模擬戦、当日。昼間、快晴だ。
その日はワドルディ百人切りよりも、盛況だった。ほとんどの村人たちが、村の外からやって来た観光客でさえも「カノープス!」と声を張り上げる。
うん。メタナイト卿たち完全にアウェーだな。
程よい緊張感を味わいつつ、今を楽しむ。
時間になったのか、控え室の扉がノックされた。
「カノ、出番よ」
リーノだ。
私は兜を被る。
「今行くよ」
扉を開けて、リーノと共に長い廊下を歩く。
チラチラとリーノがこちらを見てきた。
「カノ……あのね」
「なんだい?」
「本気、出さないわよね?」
「出さないよ。これは模擬戦だもの」
それに、本気を出してナイトメアに目をつけられても困るしね……。
リーノはあからさまに胸をなでおろした。
「良かった。あなたが本気を出せば、彼らだって無事じゃすまないもの」
「おや?私の心配はしてくれないのかい?」
「しているわよ?」
「それは良かった」
そしてドーム状の門を潜り、空の下に出た。さらに大きな歓声が上がる。
それに対して手を振って応えた。
コロシアム中央には、戦うための広いステージが設置されている。
そのステージの真ん中にエスカルゴン殿がいた。マイクを持って話し始めた。
「今回!戦うは、城の戦士カノープスと……さすらいの戦士である挑戦者のメタナイト卿、ソードナイト、ブレイドナイトの三名でゲス!……三対一だけど、いいんですかねコレ」
私はすかさず言った。
「良い。三人の連携プレーが見てみたいので」
「……まあ、戦う本人が良いって言うならかまわんでゲショ。四人とも前へ!」
「カノ、無理しないでね!」
「行ってくる」
リーノの心配を受けて、ステージへと上がる。
メタナイト卿たちも上がってきた。
メタナイト卿とバッチリ目が合った。
なんとなく気圧されて、目だけ横にそらした。情けないけれど、命をかけた戦いなどした事がないのだ。迫力に負けてしまうのは仕方ないよね?
ステージ中央で足を止める。三人も止まった。
エスカルゴン殿が私たち四人を見回して言う。
「準備はいいでゲスね」
「ちょっと……」
軽く手を挙げて、注目を集めた。止まったかのような時間の中で、私はメタナイト卿に近づき、それから片膝をつく。
青き戦士に右手を差し出した。
「――実りある勝負にしましょう」
「――ああ」
断られるかもと思ったが、メタナイト卿は手を差し出し握手してくれた。
私は内心喜んだ。
アニカビでは推しの一人だった彼と握手できるなんて、夢のようだ。手袋は柔らかい感触だが、その中の手は固い。
夢が現実になったので、さらに欲が出た。
メタナイト卿との握手が終わり、今度は空になった両手を差し出した。
「できれば、後ろのお二人とも握手がしたいのです」
「なぜだ?」
ソードナイトさんが心底、不思議そうに言った。
私は敬意を持って発言する。
「あなたたちが素晴らしいからです。昨日のワドルディ百人切り、見ていました。技は冴え、連携プレーは心が通い合っていて、力があり、技術があり、確かな経験がある。――憧れます。その力は、間違いなく大切な人を守る」
ふう、と息を吐く。
「私は、まだまだ未熟です。今日だって、皆さんの胸を借りるつもりで、このステージに上がりました。……今だって、鼓動がうるさいくらいなんですよ?」
ふふ、と笑う。
誰もつられて笑ってはくれなかったが、耳を傾けてくれている。
「だから、どうか……皆さんのお力を少しだけ私に分けていただけませんか?そうしたら、力が出せると思うのです。……どうでしょうか?」
言い切った。
ソードナイトとブレイドナイトは、互いに顔を見合せる。そして前に出てくれた。
空っぽの私の手を、各々が握り返してくれる。
そしてブレイドナイトが言った。
「良い勝負をしましょう」
「ええ、もちろん!」
ソードナイトとブレイドナイトも、メタナイト卿と似た感触がした。
会場中から拍手がおこる。
皆、一連のやり取りを見て感動したようだ。
ちょっと恥ずかしいな。
握手を終えて立ち上がると、エスカルゴン殿があくびをされた。
「もういいでゲスか?始めるでゲスよ」
「はい。カノープス、準備できております」
「こちらも、できている」
「んじゃ、四人とも離れて」
言われた通り、私はステージ中央から数メートル離れた。メタナイト卿たちも中央からそれぞれ離れる。
三人は散らばらずに固まっていた。
――私は倒しやすいなって思った。
「レディ……」
クラウチングスタートの姿勢をとる。
「ファイト!!」
ドン!!!
弾丸のごとく飛び出した。
「卿!」
「いかん!前へ出るな!」
ソードナイトとブレイドナイトが、メタナイト卿の前に立つ。それは私にとってチャンスだった。
切らずにこちらを叩こうとする剣を、逆に叩き落とす。すかさず従者二人の胸ぐら辺りを鷲掴み、メタナイト卿を飛び越える。
そして離れた所に着地、走って加速する。
「放せ!」
「わかった」
ステージの端でギリギリ止まる。
放そうと思ったけれど、手首を掴まれてできない。だから、両者を――シンバルのように――背中同士をあわせて叩いた。
「があ……!」
「ぐっ!」
手首を掴んでいた手が緩む。
またまたチャンスだ。その場でジャンプしてくるんと回り、勢いをつけてステージの外に投げる。
二人はバウンドして、場外を転がった。呻いている。気絶はしていない。
私は声を張り上げる。
「救護班!」
すぐさまワドルドゥ隊長が率いるワドルディたちが、ステージ近くの白いテントから飛び出してきた。
それぞれ慎重にテント内へ運ばれる。
私はそれを見届けてから、メタナイト卿へ向き直った。
メタナイト卿は、多分私を睨んでいる。彼は派手で威圧感がある剣――宝剣ギャラクシア――を握り直した。
私は正直に言った。
「……連携されては勝てないと思ったので、先に倒させていただきました」
「そうか」
風がマントをなびかせる。
「そなたの武器は?」
「鉄パイプです。……切られると困るので、持ってきていません」
メタナイト卿はちょっと固まって、呆れたように息を吐いた。そして剣をしまう。
「しまうのですか?」
「そなたが倒すべき相手ならば、剣を使う。だが、今回は力を見せる必要がある。――同じものを扱えば、どちらがより強者なのか、わかりやすいだろう」
「そうですね」
「――遠慮はしない」
「ええ。かかってきてください」
構えるメタナイト卿のやる気は充分のようだ。
私はゾクゾクと震えた。
――――――
結果を言おう。
メタナイト卿が勝った。
私は、メタナイト卿を捕まえては投げてを繰り返して。だけど彼は受け身をとったり、ダメージを上手いこと逃がしたりした。
メタナイト卿は、私に素早く近づき死角から攻撃して。――避けられなかった。すべての攻撃を受けてしまった。
戦闘の経験値がまったくない私では、歯が立たなかったのだ。
力だけあってもダメ、技術をちゃんと学ばないといけない。そうわからされた。
何十発目かの攻撃で、私はバランスを崩した。
倒れた私に向かって、場外からタオルが投げられる。
リーノだ。
はじめは「なんで?」と思った。
だが、彼女の泣きそうな顔を見て理解した。
戦えていると思っていたのは、私だけなんだって。
「リーノ……」
リーノがステージに上がり、メタナイト卿の横を走り抜けて、私の隣にきた。
「カノ……カノ……ねえ、大丈夫?」
「問題ない……その証拠に、君を抱きしめる事だってできるよ」
「ふざけないで……ばか……」
はらはらと涙が流れている。
私は彼女の頬に手を伸ばし、親指で涙を拭う。
痛みが走る体を、無理に立ち上がらせた。
「メタナイト卿、私の負けです」
「……そのようだ」
「あなた方は見事に勝利を掴んでみせた。おめでとうございます。――城にようこそ。歓迎します」
「……ああ」
「観客の皆さん!彼らに盛大な拍手を!新たなプププランドの住人を歓迎してあげてください!」
私が率先して拍手する。
リーノが続き、それからパラパラと鳴って、最後にはたくさんの人が拍手をしてくれた。