陛下の元気が取り戻されたころ。
ちょうど晴天で風も吹いていたので、リーノの部屋を掃除した。
レッドはアーニャとランタンに任せ、部屋を私とリーノで手早く片付けていく。
使っていない故にゴミは少ない。しかし埃は溜まっている。
窓を開いて、あちこちに掃除機をかけて、マットやら布団も洗った。
あとは洗濯物が乾いたら、元の位置に置くだけ。
最後の洗濯物を中庭に干したら、私は一息ついた。
「さて、今から休憩時間だな」
「お昼には早いし、お茶にする?」
「賛成だ」
遠くで、レッドの世話をしているアーニャとランタンにも声をかけよう。
私とリーノは、何を飲むのか話し合った。
干された洗濯物の間を抜けると、アーニャとランタンが誰かと話している。
歩み進むと、それはフームとブンとカービィだとわかった。
私たちは彼らに近づいた。
「こんにちは。みんな」
「こんにちは。フーム様、ブン様、カービィ」
「こんにちは!リーノ、カノープス!」
「よっす!」
「ぽよ!」
「みな様、どうしてこちらに?村へ行くのですか?」
「そうなんだけど……今日のニュースのせいよ!」
私たちは疑問符を頭の中で浮かべた。
それに気づいたアーニャが教えてくれる。
「フーム様たちが仰るには、朝のニュースでサトさんの家が話題に上がった……と」
「警察署が?どうして?」
「警察署ではなく、住居の方がその……とんでもなく汚いらしくて」
リーノの目が大きく開いた。そしてハッキリ言う。
「サトさんは片付けができる女性ですよ??」
フームが憤慨して話してくれた。
「理由があるの!落とし物がどんどん溜まっていって、片付けられなくなったのよ!サトさんのせいじゃないわ!」
「そうだったんですね……。こうしてはいられません。サトさんの家を、片付けに行かなくちゃ!」
「私も行こう。二人も手伝いに行けば、すぐ終わるんじゃないか?」
「ありがとう、カノ。そうね、すぐに終わらせちゃいましょう!」
ブンが“ひらめいた!”と言う。
「みんなで片付ければ、今日中に終わるぜ。姉ちゃん!」
「ブンの言う通り。みんなで協力しましょ!」
私たちは力強く頷いた。
――――――
レッドも連れて村へ降りた。
今回は村の大樹がある広場ではなく、その裏側、サトさんの住居が見える方へ向かった。
普段は人通りが少ない道に、人々が集まっている。
すれ違う人々の話し声が聞こえる。
「すごかったね」
「あんなに物をためるなんて、信じられないよ」
おそらくサトさんの家を見てきたのだろう。
わかっていたが、身近な人がこんな風に目立つと、心にくるものがある。
早く行ってサトさんから許可をもらい、片付けてしまおう。
サトさんの家に到着する。
まるで観光名所のように、人が集まっていた。
そんな人々の中には、物で溢れる家の中を、写真におさめる人もいる。
私は言った。
「みんな他人事だな」
「そうですね……サトさんとボルンさんはどちらに?」
「あっち!」
フーム様が指を差した先に、二人はいた。
みんなに後ろ指を刺されて、その顔は沈んでいる。
サトさんの側には、ハナさんがいた。優しく肩をさすって、慰めているようだ。
私たちは三人に近寄った。
まずハナさんが気付き、サトさんとボルンさんに声をかける。
「サトさん、ボルン署長」
「?ああ、みんな来てくれたのね。こんにちは」
「やあ、こんにちは」
サトさんとボルンさんの声に力はない。
私たちの挨拶も力がなかった。
そんな中で、リーノは一歩前に出て言った。
「サトさん、ボルンさん。わたくしたち、今日はお二人のお手伝いに来ました」
サトさんは目を丸くされた。
「手伝い?何の?」
「あの落とし物たちの片付け、ですわ。どうか、手伝わせていただけませんか?」
「テレビに撮られて、こんなに人が集まっているのに、落とし主が現れないんだ。落とし物を、片付けてもいいと思う」
「どうでしょう?」
お二人は、顔を見合わせた。
そして再びこちらを向いて、笑顔を見せてくれる。
「お願いするわ」
「すまんな。助かるよ」
「いいのです。いつもお世話になっているお礼ですわ」
そこに大声が響いた。
「ならんゾイ!!」
振り返れば、拡声器を持つ陛下がいた。高級車に乗って、エスカルゴン殿と一緒にいる。
車の周りにはワドルドゥ隊長と、二十名ほどのワドルディたちもいた。彼らはテレビクルーの装いだ。
陛下は拡声器をを使い、声を荒げる。
『今からボルン夫妻の取材をする。片付けられては話題にならん!だから、お片付けはナシ!ゾーイ!』
「陛下!」
怒った声を出すリーノ。
彼女は眉を吊り上げて、私を見上げた。
「カノ、止めてちょうだい!」
「うーん……」
「え……止めたくないの??」
「いや、そうではなくて。考えがあるんだ。そのためには、サトさんたちは取材を受けないといけない。どうする?」
「……うまくいけば、落とし物はなくなるの?」
「多分」
「どうしますか?サトさん、ボルンさん」
サトさんはすぐに答えを出した。
「あれがなくなるなら、やっちゃって!」
「頼むよ。カノープス」
「わかりました」
私は陛下に近づいた。
陛下はバタバタと手を振り回した。
「きょ、今日はカノープスのお願いは、聞いてやらんゾイ!止めても無駄ゾイ!」
「いえ、止めに来たのではありません」
「じゃあ何しに来たでゲスか?!」
「拡声器をお借りしに来ました」
「それならば許すゾイ」
陛下は快く、持っていた拡声器を貸してくれた。
そして使い方を、丁寧に教えてくれる。
「――わかりました。ありがとうございます。陛下」
「うむ。あとで返すゾイ」
「はい。必ず」
私は拡声器を使って、周囲の人々に声をかけた。
『あー、あー。みな様に提案します。フリーマーケットを開催しませんか?きっと楽しいですよ。あなたのいらない物は、だれかのいる物。処分したらゴミだけど、売れば価値がうまれます。フリーマーケット。フリーマーケットをやってみませんか?』
ここで区切り、周囲の表情を窺う。
ほとんどの人は、表情に疑問符を浮かべていたが、リーノ、フームやキュリオ氏は違った。
ブンが疑問を口にした。
「フリ……マ?」
リーノが答える。
「フリーマーケット、略称はフリマ。いらない物を手頃な値段で販売する……ちょっとしたお祭りみたいな物です」
フームが答えを加える。
「個人参加できる市場ね。ハンドメイド品を売ったりもするのよ」
「どこでやんの?店?」
ブンの疑問に、今度はキュリオ氏が答えた。
「フリーマーケットの多くは青空市だ。屋台を出したりする。また地面の上にシートを敷いたり、机を並べたりして、その上に商品を並べる」
「へえ……気軽にできるの?」
「できますわ。毎週、開く地域もありますから」
私は、また拡声器を使って言った。
「今回は村でフリーマーケットを開催したい。だから屋外で、尚且つみんなに参加してもらい、楽しみたいと思う」
村人たちはザワザワと賑やかになってきた。
誰かが声をあげ、質問する。
「屋台も出せるなら、弁当屋もオッケーなの?」
『オッケーだ。ただ、食中毒には注意してくれ』
「ハンドメイドもいいなら、普段しまっている手作りのコースターも、売りに出せるのね」
『もちろん!素敵な物は大歓迎だ』
「いらない物って、具体的には何?」
『ゴミではない不要な物とか、余分な物とかだ。ゴミは売れない。注意してくれ』
私はぐるりと見渡し、大事なことを付け足した。
『言い忘れていた。フリーマーケットでは、商品を値切ることもできぞ』
「そうなの?」
『応じるかは、相手次第だがな』
みんなはどうするか、相談し合っている。
聞こえてくる限り、反応は良好だ。
そこにフームが近づいてきた。
「ねえ、フリーマーケットとサトさん家の大量にある落とし物。どう繋がるの?」
私は拡声器を口から離した。
「フリーマーケットを開催して、いらない落とし物を販売する。何ヶ月も、捨てずに管理してきたんだ。落とし主が見つかったとしても、管理費をちょっとは貰わないとな」
「サトさんの家は片付けもできるし、管理費も入る。村のみんなはこれに懲りて、落とし物が減る……ってところかしら?」
「そんなところだ」
「いい案だわ!」
私は兜の下で、ニヤリと笑った。
そして陛下の方を向く。
「では陛下、サトさんの家の落とし物の取材を、お願いします。目玉商品があるぞ!という感じで。ついでにフリーマーケットを宣伝してもらえると、助かります」
「それの何が楽しいゾイ?」
「?陛下とおでかけできます」
あ、コレは私のメリットか。
言い直そうとしたが、できなかった。
先に陛下が動いたからだ。目の色を変えて、命令する。
「エスカルゴン!急いでフリーマーケットをやる準備を進めい!!ワドルドゥ隊長!さっさとゴミを取材してくるゾイ!」
「は、はい〜」
「直ちに!」
「いえ、ゴミではなく目玉商品……」
足の鎧部分をコンコンとノックされる。
見ればフームが見上げていた。
私は片膝をついて、彼女の話を聞いた。
「落とし物は、あなたとサトさんが紹介していけばいいんじゃない?管理していたサトさんなら、何が売り物になるかわかると思うの」
「そうだな。私が落とし物を家から出して、サトさんが紹介すれば、良いな。さっそく動こう。ワドルドゥ隊長、こちらへ」
拡声器を陛下に返却してから、ワドルドゥ隊長たちテレビクルーを引き連れて、サトさんと合流した。
そのまま取材をしようとして、異変に気づく。
城がなんだか変だ。
「な、なんゾイ!あれは!?」
「陛下、あれはゴミでゲスよう!」
「なにい!?急いで戻るゾイ!発進!」
「アイアーイ!」
陛下とエスカルゴン殿は、高級車を飛ばして城へ戻る。
これは……魔獣が来るなあ……。
私は周りの人たちに聞こえるように、声を出した。
「イヤな予感がする。魔獣が来ると思うから、作業はしないで、休憩しよう」
リーノが同意してくれた。
「賛成です。ただ、何もしないのではなくて、フリーマーケットをするかどうか、その多数決だけでもしませんか?」
「いいな。ソレ。どうでしょう?ハナさん」
「良いと思うわ。うちの人、呼んで来るわね」
村のみんなを集めるならば、大樹がある広場の方がいいだろうと、話し合った。
そうして村中の人が広場に集まったころ。
魔獣はやって来た!
「ゴメンナサーイ!ゴメンナサーイ!」
「来たぞ!魔獣だ!みんな隠れろ!」
みんなが建物の中に避難する。
私はやって来た魔獣を迎えた。
「バリア」
魔獣の周りに、半径一メートルのドーム状のバリアを張って、その中から出れなくしたのだ。
「ゴ、ゴメンナサーイ!」
魔獣は戸惑ったが、ゴミの吐き出す攻撃を行う。
ゴミはバリアの壁に当たり、内側から出なかった。
何度やっても同じことだった。
ゴミで、相手の視界が封じられてきた頃合いを見計らい、私はフームに合図を出す。
「今だ!」
「カービィ!ほうきを吸い込んで!」
「ぽよ!」
カービィはクリーンカービィとなった!
変身が完了してから、魔獣にかけたバリアを解除する。ゴミの山から出てきた魔獣は、怒っていた。
そしてこちらに向かって、ゴミを吐き出す。
クリーンカービィは、まっすぐ向かってくるゴミを、ほうきで何度も叩き返した。
ゴミはクリーンカービィのほうきに当たると、キラキラと輝いて消えていく。
全てのゴミを吐き出した魔獣は、盛大に咳き込む。
その隙を狙って、クリーンカービィは一気に魔獣の懐へ!
「はああああ!」
「ご、ごめんなさーい!」
魔獣を空へと打った!
魔獣は爆発せず、キラキラと輝いて消滅した。
「村も頼むぞ!カービィ!」
「メタナイト卿」
いつの間にか、リーノとレッドの側にいたメタナイト卿が言った。
クリーンカービィは村中のゴミをキレイにしてくれた。
そして、サトさんの家の落とし物も、キレイに消滅してくれた。
「あ、フリーマーケットの商品が……」
「なくなった方がいいわ」
「そうだな」
何よりも、サトさんとボルンさんがスッキリとした顔になっている。
これで良かったのだ。
――――――
問題は城だった。
あのゴミを吐き出す魔獣のせいで、城の中はゴミだらけだった。
原因は、陛下がホーリーナイトメア社にゴミを送ったからだそうだ。
陛下とエスカルゴン殿、そして兵士たちに城を片付けてもらう間、リーノとレッドはサトさんの家に泊まる。
今回、力になってくれたことが、嬉しかったらしい。そのお礼だそうだ。
サトさんはニコニコと笑って言った。
「いつでもレッドちゃんに会えるカノープスたちが、羨ましかったの!これでしばらくは、毎日会えるわね!」
そしてサトさんはレッドに向かって、いないいないばーをした。
「ほーら、おばあちゃんですよ」
レッドがニコニコと笑う。
サトさんの隣で、ハナさんが負けじと変な顔をして、レッドから笑いを取ろうとしていた。
「ほーら、レッドちゃん。ばあ!変な顔ですよ」
「あー!ぶうー!」
レッドは、その小さな手足をパタパタと動かして、楽しさを表現しているようだった。
ちなみに、フリーマーケットだが。
二日後、楽しそうだからやってみたいという声が多数だったので、開催された。
リーノたちも、自らのハンドメイド品を持って参加した。
私は細かい作業が得意ではないので、ハンドメイドはできず、レッドの世話をすることにした。
でもまあ……陛下と祭りを回ることもできたので、すごく楽しかったよ。
リーノと、アーニャにランタンも、それぞれ大事な人たちと祭りデートを楽しんだみたいだった。
いい日だなあ。