陛下に誘われて、昼の中庭でバーベキューをした。
主催者の陛下、指揮をとるのはエスカルゴン殿だ。コック帽子をかぶったワドルディたちが、テキパキと料理を作る。
ジンギスカンとサザエのつぼ焼き、そして焼きそばが、次々に作られていく。
私と、リーノとレッド、アーニャとランタンはその姿を見守っていた。
大きめのパラソルの下、広げられたキッズスペース。そこに私たちは座っており、くつろいでいた。
レッドは私のあぐらの上で、羊のぬいぐるみと一緒に遊んでいる。
夢中になって遊ぶその姿は、たいへん愛らしい。
そんなのんびりとした時間の中で、リーノはソワソワしていた。
「ジッと待っているだけというのも、なんだか落ち着かないわ」
その言葉にランタンが、声をあげて笑う。
「リーノったら!こんな時ぐらい甘えたらいいのに」
「ですです。いつも忙しいのですから、こういうときはゆっくりしませんか?」
アーニャにそう誘われるけれど、リーノは立ち上がった。
「やっぱり、食後のフルーツを持ってきます。わたくしなら、冷えたまま運べますから」
「一緒に行こう」
「いいの。カノは陛下と一緒にいてあげて。大丈夫。たくさん運ぶわけではないから。じゃあ、行ってきますね」
リーノは素早い早歩きで、廊下の奥へと消えた。
私はそっと魔法の玉を作り出して、リーノを追跡させた。
それは、追跡する者を守る魔法だ。敵対者に攻撃されれば、リーノにバリアを張って守ってくれる。
こうでもしなければ、安心できなかった。
リーノを追いかける魔法の玉を見て、アーニャとランタンは言った。
「過保護ね」
「無理もありません。カノープス、リーノはもう弱くありませんよ」
アーニャの言葉に、私は頭を振った。
「わかっている。リーノの、氷を操作するレベルは非常に高い。メタナイト卿のおかげもあって強くなった。でも、だからといって一人にはできない」
一度、狙われたのだ。
次は、ない。私がさせない。
「な〜に、重い空気になっとるゾイ?」
そこにひょっこりと陛下が現れた。
私たちは慌てて空気を変える。
「いえ、なんでもありません!……えーと、リーノがただ今、食後のフルーツを取りに行っています」
「ほう!そうか。気がきくゾイ」
「楽しみでゲスな」
陛下とエスカルゴン殿、そしてワドルディたちが喜ぶ。
パラソルの下にいる、私たちと違い陛下たちは太陽の下にいる。ちょっと暑そうだ。
私は魔法でミストを出して、陛下たちの周囲に流した。
「はあー!こりゃ気持ちいいでゲス!カノープス、ありがとうでゲスよ」
「うむ。よくやった!褒めてつかわすゾイ!」
「お役に立つことができて、この上ない喜びです」
レッドには赤ちゃん用の離乳食を、私たちはサザエのつぼ焼きを食べる。
そろりと、エスカルゴン殿を見た。
サザエの殻と、エスカルゴン殿の殻。似ている。
「何見ているゾイ」
「おわ!陛下……」
「誰を見ておったゾイ?」
突然、目の前に現れた陛下は「逃がさない」とばかりに、ジトリとこちらを見ている。
逃げるつもりはない。正直に申し上げた。
「その、サザエの殻とエスカルゴン殿の殻が似ていたので、つい見てしまいました」
「――似ている?」
「はい。とっても」
「……確かに」
陛下はそろりとエスカルゴン殿の後ろへまわり、そして――。
ハンマーを掲げた。
私はとっさに声を上げた!
「エスカルゴン殿!」
「ほへ?――ぎゃっ!?」
間一髪で、振り下ろされたハンマーを避けたエスカルゴン殿。
陛下は怪しく笑っている。
「避けたか……まあよいゾイ」
「陛下……?」
「エスカルゴン!神妙にその殻の中を見せるゾイ!」
「はぁ!?い、イヤでゲスー!!」
追いかけっこが始まった。
エスカルゴン殿は「お助けー!」と叫びつつ、城の方へ逃げ出した。その後を、陛下は楽しそうに追いかけている。
これは……。
「私が余計なことを言ってしまったか?」
「多分」
「おそらく」
ランタンとアーニャの言葉に、私は「やってしまった」と、そう思った。
――――――
数時間後。
私は、医院にいた。エスカルゴン殿のお見舞いのためだ。
私の他にも、この医院にはリーノ、レッド、ヤブイ先生はもちろん。フーム、ブン、カービィがいる。
陛下のハンマーによって、エスカルゴン殿の殻に大きなヒビが入った。
エスカルゴン殿はヒビをどうにか治すために、ヤブイ先生を頼ったのだ。
しかし、ヤブイ先生もそうだが、みんなエスカルゴン殿の殻の中身が気になるらしい。
私も気になるが……それ以上に見たくない。
エスカルゴン殿が嫌がっているし、何より見てはいけないものが出てきても困るからな。
「あーもう!ここには味方がカノープスしかいないでゲス!!」
みなの好奇の視線から逃れるように、エスカルゴン殿が私の後ろに隠れる。
「カノープス、守っておくれでゲスよ〜!」
ぎゅーと、後ろから腰あたりを抱きしめられて、困ってしまう。
するとリーノが声を上げてくれた。
「閣下!妙齢の女性に抱きついてはいけませんわ」
「今は私の殻の方が大事でゲス!」
そう言われても、困るものは困る。
しかしガッチリ掴まれている!逃げられない!
どうしたものか……。
ガゴン!!
突然、診察室の扉が破壊された。
私は、離れた位置にいるリーノとレッドに、素早くバリアをはる。
よし、これでいい。
現れたのは、陛下だった。
陛下は診察室をギロリと見回し、そして私の方を……エスカルゴン殿をにらみつける。
「エスカルゴン……」
「ひい!こ、これは……その!あのう!」
「言い訳するには、遅すぎるゾイ!どけい!カノープス!」
陛下が私の後ろ、エスカルゴン殿に向かってハンマーを構える。
私は退かなかった。さすがに、ハンマーの餌食になるのは、かわいそうだと思ったから。
そっと、腰にまわっていたエスカルゴン殿の手を外す。
代わりに一歩踏み込んで、瞬時に陛下の側に寄る。
「陛下」
ハンマーを構える手に、私の手を添える。
そして優しい声音で、お願いした。
「エスカルゴン殿の殻については、諦めてやってもらえませんか?」
「なんでゾイ!?」
「相手が嫌がっていることは、やっちゃダメだからです」
「……それだけかゾイ??」
「?ええ。それだけです」
「――ならば良い」
陛下はハンマーを下げない。
むしろ構え直して――。
「これで存分に殻の方に集中できるゾーイ!!」
「ひいい!お助けー!!」
私の横をするりと抜けて、エスカルゴン殿と追いかけっこを始めた。
狭い診察室内だ。決着はすぐについた。
ハンマーが殻にドガン!と、当たる。
殻が左右に割れてしまう、そのとき!
リーノと私が左右から凍らせて、殻が取れてしまうのを防いだ。
「あああ!おしい!」
「おしくありません!陛下、もうお止めください!」
リーノの言葉に耳を貸さず、陛下は笑う。
「デハハハハハ!お断りゾイ!」
「笑って言うことじゃねえよ……」
「ぽよよい……」
ブンの言う通りだ。
そしてフームが陛下に「弁償」を求めた。
「べん、しょー?」
「被害のお返しをすることよ!」
「デハハハハハ!そういうことか!ならば、任せるゾイ!」
陛下はさっそうと医院から出て行った。
めちゃくちゃになった診察室を見て呟く。
「嵐だったな……」
「まったくです」
幸いなのは、レッドが泣かないで、笑ってくれたことだろう。
今だってニコニコしている。
「あんなに陛下たちがドタバタしたのに……。レッドはすごい子だ」
「将来は大物になるかもしれませんね」
「そうだな」
――――――
さて、殻をこのまま凍らせておくこともできる。
けれど、四六時中エスカルゴン殿の側にはいられない。
なので割れた殻を直すことになった。
直す場所は、大臣家の部屋。リビングをお借りする。
エスカルゴン殿の殻を直している間、代わりの殻を使ってもらう。
代わりの殻は子どもたち……ブン、カービィ、ホッヘ、イロー、ハニーに探してもらい、フームを含めた大人組は部屋で準備を進める。
準備とは、エスカルゴン殿がリビングで着替えられる仕切りの用意と、頑張っている子どもたちのためのご褒美だ。
レッドはリーノが背負い、メーム様とシフォンケーキを作る。
私は、パーム様の指示のもと、仕切り――円柱の形をした、カーテンの仕切りだ――をリビングに準備する。
フームはエスカルゴン殿と、割れた殻をどのように直すのか話し合う。
代わりの殻がリビングに持ち込まれたころには、シフォンケーキは焼き上がっており、頑張ってくれた子どもたちに配られた。
おいしそうにケーキを頬張り、汗をかいた体にジュースを流し込んでいる。
「さあ、エスカルゴン殿。この中で着替えてください」
「うむ」
エスカルゴン殿は仕切りの中に入り、ガサゴソと着替え始めた。
あらかじめ、部屋に侵入したバッタ型カメラは、壊した。
問題なくエスカルゴン殿は、代わりの殻……巨大なサザエの殻に着替えた。カービィが見つけ、持ってきてくれたものだ。
エスカルゴン殿は機嫌良く言い放つ。
「ありがとうでゲス!それじゃ、割れた殻はちゃーんと直しておくでゲスよ」
「は?」
フームの戸惑いの声が聞こえていないのか、エスカルゴン殿は鼻歌を歌いつつ、リビングから出て行った。
取り残された私たちの反応は様々だ。
「て、手伝えよな〜!」
ブンは怒り、それをパーム様がいさめる。
「まあまあ、いいじゃないか。いない方が早く終わるかもしれん」
「そうね。チャチャっとやっちゃいましょ。あ、リーノとカノープスはレッドの面倒を見ててあげてね。私もみんなのお茶を用意したら、そこに加わるわ」
「あのお願いが……」
右手を軽く挙げる。みんなの注目が集まったところで、話した。
「陛下は、まだエスカルゴン殿を諦めていない。だから、フームたちはエスカルゴン殿を守ってやってほしい」
「えー」
「ぽよ?」
ブンが抗議の声をあげる。
私はそこを頼み込んだ。
「頼む。魔獣が現れないとも限らないから」
「確かに。デデデなら今回も面白がって、ホーリーナイトメア社を利用するわ。ブン、カービィ、行くわよ」
フームが走り出す。
「あ!待ってよ!姉ちゃん!」
「ぽよー!」
続いてブンとカービィがリビングから出て行った。
そうして殻が無事に修復されたころ。
玉座の方から大きな音が聞こえてきて、城が揺れた。
おそらく、魔獣と化したエスカルゴン殿が暴れているのだろう。
とにかく、リーノとレッドをまとめて膝の上で抱っこし、いつでも守れるようにした。
側にパーム様とメーム様も寄ってきたので、まとめて守ろう。
そう考えていたのだが、リビングまで被害は来なかった。
揺れはすぐに、おさまったのだ。
「どうやら、カービィがなんとかしてくれたようだね」
「ああ、びっくりした。のどがかわいたし、お茶にしましょう。あの子たちもすぐに帰ってくるわ」
パーム様とメーム様が一安心した様子で、立ち上がる。
私たちも立ち上がり、キッチンへと向かった。
私は、チョコクッキー箱から取り出し、皿に盛り付ける。
リーノとメーム様はお茶を用意し、パーム様はリーノに背負われているレッドに変顔を披露していた。
するとそこに、誰かがリビングに入ってきた。
バタン!ガサゴソ……ガサゴソ……。
「ん?誰だ?」
「私でゲス!まだ来ちゃダメでゲスよ!」
来ちゃダメと言われても、ここは大臣一家の部屋なんだが……。
私たちはしばし、キッチンにて待機した。
「……ふー!もういいでゲスよ」
物音が止んだ。私は先にリビングへと足を踏み入れる。
リビングには、キレイに修復された殻を背負うエスカルゴン殿がいた。
「あはーん、いいでゲスな!やっぱりこっちの方が落ち着くでゲス」
「それは良うございました」
「カノープス、パーム大臣、メーム夫人、それにリーノ。恩にきるでゲスよ。ありがとうでゲス」
私の後ろから、リーノとレッド、メーム様にパーム様が顔を出す。
みんな、エスカルゴン殿の顔を見て、ほっとしていた。
「もうこんなことが起きないことを願います」
「私もでゲスよ。パーム大臣」
その言葉に大きく頷くのは、メーム様とリーノだ。
「もう陛下の興味が別に移っていればいいのだけど」
「そうですね、メーム様。カノはもう大丈夫だと思う?」
私は正直に答えた。
「数日は追いかけられると思うぞ」
「……やっぱり?」
「ああ」
「――大丈夫でゲショ!追いかけられたら、わかってるでゲスね?」
エスカルゴン殿がこちらをじっと見つめる。
私は少々首を傾げながら、言った。
「……陛下の注意をそらしておく……のですか?」
「うむ!頼んだでゲスよ!」
「時間があるときは、なんとかいたします」
「いつでも助けてくれでゲスよ!給料はずむから!!」
「いえ、仕事があるので」
「これは!命令でゲス!」
興奮しながらエスカルゴン殿は言う。
見かねたのだろうか、リーノが前に出た。
「あの、閣下?」
「なんでゲスか」
「カノとずっと一緒にいた方が、陛下に怒られませんか?」
なんで?
私の疑問をよそに、話は続く。
「……それもそうでゲスけど、陛下に対抗するには、カノープスの力がいるでゲスよ」
「はい。わたくしもそう思います。なので、普段はカノから離れていて、追いかけられたら、カノに助けを求める。こちらの方が陛下の怒りを買わずに済むかと」
「うーん」
「それに確実に、陛下の注意はカノの方へ向きますわ」
「……それもそうでゲスな。カノープス、私が助けを求めたら、助けるでゲスよ」
「かしこまりました」
四六時中一緒ではないなら、断る理由もない。
私はエスカルゴン殿の命令を受けた。
そして数日。
やっぱり、陛下に追いかけられることになったエスカルゴン殿。
一日に三回以上は、エスカルゴン殿から助けを求められた。
その度に、走り迫る陛下を後ろから抱っこして、捕まえた。そしてエスカルゴン殿が逃げる時間をかせぐ。
抱っこしている間、陛下は大人しくしてくれているので、楽だったよ。
そして、陛下に追いかけられなくなった日に、エスカルゴン殿にちょっとしたボーナスを頂いた。
そのお金で、レッドのために人形を、メーム様に作ってもらった。
それは柔らかくて大きな、ボタンなどの装飾は付いていない、犬の人形だ。
たいへん可愛らしい。
「ほら、レッド。ワンちゃんだぞ。わんこは、すごくいいぞ」
私の自室にて。
ベビーサークルの中で遊ぶレッドに、できあがった犬の人形を渡す。
その様子を見ていたリーノは言った。
「あら、カノは犬派なの?」
「ああ、もちろん」
「もちろん?昔、飼っていたの?」
「さあ?覚えていないが、多分飼っていたんだろうな」
だってこんなに大好きなんだから。