晴れの日、お昼よりも少し前の時間。
上の階の厨房にて。
私は袖をまくりつつ、言った。
「今日はチャーハンセットを作ろう。チャーハンと餃子とスープのセットでどうだ?」
リーノがまず、冷蔵庫の中身を確かめてから言った。
「……うん、材料は問題ありませんね。私たちの分も一緒に、まとめて作っちゃいましょうか?」
「いいんじゃないかな?私がチャーハンを作るよ。アーニャとランタンはどうしたい?」
レッドの相手をしてくれているアーニャが、言った。
「チャーハン、いいですね。食べたいです」
ねー、とランタンに顔を向ける。
「そうね。チャーハンだったら、チャーシューをたっぷり入れたいわ。今日はデザートを用意しないの?」
私は頭を振る。
「昼はいいだろう。夜にフルーツの盛り合わせを作ろう」
そこにバン!と、扉が開かれた。
「昼食はちょっと待ったー!」
「おお、陛下。ごきげんよう。どうされました」
大きな音に驚いて、レッドがふやふや泣いている。
慌ててリーノが側に向かい、アーニャと共にあやしている。
陛下はちょっとバツが悪そうに、咳払いをした。
「ごほん。……あー、昼はさっき村にやってきたカワサキの知り合い、コックナゴヤが作る。お前たちの分も作らせるゆえ、昼は楽にするが良い」
「ありがとうございます。それで、ナゴヤ殿の昼食はどなたが作るのでしょうか?」
私の問いに、陛下はドヤ顔で答えた。
「うむ。考えてないゾイ」
「では、私たちが作っても?」
「許すゾイ」
「ありがとうございます。みんな、勝手に決めてすまない。手伝って欲しい」
そう頼むと、妹たちは「大丈夫。一緒に作りましょう」と笑顔で許してくれた。
「ありがとう。では、陛下。先にお客様の昼食を作らせていただきます。ナゴヤさんのお腹が減ったまま、お昼を作ってもらうなんて気が引けますから」
「む……。仕方ない。手早くするゾイ。ワシは食堂で待っておるぞ」
「はっ!いってらっしゃいませ」
陛下は鷹揚に頷き、厨房を出ていった。
エスカルゴン殿も陛下を追って、出ていく。
静かになった厨房で、私たちは自己紹介から始めた。
「カノープスです。この城の戦士です。どうぞよろしく」
「リーノと申します。この城のメイド長ですわ。そしてこちらの赤ちゃんが、わたくしの娘のレッドです。わたくしとカノープスは、姉妹ですわ」
「私はランタン。メイド長の下でメイドをしているわ。リーノと、次に自己紹介するアーニャとは幼馴染なのよ」
「こんにちは。アーニャです。私もメイドをしております。趣味は読書とハンドメイドです」
「みなさん。よろしくだぎゃよ!……ところで、アンタ。本当に姉なのだぎゃ?」
ナゴヤさんがこちらを不思議そうに見ている。
私は頷いた。
「ああ、女だよ。リーノとは色々あってな、姉妹なんだ。アーニャとランタンのことも、妹なのように大好きで可愛いと思っているよ」
「そうだぎゃ。いやはや、アンタの種族は初めて見たから、わからんかったでよ」
「よく間違えられるよ」
もう慣れた。まあ、強く見えるために男らしく振る舞っているし、仕方ないが。
「さて、チャーハンで良ければ、すぐにお出しするよ。いいか?」
「ええでよ。お城のご飯、楽しみだぎゃ!」
リーノたちは得意げに笑う。
「腕によりをかけますわ!」
――腕によりをかけた結果、ナゴヤさんが暴走した。
できたてのチャーハンを「うみゃー!うみゃー!」と食べたあと、リーノを除く私たちに求婚してきたのだ。
「俺と一緒に店をしてくれにゃーか?!この中で恋人、もしくは、夫がいない人は!?」
全員、それぞれ顔を見合わせて、私がゆっくり手を挙げた。
ナゴヤさんがずんずんと私に近寄り、下げていた手を熱く握る。私は驚いて身が硬直した。
「俺と結婚してちょ!幸せにするでよ!!」
「――お断りします」
「にゃー!!」
両手両足を床につけて、ナゴヤさんが絶叫する。
知らない人には、ついていきませんよ。なにより好きな人がいるからな。
取り乱したナゴヤさんが落ち着いた頃を見計らい、声をかける。
「あの……お昼つくれそうですかね?」
「問題ないだぎゃ……今のは俺が悪い……わかっとるだぎゃよ」
そう言ってナゴヤさんは、両手をしっかり洗ったあと調理にとりかかる。
あっという間に味噌煮込みうどんが完成されたので、急いで食堂へ運んだ。
食堂で、みんなと一緒に食べた味噌煮込みうどん。
それはたいへんおいしく、手が止まらなかった。
――――――
さて、次の日。
コックナゴヤとカワサキさんの料理対決が始まった。
場所は城内にあるスタジオで、行われる。
観覧席は村人たちでいっぱいだ。そして二人の料理を審査するのは、大臣夫婦、アーニャ、ランタン、レン村長、キュリー氏、メーベルだ。
私とリーノは、レッドの面倒を見るために、審査員を辞退している。
確か、コックナゴヤの料理を気に入った陛下とエスカルゴン殿が、この対決を提案したはず。
「カワサキさん、災難だな……」
観覧席の中で、最前列に作られた“特別観覧席”に、私たちは座っている。
そこは、ちょっとしたキッズスペースだ。
赤子に優しい平たいクッションを敷き詰めた床。周囲は赤子が出られないように、高めでクッション性がある壁が囲んでいる。
リーノはわずかに感じる頭痛を和らげようと、こめかみをぐりぐり押す。
「陛下……閣下も、楽しんでおられるのでしょうね……。本当に、災難ですわ」
ちょっぴり落ち込む空気の中、私の膝に乗り楽しげに遊ぶレッドがいた。
ああ、癒される。彼女のサラサラと柔らかい髪を撫でた。
最近また大きくなった。離乳食もたくさん食べてくれる。元気で健康だ。
自然と頬が緩む。
二人の対決が始まる。
三本勝負。なぜかカワサキさんの試食の時間には、必ず照明が落ちるというアクシデントが起きた。
目に魔法を込めて、暗闇を見通す。
エスカルゴン殿が何やら動き回っていた。どうやらカワサキさんの料理に細工したらしい。
結果はすぐにでた。
カワサキさんの料理を食べた審査員たちは、「辛い!」と叫ぶ。
「カノ」
リーノが確認するかのように、私に声をかけた。
私は頷く。
「ああ、残念だが……エスカルゴン殿が、な」
「やっぱり……」
「リーノ、もしものためだ。レッドを抱っこしてくれ」
「わかったわ。カノも気をつけてね」
「ああ」
そして審査員たちが結果を出すその瞬間!
勝利が決まっていたハズのナゴヤさんから、「まった!」が飛び出した。
なんでも、みんなに食べてもらいたいものがあるらしい。
それは最高級の素材で作るエビフライだった。
ナゴヤさんは、そのエビフライを陛下に食べさせる。
陛下は嬉々として食べ……そして叫んだ。
「辛い!辛いゾイ!!」
次にナゴヤさんは、見るからに辛そうなソースを、取り出した!
「これは、とんでもなく辛いソースのせいでよ!そこの貝を背負ったオッサンが細工したのを、俺は見ただぎゃ!」
そして暴かれるエスカルゴン殿の暗躍。
カメラにもバッチリ映っていたようで、映像が残っていた。それが表に出され、みんながどよめく。
追い詰められた陛下が、魔獣をよんだ!
エビフレアである!
その見た目は、衣を身につけた赤いザリガニだ。
カワサキさんがすぐに動き、自らのフライパンをカービィに吸い込ませた。
コックカービィに変身し、魔獣と戦う小さな星の戦士。
魔獣は室内でも構わず炎のビームを撃ちまくる!
私は観客たちが逃げ終わるまで、客席全体にバリアを張った。
そして全体に聞こえるように叫ぶ!
「逃げろ!長くはもたんぞ!」
嘘だ。バリアが破られるほどの破壊力は、炎のビームになかった。
けれど念のため。
私の考え通り、みんな急いで駆け出した。
側にいるリーノは、泣いているレッドをあやしつつも、警戒を怠っていない。
「アーニャとランタンは?!」
「逃げ出したのを見た!――いた!ソードナイトとブレイドナイトと合流している!」
「よかった」
やがてコックカービィが魔獣の攻撃を、魔獣自身に返した。
カウンターをくらった魔獣は、自らの炎に焼かれて倒される。
魔獣の近くで応援していた、陛下とエスカルゴン殿が、エビフレアのハサミに挟まった。
「あ」
「まあ」
私とリーノの間の抜けた声が出た。
「うわー!カノープス、助けてくれゾーイ!」
「早くしてくれでゲス〜!」
二人でわあわあと叫んでいる。元気なので命に別状はないだろう。けれど、すぐに動きたかった。
きょろりと辺りを見回して、見つける。
「メタナイト卿」
「遅くなった。――無事だな」
リーノとレッドの側に寄る青い戦士。リーノに笑顔が灯る。
「はい。みんな、無事ですわ」
「ああ、よかった。ありがとう、カノープス」
「いいのです。それよりもメタナイト卿、二人を頼めますか?リーノ、直に天井のスプリンクラーから水が流れてくるから……」
「わかったわ。スタジオを出るわね」
「行こう。ではな、カノープス」
「またね」
「ああ、後で」
メタナイト卿と共に、リーノとレッドはスタジオを出た。
見送ったあとに、私は陛下たちを助け出す。
スタジオの床に突き刺さる魔獣のハサミを、真上にどかしてから、横に置いた。
ゆっくりと立ち上がる陛下とエスカルゴン殿。体や衣服についた埃を払っている。
「ひどい目あったゾイ……」
「風呂に入りたいでゲス……」
「リーノたちに合流次第、準備させていただきます」
「うむ……」
そしてスタジオに雨が降った。
ずぶ濡れになった私は言った。
「すぐに用意させます」
「そうするゾイ……」
「頼むでゲスよ……」