カノープスの終生   作:紅絹の木

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ファンファン

 

 デデデ城内、深夜。

 私の自室にて。

 

 私とリーノは、家計簿と向き合っていた。

 レッドは、隣でベビーベッドに寝かせている。

 明かりはリーノの側にあるだけで、部屋全体は暗い。

 

 おしゃべりしつつ、のんびり家計簿に収支を記入していた。

 家計簿に記入した収支は、黒字だ。つまり、いい感じ。

 

 そんな静かな夜だった。

 遠くで大きな足音が聞こえた。

 それは……こちらに近づいている。

 

「リーノ、レッドと共に寝室の方へ」

「わかったわ。カノ、気をつけて」

 

 リーノは、慌ててレッドを抱き上げ、別室の寝室へ入った。

 私はテーブルとイスを、部屋の端に寄せる。

 間もなく、足音は城を揺らすほど大きくなり、部屋と廊下を隔てる壁を破壊した。

 

 大きなゾウだ!

 

 丸く灰色の巨体、大きな耳、まん丸な目をうるうるとさせて。

 こちらに突進してきた。

 だから掴み、窓の方へ放り投げた。

 

 窓はひどい音を立てて壊れ、ゾウは外へ。

 ドスーン!

 はるか階下、中庭に落ちたゾウは、ちょっとしたクレーターを作りつつも、よろりと立ち上がる。

 そして、上げた橋を倒して、村へ走っていった。

 

「まずいな……」

 

 やらかしたかもしれない。

 すぐにメタナイト卿に知らせるべきだろう。

 

 私は、魔法で小鳥を作り、メタナイト卿へ伝言を飛ばした。

 そしてリーノを寝室から出して、レッドの荷物を持って、大臣一家の部屋へ走った。

 

 

  

 大臣一家の部屋に到着すると、すでにフームとブンは出かけていた。おそらく、トッコリが呼びに来たのだろう。

 夜遅いというのに、メーム様もパーム様も快く迎えてくださる。

 私たちは深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます。朝までお邪魔しますわ」

 

 リーノがそう言うと、メーム様は「何を言っているの」と叱る。

 

「朝までと言わず、カノープスの部屋が元に戻るまでいたらいいじゃない。リーノ、あなたの部屋じゃ、カノープスには狭いのでしょう?」

 

 私たちは黙った。その通りだったからだ。

 メーム様は優しく微笑む。

 

「ここで寝泊まりしなさいな。ね、アナタ?」

「ああ、賑やかになって良いよ」

 

 穏やかに受け入れてくれる二人への感謝で、胸がいっぱいになった。

 私は鼻がツンとした気がした。

 

「ありがとうございます。料理や、高いところの掃除は任せてください」

「わたくしも、腕によりをかけて作らせていただきます!」

 

 メーム様は言った。

 

「居てくれるだけで、いいのよ」

 

 涙が出そうになったので、目をギュッと閉じる。

 そこに、扉を叩く音が聞こえた。

 私はすぐに動いた。

 

「見てきます」

 

 扉の前へ。まだ開けず、質問した。

 

「どなたですか?」

「私だ」

 

 間違えるはずもない。メタナイト卿だ。

 扉を開けるとメタナイト卿だけではなく、ソードナイトとランタン、ブレイドナイトとアーニャがいた。

 妹たちの方は寝巻き姿に羽織りを着ていた。

 私は扉を大きく開ける。

 

「どうぞ。リーノとレッド、大臣夫婦もいらっしゃいます」

「わかった」

 

 みんなでリーノたちがいるリビングへ行く。

 メタナイト卿の姿を見せると、リーノは安堵した表情を見せた。

 妹は夫に駆け寄り、笑みを見せる。

 

「ご無事で」

「そなたたちも、な」

 

 メタナイト卿は、リーノとレッドを優しく、丁寧に頭を撫でた。

 そして、手を離す。

 

「……無事を確認でき、よかった。アーニャとランタンを任せても?」

 

 パーム様が言った。

 

「それは構いませんが、どちらへ?」

「村へ。カービィが危ない」

 

 メタナイト卿に続き、ソードナイトとブレイドナイトが言う。

 

「我々は、城で警戒にあたります」

「次の魔獣が来るとも、限りませんから」

 

 妹たちは一瞬、不安そうに目を伏せた。

 それでも、次の瞬間には気丈にも笑みを見せる。

 

「気をつけて」

「私たちのことは大丈夫だからね!」

「ご武運を」

 

 リーノ、ランタン、アーニャは、彼らの背を押した。

 三戦士は力強く頷き、部屋を出て行く。

 

 足音が遠ざかり、部屋は静かになる。

 そこにメーム様の明るい声が響いた。

 

「さあ、眠れる場所を作りましょう?私とこの人は起きておくから、みんな寝ちゃいなさい。あ、カノープスは一緒に起きていてね」

「わかりました。家具、動かしますね」

 

 私は、リビングの家具を端に寄せようとして、止められた。

 

「お待ちください。できれば、わたくしは起きていたいです。夫と一緒に頑張りたいのです。離れていても、心は寄り添っているから……」

「リーノ……わかった。連絡があるまで一緒に起きていよう。けれど無理はするなよ」

 

 私がそう言うと、リーノは嬉しそうに笑う。

 

「ありがとう!お姉ちゃん」

「うん。アーニャとランタンはどうする?」

「私は起きます。――途中、寝ちゃうかもしれませんが」

「同じく。眠るかもしれなくても、起きて吉報を待ちたいわ」

 

 私は頷いた。

 

「わかった。メーム様、パーム様。よろしいですね?」

「構わないわ。ただ、無理しちゃダメよ」

「仮眠ぐらいは、とるようにね」

 

 年長者の言葉に、妹たちは素直に頷いていた。

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 それから、私たちは眠らず朝を迎える。

 朝食を食べている途中、ソードナイトが報告に来てくれた。

 私がドアの隙間から顔を出すと、用件だけを話す。

 

「まだ、かかりそうだ。警戒を続けてくれ」

「了解。今、ランタンを呼んで……」

「待て。会ったら離れ難くなる。だから、いいんだ」

「……わかった。気をつけて」

「じゃあ」

 

 ソードナイトは再び、廊下の奥へ走っていく。

 部屋の中へ戻ると、ランタンに迎えられた。

 

「私の名前、呼んだかしら?」

「呼んだよ。ソードナイトだった。離れ難くなるから、会わないで行くって」

「そう……寂しいけれど仕方ない!あとでいっぱい甘えましょ!」

 

 ふざけた調子で、ランタンは明るく言った。

 

「――強いな。頼もしいよ」

 

 私がそういうと、ランタンは背中をバシバシと、痛くない程度に叩いてきた。

 

「カノープスには敵わないわよ!」

 

 そんなやりとりをしつつ、私たちは食事に戻る。

 

 妹たちは眠くならないようにと、朝食は少し食べた。

 が、温かな日差しに船をこぎ始めたので、仮眠をとってもらう。

 

 その間、レッドはベビーサークルの中で、メーム様とパーム様と共に遊ぶ。

 レッドはすくすくと大きくなった。

 もうすぐ一歳だし、体もしっかりしている。

 メーム様とパーム様は、一番に名前を呼ばれたいからと、自分の名前を根気強く教えている。

 

 私もリーノも、まだレッドに呼ばれていなかった。

 もしメーム様たちが先に呼ばれたら、どうしよう。

 うーん、先に呼ばれたいものだな。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 その日の夕方。

 そろそろ夕食を作ろうとしていたところ。

 三戦士が揃って、大臣家まで来てくれた。

 三人の顔を見て、ピンときた。

 

「もしかして、騒ぎは終わりました?」

「ああ、それを伝えに来た」

 

 落ち着いたメタナイト卿の言葉に、私は胸を撫で下ろす。

 そして部屋の中へ通した。

 昼間に仮眠をとった妹たちが、揃って笑みを見せる。

 リーノは、メタナイト卿に駆け寄った。

 

「おかえりなさいませ!みな様、よくぞご無事で!」

「ただいま。リーノたちも無事だな」

「はい!襲撃もなく、平和でしたわ」

「よかった」

 

 そうしている間に、アーニャとランタンも、ブレイドナイトとソードナイトに駆け寄る。

 互いに笑みを交わし、手を取り合っていた。

 

 そこに、おずおずと声をかけるものがいる。

 パーム様とメーム様だ。

 

「あのう、メタナイト卿……」

「うちの子たちは……?」

 

 メタナイト卿は大臣夫婦の方を見た。

 

「無事だ。もうすぐ帰ってくる」

「それはよかった!」

「きっとお腹を空かせているわね!ご飯にしなくちゃ!」

 

 パーム様とメーム様は、身を寄せ合い笑い合う。

 私も微笑んだ。

 和やかな空気の中、今度はワドルドゥ隊長が訪問してきた。

 ちょっと汚れていて、疲れているみたい。

 隊長はまっすぐ私の方に来て、伝える。

 

「カノープス、壊れた部屋は直した。今日から使えるぞ」

「ありがとうございます!早いですね」

「陛下からのご命令でな……超特急で工事したのだ」

「それは……お疲れ様です」

「うむ。疲れた。我々は少し休む。ではな」

 

 それだけ言って、隊長は帰っていった。

 本当にお疲れだったのだろう。足取りに元気はなかった。

 私は言った。

 

「部屋も直ったし、帰るか」

 

 リーノが返事をしてくれる。

 

「ええ、そうね。ねえ、カノ?あなたの部屋で食事会をしてもいいかしら?みんなが無事だったお祝いをしたいの」

 

 リーノがいう食事会とは、三人のメイドたちと三戦士たちが食事するために集まる会のことだ。

 普段は、私はあまり参加しない。恋人たち、そして夫婦の集まりに参加するのは、お邪魔かな?と、考えてしまうからだ。

 私はリーノに顔を向ける。

 

「私も参加してもいいか?」

「もちろんよ!一緒に食べましょう」

「よし、それじゃ行くか。メーム様、パーム様、お世話になりました。ありがとうございます」

 

 私が頭を下げると、妹たちも続いて頭を下げて、お礼を言った。

 大臣夫婦は、にこやかに言った。

 

「困ったことがあれば、また言いなさい」

「できる限り、力になるわ」

 

 頼もしいな。

 私は深く頭を下げた。

 

 

 

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