リーノたちが帰ってきてから一週間後。
晴れた日の昼前に、結婚式は行われた。
式の費用は、みんなで出し合うこととなり、十分な金額が集まったのだ。
海がよく見える村外れの丘の上で、村のみんなとお世話になっている人たちが、着飾って集まる。
赤子はメーム様に任せ、私はアーニャとランタン、それにサトさんとハナさんと共に、リーノにウエディングドレスを着せていた。
場所は村長さんの家……つまりハナさんの家だ。
村外れの丘と村長さんの家が近い。なのでハナさんに頼み、家を着替える場所として借りたのだ。
ハナさんは「リーノのドレス姿が一番に見られる」と、喜んで場所を貸してくれた。
いつもはダイニングとして使う部屋を、テーブルと椅子を端に片付けて、広々と使う。
全身が見える姿見には、どんどん美しく飾られていく妹の姿があった。
普段よりも華やかなメイク。
お団子にまとめられている髪は下ろし、真っ白なベールで隠されている。
パールで統一されたアクセサリーたちは、リーノをより美しく完成させていく。
白から深い青へと変化するグラデーションが美しいウエディングドレス。
こちらは露出が少なく、体のラインがあまり強調されないソフトマーメイドだ。
上品で美しいシルエットが、今日のリーノによく似合っていた。
リーノが完璧に着飾ったところで、声をかける。
「リーノ、素敵だよ」
「そういうカノも、素敵よ」
私も、もちろん着飾っている。
白地に金の装飾が施されたライトアーマーを着用し、これまた白いマントを羽織る。
ライトアーマーの中には、フリルとレースが可愛らしいシャツを着て、白のパンツを履いている。
ブーツは茶色だ。それに金の飾りを付けて豪華な印象を持たせる。
愛用の鉄パイプは背中に隠し持ち、代わりに腰にはライトアーマーと揃いの細身の模造剣を、腰にさしている。
頭部には、やはりライトアーマーと揃いの顔が見えない兜を、すっぽりと被っていた。
……物語では見られなかったラストの続きを、この世界に来て見ている気分だ。
それはそれで嬉しいが、続きよりも妹の晴れ姿を見られることの方が重要で。
今にも泣きそうになる。
涙はグッと堪えていた。
準備が整った後は、リーノを馬車に乗せて運ぶ。
丘まで歩くとドレスの裾が汚れてしまうからだ。
ちなみにこの馬車は、陛下がワドルディたちに作らせた特別製だ。
見た目は、四人が乗れるほど大きな白い球体に、金色の車輪が四つ付いたような感じで……とにかく、今回は私が引いて運ぶ。
人が乗る部分は広く、大きく、計四名は乗れる。
内装は華やかで豪華だ。高級な赤色の床はフカフカと気持ちよく、椅子はクッション性があり座っても痛くない。壁と天井は白い。
外装は白く球体で、金の装飾が豪華である。
ライトアーマーが傷つかないように気をつけながら、太いロープで特別製の馬車と私を繋ぐ。
そして私たち一団は、丘に向かって歩き出した。
実はワドルドゥ隊長と数名のワドルディたちが、馬車を引くのを手伝ってくれると申し出てくれていた。
それを私が断ったのだ。
最初にリーノのウエディングドレス姿を見るのは、夫となるメタナイト卿が良いだろうと考えたから。
なので、今回は遠慮してもらった。
これからも、しばらくは同じ部屋に住み、毎日顔を合わせるというのに。
この寂しさは何なのだろうか?
でも、同じくらいの幸福が心の中を満たしている。
気持ちが昂っては涙が溢れそうになる。
何度も堪えて、歩くことに集中した。
やがて丘が見えた。
レッドカーペットの端に、馬車を横向きに停めた。
私たちの反対側には、参列者がずらりと並ぶ。最奥にはメタナイト卿と、牧師さん役の陛下、赤子を預かるメーム様やみんながいた。
サトさんとハナさんも、参列者の中に加わる。
私とアーニャとランタンが、リーノのために残っていた。
馬車の外から声をかける。
「リーノ、準備はいいか?」
「ええ、いつでも」
「では、開けるぞ」
馬車の扉をゆっくりと開け、それからリーノと手を繋ぎ、支えになる。彼女は馬車を降り、レッドカーペットの端に立った。
花嫁の姿がはっきりと見えると、参列者たちが思わず声をもらした。
「綺麗じゃのう」
「今日はさらにべっぴんさんじゃわい」
「素敵だわ!リーノ!」
手早くドレスの裾を整えてから、アーニャとランタンは参列者の中に加わる。
私はというと……。
「行こうか。我が妹よ」
「はい。お願いします。お姉ちゃん」
リーノと手を繋いで、レッドカーペットの上を歩く。
みんなにの目に焼き付けるように、時間をかけて。
それでもあっという間に、メタナイト卿が立つ場所にまで辿り着いてしまう。
リーノの手を離し、メタナイト卿に繋ぐ。
メタナイト卿と、目が合った。
彼は「任せてくれ」と言わんばかりに、力強く頷く。だから私も万感の思いを込めて、頷いた。
二人が手を繋ぎ、私に背を向ける。そして牧師役である陛下の方へ。
「カノープス、こちらに」
「はい。メーム様」
声をかけられた方へ、メーム様たち大臣一家に合流する。
私は背が高いので、身を小さく屈めて、陛下の言葉を待つ。
「あー、こほん。これよりリーノとメタナイトの結婚式を執り行う。異議がある者は立ち去るが良いゾイ」
何人かが困惑の表情を浮かべるのが、見えた。
私は陛下のお言葉に何度も頷いた。だって陛下の言葉が正しいからな!
誰も挙手しないので、陛下は満足そうに頷く。
「では、続けるゾイ。……リーノにメタナイトよ。お前たちは今後夫婦となる。病める時も健やかなる時も、いつだって互いを愛し合い助け合う事を、みなに誓うゾイ」
「「はい。誓います」」
「うむ。これで、晴れて二人は夫婦となったゾイ!盛大にお祝いするゾイ!」
「おめでとうでゲス!」
そこで陛下の後ろにある鐘がカランカランと、高らかに鳴った。
続いて参列者たちが一斉に「おめでとう!」とクラッカーを鳴らす。
だから、泣いたのだ。
「ふええーん!」
「あらあら、耳を塞いでいたけれど、びっくりしちゃったのね」
今日も元気に泣いている赤子。
メーム様があやすが、すぐには泣き止みそうにもない。
そこにリーノがやってきた。赤子を覗き込む。
「レッドちゃん、大丈夫よ」
「ふえ……ふええ……」
「リーノに会ったら安心できたのね。もうすっかりこの子のママね」
「そうでしょうか?嬉しいです」
そこにメタナイト卿が声をかけた。
「リーノ、みなに発表しよう」
「ええ、そうでしたわね。みなさん、聞いてください」
賑やかに「めでたい」と話していた村人たちや、みんながリーノに注目する。
「赤ちゃんの名前が決まりました。名前はレッド!どうぞ、今後ともわたくしたち家族を、よろしくお願いします」
拍手がおこった。
私も赤子が……レッドが泣かないように、音を抑えて拍手した。
そこに、カメラを持っている村長さんが声を張る。
「さあ、みなさん。写真を撮りますぞ!人数が多いので数回に分けて、撮りましょう。まずはご家族の方々から……」
椅子や台が用意され、真ん中にリーノとメタナイト卿が座る。
その周りを私や大臣一家、陛下にエスカルゴン殿、ソードナイトにブレイドナイトが並ぶ。
今日は、写真撮影の後に簡単な昼食が待っている。
リーノはウエディングドレスを着替えて、食事がしやすい普通のドレスに着替える予定だ。
それから陛下のお言葉があって、私からリーノとメタナイト卿に向けての手紙を読み上げて……。
夜にはワドルディたちにご飯を作り、陛下たちが用意してくださった花火を、城で見る。
こんなに目まぐるしくも、心満たされる忙しさがあるのだな。
2025/11/12
赤子の名前を「ルージュ」→「レッド」に変更。