結婚式が終わった二日後。
晴れた昼下がり、ブンとカービィが城の中庭でボール遊びをしていた。
私とリーノは、レッドをベビーカーに乗せ、子供たちが遊ぶ様子を眺める。
「レッドは、大きくなったらやんちゃになるかな?」
「今のブン様たちみたいに、元気に走り回るのね。ふふ、素敵だわ」
少し先の未来に思いを馳せる。
想像の中でのレッドは、赤子からフームやシリカぐらいの大きさに成長していて。
たいへん可愛らしい。
「メタナイト卿から剣を習っていたりして」
「それも素敵だわ」
早く大きくなってほしいような、ゆっくり成長してほしいような……。
幸せな悩みだな。
ヒュルル……。
「!!」
嫌な予感がしたので、私はリーノとレッドに覆い被さる。
と、同時に私たちを守る、小さなバリアを展開した。
次の瞬間、爆発音が中庭に響いた!
「どうしたの!?」
「わからん!」
遠くの方でブンが「カービィ!」と叫ぶ。
魔獣だろうか?それにしては、ミサイルが飛ぶ音ばかり聞こえる。
爆発音がする方向に背を向けながら、様子を窺う。
やがて視界の端にメタナイト卿が見えて。
「エスカルゴン殿!」
そう叫んでスライディングをきめた。
ミサイルが飛ぶ音も、爆発する音も止んで、何かが木にぶつかった。
私は辺りを見回して、何も起きない事を確認してから、リーノとレッドから離れる。
展開していたバリアも、解除した。
リーノはまだ緊張している様子で、顔が強張っていた。
レッドは、大きな音に驚いて泣いている。
「あーん!あーん!」
「よしよし、もう大丈夫だからね」
リーノが抱き上げてやれば、落ち着いてきたのか、声は徐々に収まっていく。
そこにメタナイト卿が走ってきた。
リーノの側に寄り添い、奥さんと娘を気遣う。
「みな、無事か?」
「こちらは大丈夫です。カノが身を挺して守ってくれて……。ありがとう、カノ」
「そうか。私からも礼を言おう。ありがとう」
「どういたしまして……それよりも、何があったんですか?」
「うむ。エスカルゴン殿が、陛下の命令でカービィを狙ったのだ」
私はこめかみをぐりぐりと押した。
「……場所を選んで欲しかったな」
「エスカルゴン殿は徹夜続きだ。判断力が低下している」
「だから周りをよく見ず、カービィを襲ったと……」
「閣下……おいたわしや……」
「断らないエスカルゴン殿も良くないと思うぞ?ところで、エスカルゴン殿は今どちらに?」
「あちらだ」
木の下で動かない何かが見えた。
「行くか?」
「もちろん」
リーノの目は、燃えていない。
ならば、私も怒ることはしない。
エスカルゴン殿を木の根元から助け出して、部屋に運ぼうとした。
しかし、そこに騒ぎを聞きつけて駆けつけた、フームが言った。
「展望室の方が良いと思う。エスカルゴンは最近、あそこで寝泊まりしているから」
「わかった。ならば、そうしよう」
エスカルゴン殿を抱えて、大きな天体望遠鏡が置かれた部屋……展望室に移動する。
リーノとレッドは、メタナイト卿と共に先に部屋へ戻ってもらった。
展望室は、エスカルゴン殿の専用部屋になっていた。
あちこちにエスカルゴンロボの部品が散らばり、工具が置かれている。
「何か動かしたら、怒られそうだな」
私の言葉に、フームは呆れたように同意する。
「そうね。一見、散らかっているように見えるけれど……エスカルゴンにとっては、決まった場所に道具を置いてあるみたいだし」
「やはりか……。とりあえず、ベッドに寝かそう」
「それなら、あっちだぜ」
ブンが指差す方向を見る。
ブルーシートの上に、薄めのベッドパッドと汗を取るための敷パッド、畳まれた掛け布団が置かれていた。
持ち運びは簡単だが、熟睡はできそうにない。
とにかく、そこへ寝かせてからケガの治療をする。
フームが手伝ってくれたので、スムーズに行えた。
「ねえ、カノープス。あなたの魔法で治せば、早いと思うんだけど?」
「今回は使用しない。エスカルゴン殿には、安静に過ごす時間が必要だ」
「それもそうね。その間に、しっかり反省してくれると良いんだけど」
治療が終えた所で、私は展望室を出た。
フームたちは残るらしい。
エスカルゴン殿が起きたら、もうロボを作る手伝いはしないことを伝えると、言っていた。
確かこのあと、エスカルゴン殿はカスタマーサービスにロボについて相談したはず。
結果、デリバリーされたエスカルゴンロボには、バトルモードが搭載されていて。
陛下はバトルモードのボタンを押してしまい、そのせいで村が襲われるのだ。
「村に行く前に、はたき落とすか……」
リーノが悲しむ前に、問題は解決してしまおう。
翌日。早朝。
リーノは育休中なので、アーニャとランタンにくっついて、陛下の部屋を訪れた。
廊下側からノックし、返事は聞こえないので、勝手に中へ入らせてもらう。
二人が部屋の中を片付けたり、カーテンを開けたり、浴槽の準備をしている間に、私が陛下を起こす。
天蓋付きベッドの、カーテンを静かに開けて。
陛下はぐっすり眠っておられた。
「……陛下」
「うーん……」
「おはようございます」
体を屈めて、ベッドの端に顎を乗せる。
大きな欠伸をする陛下が、よく見えた。
「おはよう……カノープス!?」
「はい。私です」
「な、なんでおるゾイ!リーノの育休に合わせて、休みを取っておるのではないのか!?」
「はい。ですが、まったく仕事に出ないワケではありませんので、こうして陛下に会いに来ました」
「――来るのが遅いゾイ!」
「申し訳ありません」
プンプンと怒っておられるようだが、口元は笑顔が隠しきれていない。
本気で怒ってはいないのだ、と思う。
「これからは、もっと会いに来るゾイ。良いな」
「はい。参上します」
陛下にそう言われて、私はとっても嬉しかった。
兜の下で、口元が緩んで仕方がない。
身支度を整えられた陛下のもとに、エスカルゴン殿はやってきた。
「おや、カノープスもいるでゲスか」
「はい。今日は出勤しております」
「来てくれて何より!陛下のご機嫌が良くなるでゲス!」
「ふふ、お世辞が上手ですね」
そう言うと、エスカルゴン殿は片手を額に当てた。
「ありゃ……これは先が長いでゲスな」
「?」
「いや、何でもないでゲスよ。さて!それよりも、新エスカルゴンロボのお披露目でゲス!」
洗練されたエスカルゴンロボが部屋の中に入ってきた。
陛下はいたずらっ子のように笑い、無理難題をふっかける。
「豪華料理を用意するゾイ!」
「――ハイ。デキマシタ」
「なに!?」
わずか一分。ローストチキンが完成している。
スパイスが効いた香りが部屋に充満する。
陛下は、部屋に常備されているフォークとナイフを取り出し、ローストチキンを一切れ食べた。
「うんまい!」
どうやら素晴らしい出来のようだ。
エスカルゴン殿は胸を張っている。
「えっへん!どうでゲス?すごいでゲショウ?」
「ふーむ……」
陛下は、新エスカルゴンロボを注意深く観察する。
そして背中側、殻部分にボタンがあるのを見つけられた。
――それを見つけてニヤリと笑うと、押した。
まったく躊躇せず、押した。
「あっ」
「あー!!!」
エスカルゴン殿が叫ぶ。
ロボは瞬く間に戦闘機のような翼が生え、ジェットを噴射した。
空中に浮かび上がり、窓へ。
激突する寸前、私は陛下に覆い被さり、窓ガラスの破片から守った。
「ろ、ロボやーい!」
エスカルゴン殿が部屋から出ていく。
私は陛下から離れ、破壊された窓の方へ向かった。
「どこへ行く?!」
「ロボを止めてきます」
そう言って、私は窓から空中へ躍り出る。
光の道を作り出し、その上を疾走した。
城と村の中間でロボを見つけ、愛用の鉄パイプで機体をはたき落とす。
「ガガ……ピピ……」
「まだ動けるんだな」
ロボは私に向かってミサイルを撃つ。
こちらは火球を放って、ミサイルに着弾。爆発させた。
「カノープス!一体どうしたの?!」
「ぽよ!」
フームとカービィだ。騒ぎを聞きつけて、駆けつけてくれたのだろう。ちょうどいい。
「助けてくれないか?」
「――余裕そうに見えるけれど?」
「二人で戦った方が、確実だろう?」
「それもそうね。カービィ!」
「ぽよい!」
ミサイルが、私たちに向かって飛んでくる!
「吸い込みよ!」
カービィはミサイルを吸い込み、ボムカービィに変身した。
ロボは自己修復が完了したのか、立ち上がりミサイルをまた構える。
「カービィ、頼む」
ボムカービィはたくさんのボムをエスカルゴンロボに投げた!
そして大爆発が起きる。
辺りにエスカルゴンロボの残骸が……いや、破片が降った。
「ああ……ロボやーい!」
そこにエスカルゴン殿が来て、おいおいと泣き始めた。
子供のように体を丸めて泣いてしまう姿は、たいへん悲しくて。
私とフームは、どう慰めたものかと互いの顔を見合わせる。
ひとまず声をかけることにした。
「エスカルゴン、残念だったけれど、その、元気を出して……」
「エスカルゴン殿?」
「…………ぐー」
――寝ている。
「……はあ。仕方ないわ。確か、昨日も徹夜したはずだもの」
「寝てくれて良かったかもな。眠れば、感情は落ち着く」
「それもそうね。カノープス、エスカルゴンを城まで運んでくれない?部屋で寝かさないと。このままにはできないわ」
「そうだな。部屋でゆっくり寝てもらおう」
エスカルゴン殿を抱え、私たち三人は帰城した。
道中で出会した陛下が、エスカルゴン殿に怒っていたけれど、今回は特別ということで、見逃してもらった。