カノープスの終生   作:紅絹の木

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恐竜

 

 

 村で恐竜の化石が発掘された。

 そして恐竜ブームが起きる。

 陛下にも恐竜ブームがきているようだ。

 ここ最近、夜の読み聞かせでは恐竜に関する本を、ご所望される。

 

 そして事件は起きた。

 

 今日も、夜に恐竜についての本を読んでいた。

 私は、陛下の部屋のソファに座って、分厚い本を広げる。その隣に、体をぴったりとくっつけて、陛下が本を覗き込んでいた。

 

 近い!近い!

 平静を装いつつも、好きな人と体の半分を密着させて、余裕を保てる人なんているのか!??

 風呂上がりの香りが!とんでもない破壊力なのだが!?体の半分が!とっても温かいぞ!

 

 内心慌ただしくも、陛下にもわかりやすいよう、文章を指でなぞりつつ音読する。

 陛下は必死に、私の指を辿っていた。

 

「……こうして恐竜は滅びました」

「――は?今、なんと言ったゾイ?」

「こうして、恐竜は滅びました……と、ここに書いております」

 

 陛下は目を白黒とさせて、飛び上がった。体が離れてしまった。

 

「ほ、滅んだ!?いつ!」

「ずっとずっと昔ですね」

「じゃ、じゃあ……もう恐竜には……」

 

 震える声に気づいた。

 私は、両手を握りしめる陛下の腕に手をのせて、優しくさする。

 

「陛下。大変悲しいですが、これはみんなが知っている事実です」

「信じないゾイ!」

「陛下!」

 

 私の手は振り払われて、陛下は部屋を飛び出していった。

 私は陛下の後を追う。

 走ればすぐに追いついた。

 

「陛下、どちらに?」

「エスカルゴンの部屋ゾイ……ぜえぜえ……」

「お連れします」

 

 サッと陛下を抱えて、私は加速した。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 エスカルゴン殿の部屋の前に到着したので、陛下を床におろした。

 陛下はドアを、夜にしては賑やかすぎる音で、叩く。

 

「エスカルゴン!エスカルゴン!出てくるゾイ!」

「へ、陛下!?こんな時間になんでゲスか!もう!」

 

 深夜に突然の訪問をしても、何だかんだと言って、陛下のために起きてくれる。

 エスカルゴン殿って本当に陛下のことが好きだよね。

 それを知っているのか知らないのか、陛下は眠たげなエスカルゴン殿の両肩を鷲掴み、前後にガックンガックンと振った。

 

「ワシの質問に答えい!恐竜はどこにおるゾイ!」

「はあ?そんなもん、とっくの昔に滅んだでゲショウが……。カノープス、これは一体どういうことでゲスか?」

 

 またも“恐竜は滅んでいる”と言われ、ショックを受けている陛下を気遣いつつ、私は顔をエスカルゴン殿の方に向けた。

 

「大好きな恐竜がもういない事実を、受け入れられていないのです。おいたわしや……」

「ああ、そういうことでゲスか……。じゃあ、もう用は済んだでゲスね。私は寝るでゲスよ」

「夜分遅くにすみませんでした。ありがとうございます。さあ、陛下。お部屋に戻りましょう」

「まだ……まだ……ゾイ!今度はフームに聞きに行くゾイ!」

「深夜ですし、会ってくれないかと。朝まで待ちましょう」

「イヤゾイ!」

「……仕方ありませんね」

 

 私は陛下の顔を覗き込む。真っ直ぐ、目を合わせた。陛下の目がまん丸になって、チャンスだった。

 

「(ラリホー)」

 

 おやすみなさい、陛下。

 ガクリと力が抜ける青い体を抱き上げる。無詠唱の反動でどっと疲れたが、陛下を部屋に運ぶ体力はある。

 一部始終を見ていたエスカルゴン殿が何度も瞬きした。

 

「どうしたでゲスか!?」

「どうやら私たちが思うよりも、お疲れだった様子ですね。眠られたので、部屋に運びます」

「…………お前の不思議な力でゲスか」

 

 あらま。バレていたか。

 

「そう、ですね」

「陛下に多用するんじゃないでゲスよ」

 

 キッと鋭く睨まれたので、深く頷き返す。

 

「もちろんです」

「わかっているなら、いいでゲス。ふわあ……。ま、眠らせてくれたのはありがたいゲスからね。これ以上は何も言わんでゲス。おやすみ〜」

「おやすみなさいませ」

 

 扉が優しく閉じられた。

 私は陛下を抱え直し、来た道を戻る。  

 

 ゆっくり歩いて帰った。

 走っても目覚めたりしないだろうけれど、念のためだ。

 それに、こんなにぐっすり眠っているのだから、走ることは憚られた。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 朝、陛下がいつもの時間に目覚めなかったら、今度は“ザメハ”を唱えようと考えた。

 多用はしないが、こういうときは仕方ないと思う。

 陛下の部屋のカーテンを開けてから、ベッドの上で眠る陛下を起こす。

 肩に手を当てて、軽く揺すると陛下はゆっくり目を開けた。

 

「今、何時ゾイ……」

「朝の八時です。この時間ならばフームも起床されているかと」

「支度が済んだら、すぐに聞きに行くゾイ」

「かしこまりました」

 

 怒ってはいないようだ。

 私はそっと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 そして、やっぱり恐竜はいないのだと告げられた陛下は、悲しみ、暴走した。

 恐竜はまだ生きている、と触れ回り、そのことについて書いた自作の本を出版したり、村に恐竜の足形を残したり。

 それはもう、村人たちに迷惑をかけた。

 

 私とリーノは、村中に頭を下げて回った。

 村人たちは、今回の騒動に困っているよりも、中には面白いものもあると、笑っていた。

 村人たちが朗らかで心が広くて助かったな……。

 

 謝罪から帰城し、リーノは陛下を見つけて注意した。

 

「陛下!これ以上、村人たちを困らせてはいけませんわ」

「うるさーい!かくなる上は……」

 

 陛下はそう仰られて、エスカルゴン殿と共に玉座の間に籠られた。

 私たちは中に入れてもらえなかったので、そのまま外で待機だ。

 五分後、ダウンロードシステムが動いた音が聞こえてきた。

 私たちは互いの顔を見る。

 

「魔獣かしら?」

「大きな音も声も聞こえない。戦闘用じゃないのかもな。一応、後ろに隠れてくれ」

「わかったわ」

 

 そのまま廊下で数分ほど立っていると、玉座の間の扉が開いた。

 陛下とエスカルゴン殿と、知らないおじいさんが出てきた。

 白衣に、白い髪、白い豊かなヒゲ。いかにも研究者っぽい姿。

 ああ、恐竜回に出てきた敵か……。

 私は敵に悟られないよう、警戒度を上げた。

 陛下は上機嫌で、研究者を紹介し始めた。

 

「うおっほん!カノープス、リーノ。こちらはDNAの権威ドクターモロだゾイ!恐竜が出た発掘現場まで案内してやれい」

「かしこまりました。モロ様、初めまして。私がこの城の戦士カノープスです。後ろに控えているのがメイド長のリーノです」

「こんにちは、モロ様。リーノです。早速向かわれますか?」

「うむ。そうしてくれ」

「わかりました。それでは陛下、モロ様の護衛も兼ねて私も同行します。後でワドルドゥ隊長を、発掘現場に向かわせてください。交代しますので」

「よかろう。よきにはからえ」

「は!」

 

 ドクターモロの護衛は建前で、リーノとドクターモロを二人きりにさせたくなかったのだ。

 私たち三人は、村の発掘現場に向かった。

 

 

 

 

 村の発掘現場には、フームとキュリオ氏、ブンとカービィがいた。

 ドクターモロの事を紹介すると、事情を知らないフームとキュリオ氏はドクターモロを歓迎した。

 ちょうどワドルドゥ隊長と兵士数名も到着したので、護衛の役目を交代した。

 私とリーノは先に帰城する。

 

 そしてすぐにメタナイト卿に会いに行く。

 幸い、彼は彼の自室にいた。

 ドクターモロのことを伝えると、戦士の声は低くなった。

 

「間違いなく、ナイトメアの手先だろうな」

「やはり……ああ、陛下」

 

 頭が痛そうなリーノの背中をさすりつつ、私は発言した。

 

「――ならば、また何か事件が起きるな」

「そうだな。気をつけてくれ。特にカノープス」

「あ、私?」

「そうだ。そなたは特別な力を持っている。血をとられて、解析されないようにな」

「……しばらくは、抜け毛とか切った爪は燃やすようにするよ」

「そうしてくれ」

 

 厄介なことになった。

 面倒なので、事件の早期解決を、願う。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 一週間後。

 プププランドに恐竜パークがオープンした。

 最近、城のワドルディが減っていたのは、このパークを造っていたせいか。

 

 メイドたちはパーク内の売店を手伝いに駆り出された。

 私はトイレに行くフリをして、リーノを連れ出した。

 アーニャとランタンには事情を説明してあるので、陛下が来たら上手く説明してくれるだろう。

 

「ドクターが私の血を調べるために、何か仕掛けてくるかもしれん。今日はメタナイト卿と共に行動しよう」

「わかりました。……陛下たちは大丈夫かしら」

「悪運も行動力もある。カービィもいる。私たちも遠くに行くわけじゃないし……大丈夫だ」

 

 自分にも、そう言い聞かせる。

 売店が集まる建物の裏、木々の中に、メタナイト卿は隠れていた。

 私たちは合流し、身を隠すために、建物の屋根の上へ。

 そこから、ボートに乗る陛下たちを見送った。

 

「さあ、行くぞ」

「目的地はドクターモロの研究所だな」

「そうだ。ついて来てくれ」

「リーノ、抱えるぞ」

「ええ!お願い」

 

 私たちは木々の間を走り抜ける。

 時々現れた、陛下そっくりな顔の恐竜や、エスカルゴン殿に似た恐竜の相手はせず、隠れてやり過ごした。

 

「恐竜が復活している、と言えるのかな?コレは」

「恐竜を復活させるのではなく、兵器を生み出したいのだろう」

「DNAをいじって、命を弄んでいるように見えます。やめさせないと」

「そうだな。少し休憩したら、また歩くぞ」

 

 朝から昼へ、夕方となり、夜になる。

 懐に入れておいた携帯食を途中つまみつつ、パーク内の森の中を歩く。

 研究所に近づいてきたのだろう。監視カメラが多くなってきた。

 しかし、監視カメラは壊さない。なぜなら、ソードナイトとブレイドナイトが、監視カメラをハッキングしているからだ。

 彼らからメタナイト卿へ情報は送られ、私たちが目指すべき方向を知ることができた。

 

 夜の森の中を、まもなく到着する研究所に駆け足で向かう。

 そして研究所が見えた!

 そこは三階建の建物があり、出入り口から先は、草が生える開けた広場になっていた。

 ――村人たちが、陛下も、みんなに似た恐竜に囲まれている!

 

「いけない!あとは頼むぞ!」

 

 返事を待たず、メタナイト卿は飛び出した。

 私とリーノは広場の端、大きな大木の後ろに隠れる。

 

 カービィそっくりな恐竜がファイアーをコピーし、辺りに炎をまき散らす!

 カービィはワープスターで華麗に避け続けた。そこに陛下が、とっておきの爆弾をカービィに投げた!

 ――待てよ、確かこの回の最後って……。

 

「いけない!リーノ!」

「え?きゃっ!」

 

 大木の後ろに隠れ、リーノに覆い被さり、体勢をより低くした。

 直後に起こる、大爆発。

 たった数秒、その衝撃は台風の如く。研究所は崩れ、恐竜たちは骨になってしまった。

 

 完全に落ち着いてから、私は身を起こした。

 リーノも起き上がる。

 

「すまなかった。大丈夫か?」

「大丈夫よ。ありがとう。メタナイト卿と、陛下たちは?フーム様たちは、無事?」

「行ってみよう」

 

 大木の影から出て、広場の中心に駆け寄る。

 ああ、みんな無事だ。

 陛下もこちらを見た。目をギョッと開いて驚いていた。

 私は元気な様子に安堵する。

 

 リーノも元気が戻ってきたのか、陛下とエスカルゴン殿に対しお説教が始まった。

 その光景を見て、みんなが笑い出す。

 

 

 

 

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