ロサスの失楽園 ――マグニフィコに息子が居た世界線―― 作:(休止中)サン少佐
昔々、ある所に、旅をするひとりの王子が居た。
遂に王子は、旧都バルセロナへと辿り着いた。
元はカタルーニャ王国の王都であったこの地は、カスティーリャ女王とアラゴン王の婚姻によりスペインが統一され、マドリードが王都になって以来、衰退を始めている。
しかし、バルセロナは地中海における貿易の要所であり、
港町としての輝きは未だ健在であった。
「…船…か。」
ロサスまであと僅か。
此処バルセロナで船を見つけ、ロサスへと向わねばならない。
…しかし、王子には、一つ考慮せねばならない事がある。
それは、"ロサスを滅ぼしたユダヤの魔女"を探す審問官の助言であった。
『「スペイン王国はロサスへの船を禁じた。
魔女と、魔女に洗脳された国民は、国を滅ぼしかねん。」』
…沖合では、カタルーニャ王、バレンシア王、マヨルカ王の旗がはためいている。
イタリア大戦争*1に赴くのかもしれないが、今やロサスへの航路を阻む強敵となるだろう。
彼らにとって魔法は未知数で、紛れも無い悪なのだ。
その為、この街で船乗りを見つけるのは至難の業。
何処か片田舎の漁村で、船乗りを雇うのが良い。
王子はそう考えた。
ふと、船着き場の方を見た。
傍の豚小屋…藁の中で、寝ている人物。
…何か―――…見覚えが…
「…ガスパール?」
「んあ…?」
…王子は、失業したロサスの船乗りを見た。
「いやいやいやいや…まさか殿下がお戻りになられるとは…。」
「まさか心配かけたか。」
「勿論です、世は乱れておりますからな。王も心配なされておいででした。」
豪商が経営する居酒屋にて。
ロサスの国防を担う、もう一人の男、船乗りのガスパール
彼の
つまり彼は、ロサスと諸外国を結ぶ唯一の船、その船長であったのだ。
「殿下…殿下には一つだけ、私の方からお伝えせねばならない事があります。
5年前の事です。第1王子殿下が…病でお亡くなりになられました…。」
「…!兄上が…?!」
「お悔やみ申し上げます。…その為、国王陛下と王妃陛下は、貴方様をお探しの様子でした。」
長子相続制度が確立されたロサス王家において、王位継承者たる兄が無くなったと言う事は、残る第2王子に王位継承権が引き継がれる。
「ガスパール、単刀直入に聞きたい事がある…ロサスで何があった。
父上は
ガスパールは唾を飲み込み、神妙な面持ちで、あの日の事を語り始めた。
「……あの日…私は船着き場で、翌朝の航海の支度をしておりました。」
数か月前…ロサス島。
ガスパールと部下の船員達は、船着き場にて、次の航海に備えていた。
…すると突然、島の中枢に聳える王城から、緑の閃光が走った。
"突然、王城が緑の光に包まれました。
何だ何だと、光の方を見れば…歌が聞こえて来たのです。"
歌が…ガスパール
「…見に行ってみるべきか?」
「物資の搬入が先だ。」
"私は冷たい声で、言ってしまいました。…今思えば、その歌は狂おしい程に美しかった…"
"……ガスパール?"
この時ガスパールは、不気味に目を輝かせていた。
"ガスパール!"
"…!…失礼しました…殿下。
その後、私は気になって、城下街へ向いました。
それからは、驚きの連続です。国民は狂ったように叫び、走り回り、マグニフィコ王の像を破壊して回っていました。…私は直感しました。ロサスで革命が起きたのだと。"
"革命の原因は?"
"原因…ですか。
…国民は陛下に、一片たりとも不満を持っていませんでした。
しかし…しかしです。第1王子殿下がお亡くなりになられて、国王陛下は貴方様の所在が分らなかった為、王位を他の者に受け継ぐ事を決心しました。そこで陛下は、民から次期国王を指名する事とし、まず初めに、魔法が使えそうな人物を探しました。
…それが彼のユダヤの魔女、アーシャが表舞台に出た瞬間です。"
"アーシャ…。"
「我々
そこで今度の反乱の指導者が、
暫く船を動かさなかった事を魔女に咎められたので、私は洗脳されるのではと考え、正気を保っていた船員達と共に、此処カタルーニャに亡命しました。
あの時、国王陛下の姿は何処にも見えず、
城壁に騎士を従えた女王陛下を見た気がしますが―――…。
…そこまでしか、私には…。」
話を聞いていた王子は、ただ一言。
「そうか…大儀であったな。」
と、何か考えながらも答えた。
「…身に余る御言葉…恐縮です。」
その日、彼らは豪商の経営する宿を借り、
ガスパールはかつての船員を集め、闇夜に紛れて密出国する事を決めた。
王子は、
…しかし周囲を見渡すが、特に変わった事は無い。
王子はもう一度、その重い瞼を閉じた。
その瞬間、窓際の方が、黄金に輝いた。
冷たい夜の海風が、王子の頬を伝う。
窓枠では、何か黄色い星の様な物が
…煌めく星は、何かを語り掛けている様に見えた。
むかしむかし、あるところに、ひとりの魔法使いがいた。
その魔法使いのすむ国では、魔法は法で禁じられていた。
しかし魔法使いは、この世の安寧のため、あるものをつくりだす。
魔法使いは"それ"に、せいいっぱい魔力をこめ、ついにその命とだえるまで、魔力をそそぎこんだ。
…紀元前800年頃、イオニア地方テオス市国に住む、無名の魔法使いが作り出した"それ"に、
名は存在していなかった。
しかしある者は、それを"スター"と呼んだ。天の遣わした星の使者だと。
その瞬間、王子は目を覚ます。
夢であったのだ。
不思議な夢だったと思い、起き上がるが…。
辺りは暗闇に包まれていた。
「…まだ夜か。」
しかし彼には不思議と、一切の眠気が存在しなかった。
王子は何となく、無意識に、部屋の外に出た。
王子は驚く。
そこには、先程夢に出て来た、煌めく星が居たのだ。
やはり、煌めく星は王子に語り掛けている。
そうに違いない。
あの恩知らずの魔王の代りに、貴方が王になるのです。
良いですか?
…貴方こそ、ロサス王に相応しい。
『君こそロサス王に相応しい』…と。
あの王は、恩を仇で返しました。
貴方は…違いますよね?
…貴方に、私達の
王子に、今何故ロサスに向うかを問えば、こう答えるであろう。
「私はロサスに、人類の理想郷を作る。誰にも止められぬ。」と。
この日、連合王国海軍の船員達は、猛烈な睡魔に襲われた。
それは立って居られなくなる程の事で、全ての兵士、乗組員は、気絶するが如く眠りに落ちる。
…天上では黄色い星が、ひとり輝いていた。
煌めく星は、純粋無垢な天使か?それとも冷酷な管理者か?
少なくとも、煌めく星は、平和の使者のつもりであった…。