これはひどいパワプロクンポケット   作:ブロx

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疾風怒涛編 その4

 

 

 

「ついに明日は試合でやんす!」

 

「ああ、地方大会一回戦だ。抜かりなくいこうぜ皆」

 

「応!!!」

 

「………っ」

 

 ついにきたか。二つの意味でな。

今の俺は練習の成果により視野が広くなっている。なのですかさず、胸を押さえてうずくまろうとした明日香に近寄れた。

 

「明日香大丈夫か!?!」

 

「ご、ごめんなさい、……士気を下げるような真似をしてしまって…」

 

そう言って儚げな笑顔を見せる明日香。しかし見てるこっちもきっついよ明日香・・・。

 

「そんなこと気にするなって!ユキちゃん救急車お願い!」

 

「は、はい!」

 

「だ、大丈夫よ…っ。ちょっとめまいがしただけだから。…保健室に行ってくるわね」

 

「俺もついていくよ!亀田くん、あとは任せた」

 

「が、合点でやんす!」

 

「……」

 

明日香の意識が朦朧としている。これはまずい。

 

「先生、ベッド失礼します」

 

「パワポケくんに進藤さん。―――進藤さんっ? 脈を見せて。ベッドに寝かせましょう、救急車を呼ぶわ」

 

「はいっ」

 

「もしもし、意識レベルがJCS3桁――」

 

「明日香!しっかりしろ!」

 

「………」

 

ピーポーピーポー。

 

「………ごめんね、パワポケくん。心配かけて」

 

「そんなことはいい。君が無事ならそれで。 大丈夫か明日香」

 

「……。学校でおぶって運んでくれたのね?重かったでしょ。ありがとう、パワポケくん。

 …私、しばらく入院しなくちゃいけなくなったみたいなの。でもすぐに良くなって、パワポケくんの試合に駆け付けるわ。私は極亜久高校野球部のマネージャーだもの」

 

「明日香・・・」

 

「私のことは心配せずに、今は野球のことだけを考えて。パワポケくん。

貴方が、甲子園で活躍することだけが。それだけが今の、今の私の夢なの。頑張ってね、パワポケくん」

 

「・・・」

 

・・・・・。

 

「明日香」

 

「…なあに?」

 

「俺は甲子園で優勝する。そして、ドラフト1位指名をされてみせる。だから見ててくれ。俺の野球を」

 

「………」

 

 明日香の眼が見開かれる。不思議な感情を宿した眼を向ける彼女の手を、俺は握った。

 ・・・その眼が閉じられる。一瞬焦ったが寝息が聞こえてきたので、俺は安堵したのだった。

 

勝ちたい理由が増えた。俺にとって今日は、そんな日になった。

 

 

 

 

 

 

「―――大東亜学園、鋼毅。いよいよ夏の大会だな」

 

「はっ!」

 

「今年の大会は特別に重要なのだ。万が一にも、負けてはならん!」

 

「分かりました。必ずや優勝してご覧に入れます。それに、今回からはアメリカ本部の『あの二人』アンソンとドナルドもチームに参加しております」

 

「頼もしいな。よし、行くがよい」

 

「はっ!」

 

 悪とはロマンとよく言うが、一般的に悪とは善の対義語であってこの場に満ちている正義の対義語ではない。

 

「鋼は行ったな。・・・・・96号!」

 

「――はい」

 

そして正義は、本質的に妥協を禁じる。

 

「貴様も知っての通り、地方大会一回戦の相手は極亜久高校だ。そして私は常に、念には念を入れる。だからこうしてこのイスに座っていられるのだ。極亜久高校の調査レポートは出来ておるであろうな?」

 

「無論です。かなりウソも混じっていますが、あの学校を潰すには充分なスキャンダルです」

 

「よし。それを試合前に野球部の顧問の女に見せろ。そして、負けるように脅すのだ」

 

「―――はい」

 

 それがお前の仕事だと、上司は部下に命令した。

失敗はゆるさない。自分に逆らうものは全て要らないからだ。それがプロペラ団日本支部長の正義。

 

「加えてだ、96号。此度の作戦が無事に終了した暁には、貴様を次の日本支部長候補として本部に推薦してやろう。これは宣言であり公言だ、受け取れ」

 

「!?」

 

正義は本質的に妥協を禁じる。

 

「………、まことですか?」

 

「本当だとも。我らがビッグボス、リッチモンドと私はかつて敵同士だったが、ともに南方戦線を生きぬいた。

 若い貴様には同情も共感もできんだろうが、戦地でしか生まれない感情がある。つまり私の言葉ならば、彼は聞く」

 

「………」

 

「私は貴様を買っているのだ。全てのスポーツを我らに。その言葉の真意をこの国で分かっているのは96号、お前だけだからな」

 

「―――はい」

 

 

 

 

 

 

「来たぞ!ついに夏の大会だ!・・・これまで色々な事があったな」

 

「オイラ達には、これが夏の甲子園に行ける最後のチャンスでやんす」

 

「そうだな。だが最後だけど、最初のチャンスでもあるんだ! 勝つ!!絶対に勝つぞ皆!!」

 

「応!!!」

 

 

地方大会一回戦 8回裏 3-2 極亜久高校のリード。

 

 

「いける、いけるぞ!勝つぞみんな!!」

 

「――極亜久高校、やはり大したものだ。だが、我らは勝たねばならん。やむを得ん、あの二人を使うか。

 アンソン!ドナルド!殺ってこい」

 

 来った来た来たアンソンとドナルドぉ!!! あのデビルスターズ(パワポケ4版)の二人だあ!!!不足なし!

 

「しまっていこう!!」

 

ぜってえ勝つ!

 

「オラア!!!!」

 

 繰り出す俺のスライダー。しかし3番のアンソンは初球でバットに当ててきた。

 

「ファール!」

 

「・・・」

 

キャッチャー(亀田)のサイン。やってやろうじゃねえか。

 

「ここだ!!」

 

外角低めギリギリ一杯のストレート。ミートのあるアンソンは見事バットに当てたが、

 

「ショート!!!」

 

「任せて!!」

 

「水原ナイスゥ!」

 

流石は水原君だ。次は4番のドナルド。

 

「っしゃいやオラア!!」

 

全球スライダー。これでどうだ!

 

「ヌンッ!」

 

打たれた。しかしこの飛距離は、

 

「レフトォオ!!!」

 

「む~~~ん。オーライなんだな~~」

 

「ぱるお良く捕った!」

 

「ツーアウトでやんす!!」

 

「さあ、勝負だハガネさん!」

 

「――よく投げる。以前とは何かが違うな、極亜久高校キャプテン!」

 

ハガネさんはミートもパワーも強力だ。・・・だが、だからこそ勝ちたい。

 

「しゃあア!!」

 

「性懲りもなくスライダーか? 面白い!」

 

「ファール!」

 

亀田のサイン。いや駄目だ、スライダーで勝ちたい。

 

「(それじゃあ見切られるでやんす!)」

 

「(あと少しで何かが掴めるんだよ!)」

 

首を何度も振ると、亀田はやっとサインを出したその意味は。

 

「・・・・・ッッ!!!」

 

投げる。サイン通り、豪快に。

 

「!?―――なに!」

 

ボールがいつも以上に素早く曲がる。そう、この土壇場。Hスライダーの完成である。

 

「ストライク!バッターアウト!」

 

「キャプテンナイスピッチィ!!」

 

「この調子でいけいけでやんす!!」

 

 俺達は集中力を絶やさず研ぎ澄まし、指先に意識を向け続けることでハガネさんの投げる球と相対した。そしてついに、

 

「よし、勝ったぞ!!!」

 

「向こうが外国の人を使ってきた時はひやっとしたでやんす。でも、勝ったでやんすぅ!!!」

 

「甲子園に行きたい気持ちでこっちが上回っていたんだ。皆!これからも勝って勝って、勝ちまくるぞ!」

 

「応!!!」

 

 

 

 

「これはどういうわけだ? そしてこの弁明の機会を設けている意味を理解しているか?96号。

 何故試合前に極亜久高校を脅しておかなかった!」

 

「だって野球部の人たち、あんなに一生懸命練習してたんだもの。

――学校が潰れる、って言ってみてもわざと負けたりするワケないでしょ?そっちこそ理解しなさいよ、野球人のことを」

 

「・・・96号、裏切ったな。私の信頼とプロペラ団を」

 

「へへん。これでプロペラ団も、おしまいね。

世界的スポーツメーカー・ダイキの買収に組織の資金をほとんどつっこんでるんでしょ? 大東亜学園が1回戦負けじゃあ、誰もプロペラ団にお金なんて出さないわよ」

 

 それを聞き、日本支部長は大きく笑い出した。嘲笑の笑い声が大人と子供とをかき分け、現実を突きつける為に。

 

「くくく。それが違うのだな。

今日、聖皇学園が甲子園出場を決めた。大東亜学園からの落ちこぼれを集めた学校だが、プロペラ団の学校には変わりない。そして、紹介しよう。ドクター・ダイジョーブ!」

 

「ドーモ、デース」

 

「!? あなたは一体…」

 

「彼の技を用いれば、もはや素質のある若者を探す必要すらない。造ればよいのだからな。

 適当に、そこらのバカなやつを集めてパワーアップすれば、スーパープレーヤーの誕生だ。これでプロペラ団が、世界の娯楽スポーツを支配する日も遠くない!」

 

「く………、なんてこと」

 

「さてと、96号。極亜久高校のレポートはどこだ? おとなしく渡せば命ぐらいは助けてやるぞ」

 

「………知らないわ」

 

「フン。この裏切り者を地下に閉じ込めておけ!!」

 

 

 

 

 

 

「―――あれ、最近智美を見かけないな。亀田くん、見た?」

 

「そういえばそうでやんすね。オイラも見てないでやんす」

 

「・・・・ふーん」

 

 てことはこの状況、やばいっすね。そろそろ動こうか。いや、動いてくるだろう彼女なら。

 

「キャプテン!こんなところに。そろそろ整列ネ!」

 

「・・・大丈夫かい?顔色が悪いようにみえるけど」

 

「大丈夫だよ。今日は待ちに待った、甲子園を懸けた決勝戦だからね。気合入れていこう!」

 

「その意気じゃキャプテン」

 

皆と一緒にグラウンドに向かう。すると、あの選手が近づいてきた。

 

「―――よぉ。調子はどうだい」

 

「松倉君!去年の練習試合から、レベルアップしたうちのチームを見てくれ!」

 

「ハハハ、予想通り威勢がいいな。けどな、甲子園を目指して頑張っていたのはお前らだけじゃないぜ。オレたちだって、以前に比べて2倍は強いぞ!」

 

「えーい!それなら、こっちは3倍だ!」

 

「なにい? ふざけるな、こっちは4倍だ!」

 

「……なにやってんのかしらあの子たち」

 

「試合前の緊張がほぐれて、ちょうどいいんじゃないですか?」

 

 

地方大会決勝戦 8回裏 0-0 極亜久高校の攻撃。

 

 

「松倉くんの球、捉えづらくて打ちにくいでやんす・・・」

 

「彼もデビルスターズの一人だからね。当然だよ」

 

「え?デビ?」

 

もとい。

 

「彼の球威に勝ってこそッ!俺達は初めて甲子園の土を踏めるんだ!そのためには塁に出る必要がある!!さあ次のラッキーバッターはどこのどいつだ?ここで塁に出れる奴こそ一人前の男だ!!」

 

 とかなんとか言っているが、次のバッターが誰かはキャプテンである俺が知らないわけがないのである。

 

すなわち、

 

「さ、佐藤じゃねえか」

 

「む~~~ん。佐藤君近頃全然打ててないんだな~~~」

 

「む~~~ん。ボブ君が今日調子悪いからセカンドなんだな~~」

 

「む~~~ん。でもここで打つ為に生まれてきたかもしれないんだなあ~~~(単に作者が佐藤君のファンってだけかもなんだな~~)」

 

「何言うてるんじゃお前ら。しっかり応援せんかい!」

 

「ふー、ふー。ひっひっふぅー」

 

「めっちゃ入れ込んでるでやんす佐藤君・・・」

 

「ダメそうだなありゃ」

 

「・・・・・」

 

・・・・・。

 

「佐藤センパイ!」

 

「ふぅーー、?」

 

「ファイト!です!」

 

ユキちゃんの笑顔と共に、俺は見た。見てしまった。

 

「―――」

 

人が男になる(恋に落ちる)瞬間の顔を。

 

「? 佐藤のやつ、なんであんな前に立ってるんだ」

 

「バッターボックス最前ギリギリ。もっと後ろに立った方が長くボールが見れて有利だろ。特にあの松倉に対しては」

 

「やっちまえ佐藤君!!!!」

 

「うお、どうしたキャプテン?!?」

 

「今の君は!最高に輝いてるぞ!!!!」

 

「ファール!」

 

「ガチかよ当てやがった!」

 

「ファール!」

 

「ファール!」

 

「ファール!」

 

「なんて粘りだ・・・、佐藤はミート力が良いとは思っていたけど」

 

「ファール!」

 

「佐藤君・・・!」

 

「・・・・・負けたくない」

 

「ファール!」

 

「負けたくない・・・!」

 

「ファール!!」

 

「・・・・・才能なんてものは、人生が全部終わったあとで初めてわかるもの。らしい。でも悔しいけど、僕には才能なんてないよパワポケくん。その証拠に、こんなにも手が震えてる」

 

「ファール!」

 

「・・・もしかしたら、もしかしたらだけど僕の子孫とかには、野球の才能ってやつがあるのかもしれない。・・・・・なんて、変なことを考えてたら笑われるかな。キャプテンや皆やマネージャーのユキちゃんや明日香ちゃんには」

 

「ファール!」

 

「でも僕は・・・・・それでも僕はっ!」

 

「――――ッ!?」

 

 佐藤君のバットが1テンポ遅れて振り出される。その理由は一つ、焦れた松倉くんの球が、

 

「・・・・・もうとっくに、野球人だあああ!!!!!」

 

 いつもの精彩を欠いた一球に。その失投(すっぽぬけ)を、佐藤君は待っていたのだ。

 

「ふああああああああん!!」

 

「雄叫びはともかく打ちやがった佐藤の野郎!」 

 

「なんて飛距離でやんす!?!」

 

「ぐんぐん伸びてくぞ!!!」

 

「オイこれってまさか!」

 

 衰えないボールの勢いはグラウンドの上空をまっすぐに昇り上がり、ついにフェンスの向こうへと突入。見えなくなったそれは観客席に居る数少ない観客が、高々と持ち上げて示してくれていた。

 

それが我がチームメイトの初ホームランボールになった。

 

「勝ち越しだあッッ!!続け続け!!」

 

「あ、でもすぐに松倉くん持ち直したでやんす!」

 

「流石の名ピッチャーね。だけど1点リードよ!無失点で抑えましょう皆!!」

 

「応!!!」

 

 ようこ先生の声にも後押しされ、俺達は最終回パワフル高校の攻撃をゼロに抑えてみせた。

 

「ゲームセット!」

 

「勝ったあ!これで甲子園だ!」

 

「佐藤!今日のMVPはお主じゃい!!」

 

「そ、そうかなあ。皆で掴んだ勝利だと思うけど」

 

「カッコよかったです佐藤センパイ!」

 

その一方。

 

「・・・パワフル高校の人が、グラウンドでうずくまってるでやんす」 

 

「・・・」

 

「バカヤロ!めそめそすんない。全力で戦って、負けたんだからしょうがねえだろうが!」

 

「・・・松倉君」

 

「おお、すまねえな。みっともねえとこ見せてよ。

みっともねえと言やあよお、オレ達に勝ったんだから、甲子園でみっともねえ負け方すんなよ!」

 

「ああ」

 

――グス。 それは雨の降り始めのような音だった。ただし発生源は天ではなく、

 

「ち。カゼ気味だってのに、雨まで降ってきやがった。ハハ、そんじゃな!良い試合だったぜ極亜久高校!!」

 

「? パワポケくん。今は雨なんて降って・・・・」

 

「いや。雨だよ。

―――任せてくれ、松倉君。俺達はパワフル高校の分まで勝ってくるぞ!」

 

俺達極亜久高校野球部はこうして夏の甲子園出場を果たしたのだった。

 

 

 

 

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