「おおい、皆集まれ!新入りを紹介するぞ!」
「転校してきた〇〇です。よろしくお願いします。パワポケって呼んで下さい」
パチパチパチ。放課後の部室で乾いた音が鳴る。
暖かい歓迎の拍手だろうと、俺じゃなかったら思うだろう。
「――で、何が出来るんだ?」
「あ、ポジションはピッチャー・・・」
「バカヤロ。ゲームだよ、ゲーム」
「へ?」
「マージャンは出来るのか?トランプやハナフダの方が得意なのか?」
「・・・・。えっと・・・」
「ッち!!ノリの悪いヤローだな!おい外藤」
「へい」
「コイツは任せた。俺達は遊びに行ってくる」
「へえ、了解です」
「・・・・了解です?お前も気が利かないヤローだな。遊びに行くと言っただろ」
「あッ! へ、へえ、すんまへん。―――おい新入り!入部費出さんかい!!!」
「は、はい・・・」
やっぱりな。眼の前で直(じか)に体験して更に分かった。
何てところだ。クズしかいない。外藤さんは例外だけど。
「行ったな、先輩方。・・・・・ケケケ、おう、いきなりで面食らったか新入り?」
「まあ、・・・はい」
「野球やったら一人で勝手に練習しとけ。ワシは止めん」
「でも外藤さん、皆で練習しないでどうやって試合に勝つっていうんですか?」
「それにはいろいろカラクリがあってな。ケケケ、ま!地方大会くらいならバッチグーや」
「・・・・」
そんな事よりも俺は只々感動していた。
だって外藤さんだ。ナマ外藤さんだよマジで。いざという時に頼りになる男、パワポケ7の東さん並に頼りになる男!パワポケ1の良心!それがこの外藤侠二さんだ。
「じゃあ走り込んできます。まずは兎にも角にもタフなんで」
「おう!」
◇
「・・・ふ、ふぅ・・・ふうぅう」
俺は今パワポケ5よろしく、手久野コーチ直伝の走り込みを行っている。お前に一番必要なのはタフなんだよ!なんて言われてあの頃はタフ至上主義になったものだ。技術ポイントがほしくて技術コーチの所に行った筈なのに。
とにかく最低グラウンド20周。今は何をやるにしても、当面の目標は作ってしかるべきだ。
「でも・・・技術なんて独学以外にっ、・・・ふ、ほっ。どうやって身に付ければいいんだろう。ここに手久野コーチいないし」
中学まではピッチャーを主にやってきた俺だが、かといって投げ込みまくって肩バクダン肘バクダンなんて付いたら洒落にならない。ここはパワポケの世界なのだから。爆発したら、全てが終わりだ。
「あ!しあわせ草!・・・は流石にまだ無いよなあ。今のうちに超能力に目覚めれば、一発満塁ホームランとか思ったけど・・・」
それはそれでどうなんだろうか?バッドエンドしか見えないが。
そんなこんなで1週間、俺はあーでもないこーでもないと、ずっと走り込んでは考え込んでいた。計画を立てるのはパワポケ(ゲーム)の基本だ。たとえランダムイベントで全てがダメになったとしても。
「うーん、しかし・・・、うーん」
「あ、○○くん」
「この時代はまだツナミグループはない、ないよな? けどプロペラ団は居るし、ゴルトマン達旧支配者も居る。犬井くらい強くないと、力なんて何の役にも立たないよなあ・・・。そして何よりこの世界はどのルートを辿るんだろうか?正史だろうか?・・・・それとも、」
「…相変わらず頑張ってるのね。○○くん」
「・・・・? え?」
聞こえた声に、顔を向ける。これまでの人生の中で聞いた事のないような綺麗な声。
そこには記憶が。今度は存在する記憶が、想い出となって溢れていた。
「―――あすか?」
「お久しぶり。 小学校以来ね」
あすかは、逝ってしまった。
「うわああああああああああああああああ!!!!!!!」
――俺はグラウンドの彼方へと逃げ出した。
「知らなかったんだ知らなかったんだ甲子園優勝したから大丈夫だって勝手に思い込んでたんだまさかドラフト1位も取らなきゃいけないなんて、誰が分かるんだ誰が分かるんだあッ!!!! え?・・・誰が、悪い?全部俺が悪いんだよ!!!!!!」
「ちょっと、…もう。数年ぶりに逢った幼馴染にかける第一声が悲鳴って、人としてどうかと思うわよ?○○くん」
全速でグラウンドを一周し終えると、あすかは綺麗な眉を少し寄せながら、動かずにその場で待っていた。
「ご、ごめん。先週はクラスにいなかったんだよね?・・・心臓の具合がよくないから」
「あら意外。私達、同じクラスだって知ってたの?」
「それは・・・まあ。あ、俺の事はパワポケって呼んでくれるかな。その方がしっくりくるんだ」
「じゃあ、…パワポケくん?また変なあだ名を付けられたのね。分かったわ」
「あ、あはは」
自分で付けました・・・。
「まあとにかく、ここで逢えて嬉しいわ。パワポケくんも、練習しすぎてケガしちゃ駄目よ?体力の無いときには休んだ方がいいと思うわ。
パワポケくん、これからよろしく」
太陽が凍り付いても、きっと眩しいだろう綺麗な笑顔。そうだ、これを見る為に俺は『パワポケ1』をやりこんでいたんだ。朝も夜も。10よりも他の何よりも『1』が好きだった。
「うん、こちらこそ」
それが今では同じクラスで、すぐそこに居て出会ってしまった。だから焦燥が体の中に満ちてくる。
・・・・・俺は我慢できるだろうか。もしも彼女が、正史通りにこの世界からいなくなってしまったとしたら。