カノープスの終生   作:紅絹の木

7 / 63
模擬戦

 

 模擬戦、当日。昼間、快晴だ。

 その日はワドルディ百人切りよりも、盛況だった。ほとんどの村人たちが、村の外からやって来た観光客でさえも「カノープス!」と声を張り上げる。

 

 うん。メタナイト卿たち完全にアウェーだな。

 

 程よい緊張感を味わいつつ、今を楽しむ。

 時間になったのか、控え室の扉がノックされた。

 

「カノ、出番よ」

 

 リーノだ。

 私は兜を被る。

 

「今行くよ」

 

 扉を開けて、リーノと共に長い廊下を歩く。

 チラチラとリーノがこちらを見てきた。

 

「カノ……あのね」

「なんだい?」

「本気、出さないわよね?」

「出さないよ。これは模擬戦だもの」

 

 それに、本気を出してナイトメアに目をつけられても困るしね……。

 リーノはあからさまに胸をなでおろした。

 

「良かった。あなたが本気を出せば、彼らだって無事じゃすまないもの」

「おや?私の心配はしてくれないのかい?」

「しているわよ?」

「それは良かった」

 

 

 

 そしてドーム状の門を潜り、空の下に出た。さらに大きな歓声が上がる。

 それに対して手を振って応えた。

 

 コロシアム中央には、戦うための広いステージが設置されている。

 そのステージの真ん中にエスカルゴン殿がいた。マイクを持って話し始めた。

 

「今回!戦うは、城の戦士カノープスと……さすらいの戦士である挑戦者のメタナイト卿、ソードナイト、ブレイドナイトの三名でゲス!……三対一だけど、いいんですかねコレ」

 

 私はすかさず言った。

 

「良い。三人の連携プレーが見てみたいので」

「……まあ、戦う本人が良いって言うならかまわんでゲショ。四人とも前へ!」

「カノ、無理しないでね!」

「行ってくる」

 

 リーノの心配を受けて、ステージへと上がる。

 メタナイト卿たちも上がってきた。

 

 メタナイト卿とバッチリ目が合った。

 なんとなく気圧されて、目だけ横にそらした。情けないけれど、命をかけた戦いなどした事がないのだ。迫力に負けてしまうのは仕方ないよね?

 

 ステージ中央で足を止める。三人も止まった。

 エスカルゴン殿が私たち四人を見回して言う。

 

「準備はいいでゲスね」

「ちょっと……」

 

 軽く手を挙げて、注目を集めた。止まったかのような時間の中で、私はメタナイト卿に近づき、それから片膝をつく。

 青き戦士に右手を差し出した。

 

「――実りある勝負にしましょう」

「――ああ」

 

 断られるかもと思ったが、メタナイト卿は手を差し出し握手してくれた。

 私は内心喜んだ。

 

 アニカビでは推しの一人だった彼と握手できるなんて、夢のようだ。手袋は柔らかい感触だが、その中の手は固い。

 夢が現実になったので、さらに欲が出た。

 メタナイト卿との握手が終わり、今度は空になった両手を差し出した。

 

「できれば、後ろのお二人とも握手がしたいのです」

「なぜだ?」

 

 ソードナイトさんが心底、不思議そうに言った。

 私は敬意を持って発言する。

 

「あなたたちが素晴らしいからです。昨日のワドルディ百人切り、見ていました。技は冴え、連携プレーは心が通い合っていて、力があり、技術があり、確かな経験がある。――憧れます。その力は、間違いなく大切な人を守る」

 

 ふう、と息を吐く。

 

「私は、まだまだ未熟です。今日だって、皆さんの胸を借りるつもりで、このステージに上がりました。……今だって、鼓動がうるさいくらいなんですよ?」

 

 ふふ、と笑う。

 誰もつられて笑ってはくれなかったが、耳を傾けてくれている。

 

「だから、どうか……皆さんのお力を少しだけ私に分けていただけませんか?そうしたら、力が出せると思うのです。……どうでしょうか?」

 

 言い切った。

 ソードナイトとブレイドナイトは、互いに顔を見合せる。そして前に出てくれた。

 空っぽの私の手を、各々が握り返してくれる。

 そしてブレイドナイトが言った。

 

「良い勝負をしましょう」

「ええ、もちろん!」

 

 ソードナイトとブレイドナイトも、メタナイト卿と似た感触がした。

 

 会場中から拍手がおこる。

 皆、一連のやり取りを見て感動したようだ。

 ちょっと恥ずかしいな。

 

 握手を終えて立ち上がると、エスカルゴン殿があくびをされた。

 

「もういいでゲスか?始めるでゲスよ」

「はい。カノープス、準備できております」

「こちらも、できている」

「んじゃ、四人とも離れて」

 

 言われた通り、私はステージ中央から数メートル離れた。メタナイト卿たちも中央からそれぞれ離れる。

 三人は散らばらずに固まっていた。

 ――私は倒しやすいなって思った。

 

「レディ……」

 

 クラウチングスタートの姿勢をとる。

 

「ファイト!!」

 

 ドン!!!

 弾丸のごとく飛び出した。

 

「卿!」

「いかん!前へ出るな!」

 

 ソードナイトとブレイドナイトが、メタナイト卿の前に立つ。それは私にとってチャンスだった。

 切らずにこちらを叩こうとする剣を、逆に叩き落とす。すかさず従者二人の胸ぐら辺りを鷲掴み、メタナイト卿を飛び越える。

 そして離れた所に着地、走って加速する。

 

「放せ!」

「わかった」

 

 ステージの端でギリギリ止まる。

 放そうと思ったけれど、手首を掴まれてできない。だから、両者を――シンバルのように――背中同士をあわせて叩いた。

 

「があ……!」

「ぐっ!」

 

 手首を掴んでいた手が緩む。

 またまたチャンスだ。その場でジャンプしてくるんと回り、勢いをつけてステージの外に投げる。

 二人はバウンドして、場外を転がった。呻いている。気絶はしていない。

 

 私は声を張り上げる。

 

「救護班!」

 

 すぐさまワドルドゥ隊長が率いるワドルディたちが、ステージ近くの白いテントから飛び出してきた。

 それぞれ慎重にテント内へ運ばれる。

 

 私はそれを見届けてから、メタナイト卿へ向き直った。

 メタナイト卿は、多分私を睨んでいる。彼は派手で威圧感がある剣――宝剣ギャラクシア――を握り直した。

 私は正直に言った。

 

「……連携されては勝てないと思ったので、先に倒させていただきました」

「そうか」

 

 風がマントをなびかせる。

 

「そなたの武器は?」

「鉄パイプです。……切られると困るので、持ってきていません」

 

 メタナイト卿はちょっと固まって、呆れたように息を吐いた。そして剣をしまう。

 

「しまうのですか?」

「そなたが倒すべき相手ならば、剣を使う。だが、今回は力を見せる必要がある。――同じものを扱えば、どちらがより強者なのか、わかりやすいだろう」

「そうですね」

「――遠慮はしない」

「ええ。かかってきてください」

 

 構えるメタナイト卿のやる気は充分のようだ。

 私はゾクゾクと震えた。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 結果を言おう。

 メタナイト卿が勝った。

 

 私は、メタナイト卿を捕まえては投げてを繰り返して。だけど彼は受け身をとったり、ダメージを上手いこと逃がしたりした。

 メタナイト卿は、私に素早く近づき死角から攻撃して。――避けられなかった。すべての攻撃を受けてしまった。

 

 戦闘の経験値がまったくない私では、歯が立たなかったのだ。

 力だけあってもダメ、技術をちゃんと学ばないといけない。そうわからされた。

 

 何十発目かの攻撃で、私はバランスを崩した。

 倒れた私に向かって、場外からタオルが投げられる。

 

 リーノだ。

 はじめは「なんで?」と思った。

 だが、彼女の泣きそうな顔を見て理解した。

 

 戦えていると思っていたのは、私だけなんだって。

 

「リーノ……」

 

 リーノがステージに上がり、メタナイト卿の横を走り抜けて、私の隣にきた。

 

「カノ……カノ……ねえ、大丈夫?」

「問題ない……その証拠に、君を抱きしめる事だってできるよ」

「ふざけないで……ばか……」

 

 はらはらと涙が流れている。

 私は彼女の頬に手を伸ばし、親指で涙を拭う。

 

 痛みが走る体を、無理に立ち上がらせた。

 

「メタナイト卿、私の負けです」

「……そのようだ」

「あなた方は見事に勝利を掴んでみせた。おめでとうございます。――城にようこそ。歓迎します」

「……ああ」

「観客の皆さん!彼らに盛大な拍手を!新たなプププランドの住人を歓迎してあげてください!」

 

 私が率先して拍手する。

 リーノが続き、それからパラパラと鳴って、最後にはたくさんの人が拍手をしてくれた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。