カノープスの終生   作:紅絹の木

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教師

 

 

 

 

 今日は珍しく、玉座の間に集まるよう命令された。

 陛下は玉座に座り、エスカルゴン殿が左側に立っている。

 私とリーノは、正式な命令が下されるのだと、わかった。

 なので、玉座から話しやすい距離で止まり、片膝をついた。

 目線を下げて陛下のお言葉を待つ。

 

「うおっほん。面をあげい」

 

 私とリーノは顔を上げて、陛下を見た。

 普段と変わらぬガウン姿だ。今日は一体どうしたのだろう?

 

「今日からまた学校を始めるゆえ、お前たちも手伝うゾイ」

「リーノは給食を作るでゲス。カノープスは体育の教師役をするでゲスよ」

「かしこまりました。精一杯、お食事を作らせていただきます」

「かしこまりました。みなが楽しんで運動できるよう、考えます」

 

 陛下は鷹揚に頷かれた。

 

「うむ。それぞれ励がよいゾイ」

「命令は以上でゲス。二人とも、下がるでゲスよ」

 

 私たちは、「はっ!失礼いたします」と声を揃えて、退室した。

 

 

 

 

 退室した後。リーノと二人で城の廊下を歩く。

 レッドは、今日はメーム様が預かってくれている。夕飯ごろに迎えに行く予定だ。

 私はリーノに、驚いたと言わんばかりに声を出した。

 

「私が教師役に選ばれるとは、思わなかったよ」

「そう?わたくしは似合っていると思う。カノならみんなのことを考えてくれる先生に、なってくれそうだもの」

「そうかな?私にもできるだろうか?」

「大丈夫!わたくしでよければ、いつでも相談にのるから、頑張ってみて」

「……ああ。やってみるよ」

 

 リーノの言葉に励まされて、私は気持ちを明るくさせた。

 何より陛下から直々のご命令だから、がんばりたい。

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 学校の教師役は、村にやって来た旅の教師であるチップさんがしてくれるらしい。

 フームが言うには、たいへんな人格者で、すでに子供たちから人気があるとか。

 会ってみたい。それに私も教師となったのだから、挨拶に行こう。

 

 チップさんは、新しくできた学校に住んでいると聞いた。

 朝ならば家にいるだろうと思い、九時ごろに学校へ向かう。

 自室に常備してあった、リーノたちと作ったクッキーを持参した。

 

 リーノとレッドは城でお留守番だ。

 今日は久しぶりに、メタナイト卿もいてくれるらしく、朝からリーノの機嫌が良かった。

 妹が嬉しそうだと、私も嬉しくなる。

 

 草原を歩いていると、学校が見えてきた。

 学校は以前、ホーリーナイトメア社から購入したものと同じ形をしていた。

 やっぱり、アニメと同じように関係があるんだろうな……。

 

 学校の出入り口、大きな両扉をノックする。

 誰かの声が聞こえた気がしたので、少し待ってみた。

 

 数分後。私より頭一つ分低い背丈の男性が、現れた。髪は茶色、優しそうな目、あんまり似合っていないとんがったメガネ。穏やかな青年に見えた。

 彼は扉を開けて、ちょっと驚いた様子で言う。

 

「あなたは?」

 

 私は普段通り、ちょっと低い声を出して答えた。

 

「私はカノープス。この国の王であるデデデ大王に仕えている戦士だ。おはようございます」

 

 頭を下げると、彼もつられて頭を下げていた。

 

「おはようございます。ぼくはチップと申します。それで、カノープスさん。ご用は何でしょうか?」

「チップさんにご挨拶にきました。私も、陛下から教師をするように命令されたので」

「そうでしたか!助かります。一人でやっていくのは、難しいと思っていたんです。どうぞ中へ!細かい打ち合わせをしませんか?」

「そうですね。では、お言葉に甘えて。こちら妹たちと作ったクッキーです」

 

 クッキーが入っている紙袋を、チップさんに渡す。

 彼は心から嬉しそうに笑った。

 

「ありがとうございます!甘いものには目がなくて」

「そうでしたか。持ってきて良かったです」

「……ここに住むみなさんは、優しいですね。昨日も野菜を届けてくれたり、料理を分けてくれたんですよ」

「みんな嬉しいんでしょう。やっと学校ができて、優しそうな先生が来てくれたらから」

「――みなさんの期待に応えたいな」

「そうすればいい」

 

 ハッと、こちらに顔を向けるチップさん。

 私は何も知らない、という風にふるまう。

 

「なにか?」

「い、いえ……。う、打ち合わせは教室でしましょうか」

「そうですね。子供たちが実際に過ごす場所を、見たいです。紙とペンをお借りできますか?」

「ええ、持ってきます。教室は、そのドアを開けた部屋の中です。机とイスがたくさんあるので、すぐにわかりますよ」

「ありがとうございます。中で待っていますね」

 

 チップさんを見送り、私は教室に入った。

 引き戸をひいて、頭が当たらないように潜り、室内へ。

 中にはたくさんの机とイスが均等に並ぶ。

 なんとなく、最前列の真ん中のイスを選んだ。イスは頑丈で私の体重も受け止めてくれた。

 

「帰りは昼頃になるかもな……」

 

 一応、リーノたちには「遅くなるかも」と伝えてある。昼に間に合わなくても、先に食べていてくれるだろう。

 というか、私には魔法の小鳥を飛ばすという連絡手段がある。いざというときは、連絡するか。

 私はピカピカに磨かれた窓の外を見た。

 今日が掃除の日でよかった。洗濯当番の日よりかは、ずっと楽だから。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 チップさんと交流し、授業について話し合ったり。開校に向けて準備が進んだ数日後。

 空は快晴。爽やかな風が気持ちいい日に、初授業を迎えた。

 

 午前はチップさんが授業を行い、私は給食の後だ。

 給食室でリーノ、レッド、アーニャ、ランタンと共に食事をとる。いつも装備している兜は横に置いていた。

 出番がもうすぐなので、緊張して時計を何度も確認してしまう。

 そんな私に、リーノは微笑む。

 

「ふふ、カノったらすごく緊張しているのね」

「ああ。上手くいってほしいからな」

 

 チップさんと何度も話し合って、体育の授業を決めたのだ。問題があれば、今後改めるとして……。

 今度はアーニャが困ったように言った。

 

「今度は眉間にシワが寄っています」

「カノープス、笑顔じゃないと怖がられるわよ」

「む」

 

 ランタンの言葉に、私は眉間を伸ばす。

 その顔がおかしかったのだろう、妹たちは笑い出した。

 私も口元を緩ませた。

 

 

 

 

 さて、授業である。

 歯を磨き、兜を装備してから、まだ食事中の教室に行く。

 ノックは二回。ガラリと引き戸をひいた。

 

「失礼する」

「カノープスさん。どうしましたか?」

「次の体育について連絡しておきたくて、来ました」

 

 チップさんは教室の黒板側の奥に座っていた。

 子供たちと共にこちらを注目している。

 私は黒板の前に立ち、チョークを持つ。そして黒板に、次の授業はグラウンドに集まること、集合時間を書いた。

 私は文字がまだ苦手な子に向けて、みんなに言葉でも伝えた。

 

「次の授業は体育です。午後一時半にグラウンドに集合してください」

「はい!授業の開始時間より遅いのはなぜですか?」

 

 フームの質問に私は答えた。

 

「食べてすぐに運動すると、お腹が痛くなるからです。なので、時間を少し空けます。では、グラウンドで待っています」

 

 私はそれだけ言って、教室を出た。

 まっすぐグラウンドに行き、校舎側に置いてあるベンチに座ってみんなを待つ。

 

 生徒たちは、授業開始時刻になるとグラウンドに出てきた。

 フームがこちらに来る。

 

「カノープス……先生!みんな集まりました」

「ありがとう。今日の開始時刻は遅いから、もう少しゆっくりしてて」

「はーい。みんな、聞こえた?」

 

 生徒たちは散り散りに遊び出す。

 そんなとき、陛下がベンチの隣に座った。エスカルゴン殿が陛下に声をかける。

 

「あれー?陛下は遊びに行かないでゲスか?」

「ここで先生に本を読んでもらうゾイ。本は持っておるかゾイ?」

「ありますよ」

 

 懐から文庫本を取り出す。今度陛下に読んで差し上げようと思った、冒険モノの本だ。

 ダークファンタジーなのだが、子供向けの棚にあったので、選んでみた一冊である。

 

「読むゾイ」

「いいですよ」

「あ、じゃあ私にも」

「お前はあっち行けい!」

 

 エスカルゴン殿に怒る陛下に、私は止めた。

 

「へい……デデデくん、そう言わずに」

 

 陛下と呼ばなかったので、怒られるかと思った。けれど、陛下は頷くばかりで。

 

「――悪くないゾイ」

「は?」

「いいから、読むゾイ」

「ご本、読むの?」

「ぼくたちも聞きたい!」

 

 そこにハニーとイローもやって来た。

 さらにフームも参加する。私はちょっと緊張しつつ、朗読会を始めた。 

 

 

 

 

 子供たち全員が集まったころ、時間になったので朗読会をとめた。

 

「続きは、また明日ね。今日は運動をしよう。外で遊んだり、歩いたり、走ったり。やりたいことを選んで、終了時刻がくるまで続けてくれ。途中で変更してもいいぞ。ちなみに、学校の敷地内からは出ないこと。終了時刻がきたら、またここに集まること」

 

 フームが驚いた。

 

「――それだけ!?」

「そうだ。初日は外で遊ぶ楽しさを知ってもらう。さあ、始めてくれ」

「じゃあオレあーそぼ!サッカーしようぜ!」

「やるー!」

「いく!」

「わたしは、歩こうかな……」

 

 ブンを筆頭に活発な子供たちがサッカーを始めた。

 他の子は別の遊びをしたり、走り出したり、歩き出したり様々だ。

 

「カノープスはどうするゾイ?」

「校舎周りを歩こうかと」

「ならば行くゾイ」

「あ、私も行くでゲス。これぞ、食後の運動でゲスな」

 

 私たちは校舎周りを歩きだす。

 三週目から景観が変わらない、ときめかないことに陛下が飽き飽きして。

 もし、校舎が一週間以上も残っていれば、敷地内に花壇を作ろう。そう考えた。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 さて、こんな風にのほほんと授業をして一週間がすぎた。

 チップさんのことは苦手な陛下だが、体育は好きなので学校に来ている……らしい。

 エスカルゴン殿から聞いたので、間違いないだろう。

 嬉しいのでこのまま、運動って案外楽しいよ作戦を続ける。

 

 もう少し長く続くかと思われた学校は、唐突に終わった。

 チップさんの授業を見学しているときだ。

 その日はなぜか、陛下とエスカルゴン殿は遅刻していて、二つの席が空だった。

 

 ガラリ!

 教室の引き戸がひかれる。

 

「あ!デデデ!」

「何しているの?遅刻よ」

 

 ブンとフームの言葉に反応せず、陛下は「ぐふふ」と悪い笑みで笑う。

 そしてチップさんが“契約魔獣”であることを言ってしまった。

 

「いっつもカノープスと遅くまでしっとりしよって!許さんゾイ!」

「しっとり?」

 

 なんだ、しっとりって?身に覚えがないぞ。

 

「陛下、それを言うなら“しっぽり”でゲス」

「そうそうソレ!」

 

 私はギョッとした。

 もしかして学校に遅くまで残り、チップさんと授業についてどうしていくかと話し合っていることを、勘違いされているのか?

 

「は!?誤解です!陛下!」

「そうだ!僕たちはそんな関係じゃない!」

「うるさいゾイ!んなことはわかっとる!」

「ではなぜ?」

「ひひ!ただの嫉妬でゲス〜!」

 

 がごん!

 エスカルゴン殿にハンマーが振り下ろされた。

 

「うるさいゾイ!とにかく、チップには学校の先生を辞めてもらう!次の先生を呼んできたゾイ!その名も……」

「魔獣、ネッケツでゲス!」

「!?」

 

 紫のスーツを着た、いかにも柄の悪そうな男性が教室に入ってきた。

 魔獣はカービィに襲いかかり、教室中はメチャクチャになった!

 私は即座にグラウンド側の壁を破壊する。

 壁に体当たりしたのだ!

 

 ひどく大きな音を立てて、壁に穴を開けた。

 子供たちが三人いっぺんに通れそうな幅で、縦は私の身長よりも高くあいている。

 

「みんな逃げろ!巻き込まれるぞ!」

 

 子供たちは外へ逃げ出した。遅れてフーム、ブン、チップさんも外に避難したので、私も陛下とエスカルゴン殿を抱えて出る。

 カービィはいつの間にかソードカービィに変身しており、ちょうど魔獣を倒すところだった。

 

 魔獣はソードビームを浴びて、爆発する。

 ついでに校舎も巻き込まれてしまった。

 私たちは校舎から離れたグラウンドの隅で、崩れた校舎を見つめる。

 やがてカービィがこちらに走ってきた。どうやら魔獣は倒せたようだ。

 カービィにもケガはないみたい。

 

「おーいおい!今回も負けたゾイ!」

「悔しいでゲス〜!」

 

 お二方は私にひっついて泣き出してしまった。

 困ったなあ。下ろせないぞ。

 

「カノ!みなさま、ご無事ですか!?」

「リーノ」

 

 リーノが草原を氷らせて、アイススケートの要領でこちらにやってきた。

 とんでもない速さだ!

 プロスケーターのごとく慣れた様子でリーノは止まる。

 

「こちらは問題ない。全員無事だ。だが、学校がなあ……」

「すまない。ぼくのせいだ」

 

 チップさんが悲痛の表情で、わびる。

 いや、その、悪いのはナイトメアと陛下かなって……思うの……!

 それを言葉にしたのは、フームだ。

 

「悪いのはデデデよ!魔獣をダウンロードしたんだから!」

「そうだそうだ!」

「……陛下を庇うわけではないが、チップさんが契約魔獣である限り、いつかは魔獣が送られてきたと思う」

「それは……」

 

 フームもそう考えたのだろう。重い沈黙が辺りを包む。

 そこに声を出したのは、チップさんだ。

 

「ぼくは、この村を去るよ」

「チップ先生……!」

「今回のことでホーリーナイトメア社は、ぼくを追ってくる。みんなに迷惑はかけられない」

 

 申し訳なさそうに言う彼に、私は声をかけた。

 

「……ナイトメアが倒されたら、またこの村に来たらいい。子供たちが待っていますから」

「いいのかな。こんなぼくで」

「いいんじゃないですか?子供たちは、そんなあなたが大好きなようですから」

 

 チップさんは子供たちをぐるりと見回して、涙を流す。

 誰もが、チップさんを心配していた。

 

「みんな、ありがとう……!」

 

 チップさんと私たちは、協力して崩れた校舎から荷物をまとめる。

 夕方には村から去っていった。

 

「また会えるかしら」

 

 フームの呟きに私は強く頷く。

 

「信じよう。ナイトメアに勝利する、私たちを。そのときこそ、再会の日だ」

「――ええ!」

 

 

 

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