銃を持たない人は裸で歩いてる人より少ない世界   作:こまつな

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全裸徘徊お嬢様の華麗なる学園生活
039 桐藤ナギサ


「――説明は以上になります。何か質問はありますか?」

 

 ティーパーティーの執務室。

 対面に腰掛けた生徒に対し、桐藤ナギサはその言葉で締めくくった。

 

 向かい合う相手は金の髪に白い翼を持つ、トリニティではよく見かける特徴を持つ生徒だ。

 流行っているのか、前髪で目元が隠れるような髪型も含め特徴的と言える要素はあまりなく。

 上流階級としての洗練された所作も、他ではともかくこの場所では珍しいものではない。

 

 トリニティ総合学園の行政執行機関、ティーパーティー。

 他の学園で言う生徒会に該当するそれは、学園の起りから続く三つの派閥からなる権力闘争の坩堝だ。

 

 各派閥の当代のトップはそれなりに仲良くやっているが、水面下で蠢くあれこれは彼女達であってさえ完全に制御できるものではない。

 

 この場に呼び出されることは、呼び出す側が下準備を全て終わらせているということ。

 それはある種の処刑場としての側面さえ持ち合わせている。

 

「ひとつよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 

 だが物怖じすることなく、出された紅茶で唇を湿らせ、問われた生徒は言葉を返す。

 

「長期療養明けにこの仕打ちはあんまりではありませんの?」

「貴女が授業をサボタージュして遊び歩いていたのは調べが付いています。むしろ恩情を与えていると考えてください」

 

 その返しにはナギサもジト目にならざるを得ない。

 

 目の前の彼女は保養地での長期療養を名目として学園を休んでいた。

 その間の休学届けは提出されているし、書類上は何一つ問題はない。

 

 ないのだが、やれD.U.で他校の生徒と遊んでいただの、やれミレニアムで株主総会に参加していただの、よくない噂とまでは言わないが、とてもではないが療養中とは思えないほどにあちこちで目撃証言が挙がっている。

 出席日数に関してもギリギリ足りるように調整しているあたり、意図的にやっているだろうことはまず間違いない。

 

「どこで恨みを買ったのかまでは把握していませんが……その、は、裸でうろついているなどという根も葉もない噂も流れているんですよ。ティーパーティーとしては流石に看過することは出来ません」

 

 顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまったナギサは気付かない。

 やっべみたいな顔で対面のお嬢様も明後日の方向に視線を逸らしていたことに。

 

 こほんと咳払いをひとつ。場を仕切りなおす。

 

「ともあれ、貴女には補習授業部に講師役として参加していただきます。奉仕活動の一環として落第間近の生徒達の学力向上に寄与してください。よくない噂も、しばらく缶詰になっていれば自然と冷めるでしょう」

「わたくしにも予定があるのですが……」

「真っ当に生徒としての責務を果たしてからにしてください。放課後の余暇をどう使うかまではこちらも干渉いたしませんので」

 

 しぶしぶとうなずくお嬢様に、頭の痛い問題がひとつ片付いたと胸をなでおろすナギサ。

 

 補習授業部とは名ばかりの部活であり、その実態は疑わしい生徒の隔離政策だ。

 前歴の不明な転校生や、多大なコネクションを持ちながらどの派閥にも属していない者。

 カモフラージュ用の本当に成績の悪い生徒と、信頼できる監督役。

 そして百合園セイア襲撃事件の僅か数日前に長期療養に入っていた生徒。

 

 流石に情報元が少なすぎるアビドスで何をやっていたかまでは不明だが、彼女の療養中の活動はおおよそ洗い出した。

 

 だが重要過ぎる情報が抜けている。

 それは本人には告げるまでもない当たり前のことであり、だからこそ無視できない情報でもある。

 

 彼女の所属はセイアが率いていたサンクトゥス分派。

 それも、既に後輩に席を譲ったとはいえ、ティーパーティーの末席に籍を置いていた人物だ。

 トップの行方不明の報を気にも留めず遊び惚けていたなど、あまりにも不自然が過ぎる。

 

 だが逆に、疑いが濃すぎるからこそ黒と断定することが出来ない。

 陰謀渦巻く政争を泳ぎきった者が、こんなにも分かりやすく尻尾を見せるはずがないのだから。

 

 席を立つ少女の背中を見送りながら少し冷めてしまった紅茶を口に運ぶ。

 

 そして。

 目の前の少女はぱちんと指を鳴らす。

 

 ――服が消えた。

 ナギサは紅茶を噴出した。

 

「ぶふうぅぅぅぅっ!? えふっ!? ごほっ! げほっ!!」

「ミレニアムでの投資先の技術ですわ。光学迷彩、要は物を透明にする技術だそうで」

 

 ぱちんともう一度音が鳴ると、少女の裸体は見慣れたトリニティの制服に包まれる。

 

「『放課後の余暇をどう使うかまではこちらも干渉いたしませんので』。まさかナギサ様のお口から言質を頂けるとは思いもよりませんでした。誠心誠意、奉仕活動に勤めさせていただきますわ」

 

 爆弾発言を残して足取りも軽く少女は立ち去ってゆく。

 

 根も葉もどころか大輪の花を咲かせていたことなど貞淑な少女には想像することさえ許されてはいなかった。

 完全に不意打ちを叩き込まれ涙目で咽返っているナギサには歩みを止める言葉を出すことさえ出来ない。

 

 紅茶で汚れた純白のテーブルクロスは、まるでトリニティの未来を暗示しているかのようだった。

 

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