ロサスの失楽園 ――マグニフィコに息子が居た世界線――   作:(休止中)サン少佐

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第4節『ルシフェル(光を捧ぐ者)と成り得る星』

 昔々、ある所に、旅をするひとりの王子が居た。

 

 

 遂に王子は、旧都バルセロナへと辿り着いた。

元はカタルーニャ王国の王都であったこの地は、カスティーリャ女王とアラゴン王の婚姻によりスペインが統一され、マドリードが王都になって以来、衰退を始めている。

 

 しかし、バルセロナは地中海における貿易の要所であり、

港町としての輝きは未だ健在であった。

 

「…船…か。」

 

 ロサスまであと僅か。

此処バルセロナで船を見つけ、ロサスへと向わねばならない。

 

 …しかし、王子には、一つ考慮せねばならない事がある。

 

 

 それは、"ロサスを滅ぼしたユダヤの魔女"を探す審問官の助言であった。

 

『「スペイン王国はロサスへの船を禁じた。

魔女と、魔女に洗脳された国民は、国を滅ぼしかねん。」』

 

 

 …沖合では、カタルーニャ王、バレンシア王、マヨルカ王の旗がはためいている。

イタリア大戦争*1に赴くのかもしれないが、今やロサスへの航路を阻む強敵となるだろう。

 

彼らにとって魔法は未知数で、紛れも無い悪なのだ。

 

 

その為、この街で船乗りを見つけるのは至難の業。

何処か片田舎の漁村で、船乗りを雇うのが良い。

王子はそう考えた。

 

 

 ふと、船着き場の方を見た。

傍の豚小屋…藁の中で、寝ている人物。

 

…何か―――…見覚えが…

 

 

「…ガスパール?」

 

「んあ…?」

 

 

 …王子は、失業したロサスの船乗りを見た。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 「いやいやいやいや…まさか殿下がお戻りになられるとは…。」

「まさか心配かけたか。」

「勿論です、世は乱れておりますからな。王も心配なされておいででした。」

 

豪商が経営する居酒屋にて。

 

ロサスの国防を担う、もう一人の男、船乗りのガスパール

 

 彼のカラーカ(老いぼれの)*2サンタ・マリア・ド・イスラ・ロサス(ロサス島の聖母マリア)は、ロサスとバルセロナを結び、移民の新規受け入れや、当時としては*3かなり珍しかった、ロサスの観光業を支えていたのである。

 

つまり彼は、ロサスと諸外国を結ぶ唯一の船、その船長であったのだ。

 

 

「殿下…殿下には一つだけ、私の方からお伝えせねばならない事があります。

 

 

5年前の事です。第1王子殿下が…病でお亡くなりになられました…。」

「…!兄上が…?!」

「お悔やみ申し上げます。…その為、国王陛下と王妃陛下は、貴方様をお探しの様子でした。」

 

長子相続制度が確立されたロサス王家において、王位継承者たる兄が無くなったと言う事は、残る第2王子に王位継承権が引き継がれる。

 

「ガスパール、単刀直入に聞きたい事がある…ロサスで何があった。

父上は如何(いかが)なされた?」

 

ガスパールは唾を飲み込み、神妙な面持ちで、あの日の事を語り始めた。

 

「……あの日…私は船着き場で、翌朝の航海の支度をしておりました。」

 

 

 

 

 

 数か月前…ロサス島。

ガスパールと部下の船員達は、船着き場にて、次の航海に備えていた。

 

 …すると突然、島の中枢に聳える王城から、緑の閃光が走った。

 

"突然、王城が緑の光に包まれました。

何だ何だと、光の方を見れば…歌が聞こえて来たのです。"

 

 

 

 歌が…ガスパール()の耳元に、不気味にも歌が響いて来る。

 

「…見に行ってみるべきか?」

 

「物資の搬入が先だ。」

 

 

 

"私は冷たい声で、言ってしまいました。…今思えば、その歌は狂おしい程に美しかった…"

 

"……ガスパール?"

 

この時ガスパールは、不気味に目を輝かせていた。

 

"ガスパール!"

 

 

"…!…失礼しました…殿下。

その後、私は気になって、城下街へ向いました。

それからは、驚きの連続です。国民は狂ったように叫び、走り回り、マグニフィコ王の像を破壊して回っていました。…私は直感しました。ロサスで革命が起きたのだと。"

 

"革命の原因は?"

 

"原因…ですか。

 

…国民は陛下に、一片たりとも不満を持っていませんでした。

しかし…しかしです。第1王子殿下がお亡くなりになられて、国王陛下は貴方様の所在が分らなかった為、王位を他の者に受け継ぐ事を決心しました。そこで陛下は、民から次期国王を指名する事とし、まず初めに、魔法が使えそうな人物を探しました。

 

…それが彼のユダヤの魔女、アーシャが表舞台に出た瞬間です。"

 

"アーシャ…。"

 

 

 

 

 

 

 「我々サンタ・マリア・ド・イスラ・ロサス(ロサス島の聖母マリア)号の船乗りは、国民の中で、マグニフィコ王への敬意を失っていない者は、我々だけなのだと考え、暫く情報収集に努めました。

そこで今度の反乱の指導者が、()の魔女アーシャと、7人の使徒による者と断定しましたが…。

暫く船を動かさなかった事を魔女に咎められたので、私は洗脳されるのではと考え、正気を保っていた船員達と共に、此処カタルーニャに亡命しました。

 

あの時、国王陛下の姿は何処にも見えず、

城壁に騎士を従えた女王陛下を見た気がしますが―――…。

 

…そこまでしか、私には…。」

 

 

話を聞いていた王子は、ただ一言。

「そうか…大儀であったな。」

と、何か考えながらも答えた。

「…身に余る御言葉…恐縮です。」

 

 その日、彼らは豪商の経営する宿を借り、

ガスパールはかつての船員を集め、闇夜に紛れて密出国する事を決めた。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 王子は、(まぶた)越しに何か(まばゆ)い物を見て、目を覚ます。

…しかし周囲を見渡すが、特に変わった事は無い。

王子はもう一度、その重い瞼を閉じた。

 

 

 その瞬間、窓際の方が、黄金に輝いた。

 

 

冷たい夜の海風が、王子の頬を伝う。

 

窓枠では、何か黄色い星の様な物が燦燦(さんさん)と煌めいている。

 

 

 

 

 

 

煌めく星は、何かを語り掛けている様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むかしむかし、あるところに、ひとりの魔法使いがいた。

 

 

その魔法使いのすむ国では、魔法は法で禁じられていた。

 

 

しかし魔法使いは、この世の安寧のため、あるものをつくりだす。

 

 

魔法使いは"それ"に、せいいっぱい魔力をこめ、ついにその命とだえるまで、魔力をそそぎこんだ。

 

 

 

 

 

 …紀元前800年頃、イオニア地方テオス市国に住む、無名の魔法使いが作り出した"それ"に、

名は存在していなかった。

 

しかしある者は、それを"スター"と呼んだ。天の遣わした星の使者だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、王子は目を覚ます。

 

夢であったのだ。

 

不思議な夢だったと思い、起き上がるが…。

 

辺りは暗闇に包まれていた。

 

「…まだ夜か。」

 

 

 

しかし彼には不思議と、一切の眠気が存在しなかった。

 

 

王子は何となく、無意識に、部屋の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王子は驚く。

そこには、先程夢に出て来た、煌めく星が居たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

やはり、煌めく星は王子に語り掛けている。

 

そうに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

あの恩知らずの魔王の代りに、貴方が王になるのです。

良いですか?

…貴方こそ、ロサス王に相応しい。

『君こそロサス王に相応しい』…と。

あの王は、恩を仇で返しました。

貴方は…違いますよね?

…貴方に、私達の願い(ウィッシュ)を捧げます。

 ルシフェル・ド・イスラ・ロサス(ロサス島のルシフェル)号と化したカラーカ船は、何故か抜け殻の様になった船員達と共に、雲がかった闇夜を進んだ。

 

 王子に、今何故ロサスに向うかを問えば、こう答えるであろう。

 

「私はロサスに、人類の理想郷を作る。誰にも止められぬ。」と。

 

 

 

 

 この日、連合王国海軍の船員達は、猛烈な睡魔に襲われた。

それは立って居られなくなる程の事で、全ての兵士、乗組員は、気絶するが如く眠りに落ちる。

 

 

 …天上では黄色い星が、ひとり輝いていた。

 

*1
(イタリア半島の領土を巡り、神聖ローマ帝国のハプスブルク家とフランス王国が、半世紀に渡って続けた戦争の事。ハプスブルク=ヴァロワ戦争や、ルネサンス戦争とも呼ばれる。)

*2
(カラーカには、"老いぼれ"や"ポンコツ"と言う様な意味がある。)

*3
(勿論現在も)




 煌めく星は、純粋無垢な天使か?それとも冷酷な管理者か?
少なくとも、煌めく星は、平和の使者のつもりであった…。
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