「そういえば、クリスマスが近いな」
「……カノ、プププランドにクリスマスはないのよ」
「そうなのか?」
昼食を食べ終え、朝に干した洗濯物を取り込んでいる最中だった。
その日も快晴で、洗濯物を昼からまた干しても、乾いてくれそうな暑い日だ。
私は長いこと“クリスマス”を忘れていた。
リーノと暮らしていたころは、どちらかといえば裕福ではなくて。
特別な美味しいものを食べる日は、お互いの誕生日か……私は誕生日を覚えていないので、リーノの家族になった日が誕生日だ……他は年末年始のみだ。
クリスマスを楽しめるほど余裕がでてきたのは、城勤めになってからで。その頃にはリーノは大人で、サンタは必要なかった。
ようやく思い出したのは、クリスマスの一週間前である今日だ。
レッドもいるし、どうせならば今年から始めようと考えたんだが……。
私は青空を見る。
「そうか……ないのか……」
「寂しい?」
「ああ、みんなとパーティがしたかったよ」
「そうね……。クリスマスはないけれど、パーティはしてもいいと思うの。しましょうよ!」
リーノの素晴らしい提案に頷こうとして――。
「ならんゾーイ!」
「陛下?」
風に吹かれるシーツをかき分けて、陛下が姿を現した。
「クリスマスはこの地ではやらん!よいな!」
顔を真っ赤にして、怒っているようだ。
私とリーノは互いにアイコンタクトをとり、落ち着いて理由を聞き出そうとした。
「それは、なぜでしょうか?陛下ともパーティがしたかったのですが……」
「ぐっ……パーティはともかく!クリスマスにはやらんゾイ!サンタなんぞ、おらんのだからな!」
「サンタがいない?」
クリスマスには、様々な形で各家庭にサンタが訪れる。
そして子供たちにプレゼントを渡すのだ。
私は緊張しつつ、質問を続けた。
「あの、サンタはいつから、陛下のところに来ていないのですか?」
「大人になってからゾイ」
私たちはガクリと、肩を落とした。
リーノが穏やかに伝える。
「陛下、サンタさんは子供にのみプレゼントを贈るのですよ」
「なにい!?」
驚く陛下に、私も言った。
「陛下は立派な大人になられたので、サンタさんは他の子供たちのところへ、行かれたんでしょうね」
それで納得されると思った。けれど陛下はワナワナと震えて。
「まだ、まだ」
「?」
「プレゼントが欲しいゾーイ!!」
困ったなあ。
「どうしましょう」
「どうしたものか」
「…………あ!ひらめきましたわ!」
リーノが明るい調子で言った。
「クリスマスパーティを開いて、プレゼント交換会をしましょう!」
「プレゼント交換会?――村人共と?」
「はい。みんなと、です。きっと楽しいですよ」
陛下はチラリと私を見られた。
そしてしばし考えられたあとに、言った。
「プレゼントは、特定の相手からもらえるのかゾイ?」
「いいえ。誰のプレゼントが当たるのかは、わからない方が、よりワクワクするかと思うのですが」
「ならば、やらんゾイ」
私は、素早く手を挙げる。
「でしたら、村と城で別々のクリスマスパーティを開きませんか?村のプレゼント交換会は、贈り合う相手がわからないものに。城では、贈りたい人とプレゼントを交換するのです。いかがでしょう?」
「採用!ゾイ!!――カノープス!」
「はっ」
緊張した声を発されたので、私にも緊張が走る。
陛下はゆっくりと口を開いた。
「欲しいものはあるか?」
「……最近はクッションが欲しいですね」
「クッション?」
「床に座るときや、レッドをあぐらをかいた上に乗せるとき……平べったいクッションが欲しいです」
「うむ!そうか!」
「――陛下は」
陛下は瞬く間に廊下を走り出し、どこかへ向かわれた。
きっとパーティの準備をするために、出かけるのだろう。
「行ってしまわれた……」
「欲しいもの、聞けなかったわね」
「そうだな」
プレゼント、どうしようか?
――――――
こうして、村と城のパーティはそれぞれで開催された。
今頃、村では賑やかなパーティとなっているのだろう。
一方、城の方では……。
陛下が食事をされる食堂にて、私と陛下がプレゼントを持って集まっている。
陛下はいつものガウンで、私は鎧を着ていない。しかし、刺繍が可愛いシャツとパンツを着ている。念の為の愛用鉄パイプも忘れていない。
そしてワドルディたちはおめかしして、楽器をそれぞれ持っていた。
ワドルドゥ隊長の指揮のもと、素敵なクリスマスソングを奏ではじめる。
辺りはロウソクで優しく光って……。
テーブルには、私が作ったシチューがあった。それにサラダとパンも。
陛下は満足そうに頷く。
「どのようなご馳走よりも、今に勝るものはないゾイ」
「――ありがとう、ございます」
ドッと、心臓がなる。
鼓動が早まり、顔に熱が集中した。
部屋はちょっと暗いので、見えないと思ったのに。
「フフン。顔が赤いゾイ?」
「――!」
見えてしまっていた。
すぐに片手で顔を隠した。
陛下の穏やかな笑い声が聞こえてきて、思うのだ。
ああ、悪くないなって。
「食べましょう、陛下。冷めちゃいます」
「うむ。よそうゾイ」
「かしこまりました」
私は陛下のお皿にシチューを入れた。
さて、食事の後はプレゼント交換だ。
食器やら、鍋やらはワドルディたちが片付けてくれた。
音楽隊は優しく静かな、夜をイメージする曲を演奏する。
穏やかな夜を連想するのに、こうも緊張するとは。
私のプレゼントが、陛下に渡る。
包装紙の中身は、赤いガウンだった。
姿形はいつものガウンだけど、背中の刺繍が豪華になっている。
いつものうさぎさんマーク。
その周りを囲むのは、どこまでも続く川の様に、舞い上がる不死鳥の様に舞う金の刺繍。
陛下は何度も刺繍をなぞった。
「すばらしいゾイ……」
「気に入ってもらえて、嬉しいです」
「ワシのも開けるゾイ」
「わかりました」
陛下からのプレゼントを丁寧に開ける。
中には、私が希望した通りの平たいクッションがあった。
私の色と呼べる、生命溢れる草木の緑色。
触り心地はとっても良い。
私はそれをそっと抱きしめた。
「気持ちいいです……すごく。大事にしますね」
「ワシも、大切にするゾイ。カノープスは縫い物ができたのかゾイ?」
「いいえ。ほとんどはリーノがしてくれました。私は付与を」
「ふよう?」
「いえ、付与です。えーと、そのガウンを着ると少しだけひんやりして、気持ちよくなります」
「おお!“ふよ”はすごいゾイ!」
「ありがとうございます」
陛下のニコニコと笑うお姿に癒されていると、突然大きな音が鳴った。
ドンガラガシャーン!
音の方へ振り向く。
ワドルディ音楽隊の数人が、倒れていた。
大きな音は床と楽器が当たったせいのようだ。
陛下がワドルディたちに声をかける。
「何事ゾイ?!」
「ずっと演奏をしていたので、腕が引きつったみたいです」
「それは……すみません」
どうやら無理をさせてしまったようだ。
私は陛下の方を向いた。
「陛下、そろそろお開きにしましょう」
「……部屋に、来るかゾイ?」
「ご本ですか?今日は読まずに帰ろうかと。このクッションを試したいので」
「むう……ならば、仕方ない。ワドルドゥ、今日はしまいする。片付けるゾイ」
「ははあ!」
こうして私たちのクリスマスは過ぎていく。
頂いたクッションは、大事に扱うため自室の中だけで使った。
リーノたちも楽しいクリスマスを過ごしたらしい。
なんでも写真立てが当たったとか。
「これに、家族写真を入れるの。素敵なクリスマスプレゼントになったわ!」
「そうか。良かったな」
「ええ!カノも入ってね」
「ああ、ぜひ入れてくれ」
後日。
私、リーノ、レッド、メタナイト卿がうつった写真ができた。