城の中は広いので、レッドの散歩場所には困らない。
けれどリーノの方が飽きてしまうので、今回は村の方へ降りた。
晴天、わずかな雲が広がり、心地良い風が吹く。
レッドを乗せたベビーカーは、私が押して歩く。
その隣にリーノが並ぶ。
気分を変えるために、カワサキの店へ足を向けていたところ、見慣れない人影を見つけた。
大男、紫の毛、ゴリラのように筋肉質な姿形、背中には大きなハンマーを担ぎ。
きょろきょろと、周りを見ては探している。
「……旅人でしょうか?」
「おそらく」
ボンカースだ。確か、そんな名前のはず。
私はベビーカーをリーノに預けた。
「カノ?」
「彼に話しかけてくる。何やら、探しているようだから」
「わかったわ。気をつけていってらっしゃい」
「ああ。悪い人ではなさそうだし、大丈夫さ」
わざと靴音を鳴らして、近寄る。
大男はこちらに気づいて、じっと見つめていた。
声はこちらからかけた。
「初めまして。私はあの城の戦士、カノープスだ。あなたは?見かけない方だな」
「オレは……ボンカース……初め、まして。この、人……」
ボンカースが一枚の写真を見せてくれた。
覗き込むと、カービィが写っている。
「カービィを、探しているのか?」
「そう……。どこに、いる?」
「今、どこにいるのかは知らない。だが良ければ、彼の家に案内しよう」
「本、当?」
「家に彼がいる保証は、できないがな。どうする?」
「お、願い、しま、す」
「わかった。一緒に行こう。こちらだ」
先に歩けば、ボンカースが続いた。
途中ですれ違うリーノに事情を話し、カワサキの店には彼女とレッドの二人で行ってもらうことにした。
「すまない。リーノ、先に行っててくれ」
「わかったわ。後から来てね」
「了解した」
「それでは、ボンカースさん。ごきげんよう」
「さよう、なら」
ボンカースは礼儀正しく頭を下げようとして、ズルリと背中のハンマーが落ちる。
私はリーノに落ちそうになったハンマーを、片手で止めた。
「ボンカースさん。そのハンマーがずり落ちてこないように、頭を下げる位置を考えた方が良いぞ」
「気を、つける」
「ああ、頼む」
ボンカースが頭を上げたので、ハンマーも元の位置に戻った。
さて、草原の向こうにある村外れの丘の上。
そこに一本の曲がった木と、半球の可愛らしい家がある。
木の上にカービィはいない。
「トッコリ、カービィ、いるか?」
黄色い小鳥の返事もない。
二人とも出かけているようだ。
私はボンカースに向き直る。
「カービィと、隣に住むトッコリは、出かけているようだ」
「そう、残念……」
「カービィを探してこよう。入れ違いになってはいけないから、ここで待って……」
言い終わらない内に、拡声器を使った陛下の声が聞こえた。
『カノープスから離れるゾイ!』
「陛下?」
あっという間に周囲をワドルディたちが包囲し、陛下とエスカルゴン殿がその輪の外側にいるのを見つけた。
側には、あの高級車もある。車に乗って来たんだな。
私は声を張り上げる。
「これは何の騒ぎですか!」
『隣にいるのは、ナイトメア社の取り立て魔獣であろう!危ないからコッチに来るゾイ!』
「いえ、彼は旅人ですよ。そうだろう?ボンカース」
「そう」
「ほら、彼もこう言ってます」
『信じられるかー!』
私はそっとため息を吐く。
こうなったら陛下を説得するのは難しい。
さて、どうしたものか。
「カノープス!」
「フーム……それに子供たちか」
フームにブン、探し人のカービィに、姉弟と仲の良いホッヘとイローとハニーが駆けつける。
フームは心配そうに叫んだ。
「そいつは村のみんなにケガを負わせた張本人よ!気をつけて!」
「……みんな、あなたのハンマーの餌食になったみたいだな」
「そう、みたい。すま、ない」
「後で謝れば、わかってくれるさ」
村人たちは基本的に、おおらかで優しく、心が広い。
ちゃんと謝罪すれば、許してくれるだろう。
と、そこに痺れを切らした陛下が、号令をかける。
『兵士かかれい!カノープスを助けるゾイ!』
兵士が槍を構えて、突撃してくる。
足元でも凍らせて、動きを止めようとしたところ、ボンカースが先にハンマーを構えた。
そして――。
「うおおおおお!!」
凄まじい雄叫び。
彼はハンマーを自在に操り、兵士たちを吹っ飛ばす。
最後に高級車をハンマーで叩いて爆発させた。
震え上がった陛下とエスカルゴン殿は、すぐに退却を選択。
陛下はサッと私の隣に来て、手を掴み、声を張った。
『退却〜!!』
陛下に引っ張られて、私も走り出す。
陛下の後ろには、エスカルゴン殿、兵士たちが続いた。
――――――
休まず城の橋まで走りきった一団は、大きく息をする。
「はあ、はあ、死ぬかと思ったゾイ」
「陛下、どうぞ」
両手から弱い風を発生させ、陛下の方へと送る。
風が気持ち良いのだろう、陛下は顔を綻ばせた。
「私も頼むでゲスよ」
「どうぞ。陛下の方へ」
エスカルゴン殿も、陛下の隣に立って風に当たる。
それに対して、陛下は文句を言った。
「エスカルゴン、空気を読まんか」
「周りには、わたくしめらがいるんでゲスから、二人っきりではないでゲスよ。それより、これからどうするでゲス?」
「もっとあの凶悪な大男について、情報を集めるゾイ。カノープス、ついて参れ」
「すみません。この後はリーノと約束があるので、カワサキの店に行きます」
「なぬ!」
「ヒヒ!フラれてやんの!」
エスカルゴン殿にハンマーが振り下ろされた。
「いってー!!」
「うるさいゾイ!こほん。……村は今、危険だゾイ。注意して行くが良い」
「はっ!お心遣い、感謝いたします。それでは」
深く腰を曲げて、それから頭を上げる。
私はリーノとレッドに会うべく、また村の方へ降りた。
ボンカース回と言うことは、城で魔獣かボンカースが暴れるはずだ。
できるだけ、カワサキの店にいよう。
リーノは自分で身を守れるが、レッドにそれはできない。
守らないと、な。
カワサキの店に到着する。
いつもは人の気配が少ないレストランだが、今日は賑やかだ。
引き戸を開けて、中に入る。
元気な声が響いた。
「いらっしゃい!あ、カノープス。ようやく来たね」
「こんにちは、カワサキ。リーノとレッドは……?」
「こちらよ。カノ」
店の奥、厨房から近い四人席にリーノとレッド、それにハナさんとサトさんがいた。
レッドはベビーカーの上で、ハナさんとサトさんにあやされている。
私はそちらに近づく。
「待たせてすまない」
「いいの。それよりも、何かあったの?」
「カービィの家に案内した大柄な男性の件で、ちょっとな」
「そうだ!ソイツには気をつけなよ!頭をボカンってやられちゃうからさ!」
声を大きくして話すのは、カワサキだ。
よく彼を見れば、頭に医療用テープが貼られている。
「カワサキも会ったのか?カービィを探す彼に」
「そうだよ!知らないって言ったら、お辞儀されてハンマーで……」
「頭を打ったのか。それは痛いな」
リーノも危なかったからな。
私のように身長があれば、落ちてくるハンマーを抑えることができるけれど。
「カワサキだけじゃないわ。うちの夫も……」
「我が家もそうですのよ」
「怖いわ!」
「まったく!」
どうやらボルン署長とレン村長も、ボンカースのハンマーで頭を打ったらしい。
私は頭が痛くなるのを感じた。
「少し話をして一緒に行動した限り、悪い人ではないぞ。大柄な男性……名前はボンカースだ。ボンカースは自分のせいで、村人がケガをしたと聞いたとき、謝罪を口にしていた」
「そうなの?」
ご婦人方が目をぱちくりさせながら、問う。
私は頷いた。
「今は、会いたかったカービィに出会えたから、そちらにかかりきりだ」
「……どうしてカービィに会いたいのかしら?」
「それは、聞いてないな」
弟子になるため。
アニメだと、そんな理由があったはずだ。
けれど、私はボンカースからカービィに会いたい理由を聞いていない。
なので、ここは知らないフリをする。
「そういえば、レッドはどうだ?ごきげんかな?」
「ええ、ハナさんとサトさんにあやされて、とっても嬉しいみたい」
「それは良かったな」
別のテーブルから椅子を拝借し、それに腰掛ける。
カワサキにお茶を注文し、最近のレッドについて、みんなと談笑した。
二時間ほどたったころ、店がわずかに揺れた。
気づいたのは、私とリーノぐらいだ。
「今、揺れたな」
「そうですわね」
「え〜?そうかい?」
「表を見てくる」
席を立ち、外に出た。
城の方を見る。
――城の壁面に何かがくっついていた。
どうやら事件は起きたらしい。
ワープスターが上空を飛んでいくのが見えたので、すぐに事態は終息するだろう。
私は店の中に戻った。
「城で騒ぎが起きいている。おそらく魔獣だ」
「陛下と閣下が……!」
「落ち着いて。ワープスターが飛んでいくのを見た。カービィが城にいるということは、魔獣はすぐに倒される。陛下たちも大丈夫だ」
「じゃあ、すぐに戻りましょう。歩いているうちに、決着がつくはず」
「そうだな。行こう。カワサキ、ご馳走様」
「ご馳走様です。お勘定、お願いします!」
「あいよー!」
勘定を慌ただしく済ませて、私とリーノとレッドはレストランを出た。
城への道を進む。
三分の一も進まないところで、城の壁面にくっついていた何かは……おそらくカービィの攻撃で、空中に吹っ飛ぶ。
そして爆発した。
そのせいで、驚いたレッドが泣き出したけれど、しばらくあやしてやれば、落ち着いてくれた。
……爆発したってことは、あれはボンカースではないのだろう。
心優しい彼が魔獣にされなくて良かった。
ようやく城の橋の上まで来ると、子供達に会った。
フームとブンとカービィ、それにボンカースだ。
みんな、ケガをしていない。
リーノは胸を撫で下ろした。
「みな様、ご無事だったのですね。良かった」
「大丈夫だったぜ!ハンマーカービィが魔獣を吹っ飛ばしたからさ!」
「無事な姿を見れて、安心した。それで、どこへ行くんだ?」
「ボンカースを見送るの!」
フームの言葉に、首を傾げる。
「一泊でも、していかないのか?」
「オレ、力不足。早く、修行して、カービィ様に、追いつき、たい」
「ああ、善は急げということか。また旅に出るんだな」
「そう。世話に、なった。それから、村人たちに、ごめん、なさい」
「伝えておこう」
こうしてボンカースは、ププビレッジから旅立つ。
その手には、カービィとの記念写真があった。
後日。
村人たちにボンカースの言葉を伝えた。
みんな「やれやれ仕方ない」という感じで、彼がしたことを許してくれた。