ゲーム開発部が廃墟探索を終えてからのこと。
結局のところ、彼女達はG.Bibleを発見することができなかった。
それもまあ当然と言えば当然だろう。
廃墟に進入した生徒は彼女達より前にも居ただろうし、そんな先人達が発見できていないのであれば相応の理由があるということ。
G.Bibleは伝説としてまことしやかに語られるような眉唾な代物である。
十人にも満たない生徒達が、日帰りで往復できる場所で見つかるかと聞かれれば疑問が残る。
一応、最後に起動されたのがミレニアムの廃墟である、とだけは確認してから出発したのだが、立ち入り禁止に指定されているような場所なのだ。
そういう意味では痕跡を捜索し、かつて実在していたことを確認できた時点で十分に偉業であるといえる。
もしかしたら機能を停止した端末のどれかに保存されていたのかもしれないが、今となってはそれも分からない。
無作為に広がる廃墟の未探索区域に安置されていても、なんら不思議ではないのだ。
ただ、何の収穫もなかったわけではない。
それはひとつのインスピレーション。
廃墟で遭遇した彼女達が、ゲーム開発部に多大な影響を与えたのは疑いようもない。
それが良いものであるのか悪いものであるのか、方向性は定かではないのだが。
「はい、ちゅうもーく!」
うんうんと唸りながら新作のシナリオを吐き出していたモモイが、端末を掲げて声を上げた。
また変なスレでも立てたのかというミドリのジト目もなんのその、そのまま用件をまくし立てる。
「こないだ廃墟で一緒になった子がテイルズ・サガ・クロニクルの実況するんだって! みんなで見ようよ!」
「??? モモイ、実況とはなんですか?」
「あれ、アリスは知らなかったっけ? ゲームってさ、人がやってるのを見ても面白いでしょ? 私がやってるのを見てみんなも楽しもうっていうのがゲーム実況だよ!」
ぽちぽちと画面を操作しながら彼女が見せたのは匿名掲示板のスレッドのひとつ。
テイルズ・サガ・クロニクル! 初見実況するよ!
アリスの脳内にはかつて遊んだ最初のゲームが浮かんでは浮かんで浮かんで更に浮かぶ。
電子頭脳がエラーを吐きまくるぶっとんだ内容はそう簡単に彼女の記憶中枢から消えることはないのだ。
「あの、お姉ちゃん? アリスちゃんにスレを見せるのは流石に教育に悪いんじゃ……」
ネットマナーもまともに学んでいないアリスに人類悪の煮凝りであるネット掲示板を見せるのはある意味暴挙に等しい。
今でさえ純粋で素直過ぎるために割と口が悪いのがアリスという少女なのだ。
ゲーム風な台詞回しでなんとか誤魔化せてはいるが、ネットミームを取り込んでしまえばもう手が付けられない。
娘の将来を心配するように悩んでいるミドリの視界に、ぼさぼさの赤い髪がすすすっと入り込む。
「……わたしは、見たいな」
「ユズちゃん……?」
その表情からは不安と葛藤が隠しきれていない。
彼女が学生寮に帰らず部室に引きこもるようになったのは、テイルズ・サガ・クロニクルがネットで酷評されてしまったからだ。
ユズ自身もクソゲー開発者として噂をされるようになり、その視線に耐えかねて心を閉ざしてしまった。
だが扉をこじ開けたのも、テイルズ・サガ・クロニクルに魅せられた才羽姉妹であり、それが今のゲーム開発部に繋がっている。
そして、アリスも。
彼女が機械から人に成れたのもまた、テイルズ・サガ・クロニクルの賜物なのだ。
当人を含めて、誰も気付いてはいないのかもしれないけれど。
最初はひとりだったゲーム開発部も、今では四人。
ひとりでは出来なかったことも、みんながいればきっと出来る。
勇気を振り絞って廃墟にまで探検に行ったのだ。
そこにあったのは求めていたものではなくて、変な人たちとの出会いだったけれど。
変な人だからこそ、その感想も独特なモノが出てくるんじゃないかと、ちょっとだけ期待してしまうのだ。
「初見プレイヤーのリアクションを一番楽しめるのは、開発者としての特権だから」
精一杯に茶化したつもりで、でも全くの嘘でもない。
ゲーム開発部の一同は額をつき合わせながら、小さな携帯端末に表示されたスレッドが更新されるのを今か今かと待ちわびていた。