カノープスの終生   作:紅絹の木

59 / 63
感謝の日

 

 

 よく晴れた日の午前中。

 私とリーノはレッドを連れて、玉座の間を掃除していた。

 

 そこに、慌ただしく村から帰ってきた陛下とエスカルゴン殿が、玉座の間で騒ぐ。

 

「プレゼント、ですか?」

 

 私は陛下の言葉を繰り返す。掃除する手は止まっていた。

 陛下は悔しそうに頷く。

 

「そうゾイ。まったく、レン村長のヤツが貰えて、なぜワシが貰えないゾイ!?」

「そりゃ誰も渡したくないからでゲショ。ヒッヒッヒ!」

「きいい!!お前だって貰えないゾイ!」

 

 エスカルゴン殿のからかいに、陛下はイジワルな言葉で返す。

 それを見たリーノが怒った。

 

「陛下!イジワルを言ってはいけません。閣下も、どうか優しくしてあげてください」

「無理な相談でゲスな。おう、ワドルドゥ!そこの兵士!」

 

 陛下のお側で護衛をしていた隊長と、二人のワドルディが、エスカルゴン殿の方を向く。

 エスカルゴン殿は当然と言わんばかりに、確認した。

 

「お前たち、陛下にプレゼントしたいでゲスか?」

「いくら命令でも……その、ご勘弁を……」

 

 隊長の言葉に、ワドルディたちが激しく首肯する。

 それを見たエスカルゴン殿が、大笑いした。

 そしてまた、陛下は怒る。

 

「ぐぬぬ……!ワシだって……!!」

 

 見かねたリーノが、挙手した。

 

「わたくしからで良ければ、プレゼントさせていただきますわ」

「お前から貰っても仕方ないゾイ!」

「では、カノはどうですか?」

「あ、私?」

 

 どうしたものかと考えていると、リーノに名指しされてしまった。

 陛下は私の名前が出ると、さっきの怒りはどこへやら。おずおずと聞いてきた。

 

「どっちゾイ?」

 

 この場合、「渡したいか?」と聞きたいのだろう。

 私は考える。

 

「うーん、すぐにお渡しできるものがいいですよね?」

「そうゾイ」

 

 陛下の目が、だんだんキラキラと輝いてきた。

 期待されている?

 これは、当たって砕けてもいいから、案を出した方がいいな。

 私は勇気を振り絞る。

 

「私とか、どうでしょう?」

「は?」

「え?」

「はい?」

 

 陛下、リーノ、エスカルゴン殿が、ポカンと口を開けて言った。

 私はだんだん恥ずかしくなりつつ、もう一度繰り返す。

 

「私の時間を差し上げます。お昼寝の添い寝でも、膝枕でも、一緒に村に行ってもいいですよ」

「…………」

「陛下?」

 

 陛下が止まったキリ、動かないぞ?

 異変に気がついたエスカルゴン殿が、陛下の顔の前で手をパタパタした。

 

「き、気絶しているでゲス……」

「え!?ショックだったんですかね……?」

「まあ衝撃的なプレゼントでゲスからな」

 

 しょぼんと落ち込む。いらないもの、あげちゃうところだったかも。

 そこにリーノが駆け寄ってくれた。

 

「びっくりし過ぎただけよ。ちゃんと、陛下の口から聞きましょう?」

「そうだな。怖いけれど、聞くよ。……陛下、いりますか?それとも――」

「いるに決まっとる!!」

 

 あ、復活した。

 陛下はズイッと、私に近づいて言った。

 

「ひ、膝枕するゾイ!!ワシが昼寝しておる間、ずっと!!」

「いいですよ」

「か〜!陛下も男でゲスな!ヒーッヒッヒッヒ!」

 

 ドガン!

 あ、陛下のハンマーがエスカルゴン殿にささった。

 ハンマーと共に、エスカルゴン殿が崩れ、倒れる。 

 陛下は、その様子に気にもとめず、私の片手を握った。

 

「今すぐ、部屋に行くゾイ」

「陛下のお部屋ですね」

「うむ。リーノ、あとで茶でも持って来るゾイ」

 

 ああ、そうだ。リーノと離れたくはないから、ちょっとお願いするか。

 

「陛下。膝枕している間、リーノに色々とお願いしたいので、側にいてもらってもいいですか?」

「む。まあ、よいゾイ。好きにせい」

「ありがとうございます。リーノも一緒に来てくれ」

 

 リーノはちょっと悩む素ぶりを見せた。

 

「レッドも一緒よ?お邪魔にならない?」

「いいですか?陛下」

「かまわんから、早う行くゾイ」

「ありがとうございます」

 

 私たち四人は、陛下のお部屋へ移動する。

 陛下がやたらと急かすので、私は陛下を抱っこした。

 こうすると静かになるんだよな。

 

「リーノとレッドは、素早く動けませんので」

「ぐむう」

 

 陛下はちょっと不服そうだが、何も言わずに私の首に腕を回した。

 リーノの歩調に合わせて歩く。

 その間は誰ともすれ違わず、陛下のお部屋についた。

 

 それぞれ準備を始める。

 

 陛下は、昼寝しやすいように寝巻きに着替えて。

 私は鎧一式を脱ぎ、部屋の隅に置かせてもらう。

 リーノは、レッドが眠れるようにクッションマットレスを床に敷いて、その上にベビー用の布団を敷く。

 どちらも陛下のご厚意により、お部屋に置かせてもらっているのだ。

 

 眠る準備が整ってすぐ、ワドルディたち兵士が飲み物を乗せたカートを、部屋まで運んでくれた。

 お礼を言うと、彼らは一つ頷き、去っていく。

 おそらくエスカルゴン殿からの差し入れだろう。あとでお礼言っておこうかな。

 

 さて、膝枕だ。

 陛下の方を振り向く。

 

「どちらで、しましょうか?」

「……ソファに行くゾイ」

「かしこまりました」

 

 私も座れるほど頑丈なソファに、まず私が座る。

 その隣に陛下が座り…………動かない。

 

「陛下、頭を膝に……というか、太ももに。どうぞ」

「わ、わかっておる!」

 

 陛下はゆっくりと、おずおずと体を傾けて、私の太ももに頭を預けた。

 緊張しておられるのか、体がガチガチである。

 私は、ほぐすように両手で陛下をマッサージする。

 

「お昼になったら、起こしますね」

「うむ……」

 

 陛下は目を閉じられて、体の緊張も徐々にほぐれる。

 本棚の前では、リーノがレッドを寝かしていた。

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 次の日。昼間。

 陛下とエスカルゴン殿が使われる食堂にて。

 非常にご機嫌な陛下は、カービィ感謝の日を聞きつけた。

 

「ワシは嫌いな奴のお祝いだってできるゾイ!デーハハハハハ!」

「それじゃ、プレゼントを持って突撃でもするでゲスか?」

「うむ!そうするゾイ。主役は遅れて登場するものゾイ。ゆっくり準備するぞ、エスカルゴン」

「は、はい……」

 

 メイド三人と、私は集まってひそひそと話し合う。

 今日はアーニャに抱っこされているレッドも、会話に参加する。

 まあ、話せるようになるのは、まだ先だが。

 リーノが言った。

 

「プレゼントって、何を用意されるのかしら?魔獣かしら?」

 

 その通り。とは、言えない。

 なので、「とりあえずメタナイト卿に連絡しよう」と、言っておいた。

 ランタンが大きく頷く。

 

「善は急げよ。ところで誰が行くの?」

 

 アーニャが困ったように、頰に手を当てた。

 

「三人とも、戦士さんたちに会いたいですものね……」

 

 答えが中々出ないので、私は案を出す。

 

「三人で行けばいい。ここには、私が残るから」

「いいの?カノにすべてを任せちゃうけれど」

「大丈夫だろ。さあ、行っておいで」

 

 三人と赤子を送り出す。

 魔法の玉を三つ作り出し、それぞれ妹たちの後を追わせた。

 これで、魔獣からの攻撃を守ってくれる。

 

 廊下の奥を曲がったところを見届けてから、食堂の中に戻った。

 エスカルゴン殿にジロリと目を向けられる。

 

「なんでゲスか?また、メタナイトに報せに行ったでゲスか?」

「休憩に行かせただけですよ」

 

 顔が隠れる兜を着用しているので、表情を読まれることはない。

 堂々と振る舞った。

 

「陛下、リーノたちが戻るまで、私が給仕をさせていただきます」

「では、さっそく茶をいれるゾイ」

「さっき、ランタンにいれてもらったばかりでゲショ?」

「うるさいゾイ!」

 

 陛下はカップの紅茶をゴクゴクと飲み干した。

 

「ぷは!カノープス、おかわり」

「はい。どうぞ」

 

 ティーポットを持ち上げて、陛下のカップに注ぐ。

 陛下は満足そうに、何度も紅茶を飲み干した。

 

 

 

 夕方前、太陽が傾き始めたころ。

 陛下はエスカルゴン殿と共に、車に乗って出かけられた。

 いつの間にか用意していた、プレゼントを抱えて。

 それを城の橋の上で、私とリーノとレッドで見送る。

 

 メタナイト卿への報告は上手くいった。

 かの青い戦士は、すでに城を出たらしい。

 私は風を受けつつ、言った。

 

「あのプレゼントって……魔獣だよな」

「玉座の間から出てきたら持っていらしたから、間違いないわ」

「だよなあ」

 

 陛下、懲りないなあ。

 すると、可愛らしいくしゃみが聞こえてきた。

 

「くしゅ!」

「あら、レッド。寒いのね。中に入りましょうか」

「そうだな」

 

 私たちは城の中へ入った。

 カービィはすっかり強くなった。信じて待とう。

 

 

 

 それから、夜の帳がおりてきて。

 すっかり暗くなったころ。

 

 メタナイト卿が、私の自室を訪ねてきた。

 私とリーノは、青い戦士を部屋の中へ招く。

 だが、廊下側から動かない彼は、カービィが魔獣と戦い、勝ったと言う。

 

「それだけを言いに来た。安心して眠ってくれ。――ではな」

 

 リーノを見る。

 少しだけ寂しそうな顔をして、それから笑顔を作った。

 

「また、差し入れを持っていきますね」

「……ありがとう。苦労をかける」

「大丈夫ですよ。わたくし、一人じゃありませんもの」

 

 その笑顔は眩しく、力強かった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。