数日後。
テラン国の王城、その客室にて私は目を覚ます。
寝ぼけつつも、私はある事に気づいた。
ここは「ダイの大冒険」というマンガが原作の世界だ。
アニメ化もされていて、確か名作だったはず。
主人公は十代前半の男の子、ダイだ。
約三ヶ月の大冒険を経て、大魔王を見事に倒す。
ここがどこかは、わかった。
次は今がいつなのか。
起床して、顔を洗い、緑色の髪に櫛を通してからまとめる。
王宮に勤める侍女さんが用意してくれた、服を着る。
シャツに鎧の胸当てだけをつける。足首を隠すほど長いパンツを履いて、靴下とブーツに足を通した。
朝食の前に城の中庭へ赴き、体を動かした。
準備体操、筋トレ、それから愛用の鉄パイプを振る。
メタナイト卿に教えてもらった通り、型をなぞる。
仮想の敵は、もっぱらあの手だ。
——天から伸びた、おそらく神様の手。
あいつさえ、出てこなければ、私はずっとあそこにいたのに。
そんな八つ当たりのような気持ちで、それでも頭は冷静に鉄パイプを振る。
考えても仕方ない事が、ぐるぐると頭の中で回る。
そこに遅れて兵士さんたちがやって来た。
私は姿勢を正し、彼らに向かって頭を下げる。
「おはようございます」
「おはようございます。精が出ますな」
「動かないと、体が怠けてしまいますので」
「はは、違いない」
「では、我々も」
兵士さんたちも、私の周りで剣を振り始めた。
それが三十分ほど続いた後、次は二人一組となる。
今日、私の相手をしてくれるのは、新人の兵士さんだ。
相手は、先に丸い綿が付けられた槍を持って、構えた。
体はガチガチに緊張している。表情もかたい。
対して私は、程よく力を抜いていた。
これは訓練なのだ。
実際の戦闘よりも、ずっと気が楽だった。
「——参ります」
「い、いつでも!」
地面がめくれない程度に、軽く飛ぶ。
上から下へ、軽く鉄パイプを振った。
防御に構えられた槍に当てる。
「ひっ!」
「目を開けて!絶対にケガさせないから!」
「は、はいぃ!」
一度、距離をあける。そして今度は、槍に有利な中距離で戦う。
私からの攻撃も当たらないが、相手の攻撃だって当たらない。
相手の兵士さんは体力が削られて、痺れを切らす。
大振りになる槍の隙間を一瞬でつめて、鉄パイプを彼の喉元に突きつけた。
「うっ!」
「勝負あり、ですね」
「あ、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
頭を下げた後は、別の人に声をかけて再び模擬戦をする。
相手の装備は、練習用の槍や木剣だけではない。
片手に盾を持ったり、槍や剣ではなくて、ひのきのぼうだったりする。
こんぼうは、ない。当たったら死んでしまうからだ。
朝の模擬戦が済んだら、朝食の時間だ。
最近……といってもここ二日くらいは、兵士たちと共に食堂で食べている。
やっぱり、大勢と食べる食事は楽しいな。
そうして食後には、城に勤めるメイドさんたちと共に、皿洗いだ。
彼女たちは、近くの村から城へ通う者もいる。
城と村の警邏に行く前に、魔物の姿を見かけなかったか情報交換するのだ。
……ただ、話だけを聞けばいいわけじゃない。
私はこの世界で生活をするのだから、馴染む努力が必要だ。
これは、その内の一つ。
テランのお城で雇ってもらえるのかは、わからない。
けれど、仕事を紹介してもらえるぐらいの人となりを、知ってもらう方がいいだろう。
——朝の警邏をしている最中だった。
強い気配が、私に近づいて来た。
濃密で、揺るがなく、まるで大木のような気配。
余程の手練れとみた。
私はちょっぴりわくわくした。
相手から邪悪な気配というか、殺意を感じなかったからだろう。
どれほど強いのか、知りたくなった。
辺りを見る。
視界には魔物らしき存在も気配もない。
私はその気配を辿って、森の中へ入った。
ガサガサと草木をわけて奥へ進む。
十分ほど歩いたところで、若い青年と出会った。
年は二十代前半だろう。背は高く、髪は黒く短めだ。目は茶系に見えた。
全体的に鍛えられており、ライトアーマーの下に、ぬののふくを着ている。ブーツで足を覆い、その背中には不釣り合いなほど豪華で力強さを感じる剣を、装備していた。
彼もこちらを観察している。
数秒後、彼が言った。
「——異世界の勇者か?」
「うん?違うぞ。そんな風に言われた事はない」
「む……そうか」
彼はぶつぶつと「おかしいな」と困った様子だ。
また私を観察して、首をひねる。
彼はまた質問してきた。
「……その気配、間違いなく強者だな?」
「強い方には入ると思うぞ」
「うむ、だろうな。……異世界から来たか?」
確信しているような、そんな聞き方だった。
知っているのならば、嘘をつく必要はないかな?
「……そうだ。証明になるかわからないが、空から私がこの地に降りてくるところを、見た兵士がいる」
「そうか。信じよう」
うんうんと、何度も頷く姿が、なんだか年相応で可愛らしかった。
今度は私が質問する。
「あなた、名前は?私はカノープス・リーノだ。カノープスと呼んでくれ。どこで私の事を知った?」
「名乗ろう。私はバラン。今代の竜の騎士だ。カノープス、あなたの事は、我が母であるマザードラゴンから、教えられたのだ」
「……なんと?」
「空からやって来た異世界の勇者と共に、魔界へ行け。そしてヴェルザーを倒せ……と」
彼はこちらに一歩近づいた。
「カノープス、異世界の勇者よ。共に戦ってくれ」
彼の瞳が輝いている。
それは正義だった。