よく晴れた日の午前中。
私とリーノはレッドを連れて、玉座の間を掃除していた。
そこに、慌ただしく村から帰ってきた陛下とエスカルゴン殿が、玉座の間で騒ぐ。
「プレゼント、ですか?」
私は陛下の言葉を繰り返す。掃除する手は止まっていた。
陛下は悔しそうに頷く。
「そうゾイ。まったく、レン村長のヤツが貰えて、なぜワシが貰えないゾイ!?」
「そりゃ誰も渡したくないからでゲショ。ヒッヒッヒ!」
「きいい!!お前だって貰えないゾイ!」
エスカルゴン殿のからかいに、陛下はイジワルな言葉で返す。
それを見たリーノが怒った。
「陛下!イジワルを言ってはいけません。閣下も、どうか優しくしてあげてください」
「無理な相談でゲスな。おう、ワドルドゥ!そこの兵士!」
陛下のお側で護衛をしていた隊長と、二人のワドルディが、エスカルゴン殿の方を向く。
エスカルゴン殿は当然と言わんばかりに、確認した。
「お前たち、陛下にプレゼントしたいでゲスか?」
「いくら命令でも……その、ご勘弁を……」
隊長の言葉に、ワドルディたちが激しく首肯する。
それを見たエスカルゴン殿が、大笑いした。
そしてまた、陛下は怒る。
「ぐぬぬ……!ワシだって……!!」
見かねたリーノが、挙手した。
「わたくしからで良ければ、プレゼントさせていただきますわ」
「お前から貰っても仕方ないゾイ!」
「では、カノはどうですか?」
「あ、私?」
どうしたものかと考えていると、リーノに名指しされてしまった。
陛下は私の名前が出ると、さっきの怒りはどこへやら。おずおずと聞いてきた。
「どっちゾイ?」
この場合、「渡したいか?」と聞きたいのだろう。
私は考える。
「うーん、すぐにお渡しできるものがいいですよね?」
「そうゾイ」
陛下の目が、だんだんキラキラと輝いてきた。
期待されている?
これは、当たって砕けてもいいから、案を出した方がいいな。
私は勇気を振り絞る。
「私とか、どうでしょう?」
「は?」
「え?」
「はい?」
陛下、リーノ、エスカルゴン殿が、ポカンと口を開けて言った。
私はだんだん恥ずかしくなりつつ、もう一度繰り返す。
「私の時間を差し上げます。お昼寝の添い寝でも、膝枕でも、一緒に村に行ってもいいですよ」
「…………」
「陛下?」
陛下が止まったキリ、動かないぞ?
異変に気がついたエスカルゴン殿が、陛下の顔の前で手をパタパタした。
「き、気絶しているでゲス……」
「え!?ショックだったんですかね……?」
「まあ衝撃的なプレゼントでゲスからな」
しょぼんと落ち込む。いらないもの、あげちゃうところだったかも。
そこにリーノが駆け寄ってくれた。
「びっくりし過ぎただけよ。ちゃんと、陛下の口から聞きましょう?」
「そうだな。怖いけれど、聞くよ。……陛下、いりますか?それとも――」
「いるに決まっとる!!」
あ、復活した。
陛下はズイッと、私に近づいて言った。
「ひ、膝枕するゾイ!!ワシが昼寝しておる間、ずっと!!」
「いいですよ」
「か〜!陛下も男でゲスな!ヒーッヒッヒッヒ!」
ドガン!
あ、陛下のハンマーがエスカルゴン殿にささった。
ハンマーと共に、エスカルゴン殿が崩れ、倒れる。
陛下は、その様子に気にもとめず、私の片手を握った。
「今すぐ、部屋に行くゾイ」
「陛下のお部屋ですね」
「うむ。リーノ、あとで茶でも持って来るゾイ」
ああ、そうだ。リーノと離れたくはないから、ちょっとお願いするか。
「陛下。膝枕している間、リーノに色々とお願いしたいので、側にいてもらってもいいですか?」
「む。まあ、よいゾイ。好きにせい」
「ありがとうございます。リーノも一緒に来てくれ」
リーノはちょっと悩む素ぶりを見せた。
「レッドも一緒よ?お邪魔にならない?」
「いいですか?陛下」
「かまわんから、早う行くゾイ」
「ありがとうございます」
私たち四人は、陛下のお部屋へ移動する。
陛下がやたらと急かすので、私は陛下を抱っこした。
こうすると静かになるんだよな。
「リーノとレッドは、素早く動けませんので」
「ぐむう」
陛下はちょっと不服そうだが、何も言わずに私の首に腕を回した。
リーノの歩調に合わせて歩く。
その間は誰ともすれ違わず、陛下のお部屋についた。
それぞれ準備を始める。
陛下は、昼寝しやすいように寝巻きに着替えて。
私は鎧一式を脱ぎ、部屋の隅に置かせてもらう。
リーノは、レッドが眠れるようにクッションマットレスを床に敷いて、その上にベビー用の布団を敷く。
どちらも陛下のご厚意により、お部屋に置かせてもらっているのだ。
眠る準備が整ってすぐ、ワドルディたち兵士が飲み物を乗せたカートを、部屋まで運んでくれた。
お礼を言うと、彼らは一つ頷き、去っていく。
おそらくエスカルゴン殿からの差し入れだろう。あとでお礼言っておこうかな。
さて、膝枕だ。
陛下の方を振り向く。
「どちらで、しましょうか?」
「……ソファに行くゾイ」
「かしこまりました」
私も座れるほど頑丈なソファに、まず私が座る。
その隣に陛下が座り…………動かない。
「陛下、頭を膝に……というか、太ももに。どうぞ」
「わ、わかっておる!」
陛下はゆっくりと、おずおずと体を傾けて、私の太ももに頭を預けた。
緊張しておられるのか、体がガチガチである。
私は、ほぐすように両手で陛下をマッサージする。
「お昼になったら、起こしますね」
「うむ……」
陛下は目を閉じられて、体の緊張も徐々にほぐれる。
本棚の前では、リーノがレッドを寝かしていた。
――――――
次の日。昼間。
陛下とエスカルゴン殿が使われる食堂にて。
非常にご機嫌な陛下は、カービィ感謝の日を聞きつけた。
「ワシは嫌いな奴のお祝いだってできるゾイ!デーハハハハハ!」
「それじゃ、プレゼントを持って突撃でもするでゲスか?」
「うむ!そうするゾイ。主役は遅れて登場するものゾイ。ゆっくり準備するぞ、エスカルゴン」
「は、はい……」
メイド三人と、私は集まってひそひそと話し合う。
今日はアーニャに抱っこされているレッドも、会話に参加する。
まあ、話せるようになるのは、まだ先だが。
リーノが言った。
「プレゼントって、何を用意されるのかしら?魔獣かしら?」
その通り。とは、言えない。
なので、「とりあえずメタナイト卿に連絡しよう」と、言っておいた。
ランタンが大きく頷く。
「善は急げよ。ところで誰が行くの?」
アーニャが困ったように、頰に手を当てた。
「三人とも、戦士さんたちに会いたいですものね……」
答えが中々出ないので、私は案を出す。
「三人で行けばいい。ここには、私が残るから」
「いいの?カノにすべてを任せちゃうけれど」
「大丈夫だろ。さあ、行っておいで」
三人と赤子を送り出す。
魔法の玉を三つ作り出し、それぞれ妹たちの後を追わせた。
これで、魔獣からの攻撃を守ってくれる。
廊下の奥を曲がったところを見届けてから、食堂の中に戻った。
エスカルゴン殿にジロリと目を向けられる。
「なんでゲスか?また、メタナイトに報せに行ったでゲスか?」
「休憩に行かせただけですよ」
顔が隠れる兜を着用しているので、表情を読まれることはない。
堂々と振る舞った。
「陛下、リーノたちが戻るまで、私が給仕をさせていただきます」
「では、さっそく茶をいれるゾイ」
「さっき、ランタンにいれてもらったばかりでゲショ?」
「うるさいゾイ!」
陛下はカップの紅茶をゴクゴクと飲み干した。
「ぷは!カノープス、おかわり」
「はい。どうぞ」
ティーポットを持ち上げて、陛下のカップに注ぐ。
陛下は満足そうに、何度も紅茶を飲み干した。
夕方前、太陽が傾き始めたころ。
陛下はエスカルゴン殿と共に、車に乗って出かけられた。
いつの間にか用意していた、プレゼントを抱えて。
それを城の橋の上で、私とリーノとレッドで見送る。
メタナイト卿への報告は上手くいった。
かの青い戦士は、すでに城を出たらしい。
私は風を受けつつ、言った。
「あのプレゼントって……魔獣だよな」
「玉座の間から出てきたら持っていらしたから、間違いないわ」
「だよなあ」
陛下、懲りないなあ。
すると、可愛らしいくしゃみが聞こえてきた。
「くしゅ!」
「あら、レッド。寒いのね。中に入りましょうか」
「そうだな」
私たちは城の中へ入った。
カービィはすっかり強くなった。信じて待とう。
それから、夜の帳がおりてきて。
すっかり暗くなったころ。
メタナイト卿が、私の自室を訪ねてきた。
私とリーノは、青い戦士を部屋の中へ招く。
だが、廊下側から動かない彼は、カービィが魔獣と戦い、勝ったと言う。
「それだけを言いに来た。安心して眠ってくれ。――ではな」
リーノを見る。
少しだけ寂しそうな顔をして、それから笑顔を作った。
「また、差し入れを持っていきますね」
「……ありがとう。苦労をかける」
「大丈夫ですよ。わたくし、一人じゃありませんもの」
その笑顔は眩しく、力強かった。