少し雲が出ている、午前十時ごろ。
上の階の厨房にてリーノ、アーニャ、ランタンと共にフルーツ飴を作る。
昼前の甘味だ。今日は朝食がお粥だったためか、「腹が減った」と言う陛下のために、急いで用意する。
いちご、オレンジ、マスカット、ぶどうを、美しく見えるように串にさす。
そして水に溶かした砂糖にからめ、冷やした。
私が作った分だけは、別の皿に盛った。
いつも、陛下が特別に気にされて、食べたがるからだ。
飲み物を数種類ほど揃えて、カートに乗せて、玉座へと向かう。
私はレッドを抱き上げており、今回はランタンがカートを押している。
玉座の間に近づく。
リーノが先に両扉の前へ行き、そっと隙間を開けて、中を覗いた。
「……うん。お客様がいるだけで、魔獣はいないみたい。中へ入りましょうか」
リーノがこちらを見たので、「頼む」と返した。
妹は頷き、扉をノックする。
「陛下、閣下。リーノです。おやつをお持ちしました」
「開けるがよい」
「失礼いたします」
リーノが右側を、アーニャが左側の扉に手をかけて、大きく開けた。
ランタンがカートを押して入り、その後ろに私が続く。最後に、静かに扉を閉めたリーノと、アーニャが後ろに並んだ。
玉座の間の奥。
玉座には陛下が座り、隣にはエスカルゴン殿がいる。そして、彼らから二メートル離れたところ、成人男性三人が部屋の中央に立っていた。
ちょうどデリバリーシステムの機械がある場所だ。
ホーリーナイトメア社に関係あるのかな?と、思った。
フームやブンのような形をした男性たちを、観察する。
頭、首はない、胴体、腕に手、カービィのような足。間違いなくこの世界の住人だ。
三人とも見た目が、平成のオタクらしい格好をしていた。
男性、三人組、オタク……あ。
私は口元を押さえた。
もしかして、フームたん回か??
あれは……なあ。
視聴者として見ている分には面白いのだが、当事者の知り合いである今、ストーカー被害は見逃せない。
今日の夕方にでも、フームの様子を伺って、何かあれば私の部屋に泊まってもらおう。
「――カノ?どうしたの、怖い顔をしているわ」
「ん?いや、なんでもないよ」
男に見えるように低い声で、なにより、リーノを安心させるように優しい口調で言った。
どうやら、私が考え込んでいる間に、飲み物が出されたらしい。
陛下たちも、オタクたちも……いや、お客人たちも一息ついている。
そして頭上のモニターでは、あの“星のデデデ”が放送されていた。
私は目を丸くする。
音声が出ていなかったから、気がつかなかった。
私は陛下の方を向いた。
「また、アニメを作られるのですか?」
「その通り。今度はうまくいくゾイ」
「微力ながら、成功を祈らせていただきます」
「うむ!デハハハハハ!」
はたから見ても感じ取れるぐらい、陛下はご機嫌になった。
その視界の端で、オタクたちが輪になり、ひそひそと話している。
耳をすませる。
「メイドさんサイコー」
「というかお城の戦士さんなんかこちら睨んでませんか?」
「ぼくたちまだ何もやってないし」
「あの超可愛いメイドさんとイイカンジだし赤さん抱っこしているしそういうことなのでは?」
「ありえる」
「ありえる」
「男の嫉妬みにくい」
男ではないが、まあ、勘違いしておいてくれ。
私が男だというだけで、守りたいものを守れるなら、それでいい。
そんなことを思っていたのだが、お客人が私を“男”と勘違いしていると気づいたリーノが、言った。
「カノは女性です。わたくしの姉ですわ」
お客人たちがゆっくりとこちらを向いた。
「……女性??」
聞かれたのならば仕方ないか。
「そうだ。女だ。ここにいるメイドたちとは、姉妹のように仲良くさせてもらっている」
瞬きの間。
お客人の一人がはしゃいだ。
「だ、だだだだだ、男装だ!!本物やったー!!!!」
それはとてつもない喜びようで、ぴょんぴょんとその場で跳ねた。
その興奮に、周りは驚きを隠せない。
お客人の仲間も、言葉を失う。
まるで時が止まったかのような部屋の中、喜ぶ彼は、戦士のように素早い動きで、私の前に来た。
そして息継ぎもせず話し始める。
「いつから男装を?きっかけは?いつも男装しているの?好みのタイプは?恋人いる?抱っこしている赤さんとの関係は?強いですか?修行はしてる?趣味なに?顔が隠れる兜をしているのはなんで?ていうか恋人いる?あなたより背が低い男は好みですか?好きな人い――」
「ピギー、ストップ!!ストップ!!」
「まずいって!!」
早口にまくしたてたピギーとやらは、仲間二人に引きづられていった。
私は思わず声をこぼす。
「なんだ……?」
「普段からその低い声なの!??サイコー!!!!」
「うるせえ!」
「マジで静かにしろ」
三人はバタバタと玉座の間から出ていった。
口をポカンと開けたまま、私は大きく首を捻った。
「本当に、なんだったんだ??」
「なんでもいいですけれど、塩、まきましょう」
リーノが周囲にキラキラと氷を作りながら、少々怒った口調で言った。
それに陛下が賛同する。
「リーノ、盛大にまいておくゾイ!ったく、金を払っていなければ、このハンマーの餌食だったゾイ」
「陛下、だからダメでゲスよう!あいつらにはアニメを作ってもらうんでゲスから」
「わかっとる!まったく!」
陛下も、いつの間にかハンマーを取り出しており、エスカルゴン殿の隣で素振りしている。
二人とも話が聞けそうにないので、アーニャとランタンに近づいて、質問する。
「さっきのなんだったんだ?男装が珍しかったのか?」
「そうだと思います。それと……」
「好きなんじゃない?男装が」
「ええ……」
そういう好みがあることは理解できるけれど、自分に向けられると、なんというか。
どう対処すればいいのかが、わからないな。
「カノ!大丈夫ですよ。塩、まいておくから!」
「ああ、わかった」
「そうゾイ!あんなものさっさと忘れい」
「か、かしこまりました」
原作を思い出す。
彼らの執着は凄まじい。相手の都合を考えず、ストーカー行為をしていたからな。
――まさか、私が狙われたりしないよな?
背筋がヒヤリとして、体が震えた。
――――――
狙われました。
城から村へ向かう間、試しに一人で行動してみたら、あの三人組がつれた。
背後で、カメラのシャッター音が丸聞こえなんだが、隠れる気はあるのか?
うっとうしいので、足元を凍らせてツルッと滑らせる。
隙だらけになったところで、あらかじめ用意しておいた縄で、ぐるぐる巻きに。さらに三人を繋いで、できあがり。
「キリキリ歩いてもらおうか」
「あ、あのー……どこまで?」
一番背が低いお客人が言った。
私は村の広場の方角を指差す。
「警察署まで」
そうして到着した警察署。人集りができた。
私がお客人の三人を連れて歩いていたため、物珍しがった村人たちが見にきたのだ。
中には、事情を知って怒ってくれた人もいる。サトさんとか、ハナさんとか。
さらに、証拠の写真がわんさか出てきたときは、さらに怒りだした。
「女性の敵じゃない!」
「牢屋に入れておきましょう!!」
もう同じ事件を起こさせないために、そんな決意が見える。
しかし、子供たちの反応は素直というか、好奇心が勝っていた。
「でも、アニメを作ってくれるんだって!面白そう!宇宙戦士が敵をバッタバッタと薙ぎ倒す話書いて!」
「恋愛ものがいいな」
「コックの話はどう?包丁一本持ってさ。どう?」
中には大人も混じっている。
ハナさんとサトさんが、こちらをぐるりとと向いた。顔がおっかない。
「カノープス!あなたはどうしたいの!?」
「署長にお任せします。私、逮捕できませんし」
その言葉を聞いてサトさんは、夫に鋭く言った。
「あなた!逮捕して!!」
「は、はい!……おや、あの三人組は?」
?そういえば見当たらない。みんなも自分の周りを見るが、警察署内にはいなかった。
そこに、のんきなカワサキさんの声が届く。
「縄解いたら逃げちゃったよ〜。ごめんよ」
「カワサキ!」
「なんてことをするの!」
「ひぃー!ごめんよー!どんな絵が描けるのか見てみたかったんだー!」
必死に謝るカワサキさん。
あらら、せっかく捕まえたんだが……。まあ、いいか。ストーカー行為をしなければ、あの三人は無害だろうし。
念の為、城に戻ってリーノたちの側にいよう。
「サトさん、ハナさん。リーノが心配なので、一度城に戻ります。みなさんは、アニメを楽しみにしててください」
「そう、わかったわ。カワサキは、こちらでしっかり怒っておくから……」
「自分の身を第一に、気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」
――――――
さて、城に戻ってきた。
まず中庭の洗濯物干し場に寄る。
リーノとアーニャ、ランタンに抱っこされたレッドを、発見した。
「おーい」
手を振って近づく。
四人は気づいてくれた。
「カノ、おかえりなさい」
「大丈夫でしたか?」
リーノとアーニャは干す手を止めて、こちらの返事を待った。
私は洗濯カゴから、脱水されたシーツを手に取り、リーノたちに並んで干す。
「村へ行く途中、お客人たちに写真を撮られたが、とっ捕まえたから、大丈夫」
妹たちが顔を見合わせた。それから私の顔を窺う。
「どうした?」
「い、いえ。カノが気にしていなければいいの」
他の二人も同意する。
ランタンが、レッドと人形で遊びつつ言った。
「そのお客様たちだったら、さっき陛下たちがどこかへ連れていったわ」
「おそらく地下牢だろ。アニメを作らせるために、強制労働させる気だ」
私がそういうと、リーノは片手で額を抑え、アーニャとランタンは驚いた。
「やっぱり、そう思う?」
リーノの言葉に、私は力強く肯定した。
「間違いないと思う」
「ああ、陛下ったら……。お客様が、カノにあんな態度をとることは許せません。ですが、それはそれ。これはこれです。あとでお客様に、差し入れでもしましょう」
「そうしよう。陛下なら、無茶をされかねん」
やりたいことを、完遂させようとする行動力は、素晴らしいんだけどな。
それから私たちは五日間、朝昼晩の三食を、お客人たちに差し入れした。
食事をとる一時間の間だけは、ワドルドゥ隊長と兵士たちと交代し、お客人たちを見張る。
ワドルドゥ隊長たちは、陽の光が届かない地下牢に、うんざりしていたようだ。
休憩がとれて、リフレッシュできると、そう言っていた。
お客人たちも、気分転換になるらしく。
私たちとの会話を楽しんでいた。
「メイドさんの手料理サイコー!」
「めちゃくちゃウマイっす」
「ありがとう……ありがとう……!」
食事も美味しかったようで、毎食完食してくれた。
ちなみに男装が好きなお客人には、「もしまた質問攻めにしたり、変な行動をとるようなら、もう言葉を交わさない」と、釘を刺した。
彼は落ち着いて話をしてくれるようになったので、胸を撫で下ろす。
そしてアニメが完成した。
不眠不休でアニメを作り、完成させた彼らはすごいな!
ぶっつけ本番で、完成したばかりのアニメを宇宙に流す。
そのアニメは、かなり美化されたフームが主人公だった。
そして同じくかなり美化されたリーノ、アーニャ、ランタンが登場し、中盤に私が登場する。
お客人たちには、鎧を着込んだ姿しか見せていないので、アニメの中の私も鎧を着て、兜をつけている。顔は見えない。
――現実とは違う、鎧を着ていてもわかるはっきりとした凹凸のあるラインが、見ていられない。
物語は、私が美少女フームと美女メイドたち三人を悪漢から助ける話だった。
『私が守るよ』
アニメの最後は、私の声だった。
そして、アニメでは終わりに兜を取り、アニメのリーノに似た美女だった事が判明する。
あれ?この言葉、いつ言ったんだ?お客人たちとの雑談のときかな?
「――お客様との雑談のときも……」
「どうやら、録音されていたようですね」
「ありえない……」
げっそりするメイドたち。
私も疲れた。陛下のお姿が見たい。
スタジオ内を探す。けれど、見当たらない。
うん?お客人もいないな?
「リーノ、陛下とお客人を見なかったか?」
「え?あら、いないわ」
「あいつらなら、陛下とフームに追われて逃げ出したでゲスよ」
エスカルゴン殿だ。
こちらもげっそりしている。
私は兜の上から、頰をかいた。
「陛下とフームが追いかけているなら、いいかな」
「ねえ、カノ」
リーノが内緒で話すので、しゃがんで、耳を寄せる。
「絵柄は好きじゃなかったけれど、わたくし、自分がアニメになって嬉しいの」
「……ふふ、気持ちはわかるよ」
リーノの腕の中で、レッドが腕を伸ばし、兜に触れる。
レッドが大きくなったら、話してあげよう。
……いや、アニメを見たいと言われたら困るから、やっぱり内緒にしておこう。