その日、日中は曇りだった。
夕方から晴れて、夜は星がよく見えるだろうと考えていた。
夕食前に、私の部屋にメタナイト卿が訪ねてきた。
話を聞けば、明日の朝まで休めるらしい。
私はレッドを預かり、リーノとメタナイト卿を二人きりにしてあげようと、考える。
「今日はレッドを預かるから、二人でゆっくり夕食を食べておいで」
そう伝えれば、二人は頭を横に振った。
「家族みんなで一緒に食べましょうよ」
「ああ、私もそうしたい」
「いいのか?お邪魔じゃないか?」
「!?もう、カノったら!」
リーノが真っ赤になる。怒るよりも、照れたり恥ずかしがっているようだ。
私は素直に謝る。
「ごめん。だが、こんな日はめったにないから」
「そう。だから、家族みんなで一緒に夕食を囲むの」
リーノは、今度は笑顔で言った。
メタナイト卿が続ける。
「そなたたちさえ良ければ、一緒に食べないか?」
妹夫婦が、私を温かい眼差しで見守る。
私は心のままに、「一緒に食べたい」と口にした。
さて、夕食の時間になった。
メタナイト卿のリクエストにより、ご飯はグラタンに決定する。
リーノの得意料理だ。陛下も、エスカルゴン殿も、私も、そしてアーニャもランタンも、大好きなリーノのグラタンである。
時間は少々かかったが、リーノにとって会心の出来だ。
メタナイト卿も、「今日はさらにおいしい」と褒めてくれる。
二人がグラタンを食べ進めている間に、私がレッドに離乳食をあげた。
レッドの今日の夕飯はうどんである。
姪っ子はスプーンで食べるよりも、手掴みの方が食べやすいらしい。
その小さな手でしっかりと掴み、口に運ぶ。
そんな我が子の姿を見て、メタナイト卿が優しい声色で話す。
「よく食べている。元気な証拠だな。……すべてはそなたたちの、おかげだ。ありがとう」
その言葉には、“感謝”と“申し訳なさ”が、にじんでいる気がして。
おそらく、子育てに参加できていない負い目を、感じている。
私とリーノはこっそりアイコンタクトをとり、それから言った。
「あー…今日は、特にたくさん食べている気がします。メタナイト卿に、会えたからじゃないですかね?なあ、リーノ」
「ええ!メタナイト卿がいてくださったから、レッドもご機嫌ですわ」
「そうか?そうだといいな」
メタナイト卿が、レッドの頭をそっと撫でる。
しかし、うどんを食べる手は止まらない。
そんな姿を見て、私たちは笑みをこぼす。
「お父さんよりうどんか。よほどリーノが作ったうどんを、気に入ったんだな」
「腕によりをかけたかいがありますわ」
「ふふ。たくさん食べて、大きくなりなさい」
優しい時間が、過ぎていく。
さて、夜は一緒に川の字で眠ろうと、なった。
布団を並べた、そんな時だった。
非常にうるさい、エンジン音が城内に響く。
「なんだ?」
「まさか、魔獣ですか?」
陛下は、城内で車を走らせたりしない。
やるとすれば、魔獣だった。それしか心当たりがない。
「――見てくる」
「メタナイト卿」
青い戦士を見れば、もう切り替えているようだ。外を警戒している。
「リーノ、レッド。すまない」
「いいのです。今日、とっても楽しかったですわ」
青い戦士と、その妻は手を取り合った。
数秒後、するりと離れる。
彼は振り返らない。
「カノープス、後を頼む」
「任せてください」
そう言うと、彼は満足そうに頷き、部屋を出て行った。
静かになった部屋では、赤子の寝息がよく聞こえる。
リーノが怒気をはらんだ声を、小さく発した。
「今回ばかりは許せません」
「リーノ?」
「ストライキですわ」
私はこっそり、陛下に合掌した。
リーノは怒ったら止められん。
――――――
夜中、城の中を暴走していたのはビートという男らしい。
暴走族で、城内でも村でも暴れて、手がつけられないらしい。
だからこそ、陛下のお気に入りになった。
つまり私と遊んでくれないのだ。
玉座の間に呼び出された私、リーノ、アーニャにランタンは、陛下の前に並んだ。
陛下は命令を下す。
「リーノ、それにアーニャとランタン。こやつの面倒を見てやるゾイ」
陛下はビートを指す。
リーノたちは顔をそらした。
「お断りします」
「なに!?」
「どういう事でゲスか?」
今度はこちらに視線が集まった。
説明しろ……ということかな?
私は口を開く。
「リーノは……この様子だとアーニャたちもですね。私も含めて、今回の件が収まるまでストライキします。理由は邪魔されたからです。そちらの暴走族の方に」
「何を邪魔されたゾイ?」
「逢引きです」
「合い挽き?」
陛下の言葉に皆がずっこける。
「違うでゲス!デートのことでゲスよ!」
「――なんだそんなことかゾイ。また今度すれば良いゾイ」
私と妹たちは頭を振った。
リーノが大きな声を出す。
「夫やソードナイトさん、ブレイドナイトさんは忙しいんです!昨日は貴重は休みの日で、私とても嬉しかったんですよ!家族団欒ができると思って!なのに……」
アーニャが続く。
「そちらの暴走族の方のせいで、三戦士さんたちは城内を警邏することになりました。つまり、楽しみがなくなったのです」
最後にランタンがビシッと決めた。
「お楽しみをなくした原因に、私たちが尽くすものですか!ぜったいにお断りよ!」
「カノ、みんな、行きましょう」
三人の妹たちは、ろくに挨拶もせず玉座の間から出て行く。
私は陛下に向かって優雅にお辞儀してみせてから、リーノたちに続いた。
「まてい!カノープス、お前はなんでリーノたちに付き合うゾイ?」
「……簡単ですよ」
私は振り返り、スッとビートを指した。
「その人がいると、陛下が遊んでくれないからです。では、失礼します」
陛下は口をぽかーんと開けて、びっくりしているようだ。それとも呆れられたかな?
玉座の間から廊下に出て、後ろで扉を閉める。
待っていてくれたリーノたちと、合流する。
「カノったら、ダイタンね!」
「うん?」
「陛下に言ったじゃない。さっき!」
「本当のことを言っただけだぞ?」
妹たちは顔を見合わせる。
「無自覚なのね」
「いつか通じ合えるのでしょうか?」
「こればっかりは本人たち次第よね」
三人は考え込んでしまった。
どうしたのだろう?
――――――
さて、それから数日がすぎた。
ビートとレースで勝負し、勝つために立ち上がった村人たち。
全ては暴走族から村を守るためである。
陛下は、新しく作る“デデデ競技場”にて、決着をつけるよう提案した。
今日はその競技場でレースが開催される日だ。
私とリーノ、アーニャにランタンは、陛下から招待を受けた。
陛下と共に、競技場の貴賓席にて、レースを見守る。
ちなみに、もちろんレッドも一緒だ。
イスではなく、キッズスペースが置かれ、その中で私たちはくつろいだ。
村人たちがレースに勝てば、暴走族は村を去る。
妹たちの、私の平穏がかかっていた。
自分がレースに出るわけではないのに、ひどく緊張する。
「カノープス」
陛下に呼ばれて、そちらを向く。
もじもじしている?陛下も緊張しているようだ。レースが気になるのかな?
「何かご用ですか?」
「レースの、決着がついたら、また星を見るゾイ」
びっくりした。
つい思っている言葉が出てきてしまう。
「陛下は……暴走に夢中なのでは?」
「――お前がおらんと、つまらんゾイ」
顔に熱が集中する。
顔が隠れるタイプの兜をかぶっていてよかった!
私は右手を胸に添えて、言った。
「――私で良ければ、お供します」
「!うむ!では今夜な!」
「はい」
「デーハハハハハ!」
陛下がご機嫌になった。なんなら踊っているぐらいだ。
その様子に、リーノたちも笑顔になる。
が、笑顔で終われない。
レースが始まったころ、異変が起きた。
ガソリン屋を営み、ビートとは因縁があるガスが、レースに出ていない。
リーノは、すぐに陛下に問い詰めた。
陛下は悪い顔をして、「ガスにはしばらくの間休んでもらっとる」と、仰った。
私は、陛下が何かしたのだと、すぐに気づく。
妹たちも気づいた。
リーノはすぐにメタナイト卿に知らせに行こうとして、兵士であるワドルディたちに止められた。
槍で通せんぼされたのだ。
陛下は笑う。
「ぐふふ、ここで大人しくしておれ。悪いようにはせん」
「うう……カノ……」
リーノに助けを求められる。
私は頭を振った。
「メタナイト卿たちを信じて、レースを見守ろう」
「――わかったわ」
妹たちはそれぞれ心配そうだ。
私は別の心配をしていた。
「(確か、最後に競技場って壊れるんだよな?レッドとリーノ、アーニャとランタンは、まず先に安全な場所に運ばないとな……)」
準備運動でもしておこうかな?
そしてレースが始まる。
最初こそ、ビートが優勢だった。
カービィだけが残った中で、ガスが途中からレースに加わり、ビートといい勝負を繰り広げる。
だが、ビートの鎖がガスをとらえてしまい、危うかった。
そこに伝説のライダー、ステッペンウルフが現れる。
ステッペンウルフはガスを助け、ビートをやっつけた!
そして颯爽と、競技場から去っていった。
ガスとカービィが、レースに勝った。
誰もがそう思った、けれど。
ビートが本当の姿を現した。
魔獣ウィリーである!
巨大なバイクの魔獣に変身したビートは、ガスとカービィに襲いかかる。
そこでフームの声が響いた。
「カービィ、吸い込みよ!」
カービィはタイヤを吸い込み、ホイールカービィに変身した!
このままでは負けると思ったのか、陛下はレースを妨害する。
油をレース場にまき、まきびしをまいた!
どれもホイールカービィとガスには、きかない。かわされたのだ。
しかし体の大きな魔獣は、かわせない。
タイヤがパンクし、制御できず、壁のあちこちにぶつかって、最後には陛下の巨大な像に、乗り上げてしまった!
レースはガスとカービィの勝ちだ。
村中が彼らをお祝いする。
そして私たちも!
「さすがです!カービィ」
リーノが言い、アーニャとランタンが続く。
「これで夜を安心して迎えられますね」
「ストライキもお終いね」
おいおいと泣いていた陛下が言った。
「メイドたちのストライキが終わったのは良いが、負けたのは悔しいゾイ!!」
「陛下〜!」
「エスカルゴン〜!」
陛下とエスカルゴン殿は互いにハグして、さらに泣き始めた。
やれやれ。
だが、そんな時間も束の間。
会場が揺れだした。
「まずいな。リーノ、レッド、アーニャにランタン、捕まれ」
「はい!」
四人を抱っこして、立ち上がる。
「陛下、すみませんが……」
「わかっとる。行けい」
「いえ、そうではなくて。ご一緒に行きましょう。階段を作ります」
「なぬ?!わかったゾイ!エスカルゴン!」
「付いていまっす!でゲス!」
私たちは、数人のワドルディたちも連れて、競技場の上から外へ出る。
簡単に脱出できた。私が魔法で階段を作ったから。
全員が乗る大きく広めの階段だ。気合を入れて作ったよ。
誰よりも早く競技場から脱出し、私たちは木陰に身をひそめた。
「破片が飛んでくるかもしれないから、しばらくここにいよう。一応、バリアは張るが」
「そうですわね。カノ、お願い。メタナイト卿たちに、私たちの無事を報せて」
「わかった」
私は魔法で小鳥を作り出し、メタナイト卿へ飛ばす。
小鳥が空高く、飛んでいった。