日差しが強い日だった。
今日はレッドを部屋の中で遊ばせようと考え、場所は私の部屋に決まった。
おそらく生後八ヶ月になったレッドは、はいはいであちこち動き回る。そしてつかまり立ちをしている。そんな姿を見て「もう歩けるな」なんて、考えてしまうのだ。
今は珍しくメタナイト卿が、レッドの様子を見てくれていた。
離れたところで、二人が遊ぶ様子を見守る私とリーノ。二人とも頬が緩みっぱなしだ。
穏やかな時間が過ぎていく。
しかし、それも長くは続かない。
バサバサ。
大きな窓一面を覆えてしまえそうなほど、多くのカラスが中庭に降りてきた。
私たちに緊張が走る。
メタナイト卿が立ち上がろうとして、私はそれを止めた。
こんなときぐらい、親子に一緒にいてもらいたかった。
「私が行く。メタナイト卿はリーノとレッドの側にいてくれ」
「……わかった。無理はするな」
「ええ、わかっています」
「カノ、気をつけてね」
「私は強いよ。だから大丈夫」
兜で表情までは見えないだろう。だが声の調子で笑っていることは伝わった。
リーノは不安そうに、それでも微笑んでくれた。
中庭に近づくにつれて、異臭がひどくなる。
これはゴミの臭いか?ハンカチで口元を覆い、さらに早く走り出す。
中庭に到着するよりも前に、廊下の先から陛下とエスカルゴン殿が走ってきた。
「陛下!エスカルゴン殿!」
「おお、カノープス!お前もこちらへ行くゾイ」
陛下に手を握られ、私がやってきた方へ……つまり中庭とは反対方向に引っ張られた。
私はグッと止まり、頭を横に振る。
「中庭の異変を見にきたのです。みんな無事ですか?」
その言葉に陛下は「心配いらん」と仰った。
なんでも、ゴミを処理するのにカラスを呼んだらしい。
私は頭痛を感じた。こめかみを抑える。
「今は城のゴミを食い終わって、村に向かったゾイ。もう心配せんで良い。それよりも、これからバーベキューを向こうの庭でする。カノープスも来るゾイ」
「……いいですね。一度リーノたちがいる部屋に戻ります。それから合流しますね」
「うむ。はよう、準備してくるゾイ」
「はっ!」
陛下は私の手を離した。私はお二人に一礼してから、また妹家族が待つ自室へ歩き出す。
カラスの回か。
じゃあ数日後には、村も城も襲われる。
メタナイト卿に相談しよう。
そこではっと気づく。
なんと言って彼らを動かすのだ?
「とにかく、相談してみよう」
私は早歩きで進み出した。
緊張しつつ、自室の扉をノックする。
「私だ」
声をかけると、中から鍵が開いた。
メタナイト卿が顔を出す。
数瞬の間があって、彼は扉を大きく開き、中へ招いてくれた。
私はするりと部屋の中へ入り、一息つく。
そしてすぐに聞かれた。
「――何があった?」
「陛下がゴミを中庭にまいて、カラスに処分させてしました。カラスは村の方へ行ったようです」
「それから?まだ何かあるのだろう?」
……メタナイト卿の観察眼には、舌を巻く。
私の様子がおかしいことに、一目見て気づいたのだ。
「そうなの?カノ」
レッドはベビーベッドで寝ていた。
その隣でリーノはイスに座っていて、こちらを心配そうに窺っていた。
「その、実は引っかかっていることがあって……」
「話してみろ」
青い戦士に促され、私はポツリと言葉を紡ぐ。
カラスたちが来た山の方角に、陛下たちが出したゴミが捨てられていたこと。
ふと、思い出した。ダイナブレイドのひなを魔獣化させる薬、その行方。
「陛下たちは正しく……つまり、薬を無毒化して捨てただろうか?いや、違う。捨てるなら、そのまま捨てるだろう」
「――カラスたちがゴミとして捨てられた薬を見つけてしまい、飲んでしまうかもしれんな」
「ええ、その通りです」
「すぐにソードとブレイドと共に動こう」
「無駄に終わるかもしれません」
「みな無事なら、その方が良い。……リーノ、しばらく出かける。レッドを頼む」
「はい。万事お任せください。どうか、気をつけて」
メタナイト卿とリーノが手を結び、そっと離れる。
心苦しかった。私のせいだと、思ってしまった。
彼はこちらを向いた。
「カノープス、リーノとレッドを頼む」
「任せてください」
「うむ」
そしてメタナイト卿は部屋を出ていった。
部屋が静かになる。リーノに謝らなければ、と思った。
「リーノ、すまない」
「どうして?」
「私が森にいった方が、その……」
「違うわ」
リーノはイスから立ち上がり、私の手を握った。
その手は温かく、私の冷え切った心をほぐしてくれた。
「今わたくしが頼りにしているのは、いつだって側にいてくれるお姉ちゃんの方よ。メタナイト卿も、そのことを理解してくださっている」
「うん……」
「だから、できるだけカノがわたくし、レッド、アーニャ、ランタンの側にいて守れるようにしているの。様々なことができるあなただからこそ、頼めることなの」
「そう、だな。私は特別だ。だから家族を守れる」
「頼りにしているわ。お姉ちゃん」
リーノがニコッと笑う。
美しさの中に可愛さがキラリと光るその笑顔は、眩しい。
――――――
数日後。城でみんなが、鳥たちに襲われ始めた。
いち早く、その光景を見て気づいた私は、すぐさま動いた。
中庭にて、共に洗濯物を干していた妹たち、そしてレッドを連れて走る。
目的地は地下だ。一番近い秘密のエレベーターに乗って、まっすぐ地下に降りる。
そして三戦士たちと食事会をおこなう、いつもの地下厨房には入った。
肩で息をする私たち。ありがたいのは、レッドが泣かずに手を叩いて笑っていることだろう。
四人をそっと、地下厨房の床に下ろした。
「はあ、しばらくここにいるぞ」
疲れていないが、精神的な疲労でつい息を大きく吐いてしまう。
リーノが窓の外を眺めながら、言った。
「みんな無事でしょうか?」
「――信じよう」
リーノ、アーニャ、ランタンは強く頷いた。
「メタナイト卿たちは強い方です。負けませんわ」
「ブレイドさんとみなさんの、コンビネーションは素晴らしいですから。きっと大丈夫です」
「ソードの力強い剣技を見たら鳥たちなんて、あっという間に逃げちゃうものね」
「ああ、そうとも」
私たちは互いに顔を見て、微笑む。
相手が安心できるように。
さて、水を飲んで落ち着いた。
だが何かしていないと、不安が込み上げてくる。
なので三戦士たちのために、食事を作ることにした。
勝利を祝って帰ってくるのだから、カツサンドを作る。
レッドの面倒を見ているリーノが、パンを用意する。
細かく均等に食材を切れるアーニャが、キャベツの千切りを担当する。
揚げ物上手なランタンが、程よい厚さに肉を切り、下拵えをして、揚げる。
私はもしもに備えて、警戒にあたる。
地下厨房の扉前で、イスに座った。
ただ座るだけではなくて、魔法で小鳥を作り、メタナイト卿へ飛ばした。
みんな無事であること、地下厨房にいることを伝える。
数時間後。
カツサンドができあがって、すっかり冷めてしまったころ。
リーノたちはもう一品、玉子スープをサッと作り上げた。
「スープが冷める前にいただきましょうか」
リーノの言葉にみんなが賛同したところで、扉がノックされる。
「私たちだ、開けてくれ」
「メタナイト卿!」
「ブレイドさん!」
「ソード!」
妹たちが嬉しさのあまり、パートナーの名前を呼んだ。
私はすぐにドアを開ける。
三戦士たちが中に入ってきた。土埃と葉っぱがついていて、疲れているようだった。
でも、無事だった!
「遅くなってすまない。魔獣化したカラスは、カービィが倒して元のカラスに戻った。魔獣化の薬も見つけ、回収し、事態も収束した。もう地上に出られるぞ」
「ありがとうございます!お疲れ様でした!ご無事で何よりです」
「ですね!みなさんなら大丈夫だと思っていました」
「さっすが私たちの戦士様!」
不安の反動からはしゃぎ出す妹たち。
そんな妹たちを、眩しそうに、穏やかに見つめる三戦士。
それに、私は「まった」をかけた。
「みんなを褒め称えるのもいいが、メタナイト卿たちはお腹が減っているんじゃないか?どうですか?」
「ああ、何か食べたいな」
「でしたら、カツサンドと玉子スープを作りましたの」
ジャジャーンと、リーノたちは三戦士たちの前から横に移動して、カツサンドの山を見せた。
「七名分作りましたから、今からみんなで食べましょう」
「味見してバッチリだったから、期待してよね!」
「その前に」
私は人差し指だけを上に伸ばした。
「まずは手を洗ってくださいね」
「……そうだな」
三戦士は、おいしそうな食事を前に忘れていたらしい。
すぐに流しの方へ並んだ。