この空はあんたに続いてるか 作:アハハヒフミサンペロロスキー
「ソウスケさん。これで何度目ですか?」
「いやぁ…お世話になってますです…はい…」
ゴゴゴゴゴという音が聞こえそうな迫力で包帯グルグル巻きの俺の前に仁王立ちしている女、うちの学校の救護騎士団団長、蒼森ミネ。
もうすでに何度も怪我をして入退院を繰り返している俺にとっては非常にお世話になっている方なのだが…
「怪我をするのは仕方がありません。しかし!あまりにも頻度が多すぎます!!これまで何度もお伝えしているはずですがあなたには分かってもらえて居ないようですね!私は!私はとても悲しいです!心から!」
「いや、分かってるんですよ?分かってるんですがね!?」
「分かっていないから無茶をするのです!聞きましたよ!?あの七囚人の狐坂ワカモを一人で相手にするなんて!取り返しのつかないことになったらどうするつもりですか!そろそろ相当強度の高い救護をしなければいけませんか!?」
それは死ぬって!ただでさえボロボロなのに!?
「そもそも各学園の生徒会や風紀委員、ましてやハスミ副委員長が居ながら凶悪犯の相手を一般生徒のあなたに任せるとはなんという体たらく!」
どんどん羽川に飛び火していってるぅぅぅぅぅ!
この人どんどんヒートアップしていくから怖いんだけど!
「羽川は止めたんだって!俺が勝手に突っ走っただけでさ!俺が悪かったから!正義実現委員会に突撃するのだけは勘弁してくれって!そんな事されたら治る傷も治らないから!な!?」
「確かに怪我をしている方に心労をかけるわけにはいきません…わかりました!ただし!次このような事があった場合、心苦しいですが強行策を取らせていただきますのでそのつもりで!よろしいですか!?」
「はい!肝に銘じておきます!」
強行策って何?いつもは強行策とってないってこと?じゃあどんな事されんの俺!?
大人しくしとくか…
その後、見舞いに来たヒフミに怒られ、羽川に怒られ、ミネ団長と羽川の喧嘩に巻き込まれながらも数日で退院できた。
俺怒られてばっかりじゃない?
で、今は動けるようになったって七神に伝えたらシャーレに行って当番やれって言われたから来てるとこ。鬼かあいつは。
「こんちゃーす。上坂ですけどー」
「あーいらっしゃいソウスケ。ケガはもういいの?」
「はい、まだ包帯取れてなかったりしますけど」
「あんなボロボロだったのにもう歩けるのね…でも無理しちゃダメよ?リンちゃんにも言ったんだけど、勝手に突っ走った彼の責任です。それに彼は体だけは頑丈なのでって」
「ちょっと似てるのおもろいな」
「それでどんな様子か報告して欲しいって。素直じゃないわよねリンちゃんも。心配してるって言えばいいのに」
「七神は厳しいけど優しいやつなんで」
絶対認めないし言ったら怒るから言わないけど。
「で、当番って何するんすか?」
「書類整理とか」
「げぇ…よりによって事務か…苦手だなぁ」
「私も…アロナ〜書類整理手伝ってよー」
『むにゃむにゃ…』
タブレットに話しかけてる先生の手元を覗き込んでみるとなんか水色の髪の女の子が机で寝てる。
この子どっかで見たような…気のせいかな。
「この子何?」
「えっ!?ソウスケこの子見えるの!?」
「見えるけど…」
「ユウカやチナツには見えなかったのに」
「なんで?普通のタブレットだろ?」
「これシッテムの箱っていうすごい機械らしいんだけど、知ってる?」
「知らない、なにそれ」
全然しらねぇ〜超高性能タブレットかなんかか?
「まあいいか。そう言えばソウスケ、あの子はその後何もして来てない?」
「ワカモか?何もねぇよ?」
「そう、気をつけてね?あの子あなたの事狙ってるみたいだし」
「まあ…何回もぶん殴ったし…」
ワカモのことを思い出すと少し背筋がゾワっとした。
あんなこと言わなきゃよかったかも…
◇◇◇
ワカモに一撃を加えた後、流石に限界を超えたソウスケは意識はギリギリ保ちながらもその場に倒れ伏した。
体から暖かい液体がじんわりと流れ出て、視界が赤く染まる。
「がぁっ…くぅ…」
ワカモはふらりと立ち上がるもすぐに膝をつき、その場に座り込んでしまう。起き上がれるだけでもすごいが、流石に立つことはできないようだ。
「…なぜですか」
「ああ…?」
ワカモは俯きながらポツリ、ポツリと話す。
「なぜ、そこまであなたが身を削るのです?あなたがいくら信じて己を犠牲にしたとて、もう会長は帰って来ないかもしれないのに」
「…そうかもな」
「なら、なぜ信じ続けるのです?裏切ったとほんの少しでも思わないのですか?」
「…実はさ、嫌になって投げ出したのかな…って少しは思うよ」
「ならなぜ!」
「でもさ、それならそれで良いんだよ」
ボロボロになり、血を吐いて這いつくばりながらソウスケは言う。
「人間いい奴ばっかじゃないし、いい奴だってたまには間違えて、悪い事もする。辛くなって、苦しくて、泣きたくて、でも周りに何も言えなくて、何もかも投げ出したいときだってあるだろ」
人は誰でも間違いを犯す。それは当たり前のこと。
しかし世の中はそれを忘れてしまったり、立場のある人間では許されない事もある。
「何かに巻き込まれて危険っていうよりかはその方が何倍もいい。帰らないなら帰らないでいい、連絡くらい寄越せよって思うけどさ」
ははは、とソウスケは静かに笑う。
「あの人が幸せならそれでいいよ」
その顔は嬉しそうで、それでいて少し寂しそうな。
色んな感情が詰まった静かな笑顔だった。
「お前…さ、昔人間関係で嫌なことあったのか?」
「なぜそう思うのです」
「裏切りって言葉を強調するから、誰かに裏切られたのかなってさ」
「あなたに関係のないことです」
「そうだな…けど…辛いなら言えよ」
ワカモは一瞬、この男が何を言っているのか分からなかった。
この男は自分に気を遣っているのか?なぜ?ここまでボロボロにしたのは自分だというのに。
「なにを…」
「お前にどんな過去があるかはわかんねぇけどさ、辛くて吐き出したくて、どうしても暴れないと気が済まないっていう時は声掛けろよ。その時はまた、俺が相手してやる…俺ならいくらでも撃ったり爆破したりしろよ。いや…やっぱいくらでもは無し、週一…いや月一…?」
先ほどまでの空気が嘘のように、とぼけた空気が漂う。
何だこの男は。先ほどまで争って、あまつさえ血まみれにされている相手にどうしてこうも親しく話せる?
「あなたは…もし私が助けを求めたら…助けるというのですか?」
「ああ、助けるよ」
「何故?こんな事件を起こしたのに?」
「今回…たまたまお前が悪かっただけだろ?なら、助けない理由になんてならない。もしお前が原因で起きたなら、一緒に謝ってやるよ」
己の何かが溶けていくような感覚にワカモは困惑して胸に手を当てる。
何だろうか、この感覚は。何故か彼を直視できない。
なぜ?この男は敵なのに。
なぜ?どこにでも居るような男なのに。
なぜ?あの憎い連邦生徒会の使いなのに。
答えが出ない。グルグルと頭の中で疑問だけが回る。
ここにいてはいけない気がする。
ワカモは立ち上がり、窓へと向かう。
「止まりなさい!ワカモ!」
その場に丁度早瀬ユウカが駆けつけて銃を向ける。
しかし、一歩遅かった。
「上坂ソウスケ…このワカモ…あなたがどういう人間か見極めるその日まで…あなたをいつも見張っています」
そう言ってワカモは窓から飛び降りどこかへ消えてしまった。
あれだけのダメージを受けてまだあんなに動けるのか…とソウスケは感心してしまった。
◇◇◇
早瀬ユウカはシャーレへと向かっていた。
この前の作戦に使った弾丸等の経費の請求について話すためだ。
そういえば先生から聞いたがあの男が退院したらしい。
(心配とかはしてない、ただ何かあったら寝覚めが悪いし…)
誰に言っているのか分からない言い訳をしつつ数日前のことを思い出す。シャーレの部活前を制圧し、その場を他の人間に任せてソウスケの元へ戻ったユウカ。
本来であれば彼に近しいハスミやスズミが行くべきだったのかもしれないがあの時のユウカにはそんなことを判断する余裕はなかった。
貸しを作ったままで死なれるなんてごめんだというのもあっただろうが、生来の性格というのもあっただろう。
巷では冷酷な算術使いと言われる事もあるが、実際の彼女は立場上少し厳しい所があるだけで理数系が得意なだけの面倒見のいい少女だ。
そんな彼女が自分を庇った少年が重大犯罪者と一対一で交戦しているなど放っておけるわけがなかった。
すぐに助けに入りたかったが、これ以上戦力を分散しては制圧が困難になるとの先生の判断だった。
きっと彼女も苦渋の選択だったのだろう。
飄々としていた表情は彼の無事が確認されるまでは真剣そのものだった。
まあ、無事と言えるかは怪しいが。
「ちょっと、しっかりしなさい!」
ソウスケの姿を確認した時、それはもう凄惨な姿だった。
火傷に銃傷に刺し傷などによる大量の出血。
いくらキヴォトスの生徒だからと言っても限度があった。
「ああ…早瀬か」
「ああじゃないでしょう!何考えてるのよ!あんな奴一人で相手にするなんて!」
「そっちは大丈夫だったか…誰も怪我とか…してないか?」
「してないわよバカ!それより自分の心配しなさいよ!」
自分の方がボロボロになっているのにこちらの心配をする彼を見て唖然としたことを覚えている。
思考回路はどうなっているんだろうか。
「そっか…よかった…ありがとな。先生のこと守ってくれて」
「別にお礼を言われることじゃないわ。そうしないとこの騒動が治らないから仕方なくよ」
「優しいんだな、お前」
「はぁ?何よ突然」
「本当は先生送ったら終わりなのに、こうやって助けに来てくれただろ?」
「それは、貸しを作ったまま死なれたら気分悪いのよ!それだけ!」
「それでも、ありがとう…」
そう言ってソウスケは意識を失った。
一瞬ヒヤリとしたが気を失っただけだとわかると安心する。
その後は連邦生徒会の医療部が運んでいき、そのままトリニティの救護騎士団の元へ引き継がれたそうだ。
聞いた話によるとすごい速度で救護騎士団の団長が駆けつけ手慣れた様子で運んでいったらしい。
あの男はいつもああなのだろうか。
考えれば考えるほど上坂ソウスケという男がわからない。
七囚人のワカモを撃退は出来ないまでも単独で退却に追いやるなんて、実力が高いのか運が良いのか、それともただのバカか。
それでも、人を助けるためにあそこまで体を張ることはなかなか出来ることじゃない。
あの男はそれが出来る人間なのだろう。
何故かありがとう、と言われた時の顔が焼きついて離れない。
(って、なんであいつのこと考えてるのよ。やめやめ、退院したんだしもう関係ないわ。でも、お礼は言いたいし…どうしようかしら)
はぁ、とため息をつきながらユウカはシャーレの扉を開いた。
「先生、請求書のひな形を持ってきま…」
「ボルメテウス・サファイア・ドラゴンでブレイク!シールド焼却だから墓地行きだぜせんせぇ〜?」
「だぁぁぁぁ!私のヘブンズゲートがぁぁぁぁ…」
ユウカがシャーレに入った時、休憩用のテーブルでカードゲームに興じる先生と包帯を巻いたバカが居た。
ひっひっひっ〜とアホそうな顔でアホな笑いを上げている。
そしてこの大人も大人で心底悔しそうにしている。
何だこいつら。ユウカは今その一言に尽きる。
「あっ、いらっしゃいユウカ」
「おお早瀬、元気か?」
「…こ」
己の腹の底から何かグツグツとしたものが湧き上がってくるのを感じる。
なんだ?私はあんなにも悩んでいたのにこいつは呑気にカードゲームで遊んでいたのか?怪我も治り切ってないのに?と。
「こんのぉバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「ええええぇぇぇぇぇ!?」」
早瀬ユウカは爆発した。
そしてその後、あまりにもお金の管理がだらしない先生、ついでに日々金欠のソウスケはユウカに支出を定期的に提出することになったという。
ユウカのことツンデレに書きすぎたかも?
いや、同年代にならこれくらいツンデレのはず。
ミネ団長大好き。
救護した人に負担がかかるようなことしない…よね?