カノープスの終生   作:紅絹の木

44 / 63
これからも続く幸せの音

 

 

 

 リーノたちが帰ってきてから一週間後。

 晴れた日の昼前に、結婚式は行われた。

 式の費用は、みんなで出し合うこととなり、十分な金額が集まったのだ。

 

 

 

 海がよく見える村外れの丘の上で、村のみんなとお世話になっている人たちが、着飾って集まる。

 

 赤子はメーム様に任せ、私はアーニャとランタン、それにサトさんとハナさんと共に、リーノにウエディングドレスを着せていた。

 

 場所は村長さんの家……つまりハナさんの家だ。

 村外れの丘と村長さんの家が近い。なのでハナさんに頼み、家を着替える場所として借りたのだ。

 

 ハナさんは「リーノのドレス姿が一番に見られる」と、喜んで場所を貸してくれた。

 いつもはダイニングとして使う部屋を、テーブルと椅子を端に片付けて、広々と使う。

 全身が見える姿見には、どんどん美しく飾られていく妹の姿があった。

 

 普段よりも華やかなメイク。

 お団子にまとめられている髪は下ろし、真っ白なベールで隠されている。

 パールで統一されたアクセサリーたちは、リーノをより美しく完成させていく。

 白から深い青へと変化するグラデーションが美しいウエディングドレス。

 こちらは露出が少なく、体のラインがあまり強調されないソフトマーメイドだ。

 上品で美しいシルエットが、今日のリーノによく似合っていた。

 

 リーノが完璧に着飾ったところで、声をかける。

 

「リーノ、素敵だよ」

「そういうカノも、素敵よ」

 

 私も、もちろん着飾っている。

 白地に金の装飾が施されたライトアーマーを着用し、これまた白いマントを羽織る。

 ライトアーマーの中には、フリルとレースが可愛らしいシャツを着て、白のパンツを履いている。

 ブーツは茶色だ。それに金の飾りを付けて豪華な印象を持たせる。

 愛用の鉄パイプは背中に隠し持ち、代わりに腰にはライトアーマーと揃いの細身の模造剣を、腰にさしている。

 頭部には、やはりライトアーマーと揃いの顔が見えない兜を、すっぽりと被っていた。

 

 

 

 ……物語では見られなかったラストの続きを、この世界に来て見ている気分だ。

 それはそれで嬉しいが、続きよりも妹の晴れ姿を見られることの方が重要で。

 今にも泣きそうになる。

 涙はグッと堪えていた。

 

 

 

 準備が整った後は、リーノを馬車に乗せて運ぶ。

 丘まで歩くとドレスの裾が汚れてしまうからだ。

 

 ちなみにこの馬車は、陛下がワドルディたちに作らせた特別製だ。

 見た目は、四人が乗れるほど大きな白い球体に、金色の車輪が四つ付いたような感じで……とにかく、今回は私が引いて運ぶ。

 

 人が乗る部分は広く、大きく、計四名は乗れる。

 内装は華やかで豪華だ。高級な赤色の床はフカフカと気持ちよく、椅子はクッション性があり座っても痛くない。壁と天井は白い。

 外装は白く球体で、金の装飾が豪華である。

 

 ライトアーマーが傷つかないように気をつけながら、太いロープで特別製の馬車と私を繋ぐ。

 そして私たち一団は、丘に向かって歩き出した。

 

 実はワドルドゥ隊長と数名のワドルディたちが、馬車を引くのを手伝ってくれると申し出てくれていた。

 それを私が断ったのだ。

 最初にリーノのウエディングドレス姿を見るのは、夫となるメタナイト卿が良いだろうと考えたから。

 なので、今回は遠慮してもらった。

 

 

 

 これからも、しばらくは同じ部屋に住み、毎日顔を合わせるというのに。

 この寂しさは何なのだろうか?

 でも、同じくらいの幸福が心の中を満たしている。

 

 気持ちが昂っては涙が溢れそうになる。

 何度も堪えて、歩くことに集中した。

 

 やがて丘が見えた。

 

 

 

 レッドカーペットの端に、馬車を横向きに停めた。

 私たちの反対側には、参列者がずらりと並ぶ。最奥にはメタナイト卿と、牧師さん役の陛下、赤子を預かるメーム様やみんながいた。

 サトさんとハナさんも、参列者の中に加わる。

 私とアーニャとランタンが、リーノのために残っていた。

 馬車の外から声をかける。

 

「リーノ、準備はいいか?」

「ええ、いつでも」

「では、開けるぞ」

 

 馬車の扉をゆっくりと開け、それからリーノと手を繋ぎ、支えになる。彼女は馬車を降り、レッドカーペットの端に立った。

 花嫁の姿がはっきりと見えると、参列者たちが思わず声をもらした。

 

「綺麗じゃのう」

「今日はさらにべっぴんさんじゃわい」

「素敵だわ!リーノ!」

 

 手早くドレスの裾を整えてから、アーニャとランタンは参列者の中に加わる。

 私はというと……。

 

「行こうか。我が妹よ」

「はい。お願いします。お姉ちゃん」

 

 リーノと手を繋いで、レッドカーペットの上を歩く。

 みんなにの目に焼き付けるように、時間をかけて。

 

 それでもあっという間に、メタナイト卿が立つ場所にまで辿り着いてしまう。

 リーノの手を離し、メタナイト卿に繋ぐ。

 メタナイト卿と、目が合った。

 彼は「任せてくれ」と言わんばかりに、力強く頷く。だから私も万感の思いを込めて、頷いた。

 二人が手を繋ぎ、私に背を向ける。そして牧師役である陛下の方へ。

 

「カノープス、こちらに」

「はい。メーム様」

 

 声をかけられた方へ、メーム様たち大臣一家に合流する。

 私は背が高いので、身を小さく屈めて、陛下の言葉を待つ。

 

「あー、こほん。これよりリーノとメタナイトの結婚式を執り行う。異議がある者は立ち去るが良いゾイ」

 

 何人かが困惑の表情を浮かべるのが、見えた。

 私は陛下のお言葉に何度も頷いた。だって陛下の言葉が正しいからな!

 誰も挙手しないので、陛下は満足そうに頷く。

 

「では、続けるゾイ。……リーノにメタナイトよ。お前たちは今後夫婦となる。病める時も健やかなる時も、いつだって互いを愛し合い助け合う事を、みなに誓うゾイ」

「「はい。誓います」」

「うむ。これで、晴れて二人は夫婦となったゾイ!盛大にお祝いするゾイ!」

「おめでとうでゲス!」

 

 そこで陛下の後ろにある鐘がカランカランと、高らかに鳴った。

 続いて参列者たちが一斉に「おめでとう!」とクラッカーを鳴らす。

 だから、泣いたのだ。

 

「ふええーん!」

「あらあら、耳を塞いでいたけれど、びっくりしちゃったのね」

 

 今日も元気に泣いている赤子。

 メーム様があやすが、すぐには泣き止みそうにもない。

 そこにリーノがやってきた。赤子を覗き込む。

 

「レッドちゃん、大丈夫よ」

「ふえ……ふええ……」

「リーノに会ったら安心できたのね。もうすっかりこの子のママね」

「そうでしょうか?嬉しいです」

 

 そこにメタナイト卿が声をかけた。

 

「リーノ、みなに発表しよう」

「ええ、そうでしたわね。みなさん、聞いてください」

 

 賑やかに「めでたい」と話していた村人たちや、みんながリーノに注目する。

 

「赤ちゃんの名前が決まりました。名前はレッド!どうぞ、今後ともわたくしたち家族を、よろしくお願いします」

 

 拍手がおこった。

 私も赤子が……レッドが泣かないように、音を抑えて拍手した。

 そこに、カメラを持っている村長さんが声を張る。

 

「さあ、みなさん。写真を撮りますぞ!人数が多いので数回に分けて、撮りましょう。まずはご家族の方々から……」

 

 椅子や台が用意され、真ん中にリーノとメタナイト卿が座る。

 その周りを私や大臣一家、陛下にエスカルゴン殿、ソードナイトにブレイドナイトが並ぶ。

 

 今日は、写真撮影の後に簡単な昼食が待っている。

 リーノはウエディングドレスを着替えて、食事がしやすい普通のドレスに着替える予定だ。

 それから陛下のお言葉があって、私からリーノとメタナイト卿に向けての手紙を読み上げて……。

 夜にはワドルディたちにご飯を作り、陛下たちが用意してくださった花火を、城で見る。

 

 こんなに目まぐるしくも、心満たされる忙しさがあるのだな。

 

 




2025/11/12
赤子の名前を「ルージュ」→「レッド」に変更。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。