「というわけで頭数って事でどう?亀田くん。野球部入らない?」
「こんなクッソいい加減な勧誘さすがのオイラも初めてでやんすよパワポケくん」
「え?クッッソいい加減だなんて心外だな。こっちは野球部存続の危機の渦中だってのにさ」
「心外じゃなくて的を射ているって言ってほしいでやんす・・・。でもまあ、なんだか面白そうだし、入るでやんすよ野球部」
「ありがとう亀田くん!」
やったあ、部員一人確保ぉ。別にいらねえけどな、こん畜生が。 けど笑顔を見せる。とにもかくにも今は部員が必要だからだ。
「しかし他に当てはあるんでやんすか?パワポケくん。
今の時期は十月、部活に入ってない生徒なんてまずいないでやんすよ」
「当てしかないっつーの。でなければ教頭に条件なんて呑ませねえさ」
「?条件?」
「これから半年の間に部員と顧問を集めて、一年以内に公式戦で勝つだけだよ」
「・・・・は?」
「とにかく最初は空手部かなあ、やっぱり反射神経だよなあ最優先は」
原作(ミニゲーム)的な。
「・・・・は?」
「その後はドリブルかなぁってどうしたんだい亀田くん。風来坊がブギウギしてるのを見ちゃった顔して。ていうか知ってる?実はあのナイスガイの正体って、」
瞬間。亀田君は気持ち悪い顔をグイっと寄せてきた。
「本当に頭大丈夫でやんすか?部員と顧問は常識的に考えれば分かるとして、一年以内に公式戦で勝つ?不可能でやんすそんなこと」
「不可能じゃないさ」
「その心は?」
「前例を知ってる」
「・・・・前例?」
「ああ。よぅっく知ってる」
目を光らせ、笑ってみせる。きっと彼ならそうする。そうきっと、彼なら。
「話は聞かせてもらったわ。大変なことになったわね、パワポケくん」
「ようこ先生でやんす! 助かった、先生からも言ってやってほしいでやんす。コイツは頭の病院に行くべきでやんすぅッて!」
「失礼だなテメエほんと」
「君にだけは言われたくないでやんす――っ」
そんな亀田を横に置き、ようこ先生は腕組みをしながら考え込んでいた。
「パワポケくん達は部員集めを始めるのよね? でもこの時期からってことは勧誘じゃなくてヘッドハンティング(引き抜き)。正直難しいとは思うけど……」
「やってやりますよ、先生。まあ見てて下さい」
そして野球部の顧問になって下さい。まあそれは追々。
「なので亀田くん!!早速この流れで空手部員を勧誘しに出かける!後に続け!」
「この流れでどうして空手部に行くのか心底意味不明でやんすぅ・・・」
「………」
不安げな先生を尻目に俺達は颯爽と駆け足、空手部の練習場へと向かった。
◇
ナイスな到着。そして目と鼻の先にいる彼に向かって、俺は笑顔でこう言った。
「たのもー!たのもー!!」
「なんじゃい。お前は」
だって嬉しくて。
「俺は1年!転校生のパワポケ!村上海士くんはいるかな?」
いけしゃしゃあと口にする。分かりきった言葉と、彼を間近で見れた事への喜びを込めて。
「わしがその村上じゃ。同級生、なんぞ用でもあるんかの?」
「単刀直入に言おう。俺と勝負してくれ!」
村上くんはゆるりと腰を落としたまま俺を見た。
「――ほお?」
「やばいでやんすやばいでやんすこれは本ッ当にやばいでやんす! ちょちょちょちょっと待っててほしいでやんす村上くん!!」
「何だい亀田くん邪魔しないでくれよ、せっかくのサシなんだから」
「確認でやんすけど野球部員の勧誘に来てるんでやんすよね!?!
誰がどう見たって喧嘩しにきてるようにしか見えないでやんすから現状確認をしているのでやんす、文句あるでやんすか!??」
「文句はないよ。そして俺は野球部に村上くんを勧誘しに来ている。ほかに確認事項は?」
「じ、実はテニス部員とかサッカー部員とかにオイラ心当たりがあるでやんす!だからここは止めるべきでやんす!」
「却下。色々あるけど彼がいないと勝てないから。この先」
「村上くんは素手でコンクリを砕けるでやんす!!このままいくと十中八九殴られるでやんすそして最悪!野球が出来ない体になってしまうでやんすよ!?いいんでやんすか!?」
「知ってるよ?」
「ぇえ・・・?」
「あの村上海士を野球部に勧誘するんだ。それくらいの覚悟がなきゃ」
「なんとも買われたものじゃのう。――しかもその眼。お主、どこかで逢うたか?」
ギクリとする。でもお得意ポーカーフェイス(ピッチャー)。
「初対面だよ。でも解る。キミのその闘気、練り上げられている。至高の領域に近い」
「・・・・」
「加えて、野球をすればもっと君は強くなれる。そして何よりもっともっと楽しくなる。だから村上くん、キミも野球部に入らないか?」
「入らん。と言うたら?」
「何度でもここに来る。キミが縦に首を振るまで」
「面白いのう、その威勢」
村上くんの上半身がまるで脈動するかのようにとても大きく震える。正真正銘の武者震いだ。
「少し興味が湧いたわい。では1分じゃ、1分間わしの攻撃を避けてみろ。どの方向から攻撃するかはちゃんと宣言してやる。お前はその反対方向に動くだけでええ。間違えたり早く動くと、・・・痛いぞ。どうだ? 買うか」
「よし買った」
「決まりじゃな。おいそこの」
「ハ、ハイでやんす!」
「審判を頼むぞ。そして開始の合図もじゃ」
「ああもう分かったでやんす分かったでやんすいい加減!・・・では、勝負開始ィ!!!」
するとその瞬間、俺の中のスイッチが入れ替わった。
◇
カチコチ。亀田くんが持っている時計の針が動いている。
村上くんはこちらをジッと眺めていて、両手両足をしっかり俺に向けて構えていた。
「右」
――原作パワポケシリーズにおいて、こういった相手の攻撃を避けるミニゲームは多々ある。パワポケ3、亀田の野郎とのステゴロタイマンとガンダーロボ戦。パワポケ2、凡田くんとのプロ入りを賭けた男のタイマン。
絶対に勝てるかどうかは別として、これら全ては慣れれば何とかなるものである。この村上くんとの勝負もまた同様。
だがここでは唯一、注意しなくてはならないのが一つだけ存在する。
「ご―――ッふ!?!!?」
「まずは一発じゃの。続けるか?」
このパワポケ1のそれにおいては。提示された方向ではなく逆の方向に避ける(ボタンを押す)ことだ!
「―――来い!!」
「上」
すかさず。下に避ける。つまりはしゃがむ。
「・・・下」
ジャンプ。上に避ける。
「右、左、・・・右左右左上!」
左に避け右に避け、右ぐえっ右左右下に体を捌く。・・・反射神経がいまいち、しかしかつての知識と経験万歳。
自然に体が動いちゃうんだ。俺はダウンすることなく村上くんの前に立ち続けていた。
「1分!それまででやんす!!」
「どうだ、耐えてやったぞ村上くん!」
「む・・・・・。うわっははははっ!!!」
「呵呵大笑でやんす!?!」
「まさか、わしの拳を一度ならず二度も喰らって立ち続けてられるとはの。なるほど、よし!わしもまだまだ足りんという事が知れた。野球部に入ってやるわい、キャプテン!!」
「やったあ!よろしく、村上くん!!」
「見てるこっちが一番ハラハラしたでやんす・・・。ところでパワポケくん?」
「え?なに?」
「痛くないんでやんすか?」
「え?」
「いやその、脚が」
「―――え」
バタ。あるいは、ドテ。ガクガク震え始めた俺の脚腰は俺の意思とは正反対に崩れ落ち、俺は意識を失った。
◇
「うーん・・・・のり・・・」
「悪夢を見ているようね。それも相当な」
「我ながら良い拳を磨いてるもんじゃ」
「村上くんは少し黙ってるでやんす。保健室の先生、大丈夫でやんすかパワポケくんは」
「触診したところ患部はそんなに固くなってないし、どちらかというと柔らかいまであるからすぐ目を覚ますと思うわ。
もう時間だし、先生が診ているから貴方達は帰りなさい」
「そうですか。・・・詫びることはせんが、また明日な。パワポケに亀田」
「オイラも帰るでやんす。また明日でやんす」
・・・・・。
「――うーん?頭の中でふふふーんって聞こえたけど地獄かここは?」
「地球よ。ここは」
「あ、保健室の先生」
「おはよう。ようこ先生がもうじき来るから、それまで少し休んでなさい」
「すいません、こう何度も何度も来てしまって・・・」
「保健室っていうのはこういう時の為にあるのよ。気にする事ないわ」
「失礼します。パワポケくん、大丈夫?」
「先生。俺は大丈夫です」
「野球をやっているだけあってタフな体だから特に問題はないわ、ようこ先生。若い若い」
「よかった…」
「じゃあ俺、帰ります。ありがとうございました先生方」
「へっちゃらねえ」
「………」
ベッドから立ち上がる俺を前に。ようこ先生は立ち塞がるように俺へと相対した。
何だろう、綺麗な人だし憧れてるからとても緊張するんですが。
「……ねえ、パワポケくん。この学校の部活はマトモに活動してる所自体少ないけど、しっかりやってる所はしっかりやってる。こんなケガとか色々と大変な部活以外にも、ちゃんと、ある所はあるのよ。
だから今からでも遅くはないわ。別のスポーツで頑張った方が…」
一度瞼を閉じ、開ける。眩しさに耐える瞳でようこ先生は、俺だけを映していた。
「野球じゃなきゃ、だめなんです」
だから本音を答える。――だろう?主人公。
「そう……じゃ、頑張るしかないわね。これ、先生の電話番号よ。困ったことがあったらいつでも連絡してね」
「ありがとうございます!!」
うっひょーマジかよコンプライアンス。やっぱ俺の母校は極亜久高校だぜえ!
「気を付けて帰るのよ?」
「はい!」
イベントをこなす俺はウキウキして帰宅した。
◇
「サッカー部にきたぞ!」
「チームメイトとして今日からわしも同行するけえの、キャプテン」
「昨日言ってた当てその1でやんす。ここにいるボブくんっていう子が中々運動神経いいらしいのでやんすよ」
「たのもー!!ボブくんは居るかい?」
「ん?君は新入部員かい?」
「ドーモ、サッカー部員さん。野球部のパワポケです。――ボブくんを勧誘しに来た!話し合いの場を設けて頂きたい!!」
瞬間。殺気が嵐のようにこの場で吹き荒れた。
「は?なんだと?うちのエースを、あろうことか野球部如きが? ざけんじゃねえこのクソボケぶっ殺してやる!!!」
「ボブくん居るかい!!君の力は野球でこそ輝いて、いて痛いた」
「パワポケくんが案の定ボコられてるでやんす!た、助けないと――!」
「手は出すなよ、亀田。これはキャプテンが売った喧嘩じゃ。 わしらが出るのはその後よ」
「体張る事しか出来ないんでやんすかウチのキャプテンは?!?」
「ボブ、くん!俺達と一緒、に!!野球しようぜ!!!」
「オー、ジャパニーズ漢気!ユーが呼ぶミーはここデース!」
カタコトが入ってる日本語が聞こえてくる。その声の主はいざという時にホームランもヒットもほるひすより打ってくれる男。ボブ(穂武)・サムソンである。
「皆さん止めてくださーい!マイチームメイト、ベリーホットでヒートでメタルデース。でも今はジャストアモーメント、ちょっと待ってくだサーイ」
「おいおいボブ!?」
「お前まさか野球部に行くってんじゃないだろうな!?!」
「お前はウチのエースゴールキーパーなんだ!スーパールーキー、馬鹿なことは言いっこなしだぜ!?」
「ハハハ、そんなこと言わないデース。デモこの人のスピリット、ベリーベリーノットアウトオブ眼中。眼が離せまセーン。
だからユーがミーのゴール、クリアできたら野球部に行ってもいいデース。ドゥーユーアンダスタン?」
「オッケイ!!」
「ただしマイチームメイトもあなたの邪魔しマース。何故ならここはアウェーでユーはビジターデース。なのでシュートマイゴール、イフユーキャン」
「やってやんよお!!その勝負、受けた!!!」
俺にとって一番苦手なミニゲーム(ドリブル突破)の幕開けであった。