如何にして人を辞め不死を愛するようになったか 作:不死を求める人
「……はは」
ダンジョンの中、地面に仰向けになっていた僕は力なく笑う。
何とかモンスターから逃げたはいいものの、途中で立つ力すら無くなってきて倒れたという訳である。
腹に出来た傷からドクドクと血が流れると同時に徐々に熱が逃げていくような感覚がする。このままでは死ぬというのに、誰かに助けを呼ぶ気力すら湧かなかった。
もしかしたら、そんなことをしても無駄だと無意識で分かっていたのかもしれない。
――僕は、このまま死ぬのだろうか。
僅かな光しか感じられないダンジョンの中、岩等で出来ているデコボコな天井を眺めながらそんなことを考えていた。
……そりゃそうだろう、ダンジョンの中で傷を負うとはそういう事だ。パーティで来たならばまだしも、今この場には
「ああ……」
――――突然だが、“死”とは生物であれば誰にでも訪れるものだと僕は考える。
当然だ、生物生きてりゃいずれ死ぬ。死に至る要因は色々あるが、どうあがいても最終的に死ぬことは必然である。
――そんな“死”というものがどうしようもなく怖く感じる。自分はいずれ死ぬ……と考えると何となくいい気分はしない。だけどそんな実感はなくて何となくずっと生きているんだろうなぁとそれぐらいに思いながら日々を送っていた。
かくいう僕もそうだった。だけど――冒険者をやる上で“死”を避けて通れないものだと改めて思い知ることになった。
それが“仲間の死”。同じく属するファミリアの人が、ダンジョンで死んだ。ダンジョンで命を落とした者の遺体が見つかるのはまれだという。
そんなまれともいえる偶然で、その遺体を僕は見てしまった。
――血まみれに濡れており、見る形もないぐらいに損傷を受けていた。幸い顔はそれほど損傷を受けなかったらしく苦痛にまみれた表情がそこにはあったんだ。
その人とは、ファミリア内で会えば世間話ぐらいはしたし何人かで飯を食べに出掛けたこともある交友関係を保っていた。
親友、とはいかないが少なくとも“友達”とはいえるものだった――そんな者が遺体として運ばれてきた。
それからだろうか――“死ぬ”とは、とても恐ろしいものだと身に以て分かったのは。
目を閉じても、あの苦痛にまみれた表情がハッキリと脳に焼き付いてることを直視させられる。どうしようもなく“死ぬ”のが恐ろしい。想像しただけで吐き気を催して精神が乱れてしまうぐらいに恐ろしいものだと頭に刻み込まれてしまった。
それが今から1年ほど前の事――徐々に心の傷が癒され、少しずつ前を向いて行こうと決めて。
最初はお世話になっている人の指導の元ダンジョンに潜って。
徐々にコツを掴んできて、ようやくある程度の階層まで1人行動が許された……矢先に、これだ。
何とも情けない限りである……あの【
だけど、甘かったとしか言いようがなかった。今まで何度もダンジョンに潜り、死ぬかもしれないと思ったことは何度もあった。
だけど、心のどこかで"自分は大丈夫だ"とそう過信してしまったのかもしれない。
「ははははっ」
――案の定"自分は大丈夫だ"なんて事はなく、今こうして死にそうになっているわけだが。
どうやら、本当にどうしようもない時は……笑うしかないらしい。実際に僕は何故か笑い声を上げている。ちっとも笑う所はないというのに。
……ああ、死ぬなぁこれは。
どんどん身体が冷たくなっていく感覚がして。どんどん"死"が迫ってくるのを感じて。
それを目の前にして僕は、笑うしかできなかった。ただあるがままに、全てを受け入れて笑うしか出来なかった。
「―――はは、あひ、ぁ、はははは…ぁあはは!!」
そして一度笑い出したら、止まらなかった。自分で聞いてもとても正常とは思えぬ笑い声。
――なんだ、人間ってこんな簡単に死ねるのか。
そう理解したと同時に、自分の中で何かが
◇
エリル・デヴィッド。【ゼウス・ファミリア】の所属でレベル1の新人冒険者。といっても彼が冒険者になってから2年経った為新人かというと微妙ではあるが。
そんな彼が、ダンジョンから血まみれの姿で帰ってきた。
何も、傷を負ってダンジョンから帰ってくる事自体珍しい事ではない。こうした経験を経て皆より"恩恵"を成長していくのだから。
だが、あの時の彼はただことではないと断定できるほどに異変があった。
――
その異様さは、とてもレベル1の冒険者とは思えぬものであった。そして神である
そう……まるで、持ちうる全てのものを捨て、ひとつのものを追い求める――"求道者"。それを感じ取らざるを得ない。
「……ふむ」
恩恵の更新を終えた後のステイタスを目にしたゼウスは、唸り声を出す。
エリル・デヴィッド
Lv.1
力:C 648 → S 999
耐久:D 574 → S 999
器用:D 537 → A 899
敏捷:C 601 → S 935
魔力:E 435 → S 999
治力:C
精癒:C
《魔法》
【フラム・メール】
・攻撃魔法
・詠唱式【燃えろ 燃え盛れ 至高なる炎の海よ この地に舞い降り 全てを 焼き払いたまえ】
【
・特殊補助魔法。
・一定時間詠唱者に『不死』付与。
・一定時間詠唱者に『自動再生』付与。
・効果時間は【魔力】に依存。
《スキル》
【
・経験値持ち越し可能。
・発展アビリティ【治力】【精癒】発現。
・渇望の丈により【治力】【精癒】の効果上昇。
・【力】【耐久】【魔力】の能力値に超高補正。
彼から異常さを感じ取ってから、しばらくした後に"恩恵"を更新した。
本来であれば、基礎アビリティのどれかがSに達するだけでも才能が必要になってくるが……彼の場合、ほとんどの基礎アビリティがSに達している。
唯一【器用】だけがAだが、数値を見るに実質Sとも言える――明らかに以前の彼とは違う成長の仕方をしていた。
【
甚だしい名前からして、ただことではないというのは言うまでもない。
「どうするべきかのぅ……」
今までの眷属達にも発現されなかった、奇妙な魔法とスキルを持つ眷属――果たしてこのまま見守るべきか否か。
その二択に頭を悩ませるゼウスであった。