この空はあんたに続いてるか 作:アハハヒフミサンペロロスキー
「シャーレのヒメノ先生が着任、生徒と共にサンクトゥムタワーの制御を奪還。参加生徒はセミナー、ゲヘナ風紀委員会、正義実現委員会、そしてあのトリニティの男子。ちっ、トリカスとオタクがでしゃばりやがって」
万魔殿の漆馬サダオは書類仕事を終わらせて休憩がてらに外でニュースを見ながら一服していた。キヴォトスでは喫煙が許可されているため一応合法である。
サダオはトリニティは単純に嫌いでミレニアムのことは一部認めているものの引きこもりのオタクとしか思っていないなど割と偏見を持っている。
ゲヘナにいては仕方ないのかもしれないが。
「げっ、サダオ…」
「ずいぶんな挨拶だなイオリ。そんなに指導して欲しいのか」
至福の一服を後輩である銀鏡イオリに邪魔され少し不服なサダオ。
周りを見ると風紀委員の面々がバタバタと忙しなく動いている。
「何バタバタしてんだ?落ち着いてタバコも吸えやしねぇ」
「吸うなよ。なんかゲヘナの生徒がアビドスで問題起こしてるとかでバタバタしてるんだよ。アコちゃんの指示で」
「ヒステリー女が?何企んでやがる」
「それアコちゃんの前で言うなよ」
イオリが所属している風紀委員会とサダオが所属している万魔殿は非常に仲が悪い。というのも万魔殿議長である羽沼マコトが風紀委員会に対して嫌がらせを行なっているからである。
本気で風紀委員会を嫌っているのは議長だけで他の面々はあまり気にしておらず、イロハなどはマコトからの指示だからと言うことで仕方なく難癖を付けることが多い。
「そういえばこの前の不良集団サダオが捕まえたんだっけ?」
「お前らが遅いから俺がわざわざ出向いたんだろうが。仕事しやがれ」
「しょ、しょうがないだろ手が回らなかったんだから!」
「どうせ落とし穴にハマったとかくだらねぇ理由だろ?銃の腕は上がっても頭はどうしようもねぇな」
「私がバカだって言いたいのか!」
「おお、気付けたのか。偉いぞ」
「調子に乗るな!お前なんかすぐに追い越して這いつくばらせてやるからな!」
ブチギレるイオリに珍しく笑うサダオ。
こうやっていい反応をする彼女を弄るのは昔から楽しい。
ちなみに一年生の頃のイオリを鍛えたのはサダオでいわば師匠のようなものである。彼女は認めないが。
万魔殿でありながらそこそこ風紀委員会と交流があるが天雨アコとは非常に仲が悪い、というより彼女から一方的に敵視されている。
サダオが何かをする度に越権行為だのなんだのといつも文句をつけるが予算を盾に黙らされるのが通例である。
「で?その問題起こしてるってバカの身元は?」
「便利屋68っていう…あっ…」
「便利屋68…ちっ、あそこか」
苦々しい顔をするサダオ。
サダオと便利屋68は切っても切れない縁があるのだ。
便利屋68というよりもそこに所属しているある人物との縁なのだが。
「これ以上チョロチョロされても面倒だ。俺が行く」
「ちょっと待てよ!アコちゃんになんて言われるか!」
「この前の会計監査」
「それ持ち出すのずるいぞ!」
数週間前、万魔殿が突然抜き打ちで風紀委員会に会計監査にやってきたことがあった。
会計監査というのは建前でいわば羽沼マコトの風紀委員に対する嫌がらせである。
あわや来年度の予算カットというところをなんとかサダオが宥めて減額程度で済んだ。
イロハにはどっちの味方なのかと苦言を呈されたがイブキと一緒にココアを作ってあげたら黙ったらしい。
「エデン条約で忙しい時に…めんどくせぇ」
サダオは後ろで騒ぐイオリを無視してアビドスへ向かった。
◇◇◇
「えっくしょん!これはあれか…風邪だな」
「バカのくせに何言ってんのよ」
「いや、俺意外ととデリカシーだからさ」
「ん、それはデリケート」
「間違ってる時点でデリケートじゃないわよ」
「ソウスケ君は体頑丈そうですもんね〜」
セリカとシロコにツッコまれノノミに笑われたソウスケは先生の書類を手伝っていた。
柴関ラーメンを食べていい感じに眠いのだがあんだけ食べたのだから仕事しろと先生に言われ渋々手伝っているのである。
そもそもお前がミスった仕事をしてるのだがというソウスケの反論は聞いてくれなかった。
「はぁ〜いい感じに風吹いて涼しいなぁ〜小鳥遊先輩が昼寝ばっかしてるのも分かるぜ。ヘルメット団のバカ達が来ない限り揉め事も起きねぇし、平和だ」
「トリニティは平和じゃないんですか?」
「平和だったら正義実現委員会なんて要らないの」
「あんたは平和乱してる側じゃないの?」
「失敬な!上坂さんは無害な一般生徒です!」
ジト目のセリカに反論するソウスケ。
一応彼は一般生徒で通っているのだ。彼の中では。
「ただちょっとシスターフッドから説教食らったのと正義実現員会から厳重注意受けてるのと救護騎士団の団長から次はないって言われただけだ」
「それ役満」
「本当に平和乱してるじゃない!逆に何したらそんなことになるのよ!」
「違うんだって!正実と救護騎士団の件は俺の自業自得だけどシスターフッドは理不尽なんだって!なんかあの、古代語の変な石碑読んだらめっちゃ怒られて追い出されたんだよ!」
トリニティ史上礼拝堂から追い出されたのは浦和ハナコと上坂ソウスケの二人のみである。
「ソウスケ君古代語読めるんですか?」
「なんで読めるかは知らないけどな」
「何よそれ」
それから四人が最近の話題やトリニティの話題など1時間ほど雑談していると先生とアヤネが教室に合流し、最後にホシノが合流した。
「終わったぁ…」
「あー疲れた」
ソウスケと先生が仕事を終えみんなとひと息着いていたところ、端末を見ていたアヤネが血相を変えて話し始める。
「皆さん!アビドスに向かって大規模兵力が進行しています!」
「またヘルメット団のアホか?」
「いえ!ヘルメット団じゃなく日雇いの傭兵のようです!」
「懲りないわねぇ…よし!アビドス対策委員会出動!」
先生の号令と共に対策委員会の面々が銃を持ち現場へと急行する中、同じようにソウスケも向かおうとした時だ。
「待ってソウスケ君」
後ろからホシノに呼び止められる。
「どうした?」
「君は帰った方がいいよ。元々巻き込まれただけなんだし」
「いや、この状況で帰れるわけないだろ。俺も手伝うよ」
「これは私たちの問題だから、これ以上君を巻き込めない。アビドスの問題にトリニティの君が付き合う必要はないんだよ」
ホシノはいつもと違って真剣な眼差しでソウスケに言う。
怒っているわけではないがそれには有無を言わせないような圧を感じさせた。
だが、ソウスケは引かなかった。
「そうかもしれないけど、ここで帰ったら俺が納得出来ないんだ」
「どうして?心配しなくても見捨てたなんて思わないよ」
「そんなことどうでもいい。俺は、目の前で誰かが困ってるのに関係ないからって放っておけるほど利口じゃねえんだ」
「…ありがた迷惑だって言っても?」
「それでも、俺は行く」
「…分かったよ。でも無茶しちゃダメだよ?」
「おう!」
真っ直ぐそう言うソウスケにホシノは負けたのかため息をつきながらソウスケの前を走る。
彼もその後に続いて行った。
「ほんとに、ムカつくくらい真っ直ぐだよね。君は」