夜中。
私とリーノは、レッドを連れて城内を散歩していた。
寝ないんだ……レッドが。それはもう元気で、眠る気配すらない。
「遊び疲れたら寝るよな?」
「大丈夫よ。きっと、多分」
リーノは少々疲れた声で言った。
今日は、村へ日用品を買いに行ったのだ。
ついでにサトさんとハナさんに、レッドの顔を見せて回り……その度におもてなしを受けた。
楽しかった分、はしゃぎ疲れたみたいだ。
私は体力に自信がある。だが、リーノはヘロヘロだ。
お昼寝をしていたレッドは、どうやら元気が有り余っているらしく。
今日は、夜更かしするか。
「中庭まで行くか?」
「そうね。噴水に行きましょう。あそこ、レッドが好きだもの」
「そうだな。よし、行こう」
陛下や私たちだけが知っている秘密のエレベーターを使って、地上におりる。
そして隠し扉を抜けて、中庭へ。
夜の中庭は静かで、昼間とはまた違った雰囲気をかもしだす。
噴水の縁には座らない。危ないからな。
レッドをベビーカーからおろしてやる。
そうすると噴水の方へ歩こうとするので、体を支えつつ、一緒に噴水へ向かう。
レッドは縁に掴まり、立つ。なので、私たちもレッドに目線を合わせて、噴水の見上げる。
「キレイだな」
「そうね」
きゃらきゃらと、レッドも笑う。
すると……。
ザパン。
「ゲロゲロ」
カエルが噴水から飛び出してきた。そいつは縁に乗っかり、レッドの前で鳴く。
私はすぐに氷漬けにした。
ガキン!
咄嗟の判断だった。噴水ごとカチンコチンに凍ったカエルは、一つのアートのようだ。
レッドが驚いて泣き出す。
リーノは慌てて噴水からレッドを離し、抱き上げる。
「よしよし、驚いたのね。ごめんなさいね」
「ひっく……ひっく……」
「す、すまない。リーノ、レッド。私が悪かったな」
レッドの頭を優しく撫でてやる。
そこに声が聞こえてきた。
「むしろお手柄だ」
「その声は……メタナイト卿!」
城と中庭をつなぐ廊下から、メタナイト卿が現れた。
ソードナイトとブレイドナイトはいない。別行動か。
「どうしてここに?」
「まずはここを離れるんだ。さあ、こちらに」
私たちは噴水から離れて、身を隠すように廊下の方へ行く。
メタナイト卿は言った。
「あれは魔獣デビルフロッグ。相手に取り憑き、悪い心を増幅させるのだ。そうして悪事を働く」
「危ない奴だな。私たちのうち誰かに取り憑かれていたら……」
「プププランドは終わっていただろうな」
リーノはレッドを抱きしめて言った。
「ここでやっつけましょう」
メタナイト卿は頷く。
「そうだな。カノープス、頼めるか?」
「やってみます」
私は廊下から出て、リーノたちに向かってバリアを張ってから、デビルフロッグに近づく。
そうして氷に魔法を流し込み、さらに凍てつかせて……デビルフロッグは小規模の爆発を起こした。
噴水は多少、壊れたものの“あの階段”は見えない。
良かった。
安堵しているのも束の間。
後ろから私を抜きさり、噴水へ向かう影が二つある。
ソードナイトとブレイドナイトだ。
二人とも工具と噴水を直すための、材料を持っていた。
それらを使って、噴水を直しにかかる。
うーん、手早い。
ソードナイトとブレイドナイトは言った。
「ここは我々に、任せて」
「部屋に戻るんだ」
「ああ、わかった」
私はリーノたちがいる方に足を運ぶ。
バリアを解除して、妹に近づいた。
「カノ、お疲れ様」
安心して笑みを見せるリーノ。
その腕の中で、泣き疲れたレッドが眠っている。
私はしゃがんで、すぴすぴと眠るレッドを覗き込む。
「よく寝ているな」
「ええ、疲れちゃったみたい」
「じゃあ、部屋に戻ろうか」
「そうしましょう。メタナイト卿、わたくしたち、先に寝ますね。おやすみなさい」
「おやすみなさい。メタナイト卿」
「おやすみ。良い夢を」
そうして私たちは部屋に帰った。
リーノを先に寝かせて、私は何かあった時のために起きておく。
二人の寝息に誘われて、まぶたが重くなる。
けれどその度に、水で顔を洗い、眠気をリセットさせた。
――――――
次の日の朝。
陛下とエスカルゴン殿が、朝食を食べている隣で、私とメイドたちは給仕をする。
陛下が三枚目のフレンチトーストを食べて、言った。
「そういえば……誰かカエルを見なかったかゾイ?」
リーノが、陛下のコップに牛乳を注いで言う。
「カエルなら、昨日の夜に見ましたわ」
「なに!どこで見たゾイ!?」
「噴水ですわ。カノがやっつけました」
「な……!?」
ぐるりと顔を回し、陛下は私を見る。
私は深く頭を下げた。
「やっつけました。ごめんなさい」
エスカルゴン殿が怒った調子で言う。
「“ごめん”で済む話じゃないでゲスよ!あれに、いくら払ったと思っているでゲスか!」
「ううん……!許すゾイ!」
「そう!許すでゲス!……って、陛下あ!」
エスカルゴン殿が驚く。
そして呆れた声で言うのだ。
「甘すぎるでゲスよう!」
「うるさいゾイ!カノープス、その代わり……」
「はい。何でしょうか?」
陛下はジッと私を見る。
「い、一緒に村に行くゾイ」
「かしこまりました。おでかけですね。お供いたします」
それを聞いたエスカルゴン殿が、手で顔をおおう。
「もっとガンガンいけっちゅーの!」
カゴン!
あ、陛下のハンマーが当たった。
朝食後。
支度を整え、陛下と共に村へ行く。
もちろん、リーノとレッドも一緒だ。
陛下は、少し悩んだ様子を見せたが、最後には折れてくれた。
レッドが乗るベビーカーに合わせて、のんびり進む。
まず本屋に寄ることになった。
陛下とリーノは絵本の棚を、私は挿絵が多い本の棚を覗く。
うん、陛下が好きなシリーズの最新作が発売している。
私はそれを一冊、手に取り先に購入した。
そして二人の方へ足を向ける。
なんだか賑やかに話し合っているようだ。
「陛下、リーノ」
「おお、カノープス!ちょうど良いところに来たゾイ!」
陛下は開いていた本をずいっと、私に見せた。
絵本ではない。図鑑のような厚みがある本だ。
「ここを、説明するゾイ!」
「今読んでいるページですね。ええと……食物連鎖のピラミッドですね。何と言うか……下側は食べられる側で、上側は食べる側です」
「つまり、カエルはヘビに食べられるゾイ?ヘビの方が強いゾイ??」
「そうなりますね」
「――デハハハハハ!良いことを聞いたゾーイ!」
陛下は高笑いをし、本を持ったまま外へ駆け出した。
どうやら城に帰ったらしい。
「陛下、いけません!お金ー!」
リーノの叫びは虚しく響いた。
私は言った。
「陛下は、どの本を持って行ったんだ?」
「この“はじめての食物連鎖”ですわ」
「わかった」
私は一冊を取り出して、レジカウンターに持っていく。
そしてアーニャのおじいさんに、謝る。
「すみません。この本を陛下が持って行ってしまって……支払いをさせてください」
「ちゃんと支払ってくれるなら、構わないよ。一冊九百デデンね」
「はい、ちょうど」
私は一冊分の料金を払った。
支払いに使った本は、また店の本棚に戻しておく。
リーノの方を向くと、三冊の本を手に取っていた。
「払ってきます。ちょっと待っていてね」
「レッドは見ておくから、行ってくるといいよ」
「ええ、お願い」
レッドはリーノが離れると、不安そうな声をあげたので、私は抱き上げてやった。
目線が高くなり、リーノがよく見えると、レッドは落ち着く。
そうしてリーノが戻ってくると、レッドはニコニコと笑うのだ。
さらに――。
「まあま」
一瞬、私とリーノの時が止まる。
「え」
「まあ!」
レッドが初めて、リーノを呼んだのだ。
私たちは、すぐにお祝いするため、カワサキの店に寄る。
そして二人でショートケーキを食べた。
ついでに、話を聞いたカワサキもケーキを食べていた。
「赤ちゃんが大きくなるのは早いなあ〜!いつかお小遣いを持って、おれの店を利用してほしいよ」
「カワサキさん、まだまだ先の話だな」
「ですわね。でも、あっという間にやって来るんでしょうね」
リーノがレッドを眩しそうに見つめる。
まるで、成長した姿を想像しているようだ。
「帰ったら、メタナイト卿にも知らせないとな」
「ええ!きっとすごく驚いて、喜んでくれますわ」
ハナさん、サトさんにも報せようと思いつつ。
やはり、まずはメタナイト卿にだろうと、私たちは帰城する。
城の橋を渡ると、焦げた匂いが鼻をくすぐった。
気になるので、中庭の方へ回る。
大きな物音が聞こえないので、はじめはバーベキューをしているのかな?と、思ったんだ。
すると……火によって焼かれ、荒れた庭がそこにはあった。
メタナイト卿、フーム、ブン、ファイヤーカービィがいたので、そちらへ歩み寄る。
足音に気づいたメタナイト卿が、こちらを向いた。
「リーノにカノープス、そしてレッドか」
「メタナイト卿、一体何があったのですか?」
リーノの心配そうな声に、メタナイト卿は寄りそう。
「魔獣ヘビーアナコンダーがカービィを襲ったのだ。だがもう倒した。みな、無事だ」
「ご無事で良かった」
二人は見つめあう。
すっかり二人きりの世界に入っているところを見せられて、私、フーム、ブンは照れてしまう。
リーノは言った。
「あの、ぜひ聞いてほしいことがあるのです」
「聞こう」
「今日、レッドがわたくしのことを呼んだのです……“まあま”と」
「なんと!おめでとう、良かったな」
「はい!」
フーム、ブン、そしてすっぴんに戻ったカービィが、レッドに集まる。
「わあ!レッドが喋ったのね!おめでとう!」
「なあ、なあ!おれは?ブン兄ちゃんだぞ?」
「かーびぃ、かーびぃぽよ!」
レッドはニコニコと笑うだけで、呼びはしない。
私は言った。
「やはり、特別にリーノだけを呼んだんだな」
フームはレッドに話しかける。
「いつか、私の名前も呼んでね」
そしてほっぺをぷにり、とつつく。
レッドはくすぐったそうに笑った。