――――――
それから五年がたった。
木こりの手伝い。炭や薪売り。引越し業者の真似事。コンビニの品出し。
自分の力と身長を活かして、仕事を見つけては頑張った。
おかげで、村人たちとも打ち解けることができた。
皆から親しみを込めて「カノ」と呼ばれている。
今もリーノの家に居候……じゃなくて、同居させて貰っている。
お給金はすべてリーノに渡して、生活の足しにしてもらっているけれど。私たちの生活は、けっして裕福ではなかった。
夜。自宅のリビングでココアを二人で飲んでいる時だった。
リーノがぽつりと呟く。
「私も働こうかな」
「……そんなに、家計がヤバいの?」
「すぐにどうこうなる訳じゃないけど、貯金はなるべく増やしたいからさ」
「そうだね……でも、リーノは勉強も好きでしょ?ハンドメイドのスキルだって磨きたいでしょ?働いたら、その時間が少なくなっちゃうよ」
「うん。それでも、カノの為にも一家の主として、何かしたいの」
「リーノ……」
私は俯いた。
大人である自分が、子供であるリーノの負担になっている。
不甲斐ない。申し訳ない。
「リーノ、あのね」
「うん?」
「もっと頑張る。絶対、楽させてあげるからね」
リーノはぽかんと目を丸くして、それから温かく笑った。
「ありがとう。カノ」
その日から、数日たったある日。
デデデ大王たちが村に来た。
数万のワドルディを引き連れて、ワドルドゥ隊長もいて。エスカルゴンがすでに閣下で、デデデはまだ国を持っていなかった。――大王とは名乗っているけれど。
デデデとエスカルゴンとワドルドゥ隊長と、数人のワドルディ達だけが、村の広場にて村長さんやらボルンさんたちと話している。
女性たちは、ワドルディ数万人分の食事を作るべく、みんな駆り出されていた。
もちろん私もリーノもだ。
ハナさんとサトさんが指揮をとり、その下で主婦の皆さんが動き、さらに料理に慣れていない女の子供達が協力する。
男の子は遊び出すので、ここにいない。というか皆、陛下たちを見に行ってしまっている。
リーノはすでに家事ができるので、女の子達のリーダー役を任せられた。
私はその補佐だ。なんで、主婦のチームに混じらないのかって?そこまで料理の腕が上手じゃないし、体が大きくて邪魔なので追い出されました。
女の子たちと一緒に、とにかくおにぎりを握る。
おにぎりは大きな平皿にたくさん乗せて、一番力がある私が大皿を運んだ。
広場にはすでに食事が運ばれているので、大量のおにぎりは広場にいないワドルディ達の所へ運ぶ。
彼らは広場の少し先――五分で到着する――草原にいた。
――普段は辺り一面緑色なのに、今日はワドルディ色におおわれている。
「壮観だなあ……あの!」
ザッ!と、ワドルディが一斉にこちらを向いた。
怯まず、話しかける。大声で、全員に届くように。
「おにぎりを持ってきました!一人二個です!食べ終わったお皿は、返却してください!また持ってきます!どうぞ!」
手前にいるワドルディ達に大皿を渡す。
ワドルディ達は飛び跳ねて「わにゃわにゃ」と言った。
ひえ、可愛い……。
思わずにやけてしまう。
また持ってきたい!そう思ったので、急いでリーノたちの所に戻る。
何十も往復していると、デデデたちの目に止まったのか、視線を感じるようになった。
わざと気づかないフリをして、料理を運び続ける。遠くで「エイリアン」だの「巨人」だの好き勝手に言われた。
別に背は……高いけど、デデデと比べるとそんなに変わらないじゃん。多分。
とにかく。
村中のお米をかき集めて、炊いて、おにぎりにした。
昼から始めた作業は夕方となり、へろへろになった女の子たちは解放される。
合わせて、男の子たちも帰宅するようだ。
ちなみに主婦チームはまだおかず作りの仕事があるので、私も継続してお仕事をこなす。今度はパンをワドルディ達に運んだ。
リーノを一人にはできないので、どうしたものかと悩んでいたら。リーノはアーニャと共に、ランタンの家に泊まるそうだ。
ランタンの家はここから近いし、ランタンのおばあさんが面倒を見てくれるらしいから、安心だ。
パンを運ぶ作業は深夜までおよぶ。
日付が変わる前になんとか終わって、主婦チームもへろへろになりながら、家に帰った。
残っているのは、夜通しお喋りしている男性チームである。それも、疲れて眠っている人達がチラホラいた。
私はサトさんに引っ張られ、家に泊めてもらった。
毛布をたくさん借りて、床に寝させてもらう。
――明日からしばらく、お米とパンは見たくないや……。
そう思って眠りについた。
翌日。
ほとんどの村人たちを集めて、デデデは宣言した。
ここに城をつくる……と。デデデ大帝国をつくる、と。
陛下と話した男性陣は嬉しそうにし、陛下と話す機会がなかった女性陣は戸惑った。
子供達の反応はそれぞれ違った。
それを離れた場所から見ていた私とリーノ、アーニャにランタンは戸惑っている。
私は膝を折ってリーノに耳打ちした。
「リーノ」
「ん?なあに、カノ」
「城に勤めよう」
「どうして?」
私はちらりとデデデを見た。
「デデデは……重税を課してくる、と思う。そうなったら、私たちのお金は無くなる。この村から出ていく事になると思うの。そうならない為にも、大王様の側に仕えておくのはどうかな?宮仕えって、お給金良さそうだし」
たしか、メイドになったリーノの生活レベルは良かったハズだ。お金に困っている描写は、なかったと思う。
二人とも生きていく為に、リーノも私も城に勤めるべきだ。
「……」
リーノはしばし目を伏せて、考えた。
そして、ゆっくりと目を開ける。
「わかった。お願いしてみよう」
「!うん」
「カノ、リーノ?」
「どこに行くのよ」
リーノはアーニャとランタンの手を繋いだ。
「私ね、お城で働けるようにデデデ大王にお願いしてくる」
「え!?どうして……」
「ずっと、この村にいたいからだよ。だから、行ってきます」
親友二人と繋いだ手を離して、今度は私と手を繋いだ。
「行こう、カノ」
「うん」
失敗はできない。
だからって暗い顔でいては、上手くいかないだろう。
キュッと口角を上げて、背筋をピンと伸ばし歩く。