夕食後。
辺りが真っ暗になってから、星を眺めていた。
玉座の前、廊下を挟んで向かい側、ベランダにて。
遠くに星と村が見える。
私は、鎧と兜を自室に置いて、身軽な格好でいた。
隣には陛下がいる。望遠鏡で星を眺めていた。
互いに言葉は少ない。けれど、楽しい時間だった。
夜空がいつもより輝いて見えるから……なんてな。
誰も寄りつかない時間だったのに、慌ただしく飛び込んできた人物がいる。
「陛下!大変でゲスよ!」
陛下はくわっと、目をつり上げる。
「エスカルゴン!来るでないわ!」
「しかし……一刻も早くお知らせしたかったんでゲス!」
エスカルゴン殿の慌てよう、ただ事ではない。
私は声をかけた。
「――どうかされたのですか?」
すると、エスカルゴン殿にハンマーを振り下ろそうとしていた陛下が、止まる。
エスカルゴン殿は陛下をすり抜け、私の方へ。彼は手に書類を持っていた。
「聞いておくれでゲスよ!ワドルディの食費がー!」
「食費が?」
「高すぎるんでゲスよ!ありえない数字でゲス!」
「そりゃ……たくさんいますからね」
私は問題に思わなかったけれど、陛下は違った。
「ぬあに!?直ちに!徹底的に調べ上げるゾイ!」
「陛下も来てほしいでゲス!その目で確かめてちょーよ!」
「うん……しかし……」
陛下が私を気にするので、私は一つ、小芝居をうつことにした。
わざとらしく、くしゃみをする。
「くしゅん」
「?寒いのかゾイ?」
「そうですね。夜風で体が冷えたのかもしれません。今日はここまでにしませんか?」
「む……カノープスがそういうならば、ワシに異論はないゾイ。すぐに部屋で休むように!」
「はい。ありがとうございます。陛下」
私が頭を下げると、陛下はエスカルゴン殿を連れて廊下の奥へ、走り出した。
去り際に、エスカルゴン殿は小声で「恩にきるでゲスよ」と言う。
私はそれに対して、軽く頭を下げることで応えた。
望遠鏡などの片付けは、ワドルディたちがしてくれたので、私はまっすぐ自室に戻る。
部屋では、すでにリーノとレッドが眠っていた。
私はその可愛らしい姿に、ほっこりした。
――――――
翌朝のニュースにて。
城で、ワドルディたちに振る舞うお弁当屋を、応募するらしい。
あー、この回か。ならば、ワドルディたちの味方になった方がいいな。
その方が後が怖くない。
私は、加熱処理された離乳食のバナナをレッドにあげつつ、リーノに話しかける。
「お弁当屋か……誰が来るんだろうな」
「村の料理自慢の主婦の方が、来ると思うんです」
「確かに、来そうだな。あとはレストランを営むカワサキさんと、コンビニを営むタゴさんか」
「その三名が有力候補ですね」
ちらりと時計を見る。
「昼にはお弁当屋の審査を行うのか……」
「今日は忙しくなりそうね」
「ああ、まったくだ」
特に、陛下の周りで雑用を任される妹たちは、大変だろう。
「レッドは私が背負っておくから、仕事頑張れ」
「ありがとう。今日は気合を入れなくちゃ!」
そしてお昼。
一階の広い厨房には、みんなが集まった。
陛下とエスカルゴン殿、メイドが三名、私に背負われたレッド、サトさんとハナさんに他の主婦のみなさん、タゴさん、カワサキさん。
審査はすぐに行われた。
主婦のみなさんから、アピールタイムが始まる。
野菜が彩り、栄養価が高そうなお弁当が三百デデン。
思わず声に出た。
「決まりでは?」
「まだゾイ!」
「もう一声!」
陛下とエスカルゴン殿の声に押されて、タゴさん、カワサキさんが続く。
お弁当の値段はどんどん落ちていく。
主婦のみなさんが、「これ以上は栄養がガタ落ちする」と言い、審査からおりた。
それでも価格競争は止まらず、タゴさんとカワサキさんは値段を下げていく。
……原作知識があるとはいえ、ハラハラする。
そしてとうとう、カワサキさんが一デデンのお弁当を作る。
それはサンドイッチ、材料をとっても薄く切ったものだ。
パン、ハム、パンと挟んでいるが、それでも向こう側が透けて見える。
「すごいですね」
賞賛も、そうでない意味も、両方込めて言った。
陛下は賞賛と感じたようだ。
「まったくゾイ!デーハハハハハ!」
「では、お弁当はカワサキに決まりでゲス!他のみなさんは、帰っていいでゲスぞ」
そこにリーノが、待ったをかけた。
「お待ちください!この薄すぎるお弁当では、お腹いっぱいになりませんわ!それに、栄養もまったくありません。どうか、考え直してくださいまし!」
「うるさいゾイ!どうしてもイヤなら、リーノがやるゾイ!」
「その代わり、給料はナシでゲスぞ」
「それは困ります!」
「では黙っておれい!」
リーノはぐぬぬ……と唇を尖らせる。悔しそうだ。
ご機嫌な陛下、そしてエスカルゴン殿が厨房を出ていく。
部屋に残った、ほとんどの人が良い気分ではなかった。
カワサキさんは選ばれたことに、嬉しそうだ。
そんなコックさんに対して、サトさんが言った。
「カワサキ、あなた、破滅するわよ」
それからコックさんの返事を待たず、リーノに向き直る。
「リーノ、あなたはしばらく村に来なさい。レッドちゃんも一緒に」
続けてハナさんも言った。
「アーニャとランタンも、いらっしゃい。カノープスも来てほしいけれど……その、ベッドが……」
「私は大丈夫です。何があっても、自分一人ぐらい守れますから」
でも、リーノと離れたくないんだよなあ……。
どうしよ。
すると、リーノは頭を横に振った。
「わたくしは残ります。ワドルディたちを、見捨てられません」
「リーノ、だが危ないだろう」
そう注意すれば、リーノは自信を持って言った。
「カノが守ってくれるわ」
そりゃそうだ。
私はようやく、笑えた気がする。
リーノの側に寄り、膝をつく。
「守るよ、必ず」
「ええ、お願いね」
リーノが残るなら、自分も残ると、アーニャとランタンが言う。
私は、サトさんとハナさんに言った。
「みんな、守ってみせます」
「頼んだわよ!」
「お姉ちゃんだものね。頑張って」
「はい」
まずは、ワドルドゥ隊長に報告しに行こうか。
メイドたちと私は、敵ではない事を知ってもらおう。
――――――
すぐにワドルドゥ隊長を見つけ、お弁当屋の件を話した。
隊長の反応は、半信半疑といったところ。
しかし夕食時間になり、あの極薄サンドイッチを食べることになって、ようやく信じてくれた。
冗談ではないのだと。
すぐに陛下に抗議する隊長、結果は断られた。
覚悟を決める隊長に、私と妹たちは声をかける。
「ワドルドゥ隊長、微力だが私たちは兵士たちの力になりたい」
ワドルドゥ隊長はこちらを振り向かない。
それでも、話を聞いてくれるようで、返事はあった。
「具体的に、何をしてくれる?」
「私と妹たちで話し合ったのだが、あなた方に差し入れを作るよ。たまに作っていたのだ。今回だってしてもいいだろう」
リーノ、アーニャ、ランタンが続く。
「美味しいお食事を、腕によりをかけて作りますわ」
「どんなものがいいですか?何でも仰ってください」
「陛下に負けないよう、スタミナつけないと、ね!」
それでようやく、隊長はこちらを向いた。
「では、弁当を。明日の朝食までに、兵士たちへ差し入れてやってくれ」
「わかった。今から作るよ」
「それと、もう一ついいか?カノープス、革命に力を貸してくれ」
「……それは、できない。だけど、陛下の力になる気もない」
「――わかった。それでいい。ありがとう」
ワドルドゥ隊長は、廊下の奥へ去っていく。
私たちは互いに顔を見合わせた。
「さて、一階の大きな厨房でやるか」
「それはいいけれど、カワサキさんはどうするの?わたくしたちのやることに、気づくわ」
「ラリホーで眠らせる」
ランタンが呆れた。
「力づくじゃないの」
「その方が確実だ。カワサキさんには悪いけれどな」
そして陛下たちの夕食後から、兵士たちの差し入れを作り始める。
早朝の四時ごろにカワサキさんが厨房を訪れたので、サクッと眠らせる。
アーニャが引き気味で言った。
「容赦ないですね……てっきり、事情を説明してから眠ってもらうのかと」
「今は時間がおしい。あとで謝るさ」
カワサキを厨房の隅に寝かせておき、四人でせっせとお弁当を作る。
今回は生姜焼き弁当だ。お肉もおにぎりも、たっぷり入れて、おまけにおかずも色とりどり。
種類は少ないけれど、栄養はちゃんと取れる物を用意した。
それを、できあがったものから兵士たちに配る。
厨房の外、食堂には兵士たちの長蛇の列が並んでいた。
リーノが叫ぶ。
「後、どれくらい作ればいいですか!?」
「もっとたくさん」
そう答えるしかない人数だった。
アーニャとランタンが叫ぶ。
「もう限界です!カワサキさんを起こして、戦力になっていただきましょう!!」
「賛成よ!ひどいお弁当を提案したけれど、兵士たちの気持ちを知れば、手伝ってくれるでしょ!」
「わかった。起こすぞ」
私はカワサキさんを、魔法で起こした。
カワサキさんはぼやけた声で、言った。
「カノープス……?おやすみ……」
「起きろ。時間だ」
「そうだ!サンドイッチ作らなきゃ……?あれ、みんな何しているの?」
「兵士たちに差し入れを作っている。手伝ってくれ」
「ええ!?困るよ!俺、陛下からお弁当を任されているのに……」
私は呆れつつも話す。
「今、ここで手伝わないと、兵士たちから攻撃されるぞ?」
「まっさかー!」
「じゃあ、食堂に出てみろ」
「そうするよ」
カワサキさんは食堂に出た。
数秒もたたずにして、引き返してきた。
「助けて!や、やられる!!」
「ならば手伝ってくれ。できればおにぎりを握る役でな。そうすれば、攻撃はされない」
「わ、わかったよ」
カワサキさんが仲間に加わった。
さすがプロの手捌きは素早く、私が一つ握る間に、カワサキさんは三つ握っていた。
朝食の時間前には、全てのワドルディに、お弁当がいきわたる。
徹夜明けだ。できれば、すぐに眠りたい。
しかし、それはレッドが許してくれない。
ちゃんと夜に眠っていたレッドは、朝になると元気に起きた。
そして私たちに遊べと、頬をぺちりと触るのだ。
「どうする?メーム様に頼むしかないぞ……」
「でも、今から頼めるかしら……?」
眠気に襲われる私たちの頭では、何も浮かばない。
ううん、兵士たちの革命が終わっていれば頼めるんだが、どうかなあ?
いい案も浮かばず、歩くのも億劫な気持ちでいた。
そこに、勢いよく入ってくる人がいた。
「みな、無事か!?」
メタナイト卿だ。私たちはへとへとに疲れていながらも、リーノが返事をする。
「無事です。先ほどまで、お弁当を作っていたので、すごく疲れていますが」
「そ、そうか。ケガがなければ、それでいいが……。自分たちの意思でやったのか?」
「そうですわ。兵士のみなさんのために、何かしたかったので」
「わかった。お疲れ様、みな、頑張ったな」
労われて、私たちはやり切ったのだと、心から笑顔になった。
私は、ふと、気になったので質問する。
「ところで、なぜこちらへ?何か起きたのですか?」
「兵士たちによる革命が起き、陛下が魔獣をダウンロードされた。魔獣はカービィが倒したし、革命も陛下が折れておさまったが……肝心のそなたたちが見つからなくて、探しにきたのだ。ソードとブレイドは別の場所を探している」
「色んなことが起きたんですね。ご心配をおかけしました」
「よいのだ」
やがて、ソードナイトとブレイドナイトが厨房にきた。
無事に合流できたから、やっぱり緊張が抜けていく。
妹たちも限界だ。
「みんな、私の部屋に行こう。あそこなら、全員が入れる」
その言葉に全員が賛同してくれて、私たちはフラフラになりつつも、部屋にたどり着く。
布団は三戦士たちが敷いてくれた。
革鎧を外し、四姉妹のみんなで布団に寝っ転がる。
寝ぼけながら、リーノが言った。
「それでは、レッドをお願いします……昼には……おきます、ので」
「問題ない。おやすみ、リーノ」
メタナイト卿の言葉を最後に、意識が沈む。
夢は見ず、ぐっすりと眠れた。