「というわけでやってきました。今日は明日香の誕生日です。ダメで元々だけど、放課後デートに誘ってみよう。まあこれ、好感度高くないと断られるんだけどね」
多分無理でしょう。ダメで元々ってやつである。
―――そして放課後。
「あ!あすか。良かったら、今日、映画でも行かないか?」
「どうしようかなぁ…」
「・・・・」
やばい。ゲームで味わった時以上のプレッシャーだ。断られるのは目に見えているがそれにしたって心臓に悪い。うぼあ。
「……あ。昨日言ってたのはこれのことだったのね?ふふ、予定空けといたから、いいわよ」
え。
「・・・・・、やったー!!」
マジかよ明日香やったー!!
「さっそくこれから行こうよ!」
「ええ」
俺達は気分よく映画館に行った。しかしここで予想外の展開が待っていたのだった。
「どこも満員ね。逆にすごいんじゃないかしら」
「まずった・・・。俺調べの俺イチオシ映画を一緒に見たかったのに」
「ふふ。調べてくれてありがとう。――あ、これなんか面白そうじゃない?新作ですって」
「時間もちょうどいいみたいだし、それにしようか」
――その映画は少し大人向けの内容だった。
野心家の悪徳ビジネスマンが誠実な女性への愛に目覚めるというストーリーだった。
「さっきの映画面白かったわね。パワポケくん」
「ああ。これまでの一生をかけて追いかけてきた夢と野心を、女の人のために投げ捨てる。
ちょっと大人向けだったけど分かりやすかったね」
「そうね。パワポケくんはもし誰か好きな人が出来て、その為に野球を辞められる?」
「まさか。俺の答えは変わらないよ。まあ、世の中には愛こそ全てって考え方もあるけど」
「…そうみたいね」
あれ?なんだか聞いたことのあるやりとりだな。これなんだったっけ。たしかパワポケ5?
「まあそれはおいといて」
「?」
「明日香、誕生日おめでとう!これプレゼント!」
「あ…、ありがとう!もらっていいのパワポケくん?」
「うん。気に入らないかもしれないけど受け取ってよ」
「うれしい!ありがとう!大切にするね」
明日香の笑顔=プライスレス。メモっといて良かったよ俺の心のメモリーに。
・・・ゲームだったらここで告白とか選択肢が出るんだけどね。んなもん俺には出来ないよ。
所詮俺だもの。
「明日からもがんばろー!」
「ふふ。そうね!」
俺には野球しか、することないからね。
◇
「さてもうすぐ秋の大会かあ。・・・どうすっかなあ」
秋大会は勝ち続けたとしても妨害が入ってしまう。それも智美さんのだ。
「しかもやる気スイッチ入っちゃうからね、智美さん。一片の迷いなく己が道を貫く系女子だよホント。ならば今回は送りバントだな」
てな感じで。俺はこの秋の大会は手を抜くことにした。・・・・のだが、
「――打ったでやんす!流石村上くんでやんす!!」
「サヨナラチャンスだ!!いっけえッ水原ァ!!!」
「やってみせるよ」
「・・・・」
あれー? 勝ちまくっちゃった。
別に勝つ気ないのに。なんならさっさと終われって思ってるのに。 なんだこれは。パワポケあるあるか?
「二回戦も勝ったでやんす!」
「白鳥学園のキャプテン、泡吹いてぶっ倒れてるわい。夏の大会の意趣返しは完了じゃの」
「このままイケイケでやーんす!!」
「・・・・・」
えーマジー?二回戦も勝っちゃったじゃんこのままじゃ、
「大東亜とやり合うことになっちゃうじゃん」
◆
「―――大東亜学園・キャプテン、鋼毅(はがねつよし)。決勝進出おめでとう」
「はっ!」
「決勝の相手は極亜久高校だ。中々やるらしいが、案ずることはない。奴らの弱みは握ってある」
「?」
「!」
「奴らがよその学校にしていたことをバラせば、確実に・・・、」
「(野球部なくなっちゃうかも…!)お、お待ちくださ」
「お待ち下さい。支部長」
「うむん?」
「!?」
「恐れながら、我々は野球人です。それも大東亜の名を掲げています。極亜久高校ごとき、実力で粉砕して御覧に入れます」
「流石は鋼さん!かっこいーっ。 それにスキャンダルのバクロは、万が一、試合にまけた後でもOKですよ支部長」
「ほほう、野球人か。よく分からんな、こういった手合いは。勝負事とは、確実に勝つことが至上だ。野球だろうが何だろうが、この世はなべて勝負。
白か黒か勝つか負けるか上がるか下がるかだ。違うか?」
「絶対に勝てると申しておるのです。日本支部長」
「絶対に勝てる?確実に勝てるではなくか? 面白い。根拠を述べてみよ」
「まず第一に、我々と極亜久高校の環境です。我々は見知っての通りプロ顔負けの設備で日々トレーニングをしています。そして第二に、我々の背中にはプロペラ団がいる。他でもない、貴方がたが」
「ほほう、良い理論だな。気に入った。試合の末がどちらに転ぼうとも勝ちしかないとは。これは一本取られたな、見事だ鋼毅」
「はっ! 加えてさらに申し上げますと、甲子園出場を決める大事な試合の価値をわざわざ下げる必要もありません」
「………」
「ワハハハ!」
ほっ。
「(でも、まずいことには変わりはないわね。こうなったら―――)」
「96号」
「!? なあに?鋼さん♡」
「邪魔立ては無用に願おう。これは野球人同士の闘いだ」
「はーい。了解ですぅ」
◆
「よーし、今日の試合に勝てば春の甲子園だ!」
「いよいよですね!」
ここまで来たらしょうがねえ。勝ちに行くか。
「・・・・あれ?弁当が並んでるでやんすね」
「旨そうだな。きっと外藤さんの差し入れかな?食おうぜ食おうぜ」
「・・・・」
某彼女の差し金だと思うけど。まあいいや、この試合に勝っても旨味ないし食っちまおうっと。
「いただきます――」
「あ、皆。待って」
「――う?」
・・・・、明日香?
「さっきお弁当屋さんから連絡が来たの。それ、間違えて配達してしまったんですって。しかも廃棄用のやつを」
「うお!やっべえ!俺あと少しで食う所だったぜ!!」
「ギリセーフ!でやんす!!」
「回収するからこっちに持ってきてくれない?」
「明日香せんぱい、手伝いますよ!」
「ありがとう、ユキちゃん」
「・・・・」
「おーい、応援にきたでー。どうや?調子は」
「もう少しでヤバい所でしたよ。外藤さん」
「?なんやそれ。とにかく気張れや!」
「はい!!」
・・・・・。
「おい、極亜久高校のキャプテンはお前か?」
「! ああ。そうだけど」
鋼くん!いや、鋼さん。パワポケ3でも5(忍者戦国編)でもお世話になり申したハガネさんじゃないか!
「トルネードを使うらしいな。今日は良い試合をしよう」
「・・・ああ」
「なんでやんす?アイツ。トルネード投法が好きなんでやんすかね」
「多分違うよ。品定めだろうね」
「ふうん?」
『はがね投法』はそんじょそこらのトルネード投法とは違う。その差を見せてもらいますよ、ハガネさん。
地方大会決勝戦 7回裏 2-1 大東亜学園がリード。
――パワポケにおいて、それは『はがね投法』と呼ばれていた。
今も憶えている。あれはゲームボーイアドバンス版パワポケ1・2をプレイした時だ。
グルリ、あるいはギュルリと体を捻じりながらその反動を利用し投げる速球は、さながらどんな体の使い方だよとビックリすると同時に憧れたものだった。
・・・その秘密は恐らく背骨。頚と胸と腰と仙骨と尾骨で出来ている椎骨。それらの中で最も回旋する力を持つ第1頚椎(環椎)と第2頚椎(軸椎)の関節。
環軸関節と呼ばれるそれをはじめとした回旋能をもつ各関節可動域が著しく、そして強靱なのだろう。それは正しく鋼のように。
故にはがね。『はがね投法』。
「ストライク!!バッターアウト!!!」
「――ちくしょう。打てねえ」
「なんでやんすかアレ!?キャプテンのトルネード投法とは少し、でも確実に違うでやんす!!」
「オー・・・すごくすごいトルネードネ!」
「どんな背骨してんだよアイツ。同じピッチャーとして信じらんねえ」
「それだけじゃないよ。背骨の動きとリンクして肋骨が上中下、そして胸骨すらも全て連動して動いてる。凄い、いや素晴らしいね」
「人間の身体構造にあんな機能があるとはのう、珍しい投球フォームなわけじゃ。―――じゃが、だからこそ打てる」
「ああ!」
「そのとーりネ!人間が投げる球を、野球で、バットで、同じ人間が打てないワケがないネ!」
「次は必ず打つ。しまっていこうぜ皆!!」
「応!!!」
流石のはがね投法だがそろそろ目が慣れてくる筈。その時が勝負だ!
「ついに最終回だ!打って打って打ちまくれー!!!」
「ここでやん・・・す!!!?」
「アウト!」
「駄目か!なんて球だ!まるで鉄腕だぜ」
「ここ!!」
ガキン。
「・・・フェアフェア!水原の野郎やりやがった!」
「頼んだぜキャプテーン!!」
「さあバッチ来い!!!」
ギラリと点灯する一筋の眼光。ハガネさんお得意のポーカーフェイスだ。つまりここが勝負の際ってわけ。
憧れのはがね投法。今こそ打ち砕く時。
「――!」
凄まじい球威。特有の鉄腕から繰り出される一球は、みるみるうちにキャッチャーミットへと迫る。
必要なのはタイミング。速すぎてもいけないし遅すぎてもいけない。動体視力と筋力こそがものを言うバッティングで以てこの球を――
「ここだア!」
――そう。タイミングはバッチリだった。彼の球が、球種が、今までずっとストレートであったから。
「え」
「あ、」
「曲がって――」
「………」
「ストライク!!バッターアウト!!ゲームセット!」
2-1 大東亜学園の勝利。
「・・・・」
「キャプテン。整列だよ」
「・・・・」
「パワポケくん」
「! ぁ、はい」
気付かなかった。ようこ先生が声をかける。走る。挨拶をする為に。
「ありがとうございました!」
ハガネさんの持ち球はストレートとシンカーとカーブだった。忘れる筈ない。忘れるワケがないんだ。
なのに何で。
「・・・・」
「センパイ…、あの」
「すまないユキちゃん。ちょっと一人にしてもらってもいいかい」
「あ……はい」
「………」
ユキちゃんが明日香と一緒に遠くへ行く。俺は帰り支度をしながら、何故?と自問自答を繰り返す。
そして気付く。バッティングもピッチングも何もかも、全てが足りなかったことに。
「・・・・・練習が足りないんだ」
「へ?でやんす」
「次はもっと上手くやる。やってみせなきゃ嘘だ、そうだろう?亀田くん」
「そ、そうでやんすね!帰って皆で反省会をして、猛特訓でやんす・・・!」
俺はパワポケなんだ。1の、あの主人公なんだから。
―――さあ、練習、練習!