朝。城の上の階にある厨房にて。
陛下とエスカルゴン殿のために、朝食を作っていた。
トーストにスクランブルエッグ、手作りのイチゴジャムとコーンスープに、サラダを用意した。
私、アーニャ、ランタンがいれば、あっという間にそれらは揃う。
出来上がり次第、カートに乗せて厨房から運び出す。
食堂に行く道中で、私は切り出した。
「リーノ、遅すぎやしないか?」
数日経っても帰ってこないリーノを心配して、私はとうとう話題に出した。
幼馴染の二人もまた、落ち着かない日々を過ごしている。
アーニャがため息を吐いた。
「そうですよね……ブレイドさんも、メタナイト卿のことを心配されていました」
「ソードも心配していたわ。二人とも、早く帰ってきて元気な姿を見せてほしいわね」
「まったくだ」
三人揃ってため息を吐く。
城で待っていようか?いや、そろそろ限界だった。顔が見たい。
「すまんが、陛下たちの朝食が終わったら、弁当を持って村に降りる。村と駅を繋ぐ一本道で、リーノたちの帰りを待つよ」
「わかりました。きっとお土産で荷物がいっぱいでしょうから、カノが持ってあげてください」
「後のことは、こちらでやっておくわね」
「ありがとう。助かる」
多分、アーニャとランタンもリーノの顔が見たいのだろうな、と思った。
朝食後。皿洗いもアーニャとランタンに任せて、私は村へ降りた。
早く会いたくて、走った。さすがに、村の中では歩いたが……それでも早歩きだ。
そこに子供たちが声をかけてきた。フームとブン、カービィだ。
「おはよう、カノープス!どこに行くの?」
「リーノを待ち伏せしてくる」
すたこらと、あっという間に去っていく私を、子供たちは追いかけてきた。
歩幅が違うので、子供たちは走っている。
「え?あ、私も行くわ!」
「じゃあ、オレも!」
「ぽよい!」
「待つだけだ。楽しくないぞ?」
「私だって、リーノに会いたいもの」
「そうそう!オレらのねーちゃんだし」
「ねえちゃんぽよ」
それもそうかと、考えた。
早歩きのスピードを抑え、フームたちに合わせてのんびり歩く。
フームたちがこちらを見上げた。
「では、一緒に行こう」
「ええ!」
「よし、決まり!」
「ぽよよーい!」
こうして四人は、森の中の一本道へ進む。
朝と昼の間。まだ明るい森の中は、それほど恐ろしくない。
何より、この道は人が通れるよう整備されている。
見上げれば広い青空が見えるし、周囲の木々は遠い。ちゃんとした道だった。
その道半ば、リーノたちを見送った辺りで、レジャーシートを敷いた。四人でその上に座る。
「少し早いが、昼にでもするか?」
「いいね!食べたい!」
「カノープスが背負っているそのリュックに、お弁当が入っているの?」
「ああ。私一人分だが、分ければ大丈夫だろう」
私は、リュックから弁当を出した。
三重の、おせちのような弁当を出した。
フームとブンは黙り、カービィは喜んで飛びついた。
「……あなた、これを一人で食べるつもりだったの?」
「そうだ」
パカリと蓋をとって、弁当を広げる。
おにぎりが一段、おかずが二段だ。急ぎで作ったので、種類は多くない。
念の為に多めに持っていた紙皿と箸と紙コップも、それぞれ渡す。
「普段は、こんなにたくさん食べないよな?」
「食べ過ぎてはいけないからな。気をつけている。が、どうしてもお腹いっぱいになるまで、食べたい日がある。それが……」
「今日ってワケね」
「すげーな。フードファイターじゃん」
「そうかな?まあ、とにかくご唱和ください」
手と手を合わせて、いただきます。
カービィも吸い込みせず食べてくれる。
といっても、飲み込んでいるので、料理がどんどん減っていく。
隣にいるブンが止めに入るほどだ。
私は急ぎおにぎり二個と、おかずを少し食べてから、カービィのストッパー役を交代した。
彼を膝の上に乗せて、他の人の料理を取らないことを、褒める。カービィは嬉しそうだった。
そして……驚くほど軽かった。昔のリーノを抱き上げたようだった。
食後、のんびり日向ぼっこを皆で楽しむ。
この場所に来て、一時間たったころ。
遠くにリーノたちが見えた。
私はフームたちに「先に行く」と伝えて、走り出した。
土煙は出さないように、ほどほどに走る。
リーノもこちらに気づいたようだ。手を振ってくれた。
リーノは大きめの荷物を一つ、前に抱えている。
笑顔を浮かべているあたり、旅は良いものだったのだと窺えた。
メタナイト卿は二人分の荷物を、それぞれ両手に持っていた。
仮面でわかりにくいが、変わりないと思う。
私は二人の前に止まり、片膝をついた。
「おかえり。すれ違いにならなくて良かったよ」
「ただいま。そうね、一番に顔が見れて嬉しいわ」
私とリーノは、互いに頷き合う。
それからメタナイト卿に向き直った。
「おかえりなさい。二人とも、無事で良かったです。報告は落ち着いてからしますね」
「ただいま。ああ、頼む」
「荷物、持ちますね」
「ありがとう」
メタナイト卿から荷物を受け取る。
それからまた、リーノに向き直った。
「持とうか?重いだろう」
「いいの。この子は、私が抱えてあげたいの」
「……この子??」
「見てあげて」
リーノが私の隣に来る。私は彼女が抱える荷物を、覗き込んだ。
「――うわあああん」
小さな赤子がいた。リーノにフームやシリカ、彼女たちに似た種族のようだ。
私と目が合った途端、泣き出した。
「――赤子?……赤子!?」
どういうことだ!?こんな展開、あの二次小説にあったか!?
「静かにね、カノ。赤ちゃんが驚いちゃうわ」
「あ、すまない……」
すでに、ふやふやと泣いている。
リーノは慣れた手つきで、赤子をあやし始める。
私は驚き、固まる。
「メタナイト卿……これは一体……??」
「色々あったのだ」
「そ、そうですか……」
もっと詳しく聞きたいが、リーノが道の先にフームたちがいることに気づいた。
「フーム様たちも、来てくださっていたんですね。カノ、メタナイト卿、すぐに会いに行きましょう」
「そう……だな……」
「ああ、行こう」
フームたちと合流する。
子供たちも赤子に会って、たいへん驚いていた。
とりあえず、ここは様子を見よう。
――――――
私たちは、リーノから説明がないまま、村の広場まで帰ってきた。
村人たちは、リーノとメタナイト卿の帰還に気づいて、喜んでくれた。
そしてみんなが、赤子に驚く。
特に、親代わりとしてリーノを助けてきたサトさんとハナさんは、強く説明を求めた。
そこに私は待ったをかける。
「リーノも、メタナイト卿も今は疲れている。説明は後日にさせてくれ」
サトさんがさらに口を開こうとして、赤子がふやふやと声を上げた。
リーノはあやすが、効果が薄い。
「お腹でも減っているのかしら?」
「ちょうど昼時だもんな」
フームとブンの言葉に、リーノは「あっ」と声を上げる。
「ちょうどミルクの時間だわ。急いで城に行かなくちゃ……」
「それまでミルクはお預けか?それは良くないな」
私の言葉を聞いたサトさんが、ジッとリーノを見る。
「……哺乳瓶やミルクは持っているの?」
「はい。持ってます」
「なら、私の家のキッチンを使いなさい」
「いいんですか?」
「赤ちゃんのお腹を空かせたままには、できないわ。さあ、寄っていきなさい」
「ありがとうございます、サトさん。カノ、荷物をくれる?」
「どちらだ?」
「あなたの右手に持っているカバンに、一式入っているの」
リーノが荷物を受け取ろうとするので、それを止めた。
「私が持つから、リーノはその子をみてやってくれ」
「そう?ありがとう、カノ」
「いいんだ。メタナイト卿は、先に城へ戻ってください。後からリーノと共に向かいます」
「いや私も残ろう。フーム、すまないがソードとブレイドに伝言を頼む」
「なんて?」
「直に戻る……と」
「いいわ。伝えてくる。ブン、カービィ、行きましょう」
フームは城へ走り出した。
それをブンとカービィが追いかける。
私とリーノ、メタナイト卿はサトさんの家である警察署の中へ入っていく。
その一団の中に、ハナさんも加わっていた。
「サトさん、私もお邪魔させてちょうだい」
「ええ、いいわよ」
二人はリーノ繋がりで仲良しなのだ。
並んで警察署の中へ入っていった。
後ろではボルンさんが、集まった村人たちを解散させていた。
警察署のさらに奥、生活スペースに招かれる。
部屋の中はきれいに整頓されており、よく掃除されているようだった。
サトさんとハナさんは、子育ての経験者だからだろう、テキパキと哺乳瓶をパーツごとに洗い、きっちり消毒し、乾燥させる。
乾燥させている間は、リーノに質問攻め……ということはない。
リーノが疲れているからだ。
ソファに座って待っていた彼女は、背もたれに体を預け、眠たそうだ。
私はリーノの側の床に座った。それでちょうど良く、リーノと視線が合った。
「赤子、預かろうか?少し寝たいだろう?」
「ん……大丈夫。頑張りたいの」
「無理は良くないぞ?」
「リーノ」
メタナイト卿が労わるように、リーノの肩をさすった。
「任せよう。ここには皆がいる」
「……わかり、ました」
赤子は、ハナさんに抱き上げられた。
そしてリーノは赤子が離れた途端、眠りにつく。なのでソファの上で、横に寝かせた。
私は鎧についていたマントを外し、リーノにかけてやる。
落ち着いた寝息がきこえてきた。
「ずいぶん疲れていたんだな」
「あちらでも、率先して赤子の世話をしていたからな」
「……それで、メタナイト卿」
「あなたから、お話ししてくださる?」
サトさんとハナさんからの鋭い視線から逃れられない。
メタナイト卿は、赤子を預かることになったいきさつを、話し始めた。
リーノの祖父母の屋敷に赤子が捨てられていたこと。
祖父母たちは様々な面から、赤子を育てるには難しいと判断したこと。
信頼できる預け先で、なおかつ預けた後も赤子の様子を教えてくれる候補として、リーノがあがったこと。
祖父母たちは、すぐにリーノにハガキを送った。
「ハガキを受け取ったリーノは、私と共に隣り町へ向かった」
「そして祖父母さんたちの館で、赤子に出会った」
「そうだ、カノープス。そうして、リーノは赤子に一目惚れしたのだ」
「一目惚れ……」
「彼女から赤子を育てたいと、そう申し出た。赤子を育てることになった私たちは、祖父母たちから赤子の育て方をレクチャーしてもらっていたため、帰還が遅くなったのだ」
「……私たち?リーノとメタナイト卿が育てるのですか?」
「そうだ。……カノープス」
「はい。なんでしょう」
メタナイト卿は息を吸い込む。
「私とリーノの結婚を、認めて欲しい」
「まあ!」
「あら!」
「――え」
二人が!結婚!!!????
こんな展開知らないぞ!どうなっているんだ!??
「反対か?」
「――反対というか、その、リーノはなんて?」
「わたくしから、プロポーズしたのよ」
リーノは背もたれから体を離し、立ち上がった。
そして貸したマントのシワをサッとのばしてから、私に返してくれた。
「はい、カノープス。マントをありがとう。おかげで温かかったわ」
「それは良かった。それで、リーノからプロポーズしたのか?」
リーノは見たことがないほど、キレイな笑顔で言った。
「そうなの。メタナイト卿さえ良ければ、一緒に育てませんか?ってお誘いしたの。赤ちゃんとメタナイト卿がいてくれたら、わたくし、毎日幸せだろうなって思って。その気持ちが溢れるままに、言葉にしていたわ」
「……あのとき、そなたが本当に幸せそうに笑ったから。これから先、二人の隣に立っていたい、幸せを共に享受したい……そう心から願ったのだ」
「だから“共に生きよう”と、仰ってくださったんですね」
リーノが、メタナイト卿を見つめる。
メタナイト卿も、リーノを見る。
二人の甘い雰囲気に、私とサトさんとハナさんはあてられて、顔が真っ赤になった。
私はわざと咳払いした。
「こほん。……事情はわかった。結婚に関しては、私は賛成だ。二人の幸せを願うし、できることがあれば力になりたい」
「そ、そうね!私たちも!」
「お祝いしなくちゃ!明日はお祭りよ!結婚式よ!」
賑やかに響く“結婚”という言葉を聞いて、リーノが慌てた。
「お待ちください。今は旅行で疲れているので、そういうことは考えられません」
「あ……そ、そうね。帰ってきたばかりよね」
「いけない。つい盛り上がってしまったわ」
「何より、式を挙げるために、まずは貯めなくては……」
「――わたくしは結婚式がなくても、大丈夫ですよ」
それを聞き逃さなかったハナさんとサトさんが、待ったをかけた。
「あら、結婚式の費用なら私が出しますわ」
「私も出すわよ!」
「もちろん自分も、出します」
ハナさん、サトさん、私がお金を出すと申し出たが、メタナイト卿もリーノも遠慮する。
「そんな申し訳ないわ!かなりの額がかかるものなのに!」
「大金を出させるわけには……」
「二人が、派手な結婚式にしようとしているなら、私たちが出しても足りないでしょうけれど……」
「あなたたち、どんな式にしたいの?」
リーノとメタナイト卿は顔を見合わせた。
どうやら決まっていないようだ。
「メタナイト卿は、どんな式にしたいですか?」
「私からは特にはない、が……リーノがやりたいことは、すべて叶えたいな」
「!ありがとうございます!わたくし、できれば城や村のみんなを招待して、おいしい料理を食べたいですわ」
「パーティみたいだな」
「はい。堅苦しいことはなしで、来てくれたみんなに楽しんでほしいです」
私は頷いた。
「いいな、ソレ」
「でしょう?でもワドルディたちも招待したら、お金が足りないわ……」
「……ワドルディたちにも、世話になっているからな。どうしたものかな」
「――うわあああん」
そのとき、泣き疲れて寝ていた赤子が起きた。
手が空いているサトさんが、すっかり乾燥した哺乳瓶にミルクを作って注ぐ。
サトさんとハナさんが、まるで孫をあやすように、赤子に声をかけた。
「はいはい。もうちょっと待ってね」
「冷めるまで、あともう少しよ」
「それでしたら、貸していただけますか?」
「あら、リーノ。どうするの?」
「わたくしの力で適温にします」
リーノはサトさんから、ミルク入り哺乳瓶を受け取った。
そしてちゃぷちゃぷと、数回回すと哺乳瓶を頬に当てる。
さらに手首の内側にミルクを一滴出した。
「……うん、いい感じ。確かめていただけますか?」
サトさんにミルク入り哺乳瓶を返す。
サトさんは受け取り、手首の内側にミルクを一滴出した。
「あら、本当ね。これなら赤ちゃんも飲めるわ」
「さっそくあげましょう」
赤子はミルクを少し残した。
リーノ、ハナさん、サトさんはジッと赤子の様子を窺う。
「ご機嫌ですね」
「そうね。ミルクを欲しがってないみたいだし、このまま様子をみましょう」
「そうしましょう」
私は思わず、質問していた。
「……赤子はミルクを残すものなのか?」
「残す、というよりも、生後二、三ヶ月を過ぎた赤子は、飲むミルクの量を自身で調整できるんだ」
メタナイト卿が答えてくれる。
私は感心した。
「まだこんなに小さいのに、すごいですね……」
「ああ。すごい」
「ちなみにこの子は生後何ヶ月なのですか?」
「医者が言うには、生後六ヶ月だとか」
「……たしか、離乳食を始める時期でしたっけ?」
「その通りだ」
私たちは赤子を微笑ましく見つめる。
その場では決められないということもあり、結婚式の話は後日になった。