カノープスの終生   作:紅絹の木

50 / 63
(番外編)クリスマス

 

 

 

「そういえば、クリスマスが近いな」

「……カノ、プププランドにクリスマスはないのよ」

「そうなのか?」

 

 昼食を食べ終え、朝に干した洗濯物を取り込んでいる最中だった。

 その日も快晴で、洗濯物を昼からまた干しても、乾いてくれそうな暑い日だ。

 

 私は長いこと“クリスマス”を忘れていた。

 リーノと暮らしていたころは、どちらかといえば裕福ではなくて。

 特別な美味しいものを食べる日は、お互いの誕生日か……私は誕生日を覚えていないので、リーノの家族になった日が誕生日だ……他は年末年始のみだ。

 

 クリスマスを楽しめるほど余裕がでてきたのは、城勤めになってからで。その頃にはリーノは大人で、サンタは必要なかった。

 

 ようやく思い出したのは、クリスマスの一週間前である今日だ。

 レッドもいるし、どうせならば今年から始めようと考えたんだが……。

 私は青空を見る。

 

「そうか……ないのか……」

「寂しい?」

「ああ、みんなとパーティがしたかったよ」

「そうね……。クリスマスはないけれど、パーティはしてもいいと思うの。しましょうよ!」

 

 リーノの素晴らしい提案に頷こうとして――。

 

「ならんゾーイ!」

「陛下?」

 

 風に吹かれるシーツをかき分けて、陛下が姿を現した。

 

「クリスマスはこの地ではやらん!よいな!」

 

 顔を真っ赤にして、怒っているようだ。

 私とリーノは互いにアイコンタクトをとり、落ち着いて理由を聞き出そうとした。

 

「それは、なぜでしょうか?陛下ともパーティがしたかったのですが……」

「ぐっ……パーティはともかく!クリスマスにはやらんゾイ!サンタなんぞ、おらんのだからな!」

「サンタがいない?」

 

 クリスマスには、様々な形で各家庭にサンタが訪れる。

 そして子供たちにプレゼントを渡すのだ。

 私は緊張しつつ、質問を続けた。

 

「あの、サンタはいつから、陛下のところに来ていないのですか?」

「大人になってからゾイ」

 

 私たちはガクリと、肩を落とした。

 リーノが穏やかに伝える。

 

「陛下、サンタさんは子供にのみプレゼントを贈るのですよ」

「なにい!?」

 

 驚く陛下に、私も言った。

 

「陛下は立派な大人になられたので、サンタさんは他の子供たちのところへ、行かれたんでしょうね」

 

 それで納得されると思った。けれど陛下はワナワナと震えて。

 

「まだ、まだ」

「?」

「プレゼントが欲しいゾーイ!!」

 

 困ったなあ。

 

「どうしましょう」

「どうしたものか」

「…………あ!ひらめきましたわ!」

 

 リーノが明るい調子で言った。

 

「クリスマスパーティを開いて、プレゼント交換会をしましょう!」

「プレゼント交換会?――村人共と?」

「はい。みんなと、です。きっと楽しいですよ」

 

 陛下はチラリと私を見られた。

 そしてしばし考えられたあとに、言った。

 

「プレゼントは、特定の相手からもらえるのかゾイ?」

「いいえ。誰のプレゼントが当たるのかは、わからない方が、よりワクワクするかと思うのですが」

「ならば、やらんゾイ」

 

 私は、素早く手を挙げる。

 

「でしたら、村と城で別々のクリスマスパーティを開きませんか?村のプレゼント交換会は、贈り合う相手がわからないものに。城では、贈りたい人とプレゼントを交換するのです。いかがでしょう?」

「採用!ゾイ!!――カノープス!」

「はっ」

 

 緊張した声を発されたので、私にも緊張が走る。

 陛下はゆっくりと口を開いた。

 

「欲しいものはあるか?」

「……最近はクッションが欲しいですね」

「クッション?」

「床に座るときや、レッドをあぐらをかいた上に乗せるとき……平べったいクッションが欲しいです」

「うむ!そうか!」

「――陛下は」

 

 陛下は瞬く間に廊下を走り出し、どこかへ向かわれた。

 きっとパーティの準備をするために、出かけるのだろう。

 

「行ってしまわれた……」

「欲しいもの、聞けなかったわね」

「そうだな」

 

 プレゼント、どうしようか?

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 こうして、村と城のパーティはそれぞれで開催された。

 今頃、村では賑やかなパーティとなっているのだろう。

 

 一方、城の方では……。

 

 陛下が食事をされる食堂にて、私と陛下がプレゼントを持って集まっている。

 陛下はいつものガウンで、私は鎧を着ていない。しかし、刺繍が可愛いシャツとパンツを着ている。念の為の愛用鉄パイプも忘れていない。

 

 そしてワドルディたちはおめかしして、楽器をそれぞれ持っていた。

 ワドルドゥ隊長の指揮のもと、素敵なクリスマスソングを奏ではじめる。

 辺りはロウソクで優しく光って……。

 

 テーブルには、私が作ったシチューがあった。それにサラダとパンも。

 陛下は満足そうに頷く。

 

「どのようなご馳走よりも、今に勝るものはないゾイ」

「――ありがとう、ございます」

 

 ドッと、心臓がなる。

 鼓動が早まり、顔に熱が集中した。

 部屋はちょっと暗いので、見えないと思ったのに。

 

「フフン。顔が赤いゾイ?」

「――!」

 

 見えてしまっていた。

 すぐに片手で顔を隠した。

 陛下の穏やかな笑い声が聞こえてきて、思うのだ。

 ああ、悪くないなって。

 

「食べましょう、陛下。冷めちゃいます」

「うむ。よそうゾイ」

「かしこまりました」

 

 私は陛下のお皿にシチューを入れた。

 

 

 

 

 

 

 さて、食事の後はプレゼント交換だ。

 食器やら、鍋やらはワドルディたちが片付けてくれた。

 音楽隊は優しく静かな、夜をイメージする曲を演奏する。

 穏やかな夜を連想するのに、こうも緊張するとは。

 

 私のプレゼントが、陛下に渡る。

 包装紙の中身は、赤いガウンだった。

 姿形はいつものガウンだけど、背中の刺繍が豪華になっている。

 

 いつものうさぎさんマーク。

 その周りを囲むのは、どこまでも続く川の様に、舞い上がる不死鳥の様に舞う金の刺繍。

 陛下は何度も刺繍をなぞった。

 

「すばらしいゾイ……」

「気に入ってもらえて、嬉しいです」

「ワシのも開けるゾイ」

「わかりました」

 

 陛下からのプレゼントを丁寧に開ける。

 中には、私が希望した通りの平たいクッションがあった。

 私の色と呼べる、生命溢れる草木の緑色。

 触り心地はとっても良い。

 私はそれをそっと抱きしめた。

 

「気持ちいいです……すごく。大事にしますね」

「ワシも、大切にするゾイ。カノープスは縫い物ができたのかゾイ?」

「いいえ。ほとんどはリーノがしてくれました。私は付与を」

「ふよう?」

「いえ、付与です。えーと、そのガウンを着ると少しだけひんやりして、気持ちよくなります」

「おお!“ふよ”はすごいゾイ!」

「ありがとうございます」

 

 陛下のニコニコと笑うお姿に癒されていると、突然大きな音が鳴った。

 

 ドンガラガシャーン!

 

 音の方へ振り向く。

 ワドルディ音楽隊の数人が、倒れていた。

 大きな音は床と楽器が当たったせいのようだ。

 陛下がワドルディたちに声をかける。

 

「何事ゾイ?!」

「ずっと演奏をしていたので、腕が引きつったみたいです」

「それは……すみません」

 

 どうやら無理をさせてしまったようだ。

 私は陛下の方を向いた。

 

「陛下、そろそろお開きにしましょう」

「……部屋に、来るかゾイ?」

「ご本ですか?今日は読まずに帰ろうかと。このクッションを試したいので」

「むう……ならば、仕方ない。ワドルドゥ、今日はしまいする。片付けるゾイ」

「ははあ!」

 

 こうして私たちのクリスマスは過ぎていく。

 頂いたクッションは、大事に扱うため自室の中だけで使った。

 

 

 

 

 リーノたちも楽しいクリスマスを過ごしたらしい。

 なんでも写真立てが当たったとか。

 

「これに、家族写真を入れるの。素敵なクリスマスプレゼントになったわ!」

「そうか。良かったな」

「ええ!カノも入ってね」

「ああ、ぜひ入れてくれ」

 

 後日。

 私、リーノ、レッド、メタナイト卿がうつった写真ができた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。