昼の三時から始まった女子会は、村長さんの家で行われた。
みんなでお菓子を持ち寄り、ソレをつまみつつ手芸を楽しむ。
毛糸を編んでうまれる作品たち。
ついでに家の仕事も持ち込んで、楽しくおしゃべりしながら縫う奥さんたち。
そしてリーノ、アーニャ、ランタン。
そんな人たちに混じりながら、私は初めて村の女子会に参加した。
今まで手芸に興味がないと、村人たちには思われていたらしい。
まあ私の大きな手では、手芸に向いてないからな。
力も強くて、小さくて繊細なことには向いていないし。
しかし、昨日。村の本屋でいい本を見つけたのだ。
手が五本指ある種族向けの、指で編んでいく初心者向けの本。
見たところ、一冊だけ置いていた。他の人が買ってしまう前に購入したんだ。
ついでに手芸屋で毛糸を選ぶ。
ついつい緑色のモノを選んでしまうのは、私の色だと思っているからかな?
そこでサトさんとハナさんに、バッタリ出会した。
始めはリーノのお使いかと思われていたが、私自身が編み物を楽しみたいのだ、と伝える。
二人は「じゃあ、女子会においでなさい!」と誘ってくれたのだ。
そして今にいたる。
床に敷いたシートの上、そこにあぐらをかいてレッドを寝かせている。
レッドは女性たちの笑い声を聞きながら、よだれを垂らして寝ていた。
私はそんな姪っ子を穏やかな気持ちで見守りつつ、本の通りに指で編んでいく。
私は右利きなので、左手を使う。
左手をパーの形に開く。次に、親指に毛糸を二回巻きつける。それから毛糸を、人差し指前、中指後ろ、薬指ぐるりと巻いて……中指前、人差し指後ろ……そして今度は人差し指前から薬指前まで毛糸を渡らせる。
「ああして……こうして……」
そうやって本の通りに編んでいくと、三本の指で編まれた……長く細身の平たいモノがうまれていた。
私は使い道について、しばし考える。
「……長めに作って、とぐろを巻くようにすれば、ネックウォーマーになるか。それともヘアバンドにするか」
小さいから、レッドの腹巻きになるかもしれない。
それもいいなあ。
そうこうしていると、サトさんとハナさんがやって来た。
二人の頬は赤い。女子会を楽しんでいるようだった。
「どう?カノープス。楽しんでる?」
「はい。みなさんと同じことをしているので、集中できますね」
「おしゃべりしながら楽しむのよ!……それで、編めたものは誰に渡すかしら?」
「レッドか、自分に」
「そ、そう……」
二人があからさまにガッカリしている姿を見て、私は首を傾げた。
そして顔を上げていたので、ちょうどメーム様が目に入った。
声が聞こえてくる。
「ブン?私よ。女同士の付き合いなの。遅くなるから、晩ご飯は済ませてちょうだい」
そして受話器をガチャンと置いた。電話を切ったのだ。
私は思わず呟いた。
「今日か……」
「なに?どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。ところで、コレ上手くできていますかね?」
「もう少し毛糸を引っ張って、ピンとした方が、あとで緩んだり伸びたりしなくていいと思うわ」
「わかりました。もう少し引っ張ります」
毛糸の編んだ先、尻尾側といえばいいのか?そちらをツンツンと優しく引っ張る。
そろそろ晩ご飯だという時間で、女子会はお開きになった。
私は、魔法で光る球をいくつか作り出して、参加者に配った。
もう足元が暗い。光る球があれば、転ぶことはないだろう。
――――――
私、リーノ、レッド、アーニャにランタン、そしてメーム様が、一緒に帰り道を歩く。
夜道。私たちの周りを三つの光る球が浮遊し、足元を照らしていた。
メーム様が、珍しそうに光る球をツンツンと触りながら、言った。
「これ便利ねえ。懐中電灯より明るいし、何より優しくてほっとする……。あなたが一緒のときは、またお願いしたいくらい」
「そのくらいお安い御用ですよ」
「そう?じゃあ、お願いしちゃおうかしら」
そして道中、誰の作品が素敵だったか、自分は何を作っていたか……そんな話をしていた。
楽しくて、ついつい会話が弾む。
次はどんなものを作ろうかと、話し始めたころ。
私たちは城の橋を渡り、帰城した。
橋を渡り終えて、すぐ右手側の中庭に誰かがいた。
パーム様にフームとブン、そしてカービィだ。
私はメーム様に声をかけた。
「あちらにご家族がいます」
「え?――あら、本当だわ。何をしているのかしら?」
「夕食を食べているかと……美味しそうな香りもしますので」
「くんくん……そうね、行って確かめてくるわ。それじゃ、私はここで」
私たちは別れの挨拶を交わす。
メーム様は家族の元へ、私たちは城の中へ入っていく。
心地よい静けさの中で、足音だけが響いている。
疲れた体はすでにヘロヘロだが、それも楽しかったからこそだ。
気持ちが良い、そんな気がしていた。
アーニャとランタンとも、曲がり角で「また明日」と手を振った。
私とリーノとレッドは「帰ったらすぐにお風呂だな」なんて会話しつつ、私の部屋に近づく。
――ドアノブに、何かがあった。
「……紙袋?」
茶色の、小さめの紙袋だ。それがドアノブに引っかけられている。
私は紙袋を破れないように、そっとドアノブから離した。
紙袋には重みがある。屈んで、リーノも紙袋を覗けるようにしてから、二人で中を見た。
銀紙……アルミホイルに包まれている丸い何かが、計五個も入っていた。
「おにぎり、か?」
「あら、端っこに紙がありますわ」
リーノが手を伸ばし、紙袋の中から二つ折りにされた紙を取り出す。
これは、手紙か?
開いてみると、中には数行の文章が書かれていた。
「なんて書いてあるんだ?」
「……今日は遅くなると聞いた。もしよかったら食べてくれ……このマークは、メタナイト卿のものですわ」
「――そうか」
つまりソレはメタナイト卿が書いた手紙で、しかもマークが押されているのか。ファンなら飛びついて欲しがる一品だな。
と、それよりも。この紙袋の中身は、おにぎりで決まりか。
胸がジーンと温かくなる。
「ありがたいな」
「……ええ」
ここにはいない青い戦士に感謝しつつ、私たちは紙袋を持って、部屋の中へ入った。
おにぎりは塩おにぎりで、ちょっぴり不恰好だったけれど、とんでもなくおいしかった。
――――――
次の日の朝。
陛下とエスカルゴン殿が食事をされる食堂にて、陛下から発表があった。
「よく聞くがいい。今日の昼間のニュースで、男の料理大会を開催するゾイ」
「男の料理大会……」
レッドを抱えてあやしつつ、ソードナイトとブレイドナイトは今回も参加するのかな、と考えた。
陛下はさらに続ける。
「参加者は、先日の通販番組でフードプロセッサーを購入した者に限る。リーノ、お主たちメイドは電話受付をせい」
「かしこまりました。……あの、質問があります」
「なんゾイ」
「わたくしたちもテレビに出るのでしょうか?」
「無論だゾイ」
「承知しました。支度したのちに、スタジオに合流しますね」
「場所は第一スタジオでゲス。忘れないように」
「了解しました」
私はさっと片手を挙げる。
「では、私はレッドと共にお留守番しておこう。陛下、テレビ越しにご活躍を拝見しますね」
「うむ。よく見ておくが良いゾイ」
機嫌良く陛下は頷かれる。
私はどこで、テレビを見ようかと考えていると、足の鎧部分をコンコンと、ノックする人がいた。
下を向くと、リーノが側に立っている。
「カノ、メーム様のお宅にお邪魔したらどうかしら?」
「どうしてだ?」
「メーム様ね、近ごろレッドの洋服を縫われていらっしゃるみたいなの。“今度、レッドを連れて遊びに来て欲しい”と、誘われたから、今日が良いかと思って」
「そうなのか。では、陛下のお食事が終わったあとに、大臣の部屋に伺ってみるよ」
「ええ。私たちは食器を片付けたら、洗濯物を洗いに行くわ」
そうして昼ごろ。
全ての洗濯物を干し、リーノたちはスタジオに向かった。
リーノと離れるので、レッドは嫌がるかと思ったが、今のところご機嫌だ。
メーム様やパーム様にあやされて、にこにこと笑っている。
一番に興味があるのは、フームやブン、カービィらしい。よく彼らの後を追う。
レッドは、私の腕の中でうとうとしているころ。
チャンネルDDDのが流れた。
そこでは“男の料理大会”を開催する、と発表していた。
ちなみに審査員は料理上手と評判な女性たちと、審査委員長にパーム様が選ばれる。
パーム様がびっくりして大声を出された。
「わたし!?」
それに驚いたのは、周りにいたメンバーだけではない。
レッドもだ。
「ふ……ふええ……」
パーム様の声に驚いてしまったのだろう。
ぐずぐずと顔をしわくちゃにしている。
それを見たメーム様が今度は声を張った。
「あなた!」
「す、すまない……」
「パパ、ママ、静かに」
「どっちも声が大きいよ」
「ぽよぽよ」
大臣夫婦は揃って、手で口を塞ぐ。
レッドを優しく撫でながら、仲が良いなあと思ったのだ。
――――――
さて、数日後。
男の料理大会が開催された。
天気は快晴。大会は城の中庭で行われる。
素晴らしく華やかにセットは組まれ、真ん中には食材がずらりと並んだ。
始めは山盛りに積み上げようとしたらしい。それをリーノと二人で止めて、平たく並べた方が出場者も食材を選びやすい、と提案したのだ。
結果、食材は痛まず、出場者は食材を選びやすくなった。ひとまず安心だな。
リーノ、メーム様、アーニャ、ランタンは階段上の審査員席へ。審査委員長はパーム様だ。そして陛下も階段上にいらっしゃる。
私とレッドはイベント開場下、特別席で観覧している。
そこにフームとブン、さらにメタナイト卿を招いて、大会を見守った。
ふかふかのレッドカーペットの上に座る私たち。少し離れて周囲は兵士たちが囲み、他の誰も入れない様になっている。
フームは呆れた様子で言った。
「デデデったら相変わらずカノープス贔屓ね。まあ、無理もないけど」
ブンはからかう調子で、私の顔を覗き込む。
「カノープスから見てさ、デデデってどうなの?やっぱりカッコいいの?」
「こら!ブン!」
「……私の種族から見て、陛下はカッコいいと思うぞ」
「マジ?!へー、カノープスの種族って変わってるなあ!」
「そうかな?」
目がパッチリで、左右対称の整った顔。イケメン……というよりは男前な気がするなあ。
ブンはズイッと体を近づけて、さらに興味津々という感じで質問する。
「カノープス的には?デデデってカッコいいの?」
「ああ」
即答すると、周囲が黙ってしまった。
空気が固まる。
「どうした?」
「い、いや……そのりょ――なんだなって、思って……」
「りょ?」
「ブン!!なんでもないわ!カノープス!」
ブンの口を両手で塞ぐフームは、大慌てだった。
私は、聞き返さない方がいいのかもしれない……そう考えて質問をやめた。
「そうか、ならば聞かない」
「ええ!それがいいわ!」
ちょうどファンファーレが響いた。
私たちは大会に注目する。
――――――
大会の中盤あたりで、それは現れた。
陛下がスイッチを押して、叫ぶ。
「リョウリガーZ!合体ゾイ!!」
男たちが購入したフードプロセッサーが、次々とイベント開場の真ん中に集まり、合体していく!
そして、陛下の身長で三人分ほど大きなロボットができた。
それに陛下とエスカルゴン殿が乗り込む!
私は思わず大声を出した。
「陛下、危ないですよ!」
「問題ない!どうだ、カノープス!カッコいいゾイ?」
「見目はいいですね」
「そうであろう!デハハハハハ!」
それに対してフームとブンが怒る。
「カノープス、褒めないで!」
「そうだぞ!褒めてる場合じゃないぞー!」
「わかっている。フーム、レッドを頼む」
「え?いいけど、どうするの?」
「陛下とエスカルゴン殿を取り戻す」
優しく丁寧な動きで、レッドをフームへと預ける。
すでに、大会に参加していたソードナイトとブレイドナイトは、機械に吹っ飛ばされている。
私は隣にいるメタナイト卿に、思いついた作戦を言った。
「私がガラスを割ってお二人を助けます。メタナイト卿は機械の隙間に剣を突き立て、火花を散らしてください」
「そしてカービィにコピーさせるのだな」
「その通りです」
「よし、行くぞ!」
「はい!」
私が先に飛び出す。
陛下とエスカルゴン殿が乗るコックピットに飛んで、注意をこちらに向けた。
「陛下、エスカルゴン殿。ガラス割ります。目をつぶってください」
「や、やめるでゲスよ!」
「エスカルゴン、伏せい!」
二人が伏せたタイミングで、ガラスを愛用の鉄パイプで叩き割る。
いつもより固い感じがしたが、まあ、このぐらいなら割れる。
そしてガラスは大きく割れた。
生じた隙間は、陛下二人分の幅があり、簡単に二人を引っ張り出せた。
タイミング良くメタナイト卿が叫ぶ。
「カービィ!」
「ぽよ!」
私は大きくジャンプして、機械から離れる。
視界の先で、スパークカービィが見えた。
急いでレッドのもとへ走る。
ちょうど到着すると、マシンは爆発した。
爆発を見て、陛下たちはオイオイ泣いた。
驚いたレッドも泣いた。
――その日の夜。
陛下に誘われて、今日は星の海を見ている。
いつもの、玉座の間の向かいにあるバルコニーに、私たちはいた。
望遠鏡を持たず、互いに側に座って、私は陛下のお叱りを聞く。
「まったく!マシンのガラスを叩き割りよって!ケガはないのかゾイ!」
「ありません。陛下は?」
「ないゾイ。あのままいけば、カービィを倒せていたのに!邪魔をするでないわ!」
「すみません」
「――今回はいつもの働きにめんじて許してやるゾイ!」
「ありがとうございます。陛下はお優しいですね」
「デハハ!もっと言えい」
「陛下は行動力があり、カッコよくて、優しい大王様です」
「…………」
「陛下?」
「なんでもないゾイ」
それから陛下は真っ赤になり、黙ってしまった。
言わない方が良かっただろうか?
そんな不安がよぎったけれど、次の日……。
なぜか私だけボーナスが支給された。
しかも三ヶ月分。かなりの額だった。
「陛下は、機嫌がいいのか?」
思わずリーノに質問する。
リーノはかなりの額を見つめつつ、言った。
「きっとそうね……。カノ、昨日は何があったの?」
「普段通りに話しただけだよ」
「そう……その中にきっと嬉しい言葉があったのね」
「そうかな?」
そうだといいな。