「よし!放課後だ!皆練習だ!」
「おう!!」
そう言いつつ、俺は連日妨害作戦を行うのであった。まあゴーサインを出すだけなんだけど。
「名付けて、阿修羅とヤヌス作戦や!」
とか。
「名付けて、マイスィートハニー作戦や!」
とか。
「名付けて、ヘンゼルとグレーテル作戦や!!」
・・・・・。
「・・・・うぐぐ、血が騒ぐ」
そして俺の我慢は、最早限界であった。
「え、ちょっとどうしたのよパワポケくん。 まさか気付いた?この作戦の致命的なアホさ加減に」
「してえ・・・・」
「は?」
「俺も(妨害作戦)してえ・・・」
「スイッチが入ってるみたいでやんすね。ほっとくでやんす」
「そ、そうみたいね。ところで今回使ったそのお菓子、ちょっとちょうだいよ」
「え?一応ここにあるでやんすけど・・・」
「甘いものを食べすぎると人間怒りっぽくなるもんやで。それでもええんか?」
「説明ありがと。…これを食べたら、私も怒りっぽくなるかしら」
「・・・うーん」
それ以上の出来事が起こるだろうけど。まあ黙っておこう。
「・・・・・しかし何だか今日はめっちゃ練習したい気分だなあ!水原くん!ちょっとピッチングをみてくれないか!」
「?ああ、オッケーだよ」
血の気が高まる溢れちまうよこのままじゃ。
それでケガなんかしてみろ、智美さんはおろか明日香やユキちゃんにまでうっわー恥ずかしい野っ郎って思われてしまう。レッドローズかよ助けて美空ちゃん!
よ!元気?
あ、やべ違うこれ怒られちゃう。
「すまない友子・・・。 コントロールを上げてみようかな!!」
「(友子?)そういえばキャプテン、学校の向こうに河原があるんだが、そこで全体練習をするというのはどうだろう?」
「!」
水原くんって天才か?天才だったわ。
「名案だね。皆に訊いてみよう。―――というわけなんだがどうだい野郎共!!!」
「え~?練習がきつくなるでやんす。めんどいでやんす」
「しかも微妙に遠いじゃんかよ。おそらく無理、いや絶対に無理だな。無理、無理、無理、無理・・・」
「―――」
こいつら、クズ。まっこと、人間のクズ。
亀田の野郎はあとで死刑。だがヒラヤマ・・・おまえよくそんなんでユキちゃん狙えるな。少しは佐藤くんを見習えよ。
しかたない。
「――皆!聞いてくれ。この間、ようこ先生が一人で素振りしているところを見たんだ。ようこ先生は、少しでも野球部と俺達の力になろうとしてくれている。
それなのに俺達は今のままでいいのか!?ようこ先生の頑張りは、俺達の魂に火をつけようとしてくれてるんじゃないのか!!!」
「!」
「!」
feed the fire.
「・・・いつも球拾いをしてくれているようこ先生に、僕らは応えるべきだろうね。やろうよ皆」
「おおおお!!!」
成功である。極亜久高校野球部はそうこなくっちゃね。
「というわけで今から河原にいくぞー!!」
「おおおおお!!!」
俺達はめちゃくちゃ練習したのであった。
そして次の日。
「大変でやんす!パワフル高校の野球部、全員倒れちゃったでやんす・・・!」
「・・・ええ?」
「うぇ、頭痛と吐き気がするぅ~」
「原因は食中毒って話みたいでやんす。・・・恐らくこんな感じの」
「だ、大丈夫かい?智美」
「が、外藤さん!あのお菓子、もしかして結構古いのかしら?!」
「う~ん、もらったのが4年前やから・・・・」
「マジですか外藤さん」
「そ、それは、こぉかが、ありそぉね……」
ばたっ。と、倒れたら痛いだろうから俺はさり気なく両腕を差し出した。
「わーっ、智美!しっかりしろー」
キャッチ。しかし申し訳ない智美さん。貴女はこれで気付いただろうけど、これが真の妨害作戦なんだよ。プロペラ団と俺達とのね。
◆
「失礼致しやす。村上のオヤジ」
「おう」
とある家。古き良き瓦屋根のその邸宅は、存在感というよりは重厚さで周囲から浮いていた。
「ちと妙な事になっとりますぜ」
「どうした」
「最近、高校の野球部で爆発事故やら食中毒やら何やら妙な事故が起こるんで。
――で、その事件の起きる頃に、怪しい連中を見たという話なんで」
「ほう。どんな?」
「それが、2種類いるらしいんで。片方は頭にプロペラ。もう1つは・・・あの極亜久高校野球部の」
「なに?せがれの所か。 ふーむ。よし、どういう事なのか調べておけ」
「へい」
「ただいま帰りましたけん」
噂をすれば何とやら。表札に書かれている不動なる『村上』の字と堅牢な門構えを抜け、村上海士は帰宅した。
「おかえり。―――せがれ!空手部を辞めて野球を始めたと、いつか聞いたが」
「はい、その通りですけん」
「ガキの頃からの、暴れ者のこんなが、どういうカゼの吹き回しじゃ」
「オヤジ!野球は面白い。面白いぞ。じゃが、もっと面白いのはパワポケというやつじゃ。わしもバカじゃが、あいつはもっとバカじゃ。さしずめ、野球バカじゃの」
「ほう。お前を野球に誘った男か。・・・たしかに、面白そうじゃの。いっぺん会うてみるか」
「!! オヤジ、やめとき!オヤジが出たら、まとまるもんもまとまらんよ!」
「ははは、まあ、そのうちじゃよ」
父親の恐ろしさをこの歳で知っている村上海士は、父親から目を離さなかった。頼りになる父親、いざとなれば事を大事にまで昇華させてしまう父親、矜持で以て今を生きる男。
だから嫌いではない。だからこそ恐ろしい。
――すまんのう、キャプテン。
せめて野球部のプラスに働きますように。息子は柄にもなく祈ってみるのだった。
◆
「さて、帰ろうかな」
明くる日。今日は神社で自主練である。
と、思いきや。
「おう、ちょっと待ちな」
「ひぇ、怖い人でやんす!」
「あっ、亀田くん!!!」
逃げ出す亀田の野郎は所詮こんな奴である。もう清々しくて対人と対ロボミサイルぶっ放してやりてえよ。
「悪いな兄ちゃん。一緒に、来てもらおか」
「は、はい・・・」
さて、このカタギじゃないお人はシマノさんである。決してどっかの組長さんではない。しかし何これえ。マジで怖い。あ、あのぅ、金ならうちの事務所が近くにあるんで・・・そこまで一緒に来てもらえますかそこで払いますよ。看板にはCCR企画。金庫番のフッキー、じゃなかった白瀬と若頭の灰原隊長がいますんで。
アホみたいな妄想を止め、俺は静々とシマノさんに付いていった。
「うわぁ、でっかい家」
「おう、来たな〇〇君。いや、パワポケ君だったかの?
ウチのせがれが世話になっとるそうだな」
ひえ!あ、これヤバい!眼力が半端じゃない。
「え、・・・ひょっとして、村上くんのお父さん!」
「おお、よう分かったの」
そりゃあ見間違える筈もないので。一身上の都合で。
「あ、あのー、失礼ですがどのようなお仕事をしていらっしゃるので?」
「フィクサーじゃ」
「ははあ、どうりで立派なおうちだと思いましたよ」
「ほう?」
とりとめのない話をする。このお方こそ村上くんのお父さん、村上銀一郎さんである。パワポケ正史だと智美さんに一杯食わされて失脚し、プロペラ団やジャジメントやオオガミとは事を構えることはなかったという。
「わっはっはっは!予想に違わず、実に愉快な男じゃの。せがれと仲良くしたってくれや。
島野、家まで送って差し上げなさい」
「へえ!」
「お邪魔しました」
もしもこの人が現役だったなら大神美智男とやり合えたかな?
なんてね。イベントが進んでいるようで安心した一日であった。
◆
「明くる日!またもや妨害作戦だ!!」
「はいでやんす」
「準備できてるわよ」
「じゃ、行ってくるで」
「同じくでやんす」
「いってらー。気を付けてー」
「………」
・・・・・。
「…、パワポケくん。私も、ちょっと様子を見てくるわ」
「え?おいおい」
と言いつつ、ついに来たかこのイベントが。
もう知ってるけど、智美さんの正体がこれで知れるぜ。うまく後をつけてみよう。
「・・・よし、引き上げるで」
「わかったでやんす」
いたいた、外藤さん達だ。
シャレにならないものもあるが、まだイタズラの範疇である妨害作戦が終わったみたいだ。
「―――行ったな。よし、行くぞ」
「はっ!」
そして今度はイタズラなんてものじゃない妨害作戦のスタートだ。
「………やっぱり。こういうことだったのね」
「あっ、96号!」
「アマチュアの後で、プロが更に破壊工作をしかける。
あたしたち極亜久高校生は、万が一の時の身代わりってわけねっ」
96号とは智美さんのコードネームである。かっこいい。
「? なにを憤っている。96号、そもそも極亜久高校の利用価値はその程度の・・・」
「じゃ、どうして私には教えてくれなかったの!」
「ボスの命令だ。・・・それにしても何故分かった?我々が関わっていると」
「古くなっただけのお菓子を食べても、あんなにヒドい目には合わないもの」
「・・・・なに?」
だよなぁ。
「とにかく、ボスに話があるわ!」
おっとっと。そろそろ俺も極亜久高校に戻るとしよう。そそくさ!
「白鳥学園と赤とんぼ高校に行ってきたでやんす」
「お疲れ様。・・・あれ?智美は?」
「え?知らないでやんすよ」
「二人が心配だって言ってたんだよ。・・・時間も時間だし、俺ちょっと探してくるよ」
「りょ、了解でやんす」
すっとぼける俺。想定(ゲーム)通りである。なので神社の前に行くと・・・?
「じゃあね。私は帰るわ。………全てのスポーツを我らに」
「全てのスポーツを我らに!」
――ドンピシャである。
「すべてのスポーツを我らに!!!」
「きゃ………、パワポケくんじゃない。なあに?そのヘンテコなセリフ」
「残念だけど、とぼけても無駄だよ。何なんださっきの怪しい奴らは。ひょっとして新手の宗教か?」
「そ。まあ、似たようなものね。―――プロペラ団よ」
「プロペラ・・・?」
「そんなことより、探しに来てくれたの? ありがと♡」
正確にはプロフェッショナル・ロウヤーズペイメント・レプリゼンタティヴ。
アメリカに本部がある、表向きは世界最大のプロモーター。しかもサイボーグ技術まで手に入れている。
あれ?それはこれからかな?
「まあそもそものスローガンが――我々は停滞した状況をかき混ぜながら前進するのだ!――だし、おや?今更だけどそこはかとなくツナミに似てなくもないね。って、あ」
「…―――!」
やべ。ちょっとマジでヤバいかも。
まだ明かすべきではなかったのに。智美さんの眼光が研ぎ澄まされる。彼女の真の顔が、或いは裏の顔が露わになる。やはり素敵だ。
じゃなくって。
「すまない、ペチャクチャ喋ってしまって驚かせちゃったね。
実は先日、村上くんのオヤジさんと会う機会があったんだ。そこで色々教えてもらったってわけ」
「…………。そう」
「でも勘違いしないでくれ。貴女がどんな立場でどんな思想でどんな人間であっても、俺は、俺たち極亜久高校野球部は仲間を見捨てやしない。それだけは違えない。それだけは、俺の命と魂を賭ける。その証拠に、俺はこうして貴女を探しにきた」
「……。そっか、じゃあパワポケくん、一つ聞かせて。貴方は何者?」
「・・・・・」
・・・何者。貴女にも明日香にも死んでほしくない只の人間だろうか。10の主人公なんかとは違う、それこそが1の主人公だろうか?
「プロ野球選手を目指す高校球児だよ。それ以外に何がある?」
それ以外に何が要る?
「………、そうよね」
二コリと笑う智美さんと俺。
似たもの同士の俺達は、二人仲良く極亜久高校に帰るのだった。